北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』   作:カムラー

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障害物競走その1

 競技が始まるまで一時間はあるというのに、大通公園六丁目は賑わいを見せている。特に盛り上がりを見せている一角では、カムイちゃんがアカペラで歌っていたりする。

 

「ふ~、歌った歌ったニャ~」

 

 持ち歌を披露し、歓声を受けて下がったカムイちゃんに、

 

「イランカラプテ。やっぱりアイドルの生歌はすごいですね!」

 

「おはよう。さすがはアイドルだな。あんな人前で歌うなんて、私には考えられない」

 

 興奮冷めやらぬ透と翡翠が、朝の挨拶そこそこに感動を伝える。

 

 カムイちゃんは照れつつも鼻を高くし、

 

「おはようていざん。いや~、利羅にライブを頼まれちゃってニャ~。カムラー獲得のためにもひと肌脱いだのニャ」

 

 その利羅はと言うと、アナウンサー席の隣にある本部テントで雑用に従事している(体のあちこちを手当てした状態で)。

 

「すごい盛り上がっていたし、知名度は上がったんじゃないか」

 

 翡翠に絶賛され、カムイちゃんははにかみながら頬に手をあて、

 

「学園のマドンナって言われるようになったらどうしようニャ」

 

 ……………………(とんぼ)。

 

「あれ? 西宮はどこニャ?」

 

 ツッコミがなかったことで、初めてそれに気づいて周りを見渡す。

 

「今日はまだ見ていませんね」

 

「昨日随分と疲れていたし、ギリギリまで休んでいるんじゃないのか」

 

 ツッコミキャラの自覚が足りないと口を尖らせていると、視界にチラつく色がさした。

 

「あ、アザレア!」

 

 ピンクの髪は目立つ。

 

 声をかけられ、アザレアは振り返ってカムイちゃん達に気づくと、微笑して会釈する。

 

「昨日のご活躍はお見事でした。先程の歌も大変素晴らしかったです」

 

 駆け寄ったカムイちゃんは軽く手を上げて挨拶し、

 

「アザレアだってすごかったらしいじゃないかニャ。一位でゴールしたんだってニャ」

 

「はい。ですが、まさか話題の半分ぐらいをあなた達に持っていかれるとは思いもしませんでした…………一位だったのに。例年だったら一位が文句なしのヒーローなのに」

 

 若干、アザレアの顔に影が入った。

 

「にゃはははは、それは残念だったニャ~。でも、生き馬の目を抜くこの世界、他人の成功を妬むより、自分のパフォーマンスを向上させる方が結果に繋がるニャよ」

 

「カムイちゃん、そんな先輩に……」

 

 と、透は注意しようとしたが、途中でやめた。十六歳(設定)のカムイちゃんにどう言えばいいのか分からなかったのだ。こういう時、強気でツッコミできる西宮がいてくれたらと、切に思う。

 

 そんな風に無力感に打ちのめされている透の心配をよそに、アザレアには怒った様子もなく、真剣な表情で、

 

「分かっています。今日の二日目、競技は元より観客を楽しませることも負けません。結果も過程も入学希望者数にダイレクトに響くこの行事。札教に負け続けてはいられませんからね!」

 

 力強く勝利宣言をする。

 

「にゃふふふふ、強敵の存在は盛り上がりには不可欠。相手にとって不足なしのろ!」

 

 一歩を退かず、腕を組んで慎ましい胸を張るカムイちゃん。

 

 両者の間で熱い火花が散る。

 

「……あの、カムイちゃん。アザレアさんから見たら、私達の方が不足なんじゃ……」

 

「透、軟弱なことを言うな。強敵を相手にしてこそ更なる成長が望めるんだ」

 

 翡翠もやる気十分だった。こういう時、強気――(以下略)。

 

「楽しみにしていますね。まあ、戦うような機会があればの話ですが」

 

 そう言い残して、アザレアは颯爽と去っていった。

 

 

 屋外ステージのキューブの周りに札がはられ、六丁目からスタートできるよう調整され、もうすぐ競技が始まるという時に、西宮がようやく来た。

 

「よう~、おはよう~」

 

 覇気の無い挨拶。見ると肩は下がり、顔に生気は無く、目も半ば閉じられている。

 

「ヒドイ顔だな」

 

「そんな改めて言うと西宮でも傷つくんじゃないかニャ?」

 

「今まさにおまえの言葉に傷ついたわ!」

 

 そんな状態でもすぐさまくり出されるツッコミ。透はよかったと心中でホッとする。

 

「朝起きたら筋肉痛がひどくて……」

 

 そう言いながら、自分で肩をもむ。

 

「情けないニャ~。私なんて何ともないニャ」

 

 元気をアピールするように、カムイちゃんは両腕を振り回す。

 

「あ~、俺もカムイのように三日後ぐらいにくる歳だったら」

 

「ケンカ売っとんのか、こら~! アイドルの無尽蔵な体力なめるニャ!」

 

 何気なく設定十六歳を話題にできる。そんな所に透は西宮に羨ましいものを感じ、ちょっとジェラシる。

 

「おい二人とも、じゃれ合ってないでそろそろスタート地点に行くぞ」

 

 翡翠を先頭に、三人はキューブに飛び込んでフィールド六丁目に下り立った。そこにはすでに大勢の生徒がいて、みんなやる気がみなぎっている。

 

「俺にとっての本番は明日だし、今日は疲れないようにしよ」

 

 一丁目に行くことが目標の西宮にとって、今日の会場は六丁目~四丁目。昨日に比べてやる気が出ないのは当然だろう。

 

「な~にを言ってるのニャ。カムラーたる者、イベントではっちゃけなくってどうするニャ」

 

「そうは言っても今日は全身が……ちょっ! 剣とか槍とか盾とか、何か武装している人多いんだけど!?」

 

 西宮の言う通り、目の前を横切る人や談笑している集団の中に、どこのRPGの世界から来たのか聞きたくなるような格好の人がけっこういる。

 

 驚く西宮に、他の三人はキョトンとしている。

 

「武身強化(クロエゾ)が得意な連中なんだろ。私の棍みたいなものだ」

 

「殺傷能力が全然違うけど!?」

 

「でも、普段のフィールドにも武具を持った人はけっこういますよ? 気づきませんでした?」

 

「あれ?」

 

 腕を組んで考え込む。そ~いえばいた様ないなかった様な、あいまいな感じだ。フィールドで思い出すことといったら……

 

「西宮の細かい所に気づくっていう唯一の長所も大したことないのニャ」

 

「フィールドに入るとはっちゃけて、ノリと勢いだけで行動するカムイが落ち着けば、俺ももっと周りを見る余裕ができるんだけどな」

 

 口笛を吹いて誤魔化すカムイちゃん。

 

「誤魔化し方が古いわ!」

 

 カムイちゃんの脳天にツッコミチョップを入れた後、西宮は不安に曇る顔で顎に手をあてる。

 

「しかしそうか……ちょっと怖いものがあるな……」

 

「ははははは、心配はいらないぞ、後輩!」

 

「トゥ!」という掛け声と共に、ザッと地面を踏み鳴らした四人。

 

「我ら、札教ガイア・ゲイヴォルグ反逆同盟!」

 

 ビシッと揃ったポーズから、練習にかけた時間と熱意が察せられる。

 

 名乗ったのはおそらくリーダーだろう。両刃の剣に円盾、クリンとカーブする口ヒゲ。筋肉がたくましい、騎士風の濃い顔立ちの人。

 

 西宮はグッと「学生ですか?」というツッコミを抑え(身体的特徴が時に無慈悲で残酷なのは彼もよく知っているからだ)、

 

「……えっと、とりあえず何に反逆してるんですか?」

 

「うむ。基本は勉強しろとかうるさい親に」

 

「ただの反抗期だ!」

 

「あの、ガイア・ゲイヴォルグの意味は?」

 

 初対面にも関わらず、果敢に透がツッコミに挑戦する。

 

「うむ。カッコいいだろ」

 

「中二か!」

 

「とにかく! 昨日の貴公らの活躍、見事だった」

 

 中々強引に、リーダーのおっちゃんはこっちを賛辞してきた。

 

「へへへ、一年があれだけ魅せてくれたんだ。俺達だって負けちゃいられねえ」

 

 鼻の頭にバンソウコウをはった元気のありそうな人が、人差し指で鼻の下をこすりながら言う。

 

「今日は先輩としての意地と実力を示してやる……フッ」

 

「露払いは任せて、ゆっくりとゴールするがいい……フッ」

 

 両端にいる背の高い二人が、半身になって軽く目を閉じながら語る。

 

「おい、クールキャラがかぶってる! 何で四人しかいないのにかぶるんだよ!」

 

 二人は少し困ったようだったが、長い前髪をかき上げる仕草をしたらもう気を取り直したようだった。

 

「では、我らの雄姿を……その背中を! しっかりと目に焼き付け、貴公らがまた後輩達に示してくれ。アディオス!」

 

 リーダーは声高にそれだけ言って去っていく。それに続き、

 

「へへへ、じゃあな!」

 

「さらばだ、フッ」

 

「…………」

 

 最後の一人は無言で、人差し指と中指を一緒にして立てて挨拶した。ちょっと違いを見せようと思ったのだろうか。

 

 悠然と去っていく彼らの背中を見ながら、四人はコメントを何となく控えた。

 

 

 係員の指示に従い、四人はスタート地点になる日時計の所に行く。カムイちゃんは目立とうと最前線に行こうとするが、前に行くほど血気盛んの人が多いという透と翡翠、それにビデオで予習していた西宮の説得で、様子見のために最後尾近くにいる。

 

『さぁ! 応援合戦遊戯会二日目がやってまいりましたぁ~! 午前の競技は障害物競走! 難しいことはありません! 六丁目の日時計からスタートし、五丁目を抜け、四丁目にある噴水がゴールです! あとはコース上にある障害というチェックポイントをクリアしてください!』

 

 アナウンスのフッチーの声は、今日はフィールドの方にも聞こえてくる。ルール説明なども兼ねているようだ。

 

『コース上じゃないと上手いことカメラに映らないからな。決してコースから外れて走るなよ。まあ、一直線のコースだから外れたらロスにしかならない。そんなバカは異世界から来た猫みたいな奴ぐらいしかいないか』

 

 ほぼ名指しに近い荒谷のコメント。ニッコリ笑顔のカムイちゃんのこめかみに怒りマークが浮かぶのが見えたが、三人は何も言わなかった。

 

『配点はゴールした人数×一〇ポイントです。これは人数が多い樽勝有利ですかね?』

 

『有利と言えば有利だが、それほどの有利とは思えないな。おそらく積極的に学生同士を戦わせようという思惑だろう。チェックポイントも『奈落』『針山』『血の池』と少なめだ』

 

「どこの地獄めぐり紹介だ!」

 

 命の危険を感じた低レベル西宮が涙目でツッコミを入れたが、どうなるものでもなかった。

 

『え~、異世界から来たバカの相方のアホがうるさいが、九時になったらスタートだ。それぞれ準備をしておけ』

 

 荒谷のコメントで、周囲は殺気立つ。両校ごちゃまぜのスタート地点。開始と共にすさまじいことになりそうだ。

 

 テレビ塔の時計と近くの日時計が止まることなく時を刻み、

 

『ちゃんとチェックポイントをクリアしないと、ゴールしても無効ですからね。なお、今回の監修は――』

 

 九時まであと数秒。

 

『謎の最強トラパー『網走』です!』

 

 九時になった瞬間、スタート地点の大地が上空高くまで火と共に噴き上がった、当然人ごと。

 

『これは! いきなりスタート地点で火の手が上がりました! 容赦ないと言いましょうか、まさか自校の生徒すら巻き込むスタート地点で仕掛けるとは思いませんでした!』

 

 嬉々とした感じのフッチー。

 

『本気……というやつだな。今まで噂すら少なく、表舞台に出て来る人間じゃなかったが、これほどの舞台だ。手抜きはない』

 

 感心しきりの荒谷。

 

『と、言うことは……まさか自校の生徒にもどういった仕掛けがあるか教えてないのでしょうか?』

 

『当然だな。どこから情報が漏れるか分からない。それに、トラパーが自分の仕掛けを誰に教えるというんだ? 称号持ちの多くはその特性が認められ、評価された連中だ。いざとなれば所属する組織よりも自分の特性を優先させる行動を取っても不思議じゃない』

 

『そうなんですか』

 

『それほど突き抜けていなければ、称号などもらえない』

 

『――おおっとぉ! そうこうしている内に黒煙から無事だった生徒が次々とスタートを切り、四丁目へと向かう!』

 

 飛び出すのはそれぞれのやり方で防いだ学生で、ダメージはほとんどなさそうだ。

 

 その後に、ふらふらと咳き込みながら出て来る学生。その中にカムイちゃん達四人の姿もある。最後尾にいたため、爆発の直上にいるよりはダメージがなかったのだろう。

 

 そういったダメージが少ない者が三分の二はいた。最初の仕掛けで全滅しては面白くないという、『網走』の哄笑が聞こえてきそうだ。

 

「アホかぁ! 何がアホかってまだ四丁目に向かう気なのか、俺達はぁ!」

 

 焦げ付いた西宮が、興奮して声を荒げる。

 

「まだ競技中だからな」

 

 翡翠は棍で樽勝の学生を倒しつつ、当然のように答える。

 

「運が良かったニャ。こんな盛り上がりそうな競技、序盤で失格になってられないニャ」

 

 血沸き肉躍るという感じに、カムイちゃんは金色の瞳と背後に炎のオーラを立ち昇らせる。

 

「むしろ強制送還されなくって運が悪かったわ! 俺は帰還用のキューブを使って帰る。後は三人で頑張れ」

 

 ぶっきら棒に言ってゴールとは真逆に行こうとする西宮の足を、誰かが掴んだ。

 

 驚いて視線を下に向けると、先程のガイア・ゲイヴォルグのバンソウコウ男が倒れ伏していた。

 

「へっ、ドジッちまったぜ」

 

 笑いつつ、真っ黒焦げの彼は口の端から血を流す。

 

「バカ者。もうしゃべるな」

 

 傍らに膝をつき、沈痛な声で涙を堪えるリーダー。

 

「悪いな、リーダー。俺はどうやらここまでのようだ。情けねえ」

 

 クールキャラの二人は言葉もなく、前髪で目元を隠し、肩を震わせている。

 

「だけど、こんな俺でも、未来への希望は残せた…………あの世でおふくろに自慢ができらぁ」

 

 と、熱く揺れる視線で西宮を見上げる。ちなみにカムイちゃん達四人は完璧に運で生き残ったため、彼が何かをしたわけではまるでない。

 

 西宮はどうにかしてバンソウコウの手を外そうと頑張っているが、全く外れる気配がない。なんて力だ!

 

「後は頼んだぜ、後輩達」

 

 晴れやかな笑顔で親指を立て、バンソウコウは強制送還され、消えた。

 

「貴公の想いは無駄にはしない! さぁ! 共に進もうではないか!」

 

 次はガシッとリーダーに肩を抱かれた西宮。

 

「いや、あの、そのですね」

 

 助けを求めるように西宮はカムイちゃん達を見たが、三人はサッと視線を外した。

 

 西宮は逃げることが出来なかった。




次回更新は火曜日予定です。
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