北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』 作:カムラー
北乃(きたの)カムイ(通称カムイちゃん)。
言わずと知れた北海道育成アイドル。猫耳を持つプリチーな元気っ娘。設定十六歳。北乃家に生まれた選ばれし者で、高い身体能力を持ち、北海道の知識は他の追随を許さない。変化能力、憑依能力、仲間を呼ぶなどの常軌を逸した能力を持つ…………よく分からない存在なので、『昭和生まれのおっさん』とだけ認識してくれれば大体正解だ。
東屋(あずまや)透(とおる)。
カムイちゃんが札の都~サッポロで初めて友達になった女の子。人見知りでコミュ力は低い(特に男性が苦手)。森羅万象(アカエゾ)の札を得意とする実力者で『札幌』の称号を持つ。人から注目されるのが嫌でボッチで頑張っていたら実力がついて、逆に注目されるようになってしまった。大のカムイちゃんファンだが、下心ありきで近づいたのがバレて嫌われるのを恐れ、カムイちゃんにはそれを秘密にしている。
南川(みながわ)翡翠(ひすい)。
カムイちゃんの可愛さに一目惚れした、可愛いもの好きな女の子。人から軟弱と思われるのが嫌で、自分にも他人にも厳しい。が、正直乙女が隠しきれていない。必殺技名なんて花の名前だし。武身強化(クロエゾ)の札を得意とする棍を扱う実力者で『石狩』の称号を持つ。下に妹と弟がいて、面倒見が良く家事もそつなくこなす。
西宮宗円(にしみやそうえん)。
カムイちゃんに引っ張られて異世界に来た初期からのカムラー。カムイちゃんに関する事情は大体知っている。鋭い眼光で細かい所によく気がつくツッコミ。地元世界に帰れないでいる。
「俺の紹介短くね?」
「だって、西宮に特殊能力なんてないだろニャ。細かい所に気づくぐらいで…………もしかして、女子の化粧ノリが良いか悪いかも気づくのかニャ?」
「そんなところに気づけるか! たとえ気づいたとしてもデリカシーぐらいはあるから指摘しねえよ!」
「文句ならば私にだってあるぞ! なんだ可愛いもの好きとは! 私はそんな軟弱ではない!」
「私の紹介文、残念な子に見えません?」
「一番ひどいのは私の紹介文だろニャ! 何ニャ! 昭和生まれのおっさんとだけ認識してくれれば大体正解って! なんまら失礼ニャ!」
四人は四人ともそれぞれの顔を見て、自分以外は文句を言うほど間違っていないだろと思った。
桜と梅が咲き誇る五月中旬も過ぎ、西宮 宗円はグッタリと疲れた様子で教室の机に突っ伏している。
時は放課後。クラスメイト達は賑やかに教室を出て、各々の時間を過ごしに行く。
教室の中の人数がまばらになったのを見計らったように、マント姿の女子生徒が入ってきた。
「カムイちゃん」
「透、待ってたニャ~。今日は何するかニャ~」
西宮の隣席のカムイちゃんは、元気の良い声で透に笑いかける。
猫耳娘の北乃カムイは北海道育成アイドルだ。アイドルたるもの日々の草の根活動が大事で、カムイちゃんも日々のツイッターには余念がない。話題作りのために活動し、色々露骨に宣伝している。
だが、今日はやることが決まってないらしい。その珍しさに、透は首をひねる。
「決まっていないんですか?」
「う~ん……いやニャ~、この頃平々凡々の女子高生ライフばっかりだからニャ~。ここら辺でスパイス的にガツンと何かイベントでもないかニャ~って」
「円山公園でお花見したじゃないですか」
円山は野球場も動物園も公園もある多目的な場所で、季節折々の風景も楽しめるさっぽろ市民に親しまれる場所の一つだ。
「あ~あれはあれで中々よかったニャ~。でも、せっかく異世界なんだから、こう~何ていうか~、中高生が楽しめるようなアクション的なものが欲しいニャ~」
「でも、フィールドの『大通公園』にはほぼ毎日行ってますよね?」
「それはレベル上げみたいなものニャ。特筆することなんてないニャ」
透は難しそうな顔をして、無意識に左肩から前にきている金髪を手で触る。その髪をまとめているのは、ピンク色のシュシュだ。
「西宮。何か良い考えはないかニャ?」
そこで初めて、カムイちゃんがずっと放置していた西宮に聞く。
「俺が一丁目に行ってキューブを見つけるのに協力しろ」
顔を上げた西宮の鋭い眼光がカムイちゃんと透に向けられ、思わず透は少し体を縮こまらせて退いた。まだ慣れていないらしい。
「してるだろニャ。片手間で」
「全力でしろ!」
体を起き上がらせながらのツッコミが響く。
「前回の時計台事件で俺はあれほどカムイに協力しただろ! だから、今度はカムイが俺を地元世界に帰すために協力しろ! したって別にバチは当たらんだろ!」
「まあ、そうなんだけどニャ」と前置きして、カムイちゃんは指を一本立てる。
「経験者から言わせてもらうけどニャ~。ハッキリ言ってレベルの低い数人で国際交流ゾーンの一丁目を目指すのは自殺行為だニャ。見合ったレベルになるまで我慢するニャ」
その正論に西宮は押し黙らされた。
「西宮さんは、今どこまで許可が出ているんですか?」
「…………単独で十二丁目。四人以上の学生グループで十丁目だよ」
「なんだ、頑張っていても私と同じかニャ」
カムイちゃんのあっけらかんとした声に、西宮は呻くしかなかった。カムイちゃんは元々の身体能力も相まって、メキメキと実力をつけていた。別に特別なことをしているようには見えないが、感覚的に札のバトルにむいているのかもしれない。
西宮も上出来な成長を見せているのだが、カムイちゃんと比べるとどうしても見劣りする。
西宮は一つ大きく深呼吸して、一旦思考をキャンセルする。
「……でも、カムイは前回一丁目にたどり着いて、キューブを見つけて無事に札幌に帰ったんだろ? その時は札も使えず、仲間だって一人だったんだろ?」
「その仲間が規格外だったのニャ」
「呼んだか?」
いきなりの声に、三人は残らずビックリした。
声の主である玄武院(げんぶいん) 利羅(りら)は北海道札教学園高等部の生徒会長である。その彼は今、上から垂らした布でレスキューよろしく窓から入ってきた。
「どっから入ってきてんですか!」
すかさず西宮のツッコミが飛ぶ。
「いや~、今回は危なかった。屋上に追い詰められたから忍者みたいに、布を両手足に結んでパラシュートで下りたら……副会長の奴その布を札の攻撃で破きやがってよ。あやうく落ちるところを、雨だれに布を引っかけて難を逃れたんだ」
そう言いつつ、利羅は両手足に結んだ布を解いていく。本当に破けていたそれを見て、三人は今の話が事実だったと戦慄した。
「あの……ちゃんと仕事をすればいいのでは……」
オズオズと控えめに言った透の言葉に、
「キミが言わんとすることは分かる。生徒会長たるもの生徒会の仕事をすることは当然で、他の生徒の模範となるべきだろう。もっともだし、異論をはさむ余地もない。それは分かっている」
神妙な顔をして切々と語り、
「分かった上でこうしているんだから、諦めてくれないか」
「ダメだ! ここまで潔いともうダメだ!」
「分かっちゃいるけどやめられない、ニャ」
独特な音程でカムイちゃんが歌った。
「そんな事より、一丁目に行きたい奴と何か燃えるようなイベントがしたい奴にうってつけの行事がそろそろあるぜ」
そんな事で流していいのか分からないが、話題が気になることに移ったので、誰も口を挟まない。
「それって、まさか」
心当たりがある透が驚きを見せるが、カムイちゃんと西宮はキョトンとしている。
「毎年恒例の札教VS樽勝(たるしょう)の応援合戦遊戯会(おうえんがっせんゆうぎかい)だ!」
樽勝とは『小樽景勝(おたるけいしょう)高等学園』の略だ。
それを聞いて、大きく反応を示したのはカムイちゃんだった。
「遊戯会!? こっちの世界ではまだ遊戯会が行われているのかニャ!?」
「遊戯会って何?」
西宮はまさに仰天していたカムイちゃんに何気なく聞いた。すると、興奮したカムイちゃんは丸々とした金色の瞳を見開いて西宮に詰め寄り、
「遊戯会は札幌農学校時代に行われていた陸上競技会だニャ。日本陸上競技の原点であり、日本学生陸上競技発祥の競技会だニャ。明治一一年から四四年まで二九回続けられていたニャ!」
カムイちゃんの熱に押されながら、
「北海道スゲェ~」
西宮は北海道の先駆け的な行事に感心の声を上げた。
「応援合戦遊戯会は二〇一四年に百年目を迎えた伝統的な行事なんですよ。たくさんの人が注目しますし、道新も取材にきます」
カムイちゃんと西宮は感嘆の声を上げる。そして、利羅の説明は続き、
「会場はフィールド『大通公園』の六丁目から四丁目にかけて行われる。競技は毎年コロコロ変わるが、最終の競技だけは例年変わらない」
「もしかしてそれが」
西宮が期待を込めて聞くと、利羅はニヤリと笑い、
「そうだ。各学園が一丸となって一丁目に行き、花時計の花を一輪取ってきて、早く戻った方の勝利だ!」
否応なく盛り上がり、さらには『札幌』ではすでに伝説となってしまった行事に、カムイちゃんは瞳を輝かせる。
「それに私達も出れるのかニャ!?」
息巻いて利羅に聞く。
「出場条件は簡単だ。初日の応援合戦の会場である六丁目に、時間内にたどり着くこと!」
「ろ、ろくちょうめ……」
あまりの困難さに、西宮は思わずうなった。
小樽景勝高等学園の生徒会室では、きたる応援合戦遊戯会に向けて、入念な話し合いと作戦会議が連日行われていた。
ここ数年負けが込んでいるので、今年にかける意気込みは例年以上のものがある。
夜も近くなり、そろそろ帰ろうかとしていた時に入ってきた情報を明日に回さず、すぐ確認している所からも、その意気込みが伝わってくる。
残っていたのは二人の女生徒。一人が報告書を持ち、アンティーク調の椅子に座る会長を前にする。
「札教に潜入した者からの情報です。どうやら今年の新入生で注意する者の追加報告のようです」
「特に注意する者は称号を持つ東屋透と南川翡翠だとすでに受けているのに…………」
まさかあと半月と迫ったこの時期に、新たに注意人物の報告が上がってくるとは思っていなかった。警戒するターゲットは四月の内に網羅していたからだ。
これは余程の人物だろうと、会長は居住まいを正す。
「報告を」
促すと、前にいる女生徒は何とも微妙な顔をしていた。会長が不思議そうにして、どうしたのかと聞こうと思った時、女生徒は意を決して口を開いた。
「ほ、報告によりますと、その者は耳が頭頂部にあり……」
「ちょっと待って!」
すかさず会長は止めたが、
「可愛い顔立ちの美少女のおっさん」
「だから待ってって!」
質問されたら困るのか、女生徒は会長の制止を振りほどいて言葉を止めない。息継ぎも少なめに報告を続ける。
「身体能力が抜群で三階の高さから落ちても無傷。プロレスラーから授けられた四十八の殺人技を持ち」
「プロレスラー!? 女子なの、男子なの!? 若いの? 中年なの?」
「変化能力を有しており、山のように巨大化することもできるとかできないとか、仲間を呼ぶとか呼ばないとか」
「なにそのあやふやな情報!? 変化能力は確定なの!?」
「他人に憑依をすることもできる」
「今生存すらあやふやになったわよ! 幽霊じゃないの!?」
「で、仲間と協力して札の威力を高める能力もあるらしいです」
言い切ったと、そこで初めて女生徒は紙面から顔を上げる。報告を聞いて、会長もやっぱり微妙な顔をしていた。
「ま、まったく分からないわ」
二人して、しばし頭を抱え込んだ。そして、整合性の取れそうな考えがようやく一つ浮かんだ。
「おそらく、札教は情報が混乱するよう、ウソの情報を混ぜて流していると思われます」
「…………なるほどね。そこまで徹底しているってことは、その……子? は秘密兵器かしら」
「可能性は高いかと」
沈黙が落ちる。
ここに来て情報戦を仕掛けてくる利羅のしたたかさに、会長は唇を噛む。
「……名前は分からないの?」
聞かれて、女生徒は再び紙面に目を落とす。そして、言っていなかった最後の行に気づいた。
「…………どうやら異世界からやってきたらしいです。名前は……随分とフレンドリーに書かれていますが……まあいいか。『異世界からきたの、にしみや』。異世界から来たらしいですね、この西宮という者は」
会長は椅子を蹴飛ばすほど勢いよく立ち上がる。
「西宮ですか。では、さっそくさらに調べなさい! そして、隙があるようでしたら応援合戦遊戯会に出られないようにしなさい!」
「はいっ!」
六月中旬、伝統的な対校戦が始まる。
前回は大筋を決めて書き出しましたが、今回は勢いで走り出しました。とりあえず、前回クローズアップできなかったフィールド『大通公園』を舞台にして、西宮をかわいそうにしていこうとだけ決めています。
次回更新は火曜日予定です。早くストーリーを考えなくては。