北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』 作:カムラー
『奈落』はどこにあるか分からない落とし穴(底に札があり、落ちたらほぼ強制送還)を主体に、踏み抜いたらテコの原理で札付きの板がせり上がってくる罠が学生の行く手を阻んだ。
西宮の提案で先行した人の踏んだ場所を通るという方法で、カムイちゃん達は難なくクリアした。
ちなみに「我が道を行く!」と言ったガイア・ゲイヴォルグは、クールキャラの一人が踏み抜いた板に顔面をぶつけて爆発し、頭をアフロにしてリタイアした。最後の言葉は「俺の屍を越えていけ、フッ」。
『針山』は数十メートルの針山エリアに平均台が通されたものだった。平均台を渡っている間にバレーボールが飛んできて、学生のバランスを崩す。
西宮の提案で翡翠の棍を長くし、平均台から落ちそうになったらそれで支えるという方法で、カムイちゃん達は一人ずつクリアした。
ちなみにガイア・ゲイヴォルグの二人は二人してバレーボールに当たって針山に落ちた(その時カムイちゃんと西宮は同時に「え!? 二人!?」と叫んだ)。だが、リーダーは円盾を下敷きにして(躊躇なく足蹴にして)難を逃れた。クールキャラの最後の言葉は「ここは俺に任せて先に行け、フッ」。
五丁目の中心にある聖恩碑を越え、最後のチェックポイント『血の池』に来た。
「うわ~、いくら大通公園が水路や噴水が多いからって、どっからこんな大量の水を用意したんだか」
一面に広がる赤く染色された池に、西宮は感嘆の呟きをもらす。
「う~ん、ここまでバラエティー感を強く出されるとアレを思い出すながわ」
「アレって何です?」
「風雲たけ――」
「カムイの苗字でそれはやめろ! 若い子の誰が知ってんだよ!」
すかさず西宮がカムイちゃんの言葉を阻んでツッコミを入れた。
「でも、点在する岩で移動するなんてまさにそれだニャ」
先を行く人達は軽やかに岩を渡り歩いている。
「ということは、ハズレの岩を踏んだら沈むかトラップが発動して吹っ飛ばされるか、かな?」
「その程度なら先程の『針山』の方が――」
翡翠の言葉の途中で、先行していた学生の一人が池から這い出てきた触手に絡め取られ、池の中に引きずり込まれた。
……………………(とんぼ)。
『なんかいるぅ!』
目撃してしまった三人は思わず叫んだが、触手を持つ見た目がアレなモンスターが苦手な透は、顔を真っ青にして固まってしまった。
「何ニャ今のモンスターは!? アイドルに何と共演させるつもりニャ! いくらバラエティー感があるって言っても、いきなり露骨すぎるサービスシーン提供だニャ!」
「そんな描写をしろって言われても無理だぁ!」
「誰が乗り移っているのニャ、西宮」
「これを学生が監修しているというのだから始末が悪いな」
と、三人は腕を組んで攻略方法を考え込む。透が茫然とした状態では、池に一歩を踏み出すことも出来そうにない。とは言え、通らないわけにはいかない。
悩んでいると、カムイちゃんの肩が後ろから叩かれた。
「ついに我の出番か」
「リーダー」
満身創痍風なボロボロ姿のガイア・ゲイヴォルグリーダーが、遠い目をして立っていた。
「向こうにはあいつらが待っている。恐怖などは微塵も感じん」
「死ぬ気かニャ」
「…………まさか。後で必ず追いつくに決まっているではないか……さあ! くだらないおしゃべりは止めだ! 我の後に続けえぇ!」
剣を振りかぶって池に浮かぶ岩に踏み出したリーダー。
即行出てきた触手にペイッと叩かれて、六丁目の方へ「あ~れぇ~」と飛んでいった。
「さてと、どうするニャ西宮?」
何事もなかったかのように、カムイちゃんは西宮に意見を求める。
「赤く染色されているせいで、水の中が分からないからモンスターを倒すのは無理そうだな…………翡翠の棍を長くして、向こう岸まで届かせるのはどうだ?」
「私の棍は〝伸縮〟の札で伸びるとは言っても、精々十数メートル。向こう岸までなんてとても無理だ」
西宮は頭をかきながら、難しそうに唸って頭をひねる。
「みんながみんな襲われるわけじゃないのニャ」
カムイちゃんは早々に考えるのを諦め、『血の池』に挑んでいく学生をのんびりと見学している。
「五丁目にいる触手のモンスターと言えば『オクトシュート』だ。平べったい巨大なモンスターで、触手は八本しかない。この池の広さなら一匹しかいないはずだ。自らほとんど動かず、獲物が触手の届く範囲に入ったら捕獲する特性だったはずだ」
翡翠の解説を耳で聞きつつ、西宮は頭の中でモンスターの情報の引き出しを開ける。
「あ、もしかして」
西宮は何かを思いついて、地面を見渡す。
「何しているのニャ?」
「石でも落ちてないかなって」
「大通公園のそこら辺に石が落ちているわけないニャ。子どもが転んだ時に危ないだろニャ」
「あ~、なら仕方ない。翡翠、ちょっと手近の岩を棍で何回か叩いてみてくれないか?」
翡翠は首を傾げつつ、棍で岩を数回叩いた。すると、振動が池の表面に伝わって波紋が起こり――触手が飛び出てきた。
「ひぃっ!」
間近に現れた触手を見て、透が小さく悲鳴をあげて息を呑んだ。翡翠はギリギリの所で棍を引いて、触手から逃れた。
「やっぱりか。色つきの水でどうやって獲物の場所を見極めているのかと思ったら、岩に乗った時に伝わる水の振動で判断してたんだ。だからたぶん、狙われやすいのは体重の重い人や思いっきり岩に飛び乗った人だ」
確かにリーダーは体格のガッシリした男で重そうな剣持ち。さらに勢いよく岩に飛び乗っていた。すぐに見つかったのは当然だ。
だが、その考察にカムイちゃん達三人に衝撃が走る。
『た、体重の……重い、人』
三人はそれぞれ探るようにお互いの体を見る。もし、もしだ……池を渡っている時に自分だけ襲われたら…………触手に絡みつかれるだけでない辱めを受ける。
「くっ! ここまでかニャ!」
悔しそうに唇を噛み、カムイちゃんは拳を握る。
「え? 静かに渡れば襲われる危険は少ないぞ?」
「今までの罠とは比べ物にならないほどの恐ろしい罠だ」
「このえげつなさ……さすがは最強のトラパーが監修しているだけはあります。もう……私達に残されている手段はありません」
「絶望に打ちひしがれ過ぎだろ! ほら、見ろ! 今ならかなりの人数が挑戦している。原理が分かっている俺達がクリアできる可能性は高いぞ!」
西宮が指差す方を見れば、男女問わずかなりの人数が岩に飛び乗り、数人が触手の餌食になっている。
「ああ~、知らないって、時として幸せなことなのかもしれないニャ」
「憐れむなカムイちゃん。私達にできることは、彼女達を思って、そっと口を閉じることだけだ」
「そうですね。この秘密は墓まで持っていきましょう」
「体重一つでどこまで深刻だ! おまえらまるで、明日世界が滅亡することを知っている側の人間みたいな言い方だぞ」
呆れつつ言う西宮に、女性陣三人のギッと睨む視線が飛ぶ。
『女性にとってはそれに匹敵する(ニャ)!』
タジタジと西宮は体を小さくさせた。
「待たせたな!」
どこでつけてきたのか頭に花が咲いているリーダーは、剣を振り上げながら戻ってきた。
「後輩の危機に颯爽と登場し、スパッとピンチを解決してしんぜよう! 深紅に染まりし池に潜む怪物よ! 我が剣の露にしてくれよう!」
止める間もなくリーダーは岩に飛び乗り、触手が襲ってくる前に次の岩に移動した。
体格に似合わぬその俊敏な動きに、カムイちゃん達は「おお~」という声を上げる。この調子なら向こう岸まで行けそうと見ていると、リーダーは札を投げて宙に浮かし、それを足場にして天高く飛ぶ。
「くらえ! 天空暗黒龍墜殲滅剣(ヴァルハラシャイニングソード)!」
「くどい!」
剣を腰だめに構え、水しぶきを上げて池に突っ込んでいった。そして、触手に打ち返され「どっひゃ~!」と言いながらまた吹っ飛んでいった。
「あれはおそらくまた帰ってくるニャ」
「様式美だな」
お星さまになったリーダーを見送りながら、カムイちゃんと西宮は呟いた。
「二人とも、完璧な攻略法を思いついたぞ」
翡翠が得意気な顔で、指を一本立てた。
『荒谷先生。彼女達は一体何をやっているのでしょうか?』
『さあな。独自に考えついた攻略法なんだろうな。ただ、異世界の二人がうっかり池に落ちて爆笑する用意はできている。遠慮なく落ちろ』
「少しは応援してくれたっていいだろニャ!」
「あ~も~、カムイ! 暴れんな! 本気で落ちる!」
西宮はカムイちゃんをおんぶし、〝硬化〟の札を浮かせて足場を作り、池の上を移動している。岩に比べて足場は格段に狭い。同じような手法で、翡翠も透をおんぶして移動している。
確かにこれなら水に振動が伝わらないため、触手に襲われることもない。そして、もし樽勝の人に襲われそうになったら、おんぶしている方が迎撃することになっている……のだが、透は怯えて翡翠に強くしがみ付いている。これではあてにできない。
幸い池の上ではみんな渡ることに集中しているため、戦いは起きていない。
西宮の体力と集中力が心配だったが、向こう岸が見えてきて何とかなりそうだった。
ふと向こう岸を見ると、手を振っているアザレアがいた。彼女は何やら手を合掌した後、四人に一枚の札を見せた。それは森羅万象(アカエゾ)で〝土石〟の札だった。
嫌な予感がしつつも、距離が離れているためアザレアの行動を見ていることしかできなかった。彼女は札を地面にはって、大きな土の塊を作り出した。そして、強化した体で投げてきた。
声なき悲鳴を上げながら、投げ込まれた塊はちょうど二組の間に落ちた。激しい水しぶきが上がり、
「西宮、早く逃げるニャ!」
「足場に札二枚使っているから、無理だ!」
塊が投げ込まれたからの泡なのか、それとも別の生物が作り出す泡なのか、波紋を生み出す中心から止め処なく出て来る。
「透!」
「――」
翡翠が呼びかけるが、透は彼女の肩に顔をうずめてただただ震えている。
「は~っはっはっはっはっ! 出前迅速楽々無用! 三度降臨する不死身のおと――こぅ~れで出番終わりぃ~!?」
しゃべり切ることもできず、現れたリーダーはカムイちゃんに腕を引っ張られて波紋の中心に投げ込まれ、触手に吹っ飛ばされていった。
……………………(とんぼ)。
波紋と共に泡は消え、脅威は去った。
「身をていして美少女を守れたんだから、男冥利に尽きるだろニャ」
ウインクをして星を飛ばすカムイちゃんに、
「経験者として再度言わせてもらう。自主的な行動だったらな!」
「西宮! 今の内に一気に行くぞ!」
翡翠を見ると、〝跳躍〟の札を持っていた。意図を理解し、西宮も札を一枚解除して〝跳躍〟の札をはる。
二人は大きく跳躍し、一度だけ岩を活用したが、素早くジャンプをして触手から逃げて向こう岸に下り立った。
「来てしまいましたか。あそこでリタイアしていた方が怪我も少なかったでしょうに」
アザレアは聞き分けのない子に向けるような困り顔で四人を見る。
おんぶを解除して、四人はアザレアと対峙する。
「チェックポイントを全部クリアしてここはもう四丁目ニャ。あとは中心にある西四丁目噴水に行くだけ……邪魔をするつもりなら相手になるニャ!」
カムイちゃんの言葉に、アザレアはクスリと笑う。
「まだ、最後のチェックポイントをクリアしていませんわよ」
アザレアが手を促した方を見ると、噴水へと続くコースに多くの札教の学生が倒れ伏していた。
『なっ!?』
その光景はまさに死屍累々。彼らから流れ出した血は草を赤黒く染め、まさに『血の池』だった。四人が見ている間にも、強制送還されて生徒が消えていく。
「それでは、参りますわよ」
静かに告げられた開戦の言葉。
四人が顔をアザレアに戻したが、すでに彼女はそこにいなかった。
一陣の風が上空から吹き荒れ、思わずカムイちゃん達は腕で顔をガードし、目をつぶった。
「カ、カムイ……ちゃん」
背後のか細い声に振り返ると、全身をなます切りされた透が強制送還される瞬間だった。
「透!」
カムイちゃんが駆け寄ったが、それより早く彼女は消えた。
「五枚の札による繋力。あれは脅威ですからね。彼女には早々に退場してもらいます」
声は上から振ってきた。
三人が振り仰ぐと、体に〝飛翔〟の札をはり、足元にはった〝突風〟の札を適時発動させるアザレアがいた。
『あ、荒谷先生! い、今の目に留まらない空中からの早業は!』
『あれほどの芸当ができる者が、何人もいるわけがない!』
興奮混じりの解説に答えるように、アザレアはそのピンクの髪に手をかける。そして、勢いよくピンクの髪をはぎ取って投げ捨てた。その下から現れたのは、長く艶やかなロングな黒髪。
「アザレアとは世を忍ぶ仮の名前……私は樽勝を勝利に導く『空知』の称号を持つ生徒会長、巡ツツジですわ!」
謎の実力者アザレアがついに正体を現した。その正体は樽勝の生徒会長ツツジ! では、本部にいる会長は何者!? 大体分かっていたであろうことを、これでもかってくらい「実は……」と書くのはちょっと気恥ずかしい。そして、カムラーゆえに勢いで書いているが、ちゃんと伏線を回収しているのか不安になる。やっぱりちゃんとストーリーを考えてから書き出せばよかったとちょっと後悔中。
次回更新は火曜日予定です。