北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』   作:カムラー

16 / 19
最終日、別れの日

 話し終えたアルゼは、軽く手を振って西宮に背中を向ける。

 

「ちょっと待て。どうしてそんなことを知っていて、なぜ俺に教える?」

 

 足を止めたアルゼは夕焼け空を見上げ、

 

「私も異世界から来てね、一時色々と地元世界に帰る方法を探していたのさ。だから知っている。なぜキミに教えたのかは、同じ異世界から来た者同士、帰りたい気持ちが分かるからさ」

 

「……なら、なぜおまえは帰っていない? 教えてくれた方法は本当に帰る方法なのか? 何かの罠じゃないのか」

 

「疑うのは当然だね。でも、キミ一人程度をわざわざ回りくどい罠にはめる必要はないさ」

 

 これ以上ないってくらいの説得力に、西宮は納得して押し黙り、もらったものをポケットの中に入れる。

 

「私が帰っていないのは、ここが気に入ったからさ」

 

 その言葉を最後に、アルゼは西宮の前から姿を消した。

 

 

「見張っていなくても、応援合戦遊戯会本戦中に、選手を傷つけるようなマネはしないさ」

 

 自転車置き場が覗ける木陰にいた『北斗』長谷川司に、アルゼは話しかけた。

 

 いきなり背後に現れたアルゼに驚いた様子もなく、司はゆっくりと振り返る。

 

「念には念を入れるのがプロだ。私が利羅会長から受けた依頼は他の襲撃者から西宮を守ることだ」

 

「それは応援合戦遊戯会が始まるまでじゃないのかな?」

 

「アフターサービスをすることで、リピーターは増えるものだ」

 

 アルゼは喉の奥で楽しそうに笑う。

 

「あの子のこと随分と気に入ったようだけど、明日にはいなくなるよ。今日の内にお別れを言っておいた方がいいじゃないのかな」

 

「それならそこまでの縁だったということだ」

 

 司の言葉を聞き、アルゼは苦笑して肩をすくめる。

 

「まあ、本当は彼が帰ろうが帰るまいが問題ないさ。間違いなく、明日は樽勝が勝つのだから」

 

 司は背中でアルゼが離れる気配を感じつつ、

 

「……『網走』勝ち誇るにはまだ早い。貴様は大きな誤算を見過ごしている」

 

 目では寮に戻る西宮の背中を見送る。

 

「それは、会長とカムイちゃん達が本番前に会ってしまったことだ」

 

 司は風を起こし、一瞬で姿を消した。

 

 

 最終日を飾るに相応しい日本晴れ。

 

『さあ~! ついに応援合戦遊戯会最終日を迎えました~! 今の所ポイントは五部と五部! 果たして決着はつくのか!? それとも引き分けか! どう思いますか、荒谷先生?』

 

『全体的な戦力を比較すれば、圧倒的に樽勝の有利だな。だが、花時計がある一丁目は想像を絶するモンスターがはびこる神魔の丁目。エンカウントをすればまず強制送還は免れない。だから、どんなアクシデントが起こるかわからない。札教にも勝つチャンスは十分あるな』

 

『なるほど。ということは、今日も最後まで目が離せそうにありませんね!』

 

 晴天の下、フッチーと荒谷の声が響き渡る。屋外ステージがある大通公園六丁目では、集まった観客が耳で彼らの声を聞きながら、フィールドにいる学生達が映し出されている大型モニターを注視している。

 

『それでは、これから今日のルールを説明いたします! 選手はフィールド四丁目からスタートし、一丁目にある花時計の花を一輪だけ取り、六丁目の屋外ステージにゴールしてください! 先にゴールした方が勝利です。放送で随時トップの情報をお伝えいたしますので、参考にしてください。なお、花は各学園で一輪だけお取りください。どちらの学園が花を獲得したかは放送でお伝えしますので、何本も取ってはいけません』

 

 スタート地点のフィールド四丁目でルールを聞きながらカムイちゃんは、

 

「西宮、随分と手ぶらだけどお土産とかは用意しなかったのかニャ? 白い恋人とか」

 

 隣に立つ今日地元世界に帰る予定のパートナーに尋ねる。

 

「向こうの札幌にもあるだろ。大体俺はこっちに着の身着のままきたんだ。手ぶらなのは当然だろ」

 

 と、西宮は首にかかっていたピンクの石のペンダントを外し、

 

「これ、返す。今度は透か翡翠にでも渡せ」

 

 カムイちゃんは西宮が差し出してくるペンダントを一瞥だけして、

 

「いいニャ。餞別にあげるニャ」

 

「いいのかよ? 北乃家に伝わる秘宝なんだろ?」

 

「戻った西宮がここでのことを夢で終わらせるかもしれないからニャ。物的証拠をあげるニャ」

 

「……そっか」

 

 簡素に答えて、西宮は首にかけ直す。

 

 その二人のやり取りを、透と翡翠は後ろから見ていた。邪魔をしないようにとの配慮だったが、拍子抜けするほどアッサリとしたものだった。

 

『それでは用意!』

 

 もう始まってしまうのかと、二人は名残惜しそうに目を閉じて次の言葉を待つ。

 

『スタート!』

 

 開始と同時に動き出す。ぼんやりとその場に留まっていれば、樽勝の学生にすぐやられるかもしれないからだ。

 

 透と翡翠はすぐに切り換え、先行するカムイちゃんと西宮を追った。

 

 周りに他の人の姿が見えなくなった所で、四人は一旦止まって円陣を作る。

 

「とりあえず、モンスターに見つからないように静かに行くぞ。相手もモンスターに見つかりたくないからけしかけてこないだろ」

 

 西宮の提案に、他の三人も頷く。

 

「そうだな。四丁目のモンスターまでくるともはや私達の手にも負えない」

 

「そう考えると、やっぱり利羅会長がいてくれないのは辛いですね。会長なら誰にも見つからずに花を取って帰ってきそうですから」

 

「そうだニャ~」

 

 なんせ利羅は、札教学園のほとんどの学生に追いかけられても逃げ切れる実力の持ち主なのだ。

 

 とは言え、いない戦力を望んでも仕方がない。

 

「色んなモンスターがいるだろうが、獣型のモンスターにまずは注意しよう。獣が集まりやすい水気がある場所は避けて行こう」

 

 そこで、西宮はカムイちゃんを見る。北海道の知識に関して言えば、カムイちゃんほど頼りになる人はいない。

 

「なら、南側を行った方がいいニャ。三丁目には真ん中に噴水があるし、二丁目には北側に壁泉があるからニャ」

 

「だが、一丁目の花時計は北側だ。その進路だと遠回りになるが……」

 

「まずは一丁目にたどり着くことが重要なのニャ」

 

 ウインクを一つして、カムイちゃんは決める。一丁目に行く。それは西宮が帰るかもしれないこと。それを重要だと言う。

 

 透と翡翠は黙って頷き、カムイちゃんの考えに従った。

 

 

 息を殺し、常に三人が周囲を警戒し、一人が休憩して進むという布陣を取り、四人は一度もモンスターと戦わずに三丁目を進んでいる。そして右側に『湖風の像』を確認した。

 

「もうすぐ二丁目だニャ」

 

 像を見て、大体の現在地を頭の中に浮かべたカムイちゃんが呟く。

 

「先頭は今どのあたりにいるんだ?」

 

『トップはツツジ会長のグループですね。もうすぐ一丁目に入ります』

 

 西宮の質問に答えるように、放送が響いてきた。

 

『やはり圧倒的だな。このまま独走もありえるな』

 

「マズイぞ。このままでは追いつけない」

 

 翡翠は焦った声を出すが、

 

「大丈夫だろ」

 

 西宮はのほほんと軽く言う。

 

「西宮にはもうそれほど興味がないことかもしれないがな、札教の学生として私達は負けたくはないのだ!」

 

「翡翠、声が大きいわ」

 

 モンスターを警戒して、透が翡翠に声を抑えるように、口元に人差し指を当ててジェスチャーする。

 

「別に適当なことを言ったわけじゃない。花を取りに全員が向かっているわけじゃないだろ?」

 

「そう言えば、ここに来るまで誰とも会っていませんね」

 

「遠回りしているせいなんじゃないかニャ?」

 

「違う。半分以上は五丁目あたりで花を持ってきた相手を待ち伏せしているんだ」

 

「ニャ!?」

 

 驚きの声を上げたカムイちゃんの口を、透と翡翠が塞いだ。

 

「去年のビデオで確認したが、この最終日は取りに行くグループと横取りするグループに分かれる。多くは危険を冒さない横取りするグループを選択する。だから、多少取るのに遅れをとっても、五丁目あたりで追いつける」

 

 復路のことなんて西宮にはもう関係ないかもしれないのに、ちゃんと調べてある。カムイちゃんと西宮のお互いの接し方。淡泊に見えるかもしれないけど、その奥には自分達以上の……初期のカムラーとアイドルの何かがあるように思えた。

 

「ちなみに、去年利羅会長は取ってきた花を仲間に託して、ツツジ会長を四丁目で足止めしていた」

 

「へ~」

 

「で、利羅会長が負けた」

 

「ニャ!?」

 

 カムイちゃんは驚いていたが、去年それを映像で見ていた透と翡翠は、そうだったと思い出した。

 

「だから、ツツジは本気で今の学生最強かもしれないから、戦わないことにこしたことはないと思うぞ。まあ、その稼いだ時間が長かったから、札教が勝てたみたいだけど」

 

 その時、ローテーションで先頭を警戒していた翡翠がみんなを止めた。

 

「静かに」

 

 カムイちゃん達を黙らせて、前を見るように手で示した。進路上に大きく横たわるドラゴンがいた。

 

 思わず叫びそうになったカムイちゃんと西宮の口を、透と翡翠が塞いだ。

 

(ドラゴン! ドラゴンにゃ!)

 

 カムイちゃんは小声で興奮を口にする。西宮は呆気に取られて声もない。もう二丁目に踏み入れたので、こんな伝説のモンスターも出て来るのだ。

 

(……寝ているようですね)

 

(心臓に悪い)

 

 透と翡翠の二人は耐性があるようで、動揺は少ない。

 

(やり過ごすぞ。絶対大きな物音を立てるな)

 

 翡翠に言われるまでもなかったが、カムイちゃんと西宮は何度も大きく頷いた。

 

 抜き足差し足忍び足でドラゴンの横を通過していく。近くを通れば、熱いと感じるほどの体熱と、震えが来るような深く大きな呼吸音が感じられた。

 

 間近で輝く緑の鱗を見ると、どんな攻撃でも弾きそうだった。

 

 バキッと静かな空間に異音が響いた。誤って翡翠が小枝を踏み折ってしまったのだ。

 

 四人が慌ててドラゴンの様子を確認すると、変わらず寝息を立てていた。

 

 安堵のため息を漏らし、翡翠は無言で合掌して頭を下げる。その時緊張が緩和されたせいか、カムイちゃんが顔をしかめて大口を開けた。

 

「は……はっ……」という予備動作からクシャミだと察した透は、考えるよりも早くカムイちゃんの鼻をつまんだ。

 

 クシャミが治まったカムイちゃんは、目で透に合図と感謝を送る。

 

 カムイちゃんの鼻から手を放した透は、ドキドキと高揚する胸を押さえつつ、更にカムラーとして一歩近づけた感動を無言で噛みしめた。

 

 と、ドラゴンはもぞっと動き、寝返りをうった。押し潰されそうになった危機を、西宮と翡翠が札で強化し、カムイちゃんと透を抱きかかえて避けた。

 

 だが、まだピンチは続いていた。寝返りの衝撃で巻き上がった石がドラゴンに落ちてきていた。

 

 翡翠は棍の先に西宮の襟を引っかけ、すぐさま〝伸縮〟の札で棍を伸ばす。

 

 ドラゴンの眉間近くで、西宮は石を掴み取った。

 

 全ての危機をクリアした四人は、ホッと一息ついた。

 

『今、ツツジ会長のグループが一丁目に入りましたぁ~!』

 

 ハツラツとしたセリフによって、バチッと、西宮の足元でドラゴンの目が見開かれた。

 

『フッチー! てめぇ~!』

 

 思わず四人が口汚くフッチーを罵った。




次回更新は火曜日予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。