北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』 作:カムラー
『終了~! 午前の障害物競走は、樽勝一一〇ポイント! 札教は一〇ポイントです!』
『ツツジは〇ポイントに抑えたかっただろうが、最後の最後、あの異世界人達の異様な粘りに遅れを取ったな。残念だ』
『札教視点で見れば残念ではないと思いますけどね。いや~、確かにすごかったです。突如カムイちゃんが「切り札!」と言って西宮に〝加速〟の札をはらせ、スピードを上げたのには驚きました。他人にはられた場合は能力が逆になって発動するはずなのですが……』
『ふん! それがあいつの特殊性だ。ファンに自分の力を与える。ファンから力をもらう。元々高い身体能力が札によって底上げされた。いくら『空知』でも捉え切れなかったか……まったく、ムカつく!』
『ついにただの罵倒だけになりましたね』
大型モニターに映し出されるフッチーと荒谷のコメントを見ながら、カムイちゃんはこめかみに怒りマークを浮かべ、
「なんで主人公である私の頑張りがナレーションベースなんだニャ!」
隣に立つ西宮の胸ぐらを掴んでくってかかる。彼は面倒そうな顔で嘆息し、
「得点が入っただけで良い所がなかったからだろ。カムイはよくカットされる側のアイドルなんだし、今さらだろ」
「なんでなんニャ!? こっちは今日のために用意しておいた必殺技まで出したっていうのに!」
「あ~、思いっきりキメキメに「切り札発動!」ってやったよな。カットされていると思うとすごい赤っ恥だ」
「ニャ~!」
苛立ちを西宮で晴らすかのように、彼を前後にガクガクと動かした。
ちなみに、対ツツジ戦はガチでやったら勝てないと判断し、カムイちゃん達はゴールすることに全力を注いだ。だが、本当に見せ場も何もなく、西宮と翡翠はツツジに瞬殺された(フィールドで負った傷は、送還されると自然と回復する。ただし体力は戻らない)。唯一の見せ場が、先程フッチーがあっさりと解説した所なのだから、書くことがない。
「なんか、今なまら失礼なことを誰かに言われた気がするもい」
カムイちゃんの猫耳がピクピクと敏感に反応している時、大型モニターではフッチーがアナウンサー席の隣にある本部テントに来ていた。
『さあ! それでは皆さんお待たせいたしました! これから本部のツツジ会長に突撃したいと思います!』
モニターには、利羅の隣に座る黒髪ロングのツツジが不敵な笑顔で映っている。
「私の見せ場がカットされた元凶ニャ!」
「カムイがアイドル性を出してきた時って、マネージャーHさんはどうやって止めてたんだか」
前後に揺り動かされた西宮は、頭を押さえて呻いた。
『率直にお聞きします。あなたは一体何者ですか?』
フッチーがツツジにマイクを向けると、彼女はスッと立ち上がり、
『ある時は優秀で合理的な生徒会長。またある時は優秀で有能な副会長。しかしてその正体は……!』
「自分で自分を褒め称え過ぎだニャ」
「カムイが言うな」
映像の中のツツジは左肩から制服をはぎ取り、
『『網走』の称号を持つ、アルゼ=フィリーテ!』
現れたのは薄赤い短めの髪の鋭い目が印象的な女生徒だった。
『ふ、副会長ぉ~!?』
一番驚いた声を上げたのは、アルゼの後ろにいた樽勝の生徒会メンバーだった。
『え~っと、どこに驚けばいいのでしょうか!? なんと会長だと思っていたのは副会長で、副会長はなんと『網走』だった!? 他の生徒会メンバーはこのことを知っていたのでしょうか?』
と、マイクを向けられた生徒会メンバーは一斉に首を横に振り、
『いえ、なんかいつもの会長とは違って情け容赦ない指示を出されるとは思っていましたけど、まさか別人だなんて……』
『副会長が『網走』だったなんてな~』
『ちょっと待ってください! 俺、会長に副会長が倒されていたのを見たんですけど!?』
男子メンバーの一人が手を上げてアルゼに質問をする。
『アレは事前に用意していた人形。会長に化けている私に逆らったら容赦しないという示威行動さ。あの時、会長に対する不満が溜まっていたようだったからね。ちょっとおどかしただけさ』
あれがちょっと? と、生徒会メンバーは戦慄の汗を流す。
『ちなみに言っておくが、情け容赦ない作戦を指示したのは全て私。その強攻策が問題だと言うなら、全て私に責任がある』
『つまり、本物のツツジに累が及ぶことはないってか』
それまで黙っていた利羅が、笑いながらアルゼを睨み上げた。彼女は口元だけ笑って真っ向から見下ろし返す。
『何を言っているのですか。この身代わりを提案したのは私ですわ。あなただけに責任を押し付けません』
カメラが動き、現れたツツジを映す。彼女とアルゼが並びあうと身長差がかなりある。それすら何とかして周囲を誤魔化していたのだから、最強のトラパーの名は伊達ではないようだ。
『そうです。ツツジ会長はなぜアザレアと名乗り、変装をしていたのですか?』
『私は生徒会の仕事があり、戦線を退いて半年ほどブランクがありました。そのブランクを埋めるためにここ数日フィールドで活動しておりましたの。ですが、暗黙の了解で生徒会のメンバーは応援合戦遊戯会には出ないことになっています。大っぴらに姿をさらすわけにはいきません』
『なぜ暗黙の了解があるのに出場しようと? やはり利羅会長が出て来ることを予想して?』
『それもあります。ですが、利羅が変わり種の秘密兵器を用意しているのを知ったことが一番の理由ですわね。応援合戦遊戯会は学園のPRにはうってつけの行事。勝敗も大事ですが、どれだけ楽しい学園なのか、というのを小・中学生にアピールするのも重要。ですので、私達も何か驚かせることをしたいと思いましたの』
『そうだったんですか。いや、確かに驚きました。それに、会長の強さにも。今年はこのまま樽勝がぶっちぎりで勝ってしまうのではないでしょうか。そこの所どう思いますか、利羅会長?』
コメントを求められ、利羅はフッチーからマイクを奪ってカメラを意識しつつ、ビシッとツツジとアルゼを指さした。
『確かに中々のサプライズだったと褒めてやろう。しかし! 所詮はそっちの競技で勝ったにすぎない! 勝ち誇るつもりなら次の競技に勝ってからにするんだな!』
『あなたがいない札教なんて楽勝ですわ』
『予選に通過していない者は二日目以降に出場できない。それはルールとして決められている。昨日あなたが予選を通過できなかった時点で、勝敗は決しているのさ。一年なんて見捨てればよかったものを』
呆れた様子で侮ってくる二人に、利羅は自信満々に胸を張り、
『はっ! その一年に昨日思いっきり食われた奴らがよく言うぜ!』
三人は思いっきり視線の火花を散らす。
フッチーはその間に利羅からマイクを取り戻し、
『バチバチに火花を散らし合っております! これはお昼休憩をはさんだ後に行われる『玉入れ』に期待が持てます! それではまた午後に!』
と、映像が一旦終わった。
……………………(とんぼ)。
西宮は隣に立つ大人しいカムイちゃんに恐怖を感じていた。普段騒がしい奴が終始大人しいというのが、これほど心臓に悪いものだと初めて知った。
「にゃふふふふふ」
口から出て来る笑い声に、ヒシヒシと嫌な予感がする。
「アイドル以上に目立とうなんて、片腹痛いニャ。こっちは黙っていても自然と内面的な光が溢れちゃう大! 人気北海道育成アイドル、北乃カムイだニャ! どっちがカメラを独り占めする主人公か目にモノ見せてくれるニャ!」
そろ~っと西宮はちょっとずつ後ろに下がっていく。そのまま物音を立てないように逃げようとした。が、ガシッと肩をカムイちゃんに掴まれた。
「当然、パートナーでありカムラーである西宮も、協力してくれるよいちちょう!」
金色の瞳に炎を宿し、背後に炎のオーラを燃え上がらせるカムイちゃん。二日目は軽く流す予定だった西宮は、強張った笑顔で頷いた。
お昼休憩を終え、『玉入れ』の舞台となるのは五丁目。中央の聖恩碑を挟んで、西側に札教、東側に樽勝と別れている。
「『玉入れ』とはさすがうちの生徒会だよな。これならあの『空知』と直接戦わなくってすむ」
「でも、どうやってポイントつけるんだ? カゴに入った玉がポイントになるなら、差は大して縮まらないだろ」
「一個でも多く入れた方に一〇〇ポイントとかにでもするんじゃね?」
などと周囲の会話を聞いていた西宮は、確かに不思議に思う。生徒達の中心にカゴが一つあるが、玉は一人に二つずつしか渡されていない。球数が制限されていては人数が多い樽勝に有利だ。
「カムイちゃん、西宮さん、お待たせしました」
札の補充で寮に戻っていた透と翡翠が戻ってきた。
「……カムイちゃんはどうしたんだ?」
さすがに感じ取ったらしく、翡翠が西宮に聞いてきた。さっきから心のやる気の燃焼が弱まらないカムイちゃんは近寄りがたいものがあり、少し周りから敬遠されている。
「ちょっと、な」
『それではルール説明を開始します!』
フッチーの放送が聞こえてきて、聞き耳を立てて静かになる。
『この競技に限り、人に向ける攻撃方法は玉に札をはっての攻撃のみ。玉は最初に渡したものだけで補充はなし。玉に札をはった場合、札の効果終了時に玉も消えます』
ルールを聞きながら、学生達の頭上に疑問符が浮かぶ。
『先に相手チームにあるカゴに玉を一個でも入れるか、相手を全滅させた方の勝ち。勝った方に一〇〇ポイントが与えられます』
「玉入れの名を借りたサバイバルゲームもどきじゃねえか!」
学生を代表して、西宮のツッコミが飛んだ。
『当たり前だ。おまえらがポコポコカゴに玉を入れるのを見ていて、こっちは何が楽しいんだ。存分にやり合え』
相変わらず異世界人に対しては素っ気ない答え方だったが、
「望むところだニャ! 思いっきり盛り上げた上で、私達が勝つニャ!」
カムイちゃんは右拳で左掌を打ち、檄を飛ばして気合いを入れる。
『それでは、十分間の作戦会議の後で競技を開始します!』
放送が切られ、札教の学生はざわつき出す。樽勝の方はツツジというまとめる存在がすでにいる。彼女を中心に攻守を決め、組織だった行動をしてくるだろう。しかし、こっちはまとめる存在がいない。言うなれば寄せ集めの集団だ。
「よ~し! 私に協力してくれる人はここに集まるニャ!」
カムイちゃんが手を上げて通りの良い声で呼びかけると、二十人ほどの人が集まった。意外の多さに、普通に西宮は驚いた。
「ニャハハハハ! これぞ私の人望と魅力だニャ!」
「何でだ?」
不思議でしょうがなく、集まった数人に理由を聞く。
「見ていて面白いし、何か利羅会長っぽくっていいんだよな」
「それにけっこう可愛いし」
「私プロマイド持ってますよ」
あ、本当にカムイちゃんの写真を買っている人っているんだ、と、西宮は軽い衝撃を受けた。
しかし、その多さに透と翡翠は少しむくれている。応援するアイドルが有名になるのは嬉しいが、メジャーになりすぎると距離が遠くなってしまって寂しい。という複雑な気持ちが表情に現れている。
「で、どうするニャ、西宮!?」
すぐさま意見を求めてこられ、西宮は思わずガクッと肩を落とす。
「……そうだな~」
体を戻しながら前髪をかき、周りを見渡す。他にもいくつかの集団ができている。だが、残り時間でまとめて意思を統一させるのは難しいだろう。
「攻撃方法が限定されているのなら、まずは守りに徹したらどうだ? 守りには条件が定められていないのだから、色々とできるだろう。相手の玉が少なくなったら攻撃に出ればいい」
翡翠の提案に、多くの人が頷く。だが、
「え~、守っていたらあんまり目立たないニャ~」
カムイちゃんは不満げな声を上げる。
「カムイちゃん、目立つとか目立たないとかは……」
「いや、カムイの言う通りだ」
透が優しく伝えようとした言葉を、西宮が遮った。
「どうせうちの学園の大概が最初は守りを選択するだろうから、俺らは攻めを選択しよう。じゃないと、一方的に相手の攻撃を許すことになるし」
西宮はカムイちゃんの意見に説得力を持たせ、周囲に「なるほど」と思わせた。
「よ~し! 一番槍ニャ! こりゃ嫌でも目立つってものだニャ! 頑張るニャ~!」
シャドーボクシングをするカムイちゃんの首根っこを掴み、
「説明は最後まで聞け。無暗に突撃したって、『空知』にやられるのがオチだ」
ツツジの称号に、周りは暗い影を落とす。
「だが、『空知』の手玉も二つだ。それほど恐れることは……」
「自分の手玉を誰かに渡しちゃいけないなんてルールはない」
西宮の指摘に衝撃が走る。だとすると、相手は速攻でツツジをここ本陣までやり、空からカゴを狙って玉を降らせるかもしれない。大量の玉のどれか一つでも入れば負けてしまう。
「ど、どうするんですか? やっぱり、最初は守りに徹した方が……」
弱気な発言をする透に、西宮は軽めのツッコミチョップをする。
「俺達が勝てるとしたら、相手の虚をつくほどの速攻だけだ」
西宮はザッと周囲の人達を見回し、正確な人数が二十六人と確認する(見られた人は目つきの悪さにビクッとする)。
「初期のカムラーとして、一つ教えておく。カムイのために何かをするのがカムラーだ!」
力強く宣言した後に言われた西宮の作戦に、二十六人の学生はあんぐりと驚き、カムイちゃんは目を輝かせた。
次回更新は火曜日予定です。