北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』 作:カムラー
ビーっという作戦時間終了の音の次に、
『それでは、『玉入れ』開始!』
フッチーの開始の掛け声が響いた。
樽勝は開始と同時に攻めに三分の一が投入された。残りは守りに残っている。やはり、組織だって行動している。
ツツジは先発隊には入らず、臨機応変に指示できるよう守りの最前にいる。先発隊には玉を多く持たせ、できるだけかき回して来いと指示を出している。
「おそらく札教はろくに連携を取れていない守りをするはずですわ。その守備をさらにかき回して、大混乱したところでトドメをさします。血気盛んな何人かが開始と同時に特攻してくるでしょうから、私達はそれを警戒するだけでいいのです」
ツツジの指示に、樽勝の学生は綺麗に頷く。完璧に統率されている。これがツツジの生徒会長としての姿だ。お祭り男の利羅が同じようにやろうとしても、ここまで完璧に生徒を律することは、日々の行動からして無理だろう。
と、ツツジは目をぱちくりとさせる。聖恩碑を右回りに、何やら大きなものが怒号を立てて向かってくる。
「か、会長! 大玉が先発隊を潰しながら迫ってきます!」
「なるほど。攻防一体の良い作戦ですわね。先発隊を左から向かわせなさい! あの大玉は私が何とかいたします!」
指示を飛ばし、ツツジが出る。〝飛翔〟の札をはり、上空から大玉を見下ろす。十人ほどの学生が筋力を強化させて転がしている。予想より組織だって行動していることに軽く驚いた。もしやと思って敵の本陣に目を向ける。遠目に見ると、随分と荒い網目の布陣が形成されている。やはり、連携は取れていない。
「この先発隊は部活かクラスが同じ人達で、まとめる作戦立案できる人がいたんでしょうね」
ツツジは拳に一枚の札をはりつける。
「天空イズナ落とし!」
勢いをつけて落下し、大玉に拳を叩きつけて雷を走らせた。
雷に弾かれ、十人が痺れて地面に倒れる。
「申し訳ありません。玉に向けての攻撃は制限されていませんでしたので、遠慮なくやらせてもらいました。余波程度なので、競技が終わるころには動けるようになりますわ」
地上に下りたツツジは、他に攻めてくる人がいないか見回した。
「どうやら他に攻めてくる人はいそうにありませんわね」
その時、ツツジの背後の大玉が札の効果終了と共に弾けた。
「突撃ィ!」
一回り小さくなった大玉を、八人が激走しながら押し込んでいく。
「まさか!」
嫌な予感が走ったツツジはすぐさま札を投げ飛ばそうとしたが、直接的な攻撃は禁止されていることを思い出し、動きを止める。
「その大玉を破壊しなさい!」
ツツジが大声で守っている学生に指示を出す。学生達はすかさず札で大玉を攻撃するが、札で強化されていて中々その進行を止めることもできなかった。
ツツジは玉に札をはりつけ、八人の背後から投げた。一人に玉が当たった瞬間、暴風が巻き起こり残り七人も弾き飛ばした。
八人が押していた玉が弾け、中から一回り小さい大玉を転がす四人が現れた。
玉が小さくなったため防御力が低くなったか、守っている学生達の攻撃でスピードが落ちだしたが、それでも進み守っている学生達を大玉でひいていく。
ツツジが体に〝飛翔〟の札をはって大玉を追いかけた時に、また大玉が弾けた。
「札教ガイア・ゲイヴォルグ反逆同盟推参!」
もう大玉は普通の『大玉転がし』に使われるサイズぐらいにまでなったが、その玉を大玉から現れた四人の内三人が転がし、リーダーが向かってくるツツジに相対する。
「我が魂の盾よ! みなを守る壁となれ!」
リーダーの円盾が巨大化し、ツツジの進路を塞ぐ。魂と言いながら、先程の障害物競走では針山で躊躇なく足蹴にしていたが。
「くっ」
ツツジは唐突に現れた壁のような盾に、勢いのまま蹴りをくらわした。リーダーは足で地面を削りながら後退しても、変わらず盾を保持し続けた。
『リーダー!』
大玉を転がす三人の声にもリーダーは振り返らず、
「ここは俺に任せ、おまえ達は先に進め!」
盾に顔を隠しながら、絶好のシチュエーションで言ってみたかったセリフを言えてほくそ笑む。
熱血・クールキャラが押す大玉はもうかなりカゴに迫っていた。
「ぐおっ!」「がっ!」
近づいた分だけ攻撃を受けやすく、クールキャラの二人が玉を当てられて沈黙する。
「まだまだあぁ!」
熱血キャラが最後の一押しとばかりに、馬力を入れて学生をひきながら押し込む。
超高速で飛んできた玉に被弾しながら、熱血キャラは親指をグッと立てながら倒れた。その瞬間、大玉が弾けて中から大量の玉が放たれた。
大玉を取り囲んでいた学生達は次々と被弾して、倒れていく。
「行け!」
「西宮さん!」
五十四個の玉を使って暴れ回る翡翠と透。その二人と一緒に大玉から出てきた西宮が、札で強化して跳躍する。
カゴの上を取った西宮は、カゴに向けて玉を投げようとした。
「あなたの思い通りにはさせません!」
背後(背後!?)からの穏やかな声に、西宮に戦慄が走った。
頭上を見上げれば、そこに『空知』の称号を持つツツジがいた。彼女の手にはまだ玉が一つあった。
「炎の魔球!」
燃え上がった玉が西宮に被弾した。
背中が反り返るほどの衝撃に、西宮の手から玉がこぼれる。
『西宮(さん)!』
ツツジは空中にいながら、地上に目を走らせる。
(あと一人、足りない!)
西宮、透、翡翠の三人がいて、あの人がいないはずがない! これまでの全てが人目を引く作戦で、あの人は聖恩碑を左回りで来ているのかと思ったが、そうでもなさそうだ。もう大玉もないから、どこかに隠れてもいないはずだ。
ツツジは焦りながら目と思考を巡らす。が、見えないし分からない。あの人――
「カムイ~!」
ツツジが探し求める人の名前を、強制送還されつつある西宮が呼ぶ。その呼びかけに反応して、彼の手からこぼれた玉がうごめいたのに、ツツジは気づいた。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン、ニャ!」
玉から抜け出したのは、人形サイズのカムイちゃんだった。
西宮は姿を消しながら、最後に「古いわ」とだけツッコんだ。
〝縮小〟の札によって掌サイズの玉に隠れていたカムイちゃんは、その札をはがして元のサイズに戻る。
(今まで大きくした玉から続々人が出てきていたのを何度も見させられたせいで、普通の玉に小さくなった人が入っているという可能性が考えられませんでした……この私が、一年に思考を誘導させられた!?)
悔しさはひとまず頭の隅に追いやり、ツツジは他の人から譲られていた最後の一玉を振りかぶる。
だが、それでも事前に計画立てていた人と比べ、動作の初動が圧倒的に遅かった。
「最後に良い所をさらっていくのが主人公の特権だニャ!」
カムイちゃんが先にツツジに向かって玉を投げた。
ツツジは空中に浮かせた〝硬化〟の札で固めた空気を蹴って、玉を避けた。が、その間もカムイちゃんの自由落下は進み、
「ダ~ンクシュート! だニャ!」
カムイちゃんはカゴのヘリに手をかけ、ダイナミックに玉をカゴに叩きつけた。
『終了!』
フッチーの宣言が高らかに響いた。
『いや~、荒谷先生。予想に反して早い決着となりましたね』
『……………………』
『いやいやいや、解説者なのに解説放棄ってやめてくださいよ。そんなに最後を決めたのがカムイちゃんなのが嫌なんですか?』
『嫌だな。だが、まあこれでポイント数は一一〇ポイントと一一〇ポイント。明日が面白くなりそうだ』
『流れるように明日の話題にしましたね』
『注目するのは当然一丁目の花時計にたどり着けるかというのもあるが、『空知』のツツジをどうするかだな。昨日今日と結局彼女を避けただけで、倒してはいない。このままでは札教に勝利はない。よくて引き分けだ』
『なるほど。今年はどうやら樽勝の勝利が固いようですね。ですが、何かと目立つカムイちゃんも注目のポイントと言えましょう。それでは皆さん。明日最終日をお楽しみに!』
アナウンサー席の隣にある生徒会メンバーが集うテントで、利羅の哄笑が響く。
「は~はっはっはっはっはっ! 大将だけ用意して、えげつない軍師を用意してなかったのが敗因だったな!」
生徒会長の代わりに会長席に座るアルゼが、隣で勝ち誇っている利羅に苦々しい視線を送る。
「あの猫耳娘と低レベル男子がそれだとでも?」
「将来有望だろ?」
利羅は得意満面に笑いかける。負けてしまったアルゼは反論できず、悔しそうに口を閉じる。
「ポイントは並んだ。これで明日は始まりと同時にツツジ無双を見せられることもない」
「気づいていたか」
アルゼは悔しそうに腕を組む。
「えげつない軍師がいるみたいだからな、『網走』」
ポイントで勝っていれば、明日は開始と同時にツツジと人数の有利を駆使して、札教を全滅させる気だった。花を取れない場合は、二日目のポイントで勝者が決まる。大乱闘で盛り上がるだろうし、花を取りに行かなくても非難は少ないだろうと考えていた。
だが、ポイントが同じで花を取りに行かないといけないなら、全面対決で戦力を減らすのはいただけない。
アルゼは無言で立ち上がり、利羅を高圧的に見下ろす。
「明日は必ず勝つ。なぜならそちらの低レベル軍師は、明日の途中でいなくなるからさ。この世界から」
そう言って、去っていった。
「そう……かもな」
こればっかりは仕方ないと、利羅はため息をついた。
寮の一階にある談話するテーブルに、カムイちゃんがいないのに西宮、透、翡翠の三人が珍しく集まっている。
「西宮、おまえ本当に明日キューブが見つかったら地元世界に帰るつもりなのか?」
切り出された内容に、西宮はコーヒーを飲んでいた手を止めて目をパチクリとさせる。
「一応その予定だけど」
呼び出されて何の話かと思ったらそんなことかと、西宮はコーヒーを飲み直す。
「カムイちゃんを置いてですか?」
透の問いかけに当然のように頷いて、
「地元世界でも普通に応援はできるし、問題はないって。いい加減体力勝負のこの世界は疲れた」
と、肩を揉みながら首をコキコキと横に動かす。
その何気なく答える西宮の姿を見て、透と翡翠は腑に落ちない不満げな顔をして、
「軟弱な」
「西宮さんって、カムイちゃんに対してけっこう素っ気ないですよね。呼び捨てですし、普通にツッコミとかもしますし……私よりも年季がある初期からのカムラーなんですよね?」
「カムイを応援するファンだが、憧れてはいないからな」
ヒラヒラと手を動かしながら、西宮はコーヒーを飲み干す。
「素朴な疑問だが、なぜそれで男のくせにピンクのものを身につけるほどのファンになったのだ?」
以前から気になっていたことを、この際聞いてみた。今日聞いておかないと、ずっと聞くことが出来なくなるかもしれないから。
「この後用事があるんだけどな~」
と、小声で呟いたが、引きそうにない二人の顔を見て嘆息する。
「…………別に面白くもない話だぞ?」
そう前置きするが、二人はしっかりと頷いた。西宮は紙コップをゴミ箱に投げ捨てる。
「カムイのことを知ったのは、確か何かのラジオでだったな。春だった。半年でファンを三万人集めるとかって……俺は今までアイドルに興味を持ったことなんてなかったけど、北海道のアイドルだしな~。無理だろうけどその内の一人ぐらいにはなってやるかって、適当な感じだったな」
頭をかきながら、適当そうに思い出して話し出した。
「ファンになったからって何をするわけでもなく、勉強で忙しかったからすっかり忘れて、半年経ったのも気づかず、カムイが消えたのも気づかなかった」
『え~!』
西宮の発言に、透と翡翠はテーブルを叩いて立ち上がる。あまりの二人の勢いに、西宮はビクッとしておののいた。
「確かに初期からのカムラーだが、適当過ぎるだろ!」
「そうです! 何でもっと色々しなかったんですか!? 学校でビラをくばったり、ツイッターを駆使してカムイちゃんのことを拡散させたり!」
「半年経ったことに気づかなかったというのも最悪だ! それでよく――!」
そこまで言って二人とも気づいた。なぜそんな興味もない状態から、ここまで付き合いの良いカムラーになったのか?
話に続きがあると思い、椅子に座りなおす。ビクついた西宮は警戒するような半目で二人を見て、とりあえず居住まいを正す。
「……で、だ。次にカムイを思い出したのは、やっぱりラジオだった。何か声を募集しているとかで。ああ~、三万人も集まったんだって思って、ネットで調べたんだ。そしたらやっぱり集まってなくって、一度失踪していた。何で今活動しているのかって見たら、マネージャーHさんが骨を折ってカムイを応援している人や企業の想いを一つにしていたからだった」
西宮は両手を頭の後ろにやり、遠い目をしながら少し上を見上げる。
「俺はそれまで、結果が全てだと思っていた。目的が達成できなかったらそこで終わり。負け犬。敗北者。結果が出なければそれにかけた時間・努力全てが無意味になると思っていた」
そんな荒んだ考え方だったら目つきも悪くなるわと二人は思ったが、茶々を入れるのもはばかる雰囲気だったので黙っていた。
「だけど、カムイの…………無意味なはずの努力が実を結んでいるのを見て、俺の考え方は少し変わった。必死になって頑張った努力が実を結ぶとは限らない。その努力は無駄だったかもしれない。でも、決して無意味ではない。何がしかに繋がる可能性がある。そういうことも現実にあり得るんだって見せてもらった。だから俺は、新しい考え方を教えてもらったカムイに感謝している。カムイが頑張っている限りは応援しようと決めたんだ」
話し終わった西宮は、「こんな感じだが?」という視線を二人に向ける。
透と翡翠は何やら難しそうな顔で唸っている。
「……それで何で憧れていないんですか?」
「透もラジオを聞いていたら分かるだろ。頑張る姿勢は評価する」
「色んな意味で可愛いじゃないですか!」
「…………女子のそういう所はホントに理解できない」
熱狂的なカムラーである透とラジオのカムイちゃんの話をするのは危ないと思い、西宮は露骨に視線をさけた。
「カムイちゃんを応援するのだろ? ここに残って力になってやれ」
「もう俺の力なんて必要ないだろ。元々時計台消失事件を解決するために協力を求められただけだし、おまえらの方が力になれるって」
話し終わった西宮は席を立ち上がる。
「ま、明日一丁目に行けたとしても、簡単にキューブが見つかるかどうか分からないけどな。見つからなかったら帰れねえよ」
手を軽く振って、西宮は二人を残して寮の玄関へと向かう。
寮の人気のない自転車置き場に西宮はやってきて、すでにいた人に声をかける。
「で、『北斗』から聞いたけど、樽勝の副会長が俺に何の用だ?」
「キミは地元世界に帰りたいんだね。明日一丁目に行けたら、キューブが見つからなくても帰れる方法を教えてあげるよ」
アルゼはとても親切そうなニッコリ笑顔で、西宮に話し始めた。
某紅蓮ロボットアニメのラストが好きで、『玉入れ』では小さくなりながらもドンドン進んでいく勢いを表現したかったのですが、書いてみると中々スピード感を出すのが難しかったです。
次回更新は火曜日予定です。