北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』 作:カムラー
全ての競技が終わり、大通公園六丁目では初日と同じく両校の応援団が向かい合っている。ただ、初日とは大きな違いがあった。片方が勝ち誇り、片方が悔しさに歯噛みしている。
勝ち誇っている団長の哄笑が、晴れ渡る空に響き渡る。
「は~っはっはっはっはっはっ! 今年は我が樽勝の勝ちに終わったな!」
「く~……会長を出してくるなんて卑怯だぞ!」
「いや、そっちも初日に出ていただろ」
最後の最後、カムイちゃんとツツジの勝負は両者共倒れの引き分けかと思いきや、攻撃の直撃を避けたツツジは強制送還されることはなかった。だが墜落のダメージは大きく、少しでも気を抜けば強制送還されるギリギリの状態で歩を進め、ゴールしたのだ。
その執念の姿に圧倒され、トドメをさすことが出来たはずの透と翡翠も手が出せず、結果樽勝が勝ったのだ。
荒谷が勝因を語った……一言「貫録勝ち」。
紛れもない樽勝の勝利に、会場は万雷の拍手で満ちた。
「まあ、何にしてもだ、今年も良い応援合戦遊戯会だった!」
「ああ! この調子でともに歴史を紡いでいこうではないか! 来年は負けん!」
「来年も勝あぁつ!!」
最後の寮歌交換では現役学生に加え、観客も交えて肩を組んで歌い、お互いに健闘をたたえ合った。
賑やかな会場から離れた五丁目に来た西宮は、呼び出した人物を見つけて声をかける。
「人気のない所に呼び出して、俺を闇討ちか?」
「ははは、応援合戦遊戯会が終わってそんなことはしないさ。それに、やるつもりなら私の名前を出して呼び出したりしないさ」
と、事も無げに「証拠を残すようなヘマはしないさ」と言外に言うのは、アルゼだ。
「最後の最後まで盛り上げてもらって感謝しているよ。特に、こちらの勝利で終わったのがいい」
「ああ~そうかい」
札教の勝利には左程こだわっていなかった西宮でも、目の前で満面笑顔の勝ち誇りを見せられると、少し渋い顔になる。
「そんなに怒るほど負けたのが悔しいのかい?」
「怒ってねえよ!」
他意なく目つきの悪さを言われ、西宮はストレートなツッコミをした。
「で、なぜ地元世界に帰らなかったのかな?」
それが本題かと、西宮は重たいため息をつきながら前髪をかいた。
「別に……気分だよ」
「私もサッポロが気に入って留まっているから、キミが帰らない選択をしても不思議ではないよ。でも、キミがなぜあそこまでカムイちゃんに肩入れするのか分からない。新しい考え方を教えてもらったとは聞くが、少々腑に落ちない」
なぜおまえがそれを知っている! この世界にプライバシーはないのか! とツッコミを入れたかったが、入手方法などをアルゼに淡々と教えられたら逆に怖くなりそうだったからグッと呑みこみ、
「……去年、俺は高校受験でかな~り勉強に追われていて、ふとした瞬間に死んだら楽になるんじゃね? って所まで追い詰められていた」
言い始めたらアルゼが引いた様相を見せたので、西宮は「おまえが聞いてきたんだろ」という視線で睨む。
そうすると、アルゼは誤魔化すようにコホンと咳払いを一つし、
「かなり病んでいたのだな」
「で、大概そんな風に鬱になるのは疲れが出る週末なわけで、そんな時に勉強しながら聞いているラジオから、底抜けに明るく底意地が悪そうな売れることに貪欲なアイドルの声が聞こえてくるわけよ」
「ふむ」
その次を言うのに西宮は少し躊躇したようで、長い間を取った。
「…………まあ、いい気分転換で、大げさに言ってしまえば……命の洗濯をしてもらったってことで、助けてもらってたんだ。何回も助けてもらったんだから、力になれることがあれば力になってやろうかな~って」
「求められていなくてもか?」
「アイドルのファンなんて、求められてなるようなものでもないだろ」
話を聞き終り、合点がいったとアルゼは一つ頷く。
「彼女には不思議な魅力があるね。今回は敵ながらも、最後の戦いは私も見入っていたよ。どうやら私も彼女のファンになったようだ」
「そりゃよかった。カムイも樽勝の評判を気にして、正攻法で戦い続けた甲斐があるってもんだ」
「キミの戦い方も中々面白かったよ。同タイプの先輩として忌憚なく言わせてもらうと、見所がある。しかし、最強のトラパーである『網走』を相手に気を緩め過ぎだ」
西宮が疑問を口にする前に、アルゼは指を鳴らす。
すると、集音マイクを持った利羅とカメラをかついだ『北斗』長谷川が、意地悪そうな笑顔で布を取り払って現れた。西宮の背後にいて、利羅の札付きの布でカモフラージュされていたとはいえ、けっこう近距離にいたのに西宮は気づけなかった。
「はい! 今回のMVPのインタビューでしたぁ!」
利羅のコメントで、今までの会話が多くの人に聞かれたことに気づいた西宮は、みるみる顔を真っ赤にして、
「のあああああ! てめぇ、北斗ぉ~!」
長谷川に掴みかかろうとしたが、さすがは称号持ち。俊敏な動きで姿を消した。
「は~っはっはっはっはっは、私はプロだと言ったはずだ! 私に狙われて生き抜いた者はいない!」
「社会的に人を抹殺しようとする暗殺者なんて、陰険以外の何者でもないわぁ!」
やっぱり先程のやり取りは放送されていたらしく、その証拠にニヤニヤと意地悪そうに笑うカムイちゃん達が六丁目から小走りでやってきた。もうその顔が、からかいたくってしょうがない。と雄弁に語っている。
西宮は振り向かずにダッと逃げ出したが、すぐさまカムイちゃんに下敷きにされる。
「ちくしょう~! 札も持ってないのに何でそんなに素早いんだよ!」
「それはもちろん、私が選ばれし者だからニャ~。それより西宮、男のツンデレは気持ち悪いニャ~」
「別にツンデレってはねえぇよ! 俺はただ、借りを返そうと――」
荒々しく寝ながら主張しようとする西宮の肩に、翡翠がポンッと手を置き、
「わかったわかった」
「い~や! その言い方は絶対に分かっていない!」
西宮の前に立った透は意気込むように両手を握りこみ、目の中と背後に炎のオーラを燃え上がらせ、
「西宮さん、私はまだ駆け出しで語れる過去なんてありませんけど、私にはこれからがありますから!」
「なに対抗意識を燃やしているんだ、おまえはぁ~!」
が~が~とわめき散らす一年生四人を、少し離れた場所から利羅とツツジとアルゼが微笑ましく眺めている。
「まったく、有望な一年生達ですわね」
少し羨ましそうに、ツツジが利羅を見て言う。
「まだまだだが、カムイちゃんを中心にまとまっているからな」
アルゼはコメントを控え、軽く手を振ってその場を離れた。
「ぜ~っったいに帰る! 明日帰る! もう帰る!」
と西宮はわめき散らすが、三人が見下ろす生暖かい視線は変わることがない。
「まったまた~ニャ」
「恥ずかしがることもないだろう。それに単独では帰れないだろ」
「西宮さんって、本当にカムラーらしいカムラーですね」
「やかましいぃわぁ~!」
西宮の雄叫びが響く中、カムイちゃん、透、翡翠は楽しそうな笑顔でピースサインを見せた。
終わった。まさかこれほど長くなるとは思っていませんでした。前回フィールド大通公園を出したのに、いまいち舞台にできなかったなぁっと思って書き出したら、やたらに長くなってしまった。
とにもかくにも、これで終わりです。いちカムラーとして、カムイちゃんの魅力が少しでも伝わり、カムイちゃんという存在が少しでも人に知られたのなら嬉しいです。
それでは皆さん、したっけニャ。