北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』   作:カムラー

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北斗VS一年カルテット

 時間は少し前に戻る。

 

 小樽駅を目の前にして、路地で二の足を踏む三人。

 

「マジでやるんですか?」

 

「ぅう~、こんな軟弱なマネ、知り合いに見られたら死ぬ」

 

「恥ずかしいですぅ」

 

 札教の制服を脱ぎ、簡単に髪形や服の着こなしを変えた三人に、伊達メガネをかけ、バンダナを頭に巻き、ワイシャツの袖をまくり上げた格好の利羅は、

 

「イヤだって言うなら『プレゼント大作戦』の方に切り替えてもいいけど……その場合は西宮に彼氏役、二人のどっちかに彼女役をしてもらうことにな――」

 

『イヤだ(です)』

 

 食い気味に拒否してきた。

 

「むやみやたらに俺を傷つけないでくれ」

 

 西宮は前髪を掻こうとして、オールバックにしていることを思い出して変な違和感を覚えつつ手を下ろした。

 

 ぶつくさ言う三人は無視し、利羅は最後尾にいるもにょもにょかむいに目を向ける。

 

「それじゃ時間もないし行くぞ! カムイはしゃべるなよ」

 

「もにょ!」

 

 ビッと敬礼で返事をするもにょもにょかむいは、赤い布で作られたハチマキとタスキを装備し、ハチマキには『必勝!』。タスキには『あんたが主役! 清き一票を!』と書かれていた。

 

 

 賑わいを見せる小樽駅の一点から、ざわめきが広がっていく。その発生源となる集団は周囲のことなんて気にせず、言い合いをしながら走っている。

 

「何やってんだよ! 早くしないと間に合わないだろ!」

 

 利羅が先頭に立ち、遅れ気味の後ろに声を荒げる。

 

「先輩が変な所にこだわっているから遅れたんじゃないんですか~!」

 

 もにょもにょかむいの背中を押して走る西宮が、半泣きの様子で叫ぶ。

 

「タスキとハチマキは応援に必需品だろ!」

 

「げ、げん……ンン! 現地で着替えた方がよかったんじゃないのか」

 

 ポニーテイルを解いた翡翠が、上ずった声で決められていたセリフをしゃべる。

 

「ばっか、こっちの方が目立つだろ! コスプレなんて目立った者勝ちなんだからよ!」

 

「ぜ、全身、着ぐるみの、り、力作ですもんね~」

 

 マントを外し、頭の高い位置で髪をシュシュでまとめた透は、カタコトの棒読みのうえ小声だった。

 

 西宮はそれほどでもないが、透と翡翠は真っ赤な顔で俯き加減だ。

 

 言い合い――周りに対する釈明をしつつ(主に利羅と西宮だけで)、利羅は走っている勢いそのままに駅事務室の窓口に肘を置き、

 

「おう! サッポロ駅までの切符五枚!」

 

 目を丸くする駅員さんの目の前で、西宮は軽く利羅の頭を叩く。

 

「券売機で買ってきますから!」

 

 西宮が目礼で駅員さんに謝りつつ、券売機まで走っていく。

 

 駅員さんは随分と驚いていたが、ブスッと口を尖らせる利羅の後ろにいるもにょもにょかむいの姿を見て、

 

「樽勝の生徒かい? いや~、すごいねその子。コスプレ要員かい?」

 

 利羅はその言葉に得意気に笑い、

 

「はい! もう~実力がないものでこういうのじゃないと目立てないってことで。気合いを入れていたらみんなに置いてかれちゃって」

 

 駅員さんは感心したように声をもらし、

 

「言うだけはあるね~。よくできているんじゃないかな。何のキャラクターなんだい?」

 

「オリジナルのキャラっすよ! デザインは中の奴が担当しました」

 

 と、利羅がバシバシともにょもにょかむいを叩く。

 

「へ~」

 

「先輩、買ってきました!」

 

 西宮は買ってきた切符をそれぞれに渡す。

 

「よし! それじゃ急ぐぞ! コスプレ集団の第二陣は大体二時ぐらいに出番だ! 絶対に間に合わせるぞぉ!」

 

 利羅の突き上げた拳に合わせ、

 

「おお~!」

 

 西宮ともにょもにょかむいは元気に手を上げ、

 

『ぉ、ぉぉ~』

 

 透と翡翠は小声で恥ずかしそうに手をちょっと上げた。

 

 もにょもにょかむいは駅員さんの目の前で、堂々と改札を通っていった。

 

 

 と、似たようなことをサッポロ駅の改札でもやって…………駅の北口でヒットポイントと羞恥心の数字が真っ赤になった透と翡翠は白い灰になっていた。

 

「…………今思い出しても死にたくなる……」

 

「……もう私……小樽に行けない……」

 

「無事にサッポロに着いたんだからいいだろ」

 

 利羅は変装を解きながら、平然としている。

 

「もにょもにょ」

 

 もにょもにょかむいも腕を組みつつ深く頷く。この二人にはハードルが低すぎるプレイだったようだ。

 

 西宮は若干頬を染める程度で変装を解いて、

 

「じゃ俺は急いで寮に戻って水を持ってくるから」

 

「あ~、待て待て。みんなで学園まで行くぞ」

 

 駆け出そうとした西宮を利羅が止めた。

 

「どうしてですか?」

 

 燃え尽きている二人を連れて行こうとしたら、時間が余計にかかりそうな気がして尋ねる。

 

「この状態のカムイちゃんをこんな人目のある場所にずっと置いとけないだろ。それに、何かしら腹ごしらえをしないとキツイ」

 

 確かに今も周囲からの視線は感じるし、時刻は二時少し前。西宮だって空腹のピークを一度は迎えていた。

 

「もにょもにょ」

 

 もにょもにょかむいもお腹を押さえて空腹アピールをする。

 

「腹ごしらえって、そんな暇……少しあるか。仕方ない、軽くですよ」

 

 もにょもにょかむいを戻した後に、コンビニでパンかおにぎりでも買って食べればいいかと思って、西宮は透と翡翠を立たせようと声をかける。

 

 ノロノロと起き上がる二人の背中を押すと、何とか歩き出してくれた。

 

「それに俺は札と布を補充しないといけないしな」

 

「でも、札なんてもうどこも品切れじゃ」

 

 利羅はあっけらかんと手をパタパタと振って、

 

「大丈夫大丈夫。俺っていつも学園中を逃げ回っているから、どこでも補充できるよう学園のあちこちに札を隠してるんだよ。それをかき集めればけっこうな数があるんだ」

 

「どうりで生徒会のメンバーですら会長を捕まえられないはずだ」

 

 そして、進みが遅いため西宮は四人と別れ、走って自室に水を取りに行った。それから連絡を取って合流したら、学園のレストランでガッツリと昼食を取られていた。

 

 

 そんなこんなで、カムイちゃん達はようやくフィールドに下り立った。先に来ていた透と翡翠だったが、この時間帯にここにいる敵はいなかったらしく、戦闘の形跡はなかった。

 

 だがその代わりに、

 

「おっそ~い! 何をやってたんだ、僕をこんなに待たせるなんて!」

 

「あれ? 繭パイセン。そっちこそ何をやってるんだニャ?」

 

 カメラを構えていた繭は、頬を膨らませて頭から湯気を出している。

 

「言っただろ、僕はキミ達に期待しているって。先頭集団もコスプレ集団も追わずに、ずっと待ってたんだからね! こんなギリギリまで何をやってんだい!?」

 

「いや~、ちょっと樽勝まで利羅を救出しにニャ」

 

「何それ!? すっごいネタになりそうなのに、何で僕を誘ってくれなかったんだい!?」

 

『ネタになりそうなことなんて何もありませんでした(なかった)!!』

 

「そ、そう」

 

 透と翡翠に荒々しく詰め寄られ、繭はその迫力に負けて押し黙った。

 

「それより急ぐぞ。早く行かないと間に合わなくなる」

 

 そうだったと、四人はまとまって駆け出そうとした。が、黒い影が四人を追い越して目の前に立ちはだかる。

 

「ふふふふ、誰かを忘れてはいやしないか、西宮宗円!」

 

「正々堂々姿を現して、正面から声をかけるのは暗殺者として正しいのか?」

 

 致命的なツッコミをしたつもりだったのだが、司は堪えた様子もなく、

 

「ふふふ、あっさりと後ろから終わらせたら面白くないだろ! なにせ今日は、観客も見ているのだからな」

 

 力強く断言した。

 

「だからよ、暗殺者としてそれはいいのかって――」

 

 再度ツッコミを入れようとした時、肩を叩かれて振り返る。

 

「あ、西宮。私達なんかお邪魔みたいだから先に行ってるニャ」

 

「おお、そうか。じゃ――何て言うと思っているのか」

 

「チッ!」

 

 ガシッと西宮に掴まれた肩を、カムイちゃんは苦々しく見る。

 

「称号持ちと俺がガチで戦って勝てるわけないだろ。協力しろ」

 

「はいはい分かったニャ」

 

 カムイちゃんは三人を招きよせて、小さな円を作って小声で話す。

 

「あんな強敵をまともに相手にしていたら時間がいくらあっても足りないニャ。適当に相手をして逃げるニャ」

 

「で、俺を生贄にして逃げるんだろ。そうなんだろ」

 

 すかさず笑っている子も泣き出しそうな西宮のジト目に見られ、

 

「いっけにぇ~。ばれちゃったニャ」

 

 カムイちゃんは笑って誤魔化す。

 

「恥ずかしげもなくつまらねえよ」

 

「私は信じているニャ。西宮は必ず後で駆けつけてくれるって」

 

「詐欺師だってもうちょっと心に響く言葉を吐くぞ」

 

 二人のやりとりを見ていた透と翡翠は軽く嘆息し、

 

「称号持ちとはいえ相手は一人、こっちは四人。それに相手は戦闘力よりも隠密行動を評価されている奴だ」

 

「勝てそうな時に勝っておくのも大切だと思いますよ。明日以降のことを考えると」

 

「ふふふふふ、私もなめられたものだな」

 

 耳が良いのか、離れているというのに司は的確な返事をした。

 

「遊んでいた時とは違う、本気のスピードを見せてやろう!」

 

 司の姿がかき消えた。

 

 すぐに上を見たカムイちゃんに遅れ、翡翠が見上げた時にはすでに火球が迫っていた。持っていた棍で火球を打ち返したが、上空には誰の姿もいなかった。

 

「ほう。私の速さに札も使わずついてこられる者がいるとはな」

 

「にゃふふふふ、私をそこらへんの凡人と一緒にしてもらったら困るニャ。これでも選ばれし者なんだからニャ」

 

 と、自信満々に誇るカムイちゃんに、

 

「って、どこ見て言ってるんだ? 司は向こうにいるぞ」

 

「へ?」

 

 西宮の指さす方を見ると、そこにも黒装束の司がいた。

 

「あの……カムイちゃん。私の目の前に二人、いるんですけど……」

 

「というか、周囲に何人もいるぞ」

 

 四人は内に向けていた円を外に向け、背中合わせに周囲を警戒する。ざっと見て、司の数は七人。

 

『ふはははははは、これぞ我が家に伝わる暗殺術『幻想複相殺(ミラージュスラッシュ)』! すでに貴様らはクモの巣にかかった獲物も同然! 覚悟するがいい!』

 

 声は反響するようにぶれて聞こえ、どこから聞こえるのかよく分からない。

 

「これは……マヂでやば~いかもニャ~」

 

「的が増えただけだ!」

 

「待って翡翠! 不用意に突っ込まない方が――」

 

 透の警告を聞かず、翡翠は手近な司に棍を振り下ろす。だが、棍は何の手応えもなく司の体を素通りし、彼の体は陽炎のようにぼやけて消えた。

 

「翡翠! 右だニャ!」

 

 とっさの声に反応し、根を右に向けて回転させる。

 

 飛来した札は棍にはりつき、根を持つ翡翠の手ごと凍りつかせる。

 

 さらに飛来してきた札を、風の塊が散らした。

 

「翡翠! 下がって!」

 

 透の援護によって、翡翠は三人の所にまで戻ってくる。透がマントの中から札を取り出し、凍りつけられた翡翠の手にはると、白い蒸気を上げて解凍された。

 

『ふふふふふ、どうだ隠密行動に長けた者の力は? 素早さにおいて私の右に出る者はなく、私の前を走れる者など何人たりとも存在しない!』

 

「まさか、これ全部残像かニャ!?」

 

「確かに時たま現れては去っていく奴の逃げ足は恐ろしいものだったが…………くっ、速いだけというのが、これほど脅威だとは」

 

『こんなのはどうだ!』

 

 あらゆる方向から、多種類の森羅万象(アカエゾ)の攻撃が襲ってくる。

 

 四人はそれぞれのやり方で防御をし、その攻撃をやり過ごした。

 

『私の速さが可能にする全周囲攻撃。逃げ場なんてどこにもないぞ!』

 

「このまま同じ攻撃をされたら、体力も時間も削られるニャ~!」

 

 四人の中では一番防御が苦手なカムイちゃんは、今の攻撃で少々焦げていた。

 

「カムイ。さっきの話、実行してくれるか」

 

 西宮の突然の提案に、他の三人は驚きが顔に出る。

 

「さっきのって、西宮に任せて逃げるって……アレかニャ?」

 

 カムイちゃんの言葉に、西宮はアッサリと頷く。

 

「貴様はバカか! これほどのスピードの敵から逃げ切れるわけがないだろ!」

 

「透、ちょっと」

 

 翡翠の訴えは聞かず、西宮は透に小声で話す。

 

『ふははははは! 逃げようなど無駄だ無駄! 私から逃げられるわけがない! まだ私の速さが分からないか!』

 

 周囲から聞こえる勝ち誇る声の後に、再びあらゆる方向から森羅万象(アカエゾ)の攻撃が襲ってきた。カムイちゃんと翡翠は顔を悔しそうに歪め迎撃し、西宮は〝硬化〟の札を使って透の分も体で防御する。

 

 西宮は攻撃を受けたことなんて左程気にせず、伝え終わった透が慌てふためくのも取り合わず、カムイちゃんに向き直る。

 

「カムイ。敵の言葉とパートナーの俺の言葉、どっちを信じる?」

 

 言われた言葉にカムイちゃんは一瞬目を丸くしたが、すぐにニンマリと笑い、

 

「逃・げ・る・ニャ~!」

 

 右手を上げて、号令一番に駆け出した。

 

「急げ! カムイに遅れるな! 残像に構わず行け!」

 

 西宮にも急き立てられ、透と翡翠もカムイちゃんに二歩遅れて逃げ出した。

 

 残像の司の間を素通りし、三人は六丁目へと向かう。

 

『ま、待て! そんなことは無駄だと――くっ!』

 

 残像の囲みを三人が抜けたところで、

 

「透、今だ!」

 

 西宮の合図に振り返り、透の前に三つの札が淡い光で繋がり合って浮かぶ。

 

「三つの走る火が全てのものを焼き払う――レプ!」

 

 放たれた三つの火は地面を走り、大きく外側から円を描いていき、先程四人が円を作っていた場所で大きく火柱を上げた。

 

「西宮!」

 

「……先に行って、待ってろ」

 

 札で強化しているとは言え、さすがに火柱の場所は避けていた西宮は、髪を焦がしながら三人に答えた。その返事を聞き、再びカムイちゃん主導の下、駆け出した。

 

 そして、残像の司は全て消え、意外に近い所にいた司だけが残っていた。こちらも札で防御したらしく、大したダメージを負っているようには見えない。

 

「なぜ分かった。あれがスピードで作り出した残像ではなく、〝幻〟の札を使って作り出した虚像だと」

 

 聞かれて、西宮は少し肩をすくめる。

 

「今日までちょっかい出しては逃げ足を披露して去っていく司なら、残像を作れても不思議じゃない。そう思わされたし、最初の攻撃で動きを追えたのはカムイだけだった。まったく、長々とした印象付けは見事なもんだ」

 

 ピクリと、司の目が動いた。

 

「だけど、そんな超スピードを維持しつつ戦う方法が、手元で札を使って徐々に体力を削る長期戦? と考えたら変だと思った。そんなの自分が疲れる方が先だろ。大体あらゆる方向から攻撃できるなら、札を投げ飛ばした方がいい。絶対数枚ははれる。現に翡翠は最初はられた」

 

 西宮はビシッと、犯人を追いつめた探偵ばりに司を指さした。

 

「つまり、あらゆる方向から札を投げられない。別に長期戦になっても疲れない。と考えると、司は動いていない。トラップ用の札と何かの札を併用して誤魔化している! そう思ったんだ!」

 

 力説しているが、指さされた司は大きな汗を流す。

 

「そんな確信にほど遠い考えで、草むらごと焼き払ったのか……下手したら焼死死体が二つできていたぞ、あれ」

 

「ノリと勢いで行動するのが、カムラーの真骨頂なんだよ!」

 

 カムイに毒されてきたかと心中で心配になりつつ、動揺を隠した。

 

「まあ、何はともあれ私の技を破ったことは褒めてやろう……だが」

 

 司は両手に札を持つ。

 

「ここからは地力の勝負だぞ」

 

 今度は西宮が大きな汗を流す番だ。それが一番、自信がない。




次回更新は火曜日予定です。
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