北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』   作:カムラー

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前回ちょっと短めだったので、今回は少し長めです。


帰還

 すぐさま翡翠は棍を縮めて西宮を戻した。

 

 そして、ドラゴンは寝返りをうち、四肢の鋭い爪で地面を掴み、四つん這いで起き上がる。細い瞳孔の眼は、眠りの邪魔をした四人をしっかりと映している。

 

「ど――」

 

 西宮が「どうする?」と聞く間もなく、

 

 咆哮と共にドラゴンの口から炎息吹(ブレス)が吐かれた。

 

「透!」

 

「分かってるわ!」

 

 翡翠は腕を前に突き出して棍を横に持ち、そこに〝硬化〟の札を数枚はり、透は〝氷結〟の札を投げ、翡翠が固めた空気にはりつける。

 

 直後に襲ってきた炎息吹の衝撃は、二人の努力を嘲笑うかのように圧倒した。だが、圧倒されながらも耐えてできたわずかな時間で、

 

「切り札その二! 繋力発動! ユナイテッドフロント!」

 

「大・氷激牙貫(ひょうげきがかん)!」

 

 カムイちゃんは淡い光で繋がった二枚の〝氷結〟の札を西宮の腕にはりつけ、〝穿つ〟の札を腕にはった彼は前に浮かした〝拡大〟の札を拳で打った。

 

 大きな雹を伴った氷の拳は炎息吹を貫き、大海を割るかのように裂いた。だが、その拳も炎息吹を何とかするのに精一杯で、ドラゴンに届くことはなかった。

 

 初撃を何とかやり過ごした四人は肩で息をつき、荒い息を整えた。その中でも、西宮は無理が祟ったのか右腕を痛そうに押さえていた。

 

「無茶をするな、西宮」

 

 カムイちゃんの特性によってファンと使える、武身強化(クロエゾ)と森羅万象(アカエゾ)の同時使用は上級者向けの技だ。森羅万象(アカエゾ)で怪我をしないよう武身強化(クロエゾ)で体を防護するのだが、西宮のレベルではまだ繋力を完璧に防ぎきることはできない。

 

「カムイがこの大会のためにやりたいって言ってきかなかったんだよ。一日一回が限度だ」

 

「トドメの必殺技にしようと思っていたんだけどニャ。こんな所で使うとは思っていなかったニャ」

 

「それじゃ……もう次の攻撃は……」

 

 不安さを顔に滲ませる透にカムイちゃんは笑いかけ、

 

「大丈夫、大丈夫。まだ左腕があるニャ」

 

「鬼か!」

 

 ポンッと気軽に肩に手を置くカムイちゃんに、西宮は左手でツッコミチョップをする。

 

 ドラゴンは炎息吹を無傷でやり過ごされ、四人を少し慎重そうに窺っている。

 

「私達でドラゴンを倒すのは無理だし、四人で一斉に逃げようとしたら背中から今のを吐かれておしまいだな」

 

 翡翠の的確な分析に重たくなりそうな雰囲気を、

 

「こんな所で人知れずゲームオーバーなんて嫌だニャ!」

 

 カムイちゃんが吹き飛ばした。

 

『ちゃんと見ているから安心してリタイアしろ』

 

 と言う荒谷の放送に、カムイちゃんは頭の上にぐしゃぐしゃの線を浮かべ、苦いものを噛んだような顔をする。

 

「賢いやり方をするなら、一人か二人がドラゴンを引きつけ、その間に残りを逃がす。これしかないか」

 

 西宮の話を聞いた瞬間、棍を振りかぶった翡翠が飛び出した。

 

「ならば、ここは私が引き受ける! さっさと行け!」

 

 近づいてきた翡翠を払うようにドラゴンは右前脚を振ったが、翡翠は跳躍して避け、その脚に棍を全力で振り下ろした。

 

 が、固い鱗に弾かれて逆に自分の手がしびれた。

 

 跳んだ翡翠に向けてまた炎息吹を吐こうと口が開かれたが、その口中に雷撃が飛び込んできて、ドラゴンは少し苦しそうに口を閉じた。

 

「透!?」

 

「一人じゃ時間稼ぎにもなりそうにないわね。カムイちゃんと西宮さんは行ってください! お二人は一丁目に行かないといけないんですから!」

 

「……ああ、そうだな。二人で行け。後で一人になるカムイちゃんには悪いが、他の札教の人と合流でもしてくれ」

 

 しんがりを引き受ける二人は強張った笑みを浮かべている。怖くないわけがない。ドラゴンの体長だけでも自分達の何倍もある上、初撃の圧倒的な威力。震えを隠すように棍を強く握り、札を何枚も手に持つ。

 

「どうする、カムイ」

 

「私がファンをないがしろにして賢いやり方を取ると思っているのかニャ!」

 

 分かっていた答えに西宮は笑い、

 

「だよな!」

 

 左手に札を持つ。

 

「カムイちゃん!」

 

「西宮!」

 

 激昂する二人を無視して自分勝手に二人は、

 

「うるさいニャ! なら二人は、私の仕事が詰まっているからサインをもらえる直前でサイン会を終わりますって言われて、納得するのかニャ!?」

 

「そんな夢物語の仕事量とサイン会を例に出されても、二人とも答えにくいだろ」

 

「夢を捨てたらいけないニャ!」

 

 そんなやり取りをしている所に、ドラゴンの尻尾が振り回されてきた。

 

 カムイちゃんと西宮は範囲外だったが、透と翡翠は体を地面に投げ出すように伏せた。頭の上を通過した時に起きた強風で吹き飛ばされそうになるのを、草を掴んで耐える。

 

「で、作戦はあるかニャ、西宮?」

 

「弱らせて逃げる。それしかないだろ。あのドラゴンはトカゲに近く見えるから、おそらく変温動物で寒さに弱いと思う。ただし、北海道に来てるなら何かしら防寒機能が備わっているかもしれない。生半可な冷気じゃ動きは鈍くならないだろう」

 

 それを聞いて、カムイちゃんはピカッと頭上で豆電球を光らせる。

 

「なら、四人いることだし、試してみるかニャ!」

 

 ニヤッと笑うカムイちゃんを見た彼は嫌な予感がして堪らなかった。

 

「ドラゴンを中心に透は北東! 翡翠は南東! 西宮は南西! 私は北西に立つニャ!」

 

 カムイちゃんの指示の意図は分からなかったが、三人は急いで所定の場所に移動する。大通公園は東西に伸びているので、大体の方角は簡単に分かる。

 

 西宮が南西についた時、ちょうど尻尾の攻撃がきた。

 

「ドラゴンが東向けば、尾は西にってか!」

 

 全体強化では高さが足りないと思い、右足だけ強化して何とか跳び越した。

 

 全員が所定の位置につき、カムイちゃんの合図で全員が〝氷結〟の札を前に突き出す。

 

「オホーツク海に日本海、太平洋に津軽海峡! 四海に囲まれし北の大地に風雪よ吹け! クコツホ!」

 

 水と雪が混じり合うミゾレを伴った竜巻が、中心にいるドラゴンを包み込んだ。

 

 ドラゴンの濡れて冷えた体から風雪が驚速に体温を奪っていく。

 

 ドラゴンは苦し紛れに尻尾や脚を振りまわすが、視界が風雨雪に阻まれて見当違いの所に落ちる。そして、その動きが目に見えて鈍くなった。

 

「よし、それじゃ逃げるニャ~!」

 

 カムイちゃんの号令一番、四人は一丁目に向かって走り出した。

 

 弱まった竜巻の中から、動きが鈍くなったドラゴンが這い出てきたが、そこにはもう四人の姿形もなかった。

 

 

 一丁目まで走りきった四人は、テレビ塔の前で膝に手をついて息を整えた。

 

「あんなこともできるとはな」

 

 初めてカムイちゃんと繋力を使った翡翠は、嬉しげに頬を緩ませている。

 

「ホントにカムイちゃんはすごいですね」

 

「にゃはははは、まあニャ、まあニャ」

 

 ピンチを四人で潜り抜けた手応えに興奮している三人に背中を向けたまま、

 

「そんじゃ後は頑張れよ」

 

 西宮は軽く手を振ってテレビ塔の方に進んだ。

 

「うん。西宮も気を付けて帰るんだぞニャ」

 

 まるで明日また会えるような気軽さで、カムイちゃんは手を振り返す。

 

「本当に行くのか?」

 

 最後の確認に、西宮は無言で頷いた。

 

「今までありがとうございました」

 

「おう。透も色々とバレないように気をつけろよ」

 

 四人は努めてシミジミと暗くならないよう、簡単に短く言葉をかわした。

 

 そして、西宮は結局振り向かずにテレビ塔に駆けて行った。

 

『今、樽勝のツツジ会長が花をゲットしました~! 札教の一番進んでいるグループも、少し遅れてますが花時計に近づいています!』

 

「さて、行くかニャ!」

 

 放送を聞いて、三人になったカムイちゃんは北に向かって走り出した。

 

 

 テレビ塔の真下に来た西宮は、ポケットの中からアルゼから渡された札を取り出す。この札はキューブを制御する札で、そう簡単に手に入るものではない。

 

 この札をテレビ塔の真下から鉄骨にはりつければいいらしい。

 

「投げ飛ばすって、けっこう距離があるんだけど」

 

 あまり札を投げ飛ばす練習をしていなかった西宮は少し不安を感じつつ、札をみつめる。

 

 札を見たまま少し考え込んだが、腰を落として構える。

 

「じゃあな」

 

 躊躇なく札を鉄骨に向けて投げ飛ばした。

 

 

 走っていた三人は足元から小さな揺れを感じた後、背後の眩しい光を感じて振り返った。

 

 テレビ塔の天辺から上空の雲を吹き飛ばした光の残滓が消えゆく所だった。

 

「本当に帰ったんだな」

 

 どこかでは何だかんだ文句を言いつつ、西宮がいつも通りカムイちゃんを助けに来ると思っていた。だが……。

 

「感慨にふけってないで、早く――」

 

「あら、本当に三人になったんですのね」

 

 その声に慌てて前を向きなおせば、そこにツツジと七名ほどの樽勝生徒がいた。

 

「ツツジ!」

 

 カムイちゃんが構えようとしたのを、ツツジが掌を向けて止める。

 

「国際交流ゾーンで騒ぐのはやめましょう。あなた達は先程ここに出現するモンスターの恐ろしさを体験したのでしょ」

 

 ドラゴンに集中していたので気づかなかったが、どうやら先程の対ドラゴン戦は実況されていたらしい。

 

「もし私達を止めたいのでしたら、ゴール手前の五丁目で相手をいたしますわ。ですが、のんびりと相手はしません。何より花を持ってゴールすることを一番に目指します。去年はそれで失敗しましたから」

 

 西宮が言っていた去年の話では、ツツジは利羅と戦っていたばかりに勝利を逃していた。

 

「私達を追ってきてもいいですがあなた達の学園は今、ちょっとピンチですわよ。この情報を信じるかどうかは、お任せいたします」

 

 ツツジは微笑んで会釈し、六丁目に向けて駆けて行った。

 

「どうする、カムイちゃん」

 

 ツツジを追いかけるか、花時計の方へ行くか。

 

「…………どうしようかニャ~」

 

 唸って腕を組んでいるカムイちゃんを見て、透がちょっと遠慮がちに、

 

「え、え~っと、さっきうちの学園も花時計に近づいているっていう放送があってから、まだ花を取ったという放送はされていません。もしかしたら本当にピンチなのかも……」

 

 自信なさげに自分の考えを言った。ここにはもう気を利かせて話を促してくれる人がいない。

 

「なるほどニャ。よし、行ってみるニャ! もし情報がウソでも、合流すればいいだけだしニャ」

 

 透の意見を参考にし、カムイちゃん達は再び北に向けて走っていく。

 

 

 花時計に近づくにつれ、怒号と悲鳴が聞こえてきたカムイちゃん達は、そこでの惨状に目を見開く。

 

「あれは!」

 

「翼に毒を持つ巨鳥だ!」

 

 上空を位置取る暗緑色の巨鳥は翼を羽ばたかせ、不気味な鱗粉を飛ばしている。

 

 倒れ伏す数人の学生は顔面蒼白で、しばらくして強制送還されている。

 

「ちょうどよかった、三人はまだ札に余裕があるか?」

 

 巨鳥と戦っていた学生の一人が、やってきた三人を見て尋ねる。

 

 用意していた札はこの三日でかなり消費したが、まだ心配になる量ではない。

 

 頷く三人を見て、巨鳥を相手にしていた学生達はわずかな希望に顔を輝かせる。

 

「なら、花を取ってゴールにむかえ。俺達はもう札が切れる」

 

 常に風を起こす札を使っていなければ、すぐにこの辺りは巨鳥が出す毒で覆われてしまう。そのため、札の消費は激しいものなのだろう。

 

 花時計まではもう一〇メートルほど。強化した脚力ならば一足飛びでたどり着け、戻ってこれる。こういう危険なことをするのは、大概カムイちゃんに強制される西宮なのだが、彼はもういない。

 

「私が取ってくる。二人はすぐ離脱できるよう準備をしておいてくれ」

 

 翡翠は気合いを入れるようにポニーテイルを一度解いて、くくり直す。三人の中で武身強化(クロエゾ)が得意なのは翡翠だけ。当然の選択肢なのだが、なぜか三人は違和感を覚えた。

 

 だが、のんびりとその感覚を追及している場合ではない。防ぎ続けるのにも限界がある。

 

「今だ!」

 

 巨鳥が羽を休め、大きく旋回した時を狙って声がかかる。

 

 札で強化した足で花時計に行った翡翠は、すぐさま花を一輪掴み取る。

 

『今、札教も札を取りましたぁ~! 『石狩』の称号を持つ南川翡翠が取ったぁ!』

 

『動きの素早さは言うに及ばず、加速状態の身体制御も正確。さすがは一年でありながら一丁目にまで来ただけはある』

 

『本当に異世界人じゃなければ素直に褒めますね』

 

 翡翠の頭上に降ってきた毒の鱗粉を、札教の学生が吹き飛ばしてくれる。

 

 戻ってきた翡翠は、手にある黄色の花をカムイちゃんに見せ、

 

「よし、急ぐニャ! 絶対追いついて最終決戦ニャ!」

 

 三人で西へ向かって走り出した。

 

 

 復路もモンスターに警戒しないといけないが、来る時よりは大胆に動ける。進むことを考えず逃げることに集中できるのが大きい。それにモンスターに出会っても、花を持つカムイちゃん達の代わりに別の札教の学生が引き受けて逃がしてくれる。

 

 その調子で国際交流ゾーンの一・二丁目を抜け、オアシスの水と光のゾーンの三丁目を通過して四丁目に入った。

 

『先行するツツジグループは五丁目に入りました! カムイちゃん達はまるまる一丁目遅れている!』

 

『ここで人数の多い樽勝が有利に働く。花を持つ者がゴールをすれば勝利。一人一殺の心構えでいけば、下手をすれば札教は大した足止めもできず押し切られるかもしれないな』

 

『さあ、満を持して待ち構えていた札教の学生が襲い掛かる! しかし、同じく待ち構えていた樽勝の学生が迎え撃つ! 大混戦の中、数人を引きつれてツツジは無人の野を行くがごとく進むぅ~!』

 

 聞こえてくる放送で、もうほとんど猶予が無いことを知る。

 

「うニャ~! このままだったら間に合わないニャ~!」

 

「しかし」

 

 三人の行く手を阻むように、先程ツツジと一緒にいた三人が前に立っていた。

 

「ツツジ会長、ちゃんと私達を警戒していたんですね。認めてくれるのは嬉しいんですけど、ちょっと複雑な気持ちです」

 

 相対するために走るスピードを緩めようとしていたカムイちゃん達の脇を、すごいスピードで駆けてきた札教の学生が追い抜き、待ち構えていた三人に先制攻撃をかます。

 

「ここは私達が引き受けます!」

 

「急いで!」

 

 その二人は『玉入れ』の時に西宮の作戦に参加した仲間だった。カムイちゃん達は追い越す時にお礼を言って、さらに前へ進む。

 

『さぁ~! 止まらない止まらない! ツツジが止まらない! 引きつれた仲間が全部いなくなっても、空を飛ぶ彼女を止めることは誰にもできない! これが『空知』の実力なのかぁ~!』

 

『これはもう、勝負はついたか』

 

 中立ではあるが、やはりどこか残念そうに荒谷は呟いた。

 

『ついに、六丁目に入ったぁ~! ゴールの屋外ステージまで、後約五〇〇メートル! 最早あってないようなも――ん?』

 

『なぜあいつがあそこにいる!?』

 

 放送を耳だけで聞いているカムイちゃん達には、何が起きているか正確に分からないが、内容からして誰か意外な人物がツツジの進行を止めたようだ。

 

「誰だニャ? 随分とおいしいことになっているニャ」

 

「もしかして、利羅会長でしょうか?」

 

「いや、会長は予選を通過していない。さすがのあの人もそのルールは守るだろ」

 

 まあ、利羅以外にも実力のある三年生や二年生が参加しているから、その中の誰かだろうと思っていたら、

 

「え?」

 

「か、カムイちゃん、その……あの……」

 

 翡翠と透がカムイちゃんを見て、目を丸くする。カムイちゃんは走りながら器用に小首を傾げる。

 

「どうしたニャ?」

 

 尋ねると、透はアワアワと口を動かすだけで言葉を発せられないでいたが、翡翠は、

 

「ペンダント!」

 

 単語だけは言えた。カムイちゃんが胸元のペンダントに視線を落とすと、細かな粒子が今向かっている方へ向かって流れている。

 

「まさかニャ!?」

 

 

 ツツジは思わず足を止めてしまった。目の前の彼を放っておいてゴールをしてもよかったのだが、興味が刺激されてしまったのだ。

 

「何でこんな所にいるのですか、あなたは。地元世界に帰ったのでは? それとも、仲間を残して途中で放り出すのが心苦しくって、残ったのですか?」

 

 彼は鼻で笑って手をヒラヒラと動かす。

 

「あいつらは別に俺がいなくても平気だろ。俺は敵にいらない評価をされても、あいつらに評価されたことなんてあまりねえし、別に帰るのに気兼ねすることはなかったよ」

 

「なら、なぜ望まれてもいないのに、まだここにいるのですか?」

 

「ファンなんて相手が好きでなるものだろ。アイドルに望まれたからファンになるファンなんて意味が分かんねえよ。俺はただ一ファンとして、カムイを応援するだけだ」

 

 そう言ってポケットから手を抜いて――西宮! はたくさんの札を構えてツツジと相対した。

 

「つまりはあなた一人で足止めして、カムイちゃんに最後のチャンスを与えると?」

 

「五分ぐらい今後のサッポロの経済について話をしないか? 有意義なものになるぞ」

 

「残念ですが、あからさまな時間稼ぎにはもう乗りません」

 

 ツツジは足元の地面を爆発させて、滑るように一足飛びで西宮に肉迫する。彼は慌てて手の中の札を全部投げて、まき散らした。

 

 この中のどれかが待機になっていると思ったツツジは、無理をせず回避した。

 

 間合いから一歩離れた位置で、ツツジは西宮を見る。彼の魂胆は簡単だ。カムイちゃんが来るまでの時間稼ぎ。

 

 西宮を放ってゴールに向かうのも手だが、会長であるツツジが最後の局面で挑んでくる一年生を無視するのはあまり印象がいいものではない。

 

 倒して進めば済む話。それに彼自身は初心者に毛が生えたようなもの。数秒で終わる。

 

 西宮はしゃがんでツツジの出方を待っている。時間を稼ごうとする彼から攻めてくることはない。問題なのは、彼の周囲に散らばる札。あの中の最大二枚が罠として待ち構えている。

 

(攻めにくくしようと考えたのでしょうが、それは使い古されている手なのですよ)

 

 薄く笑ったツツジは、手元で札を発動させて強めの風を起こした。すると、西宮の周囲にある札が飛び、二枚の札だけが飛ばされずに地面に残った。

 

 どちらの種類の札でも、発動待機すれば多少は張力が働く。

 

 見極めたツツジは「しまった!」と顔をしかめて札を回収しようとした西宮に肉迫する。彼女が手に持つの〝電撃〟の札を直接はっておしまいだ。

 

 ――放たれた炎を受け、後退したツツジは髪を少し焦がして西宮を睨む。

 

「いつの間に三枚目が使えるほどレベルアップしていたのですか」

 

「なわけないだろ」

 

 と言って、西宮は地面にはりついていた札をはがして、ツツジに裏面を見せる。

 

「糊ではっていただけだ。張力の有無で見極めるだろうと思ったし、俺に札を回収される前に勝負をつけるために真っ直ぐ最短コースで向かってくるはずだから、速さに目が追いつけなくてもカウンターはできるかなって。後は、急いでいる上に実力差はハッキリしている。それほど俺に警戒することもないだろ」

 

 時間稼ぎの解説を聞きながら、ツツジは瞠目していた。札を扱い始めて数か月の素人とは思えない作戦だった。札の対人戦は二手・三手先を読むのが基本。

 

(彼は特殊性を持っていなくても、先天的に札の対人戦に向いているのですね)

 

 細かい所によく気づく。その特徴を持っているからこそ、西宮は相手のことを察することができるのだ。

 

「お見事ですわ。ですが、同じ手は通じません」

 

「でしょうね。だから俺も、カムイになぞって切り札を使わせてもらう」

 

 西宮が口笛を吹いた。その次の瞬間、後ろから気配を察したツツジはすぐに横に避けた。

 

 伏兵か!? と考えて札を構えたツツジは、襲来してきた相手を見てビシッと固まる。

 

「前回の敵がモンスターを操る札を持っててさ。使えそうだと思ってどさくさに紛れて一枚パク――拾っておいたんだ」

 

 途中で言葉を言いなおした西宮は、足元で喉を鳴らす四足獣の頭をなでる。そのモンスターの額には一枚の札がはられていた。

 

「六丁目にいるって資料で知っていたから、適当な場所で獣香を使って招きよせたんだ。意外と可愛いだろ? ネコ科のモンスターシャークキャット」

 

 説明しよう! シャークキャットとは、背中にあるサメのような背びれが特徴で、その背びれは切れ味抜群なのだ。

 

 表情も体も強張らせていたツツジは、無言で大きく飛びすさった。

 

「俺達が弱点を話している時にレベルで考えれば逃げる必要のないモンスターから逃げていた会長。ブランクがあるからって誤魔化していたけど、怪しすぎる。様式美に賭けてみたけど本当に弱点みたいだな、ネコ科のモンスターが」




次回更新は火曜日予定です。
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