北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』 作:カムラー
爆発の煙から、一つの物体が転がり出てきた。勢いが激しく長い距離を転がったその物体はようやく止まり、黒煙を上げて頭上に羽の生えた天使の輪を浮かべた。
「死んだふりをしたところで無駄だ。私は油断などしない」
警戒して少し距離を開け、司は倒れている西宮に向けて構えを取る。当てが外れてガバッと起き上がった西宮は、
「なんでこんな低レベルの俺にそんな全力なんだよ!」
所々焼け焦げてはいるが、深刻なダメージを受けておらず元気そうだった。
「自己評価が低いようだが、私はおまえを買っている。油断などしない!」
「しろよ油断! 敵を本気にさせるだけの評価なんていらねえよ!」
その十分の一の評価がカムイちゃんや透達にあれば、もうちょっと普段の自分に対する扱いが変わるのにと、西宮は心中で涙する。
飛来してきた水の塊をバックステップで避け、追撃を部分強化で硬化させた腕で防ぐ。
「どうした? 攻撃しないでそのままやられる気か?」
逃げる西宮を追いかけながらも、司は攻撃の手を緩めない。
「そんな挑発にのるか。俺は同時に使える札は武身強化(クロエゾ)二枚か、武身強化(クロエゾ)一枚森羅万象(アカエゾ)一枚なんだ。下手に攻撃に使ったら防御できずに一発でやられるだろ」
西宮は腕を強化しながら、さらに〝加速〟で引き離そうとするが、同じくスピードを上げた司が楽々と追い抜き、
「ふ、だが防御を固めているだけでは、やられる時間が多少伸びるだけだぞ」
西宮の目の前に〝穿つ〟の札が浮く。すぐに顔の前で腕を×に重ねる。
「空破穿拳(くうはせんけん)!」
飛んできた拳が、防御力を上げている腕など関係なく西宮を貫いた。
顎がかち上がった西宮は後方に吹っ飛び、受け身も取れずにもろに顔から落ちた。
完璧に決まったK・Oと誰もが思う中、司だけは戦闘態勢を解かない。
「先に行った三人に追いつくのだろ? 死線を越え、踏み込んで来い! でなければ勝てないぞ!」
画面を通して見ている人達は、起き上がった西宮を見て驚きの声を上げた。彼は顎をさすった後、ダメージを確かめるように屈伸をし、その場を飛び跳ねて「よし」と小さく呟く。
「腹は決まったようだな」
相変わらず耳が良いと、西宮は口の端を上げて笑う。
「ここだ。この位置がいい。この位置がちょうどいいんだ……な~んてな」
「なに?」
西宮が立つ場所は十一丁目に近いということ以外、特に何かある場所ではない。司の立つ場所もそうだ。
司が訝しげにしていると、西宮は親指で背後を指さす。そこにあるのは、遠くにかすむテレビ塔。
「司、俺、テレビ塔が一直線に並ぶこの状況を狙っていた!」
「――ま」
司が気づいた時、西宮は背中を向けていた。
「〝加速〟!」
部分強化で一歩目を踏み出し、すぐに全体強化に戻して二歩目を着地させて走り出す。少しスピードについていけず姿勢が崩れたが、転ぶことなく成功させた。
「待て!」
急いで追いかけたが、スタート時点の遅れが響いて、さすがの『北斗』の称号を持つ司でも簡単に追いつけない。
「ガチンコでやり合っても勝てない! 〝加速〟の速さでも勝てない! だけど、この状況ならば万が一で俺でも勝てる可能性がある。試合には負けても勝負には勝てる可能性が! 俺が先に六丁目まで駆け抜ければ、おまえの依頼は失敗だ!」
司は舌打ちする。こうなって初めて西宮の考えが分かる。
一対一の構図にし、勝利条件を分かりやすく整えたのは西宮だ。自然と司の頭は『西宮を二日目に出場させない=倒す』と考えるようになっていた。それこそが罠! 最初から西宮に司を倒そうなんて考えはなかったのだ。ただ、あの位置取りを作り、少しでも自分がゴールに近い状況を作り出そうとしていたのだ。
「すぐに追いつく!」
十一丁目に入り、徐々に近づく西宮の背中を睨みつける。
「そう。出し抜いた距離の貯金なんてすぐなくなる。だが!」
踏み出した司の足元から、火柱が上がった。
「トラップ!?」
直撃こそしなかったが、横に避けた分また西宮との距離が開いた。
「最短で追いつこうと思ったら俺の真後ろを走るしかない! 走るコースが分かっていれば罠を仕掛け放題だ! そして、罠を嫌って最短のコースを外れれば、さすがに追いつけないだろ!」
最短のコースを外れても追いつく自信はあったが、司はあえて再び西宮の後ろを走った。
「加速に一枚使っているから、罠に使えるのは一枚だけ。そんなもの、それほど恐れるものではない!」
何より、『北斗』の称号を持つ者として、いつまでも前を走られているのは我慢ができない。西宮が不審な動作をしたらかわす自信もある。だが、
「それは、どうかな!」
西宮が背後に投げ捨てたのは、大量の札。
「なっ!」
思わず司は大きく迂回して避けた。が、避け様に札を目で追ったら、その全てが札の形に切った白紙だった。
「貴様!」
「カムイ達からうちの会長が紙を札の形に切って人を騙したって話を聞いてね。使えそうだなって用意しておいたんだよ! ははははは、こんな張子の虎も面白いものだろ!」
「くっ! このえげつなさとなりふり構わぬ卑怯さ、さすがだ!」
「うっせ、ば~か! えげつないだの卑怯だの、勝つために手段を選ばないからそういう目になったんじゃないかニャもっと笑顔でって笑顔も怖いニャだの、相手が気づかない隙を突くために連れて来たくせに何を言ってんだよ!」
「そこまで言っていないというか、誰の話だ」
西宮はチラッと背後を確認した後、胸元に視線を落とした。
(もう少しだ)
十丁目が近づいてきて、司はこれ以上六丁目に近づくと集団に追いつき、人に紛れ込まれる可能性を心配した。仕方なく、懐から〝穿つ〟と〝拡大〟の二枚を取り出す。
「弱者の小賢しさの上をいくのが強者の特権。無慈悲に泣け! 繋力発動!」
立ち止まり、淡い光で繋がり合う札を前後に浮かす。
「大・空破穿拳(くうはせんけん)!」
飛び出した拳の衝撃が、〝拡大〟の札を通過して巨大化する。走るスピードよりも速いそれは、西宮を簡単に弾き飛ばした。
跳ね飛ばされて上空高く飛んだ西宮は、直前にはった〝硬化〟の札を発動させ、着地の衝撃から体を守った。
だが、体には深刻なダメージが残り、全力で走っていた疲労も加わって動けないでいた。
「――くっ……凡人が積み上げたものを、一瞬でおじゃんにするなんて、アリかよ」
肩で激しく息をつきながら毒づく。
「そのダメージでは最早先程のスピードは維持できまい」
背後を振り返れば、ついに司に追いつかれた。それでも西宮は前に向かおうと、這うように体を動かす。
「まだ足掻くか、見苦しい。ここがやられ時だぞ」
「……負けが決まっているから諦めるなんて、カムラーじゃない。たとえ勝負が決まったと思われても、最後の最後まで、諦めないんだよ!」
強く吐く言葉に司は目を閉じ、カッと見開いて札を構える。
「ならばもう何も言わん。病室でのんびりテレビでも見ていろ!」
西宮の背中に札をはろうとしたが、
「〝跳躍〟!」
ボロボロで大した高さは跳べなかったが、西宮はギリギリで司の手を避けた。
「無駄な足掻きを」
司も体に札をはり、西宮を追うように跳ぶ。
「終わりだ!」
西宮の上を取った司が見下ろしながら勝ち誇った。
だが、そこで司は予想外のものを見た――西宮の笑った顔。
「俺の情報を集めたんだろ? なら、このペンダントの効果も知っているよな」
西宮の胸元で踊るピンクのペンダントから出る光の粒子は、下へと向かっていた。
「なに」
西宮は答えを言わず――
「カムイ!」
「ユナイテッドフロント!」
下から飛んできた札が、西宮にはりついた。その札は〝突風〟。
「画竜点睛!」
西宮は風を吹き荒らせて急浮上し、風をまとわせた蹴りを司に突き入れた。
「ふふふ、まさか一対一と思わせることも罠とは、な」
蹴りを入れられたお腹部分の黒装束が激しく破れ、司は地面に横になっていた。強制帰還されるほどのダメージではないようだが、しばらくは動けなさそうだ。
「パートナーに言われていたからニャ。先に行って待っててって」
カムイちゃんに誇らしげに胸元のペンダントを見せられ、ウインクで星を飛ばされた。司は笑ってしまう。あのペンダントは互いに居場所を教え合う。
「あんな短いやり取りで意図をくみ取るなんて、ホントにカムイちゃんはすごいですね」
透に褒められ、カムイちゃんは鼻高々だが、
「大金星じゃないか、西宮」
翡翠の視線の先にいる西宮は、仰向けで倒れ、必死に呼吸を整えていて返事もできない。
「おまえ達の繋がりには負けた。さあ、急げ。もう残り時間はほとんど――」
『ガッカリさせてくれますわね。ならせめて、その四人を道連れにしてもらいます』
誰かの声が響いた後、司の体から紫色の煙が立ち上った。
「なっ!」
「何ニャ!? この臭いは!」
カムイちゃんは腕で鼻と口を押さえ、顔をしかめる。紫の煙はその場に立ち込めたが、すぐに風に吹かれて散った。
なんだったのかと首をひねるカムイちゃんの隣で、透と翡翠は慌て、
「修行用のモンスターを引き寄せる札〝獣香(じゅうこう)〟!」
「これは使用した時にその場にいる全ての人に臭いがついて、数十分取れません! その間モンスターが――特に獣型のモンスターが引っ切り無しに襲ってきます!」
透のセリフが終わるとほぼ同時に、激しい地鳴りが襲ってきた。そして、四方から土煙を上げて獣型のモンスターが襲ってくる。その数はもう、数えるのもバカらしいほどだ。
「こんなの相手にしていたら、とてもじゃないけど間に合わないニャ~!」
司は震える腕で地面を押し、上体を起こして左肩から巧妙に隠されていた札をはがし、握り潰す。
「まさか会長がこんな罠を…………罠? まさか、あの会長は」
カムイちゃん達はもう司に構っておられず、臨戦態勢を取る。
「西宮! 早く立て! そこにいると踏まれるぞ!」
そう翡翠が言うが、西宮は手を少し上げるぐらいで這うこともできなかった。仕方なく彼女は棍を西宮の服に差し入れ、持ち上げて三人で作る円の中に入れた。
十一丁目と十丁目に出て来るモンスターならそれほど脅威ではないが、数と時間が問題だった。何とかここをやり過ごしたとしても、体にモンスターを引き寄せる臭いがついていれば、また襲われる。それをいちいち相手にしていたら時間なんていくらあっても足りない。そう思っていた時、
「走れ! モンスターは私が引き受ける!」
ふらつきながらも立った司が、周囲を火で囲む。迫りつつあったモンスターが、その進行を一旦止める。
「司!?」
カムイちゃんの驚きの声に振り返らず、司は背中で語る。
「私はもうおまえ達に負けを認めた。だから今年はこれで満足だ。だが、私に勝ったおまえ達が予選落ちなど、私が我慢できん!」
「……様式美……」
使命のように、西宮がポツリと呟いた。
「でも、まだゴールまでは五丁近くも……」
「お~ま~たぁ~!」
空から降ってきた声に遅れて、声の主もカムイちゃんの眼前に落ちてきた。
羽衣のように長い布を体にまとわせた利羅が、肩ごしに三人に笑顔を見せる。
「利羅!」
「会長!」
期待を込められた視線と呼び掛けに、利羅はとても嬉しそうだ。だが、その気の抜けた顔も一瞬で、すぐに彼は布を操り出す。
「司はしばらく時間を稼いでろ。その間に俺がこいつらを送り届ける」
返事はなかったが、司は火を越えてきたモンスターを素早いスピードで倒していく。
「どうやってニャ?」
カムイちゃんの疑問に答えず、利羅は布を何枚も使い、巨大な筒を作り上げる。その筒は斜め上を向いており、方向はテレビ塔だ。
それを見て、カムイちゃん達は嫌な予感に大きな汗を流す。
「…………これって……」
「もしかして」
「大砲?」
利羅は指パッチンをしてから、親指をグッと立てる。
「題して『人間大砲でレッツラゴー』!」
『ふざけんなぁ(ふざけないでください)!』
透と翡翠だけでなく、さすがのカムイちゃんもプンプンと頭上から蒸気を出し、
「そうニャ! 私のように猫モチーフのキャラを人間大砲で飛ばすなら準備が必要なのニャ! ピザとか!」
「若者に分からないネタでキレんな!」
ツッコミの使命から立ち上がった西宮が、カムイちゃんの後頭部にチョップを入れた。
「ぶつくさ言ってないでさっさと入れ。もうそんなに時間がないんだからよ」
と言いながら、文句を聞かずに手早く四人を大砲の中に押し込んでいく。
「おそらく八丁目に近い七丁目に落ちる。そこはこの時間帯激戦区になっているはずだから、そんな臭いがするおまえらが行ったら、面白いことになるだろうな」
他人事のように簡単に言う。まあ、実際他人事なのだが。
「ちょっと待ってください! 六・七丁目レベルの獣型モンスターって、シャレになりませんよ!」
「大混乱どころではなくなるぞ!」
透と翡翠が筒から顔を出して話している間、筒の中では一番下をカムイちゃんと西宮が押し付け合っていた。
「いいんだよ。このままだと全部あいつの思惑通りだからよ。損得関係なく、そんなもんひっくり返して来い!」
「あいつって誰ですか!?」
筒の後ろに回った利羅は、二枚の札を取り出して淡い光で繋げあう。
「出血大サービス!」
以前の事件の教訓から常備するようになった切り札、学生にとっては高級の札を使う。
「神風炎撃砲!」
怒号と白い煙の尾を残して、四人は空に向かって飛んでいった。
布の筒をすぐに解いて、利羅も司に並んで参戦する。
「司、ご苦労だったな。カムイと西宮に関する危機感をあおらせる報告書の作成から、他の襲撃者からの護衛まで」
司はチラッと横目で利羅を見て、
「いいえ。それにそれはついででしょう。私があなたから受けた真の依頼は、西宮宗円を倒せ…………もし、本当に私が倒していたらどうしたんですか?」
今までにないほどのかしこまった物言いで、司は利羅に尋ねる。
依頼を受けた時は、なぜそこまであの一年生達を大事にするのかと思ったが、今なら何となく納得できた。だが、真の依頼の方だけはまだ腑に落ちない。
「そん時は俺があいつの場所に納まって、可愛い後輩に囲まれて大活躍しただけだ」
ガクリと、司の首が落ちた。この人はマジでそう思っていたからだ。
「まあ、おまえが倒されたのは本気で意外だけどな。俺はたぶん、おまえが面白さを優先して見逃すと思っていたよ」
「…………私はプロです。手加減はしませんよ。その上で今回は負けを認めました」
まるで、本当はまだ戦えたと言わんばかりの物言いに、利羅はニヤけた。だが、先程からのモンスターをほふる動きを見ていたら、あながち負け惜しみでもなさそうだ。
「しかし、おまえこそ樽勝の方はよかったのか? 下手したら裏切り者扱いされるだろ」
「依頼は先着順です。ですが、本当にあなたに依頼されていてよかった。もし私がフリーだったら、私はあの会長に言われるがまま、多くの札教の生徒を始末していたでしょう。そんな始まる前から勝負が決まってしまうようなこと、できることならやりたくなかった。面白みに欠けますからね」
「樽勝が今年強攻策に出るのは大方予想がついていた。だから、おまえがいたらうちは瓦解すると思ってな」
利羅にそれほどの評価を受けていたことを嬉しく思いながら、
「最後に、どうしてターゲットを西宮に?」
「レベルアップしてもらう必要があったんだよ。うちで唯一『網走』に対抗できそうだからな」
司は建前抜きに、
「それはとても面白そうですね」
そう言った。
大型モニターを観戦している会場では、カムイちゃん達が大砲で吹っ飛ばされて土煙を上げて着地した時、爆笑と大歓声が響いた。
利羅の登場で頭痛がする頭をかかえた副会長がいる本部の隣、アナウンサー席では、
『おおっとぉ~! これは大混乱だぁ! 利羅会長によって七丁目に送られた四人のせいで、予選通過できそうだった面々がモンスターに襲われまくっているぅ!』
『何をやっているんだ、あいつらはぁ!』
大型モニターのカメラは、カムイちゃん達を狙って追いかける。カムイちゃんと翡翠は棍を肩にのせ、お猿のかごやよろしく西宮を『本日獲れた獲物』のように吊り下げて運んでいる。自力で走れないほど疲弊しているとはいえ、とんださらし者だ。
透はそんな三人の先陣を切って、道を作っていく。
『四人はモンスターを他人にけしかけて進んでいる! 悪党です! 外道です! かつてこれほど敵味方関係なく場を混乱させた人がいたでしょうか、いや、いない!』
透はカムイちゃんの指示で、わざと人の多い方へと走っていく。四人が通った後は臭いが残り、モンスターが寄ってくる。そのため、両校の生徒はゴールとか言う前に四人から逃げないといけない。
『残り時間は十五分! 例年ならばゴールラッシュに沸き立つ時間ですが、ゴール前の人はまばら! 信じられません!』
大画面の端っこに映るワイプにはゴールの屋外ステージが映っているが、新たにゴールする人は確かに少ない。
七丁目を縦横無尽に駆けるカムイちゃん達は、時間を見て進路をゴールに取る。周りでは自分達がもたらした大事態に対処する人達。それをしり目に走る。
『私は今、恐ろしい映像を見ています! なんでしょう、この動物大行進は! 生徒の多くは思わず足を止めてはねられ、蹴散らされているのですが四人の足は止まりません! 逃げることに慣れているんでしょうか!?』
『しかし、あいつらもただ逃げていたわけじゃなかったようだな。ちょうど自分達の外側に人の壁ができるよう、位置取って走っている。襲ってくるのは背後だけで、横からは襲われていない…………迷惑極まりないがな!』
荒谷の解説通り、四人はほとんどモンスターを相手にしていない。透が牽制し、足止めするぐらいだ。
『そして、騒然としているのはゴールの屋外ステージも同じです! 当然でしょう。なにせ四人が向かっているのはソコなのですから!』
『早く逃げないといけないのに、帰還用のキューブに殺到しているものだから遅れているな』
四時を過ぎたらゴールをした何人かにインタビューをするというのが定番のため、多くの生徒が残っていた。
そして、あちこちに影響を及ぼしている中、
『四人が六丁目に入りました~! あとわずか、時間は十分!』
モンスターに追い立てられながら、ゴールを目指す。進路を塞ぐように前から襲ってきたモンスター(もう身代わりに戦ってくれる人は周りにいない)を、透が札を投げ飛ばしてはりつけ、氷漬けにする。
『おお~! これでゴ~~……ん? カムイちゃんが棍から手を放して止まった!? そして、南川さんが一人で棍をかついで西宮君とゴール。ですが……』
モニターでは、カムイちゃんと透が背後のモンスターと向き直っていた。
『何をするつもりだ?』
カムイちゃんの二枚の札と、透の三枚の札がさらに繋がって星を描く。
カメラは決死の思いで二人に近づき、音声を拾う。
『アシクネプ――五稜星!』
放たれた赤い軌跡を残す光の奔流が、モンスターの大軍を飲みこんだ。
『な、ななんあな~、な~んっと! 繋力五枚! 信じられません! 学生でそれほどの技術を持った人がいるなんて!』
『…………』
さすがの荒谷も驚きに声が無かった。
会場が驚きの声を上げる中、カムイちゃんと透もゴールをする。
ただ、追いかけていたモンスターのほとんどは倒したが、まだ獣香の効果は続いている。再びモンスターが殺到するまで、そう時間はかからなかった。
四時を回り、全ての生徒が大通公園に戻って来てから、
『予選結果発表! 札教通過者一〇八人、内怪我による離脱が十六人、計九二人。樽勝通過者一三二人、内怪我による離脱が二四人、計一〇八人。え~、なお、ルールではゴールした者に攻撃することは反則ですが、今回は故意というわけではないので、北乃カムイ、西宮宗円、東屋透、南川翡翠を失格にすることはありません』
『前二人は失格にしてもいいと思うぞ』
『せめて、名前は言いましょうよ』
アナウンス席のやりとりに、会場から小さな笑いが漏れる。
『それでは、次に両校応援団長から二日目の競技の発表です! 先行は通過人数で勝った樽勝!』
長ラン服姿の樽勝応援団長が、長い半紙を広げ、
『午前! 樽勝競技『障害物競走』!』
山伏装束姿の札教応援団長が、同じく長い半紙を広げ、
『午後! 札教競技『玉入れ』!』
と、達筆で書かれた競技を発表した。
『はい! それでは予選を通過した方は明日も頑張ってくださ~い! 九時からですので、遅刻しないように』
会場から拍手が沸き、初日が終了した。
そんな賑やかな会場の隅で、
「なんとか、予選は通過できたニャ~」
カムイちゃんと透、翡翠が疲労から座り込んでいた。
「よく私達無事でしたよね」
「大砲のせいで体のあちこちが痛い」
精根尽き果てた西宮は、無言で倒れ伏している。
「四人ともよかったよ! 良い写真も撮れたし、最後のインパクトなんて一位ゴールのアザレアさんを喰う衝撃だったよ!」
満面の笑みで近づいてきた繭に、カムイちゃんは疲れても変わらぬ輝く笑顔を向ける。
「まあニャ。初日の最後だし、それまであまり目立ってなかったからニャ。ここは一発良い所を見せておこうと……って、アザレア……アザレアってピンクの髪のかニャ?」
頷く繭を見て、三人は目を丸くする。
「そんなにすごい娘だったのかニャ~」
「明日も期待しているよ。さあ、急いで帰って新聞作らないと!」
繭はやる気十分に走っていった。
「利羅! 今までどこで何をやっていたのよ!」
見ると、副会長が利羅を追いかけていた。
「聞く気があるなら、まずはその両手一杯の札をしまえ!」
「…………ちゃんちゃん、ニャ」
笑って締めるカムイちゃんを、遠くから見ているのはツツジだ。不満げにする彼女を恐れ、他の生徒会メンバーは声もかけられなかった。
「まあいいですわ。明日の主役は間違いなくうちになるのですから」
次回更新は火曜日予定です。