北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』   作:カムラー

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応援合戦遊戯会について

 放課後、学園内の休憩所にカムイちゃん達四人は集まっている。

 

「誰が悪い」

 

 西宮の切り出しに、カムイちゃんはピンッと人差し指を立てた。

 

「おそらくだがニャ~、あいつの頭が悪いニャ」

 

「うまい」

 

「さすがはカムイちゃん。ザンギ一つです」

 

「黙れカムイびいき達!」

 

 西宮はテーブルを荒々しく叩いた後、運命を呪うかのような落ち込んだ声で、

 

「何で俺がカムイと間違われて暗殺者に狙われないといけないんだよ」

 

「羨ましいです。カムイちゃんと間違われるなんて」

 

「できることなら喜んでこの立場を進呈するわ~」

 

 透の言葉で何か力が抜けた西宮は、グッタリとテーブルにもたれかかるように突っ伏した。

 

「悪いことばかりでもないニャ。西宮だと間違われているおかげで私は狙われないんだしニャ」

 

「悪いことだらけだわ!」

 

 対面に座るカムイちゃんに、西宮の脳天チョップが飛んだ。

 

「そんな事より、副会長の話から察するに、最近誰かに見られている視線は私達を応援合戦遊戯会に出場させないよう画策する人達だな」

 

 西宮のことは「そんな事」で終わり、翡翠が話題を次に持っていく。再び話を戻そうとはしなかったが、西宮はブスッとふくれっ面で腕を組む。

 

「う~ん、色々と情報が少ないニャ。こんな時は……」

 

 カムイちゃんはスマホを取り出し、どこぞに電話を掛ける。そしてしばらくして、

 

「やあ、ボクをお呼びとは何か用かい?」

 

 ハンチング帽をかぶった女生徒、朝日 繭が現れた。

 

 透は彼女に苦手意識を持っているのか、口をつぐんで気配を消し、翡翠は繭を見た後でカムイちゃんに視線を向ける。

 

「情報と言えば新聞部の繭パイセンだろニャ」

 

「なるほど」

 

 カムイちゃんの説明に納得し、頷く。

 

 へそを曲げていた西宮だが、ちゃんと顔を合わせて目礼はした。その時、笑顔の繭の顔に、どこか疲れがあるのが見て取れた。

 

「何か、疲れてます?」

 

 その西宮の問いに、繭はビックリしたような顔を見せた。

 

「よく分かったね。隠してたつもりなんだけど……」

 

 繭は椅子を引っ張ってきて、四人と同じテーブルにつく。

 

「ちょっと最近新聞部は忙しくってね。情報収集や記事とかで……ローテーション組んでるんだけど、さすがによさこいソーラン祭りと応援合戦遊戯会が連チャンであるから、手がいくらあっても足りないんだ」

 

「ええ~そうなのかニャ!? だったら無理して来なくってもよかったのにニャ」

 

「いいよいいよ、ちょうど休憩入っていたところだし、気分転換にもなるからね」

 

 笑いながら、繭はポケットからチョコを取り出して食べ、糖分を補給する。

 

「で? 何かボクに聞きたいことがあるんだろ?」

 

 代表してカムイちゃんが頷き、口を開く。

 

「早速だけど、応援合戦遊戯会について色々教えてほしいのニャ」

 

 予想通りだったのか、繭は余裕たっぷりの笑みを見せ、

 

「タダじゃ教えられないな~。こういうのはギブ・アンド・テイク。情報が欲しいなら何か情報をくれないと」

 

 さすがは新聞部、しっかりしていると西宮は感心した。

 

 ただ、カムイちゃんの図々しさは並外れたものでなく、

 

「可愛い後輩に免じてぇ~、タダで教えてくれニャ~」

 

 キラキラオメメでどこから出しているのかは知らないが、あっま~い声で手を組みつつお願いしている。

 

 繭は表情一つ変えず、う~んっと考える素振りで、

 

「確かにカムイちゃんの写真を撮って売ればそれなりに稼げるけど」

 

 そのセリフに、カムイちゃん以外の三人がギョッと驚いた。

 

「マヂで!? 買う人がいるの!?」

 

 という西宮と、

 

『どこで売っているんですか!?』

 

 という透と翡翠。

 

 当のカムイちゃんは、

 

「ニャフフフフ、ついに~こっちの世界でも~私の魅力が~伝わったわけだニャ。バンザ~イ」

 

 諸手を上げて喜ぶ。

 

「うん。黙ってると美少女だからね」

 

 その言葉に反応し、カムイちゃんの両腕はクニャっと右側に少し倒れ、

 

「な・し・よ……って、どういうことだニャ!」

 

「その若者を置き去りにしたギャグでどういうことか大体分かるだろ」

 

 ツッコミを入れた西宮以外の面子は、意味が分からずキョトンとしていた。

 

 説明をするのもアレなので、西宮が手を振って繭に話を促す。

 

「え、え~っと……今は小金よりも情報の方が欲しいんだよ。さっきも言ったけど連チャンで大きなイベントがあるからね。新聞部でも載せる記事が大激戦で、しょうしょごしの記事じゃ載せられないんだ」

 

「しかし、新聞部に提供できるほどの情報となると……」

 

「心当たりが……」

 

 積極的に情報を集めているわけでもないので、いきなり情報と言われても困る。大体にして、普段は学園内新聞や道新を見て、初めて色々知るのだ。記事になる前に記事になるような情報は、普通の人は持っていない。

 

「あ、そうだニャ。利羅についてなんだけどニャ」

 

 そう言えば普通じゃない人がここにいるなっと、話し出したカムイちゃんを見て西宮は思った。

 

「会長の話!?」

 

 どうやら興味を引いたようだ。繭は前のめりになって聞く態勢に入る。

 

「今はサッポロにいないニャ。小樽に行くって連絡がきたニャ」

 

「小樽に? 何で?」

 

 西宮が聞くが、カムイちゃんは肩をすくめて首を横に動かす。

 

「よく知らないけど、友達に会いに行くらしいニャ」

 

「なぜカムイちゃんがそれを知っているんだ?」

 

「利羅とはメル友だしニャ。生徒会の人達が聞いてきたら教えてやれって言われたニャ」

 

「くぅ~、しまった。もっと早くその情報を得ていれば一緒に行って、両校の会長が直対している写真がとれたかもしれなかったのに……今から行っても遅いだろうな~」

 

 心底残念そうに、繭は爪を噛む。

 

「会長が言う友達って、樽勝の会長のことなんですか?」

 

「たぶんね。向こうの会長は中学までこっちにいて、会長とは友達だったって話だよ。どの程度の仲だったのかは知らないけど」

 

 繭の話を聞いて、透の顔が不安で曇る。

 

「でも、会長一人で敵の本拠地に乗り込んで大丈夫なんでしょうか? いくら会長が強くてもやられたり、人質に取られたり……」

 

「そこら辺は大丈夫。応援合戦遊戯会は明確なルールは少ないけど、暗黙の了解っていうのがいくつかあるからね。その一つに各校の生徒会は運営を手伝うため、出場は控えるっていうのがあるんだ。だから、会長を倒す意味はないし、拘束したら運営が滞るから、しないよ」

 

「いたところで円滑に進めるために張りきって仕事をしてくれるかどうかは分からないがな」

 

 中々に辛辣な翡翠の言葉だったが、全員その通りだと思ったのでみんなコメントは控えた。

 

 繭が咳払いを一つして仕切り直し、

 

「さて、会長の居場所っていう中々ない情報を教えてもらったし、それじゃいくつか後輩諸君に教えておこうかな」

 

 ピッと一本の指を立て、

 

「闇討ちの注意は受けたよね? 事前に襲われる人は、そこそこの実力の人が多いよ」

 

 聞いて、カムイちゃんは小首を傾げる。

 

「強い人が襲われるんじゃないのかニャ?」

 

「相手の戦力を削るためだし、返り討ちや相打ちになったら意味がないからね。特に狙われるのは、チーム戦で真価を発揮するチームワークに長けた人達だね」

 

「なるほど。六丁目に行くのは一斉スタートでチームを組むのは常套手段だから、組まれる前に個人個人で撃破し、当日出られないようにするってわけか」

 

 西宮の言葉に繭は頷き、

 

「そういうこと。キミ達もけっこう有名なチームだよ。よく三人や四人でフィールドに行っているから噂になってる。気をつけてね」

 

 そう言われ、四人はそれぞれ顔を見合わせる。

 

「いつの間に私達がチームになってたんだ?」

 

「気にしたこともなかったニャ」

 

「そう言えば、人数がいる方が最初に奥の丁目に行けるからって、フィールドに四人一緒で行くことが多かったっけ」

 

「カムイちゃんと同じチーム……幸せ」

 

 その四人の様を見て、繭は「一年生最強のチーム」という噂が立ちつつある、というコメントは控えた。なんか、言っては他のチームが可哀想な気がしたからだ。

 

 チーム名でも決めとく? みたいな方向に行きそうだったので、繭は話題を戻す。

 

「無事当日を迎えてからのことだけど、応援合戦遊戯会は三日かけて行われるんだ。初日に樽勝を待ち構えてから応援合戦。その後に、資料館から運ばれてきたキューブを六丁目のステージに置いて、そこからフィールドに行って十二丁目から六丁目を目指す。途中大きなダメージを受けたら強制的にフィールドから戻ってくる」

 

「強制帰還は普段のフィールド探索と変わらないんですね」

 

「そうだね。でも、襲ってくるのはモンスターじゃなく樽勝の人がメインだから。それを乗り越えて六丁目にたどりついた人だけ、二日目・三日目の競技に出場できるんだ」

 

「つまり、初日は予選的な意味合いかニャ?」

 

「そうだね。例年一年生でたどり着けるのは、よくて一割ほどの二・三十人。それも、そのほとんどが上級生と組んだ人。キミ達みたく一年生だけのチームが到達できるかな?」

 

 繭は笑顔を四人に向ける。その笑顔は意地悪なものでなく、期待に楽しんでいるような顔だった。

 

「二日目の競技は毎年違うけど、各校一種目ずつ出し合って、午前と午後で二種目消化して終わり。そして、三日目の最終競技はフィールド一丁目に行き、花時計の花を一輪取ってくるというもの。これを成し遂げることができた方の勝ち」

 

「ちょっと待った! それじゃ二日目の競技は意味ないじゃん!」

 

 西宮の訴えに、繭は手を横に振る。

 

「いやいや、ちゃんと意味はあるよ。もし三日目、両校が花を取ってこれなかったら、二日目の得点で勝敗が決まるんだ。むしろ、取ってこれない方が多いからね。二日目が実質天王山だったんだよ……三年前までは」

 

 繭のその言い方に、カムイちゃんと西宮は疑問符を浮かべる。だが、知っている透と翡翠は、興奮を思い出す。

 

「二年前と記念すべき百回目だった去年。二回とも花を取ってきてうちが勝利している。そして、花を持ってきた人は……二回とも玄武院 利羅。つまり、会長のおかげで連勝しているんだ」

 

「マジで!?」

 

「私と行った時に手慣れている感があるとは思ったけど、前に行ってたことがあったのかニャ」

 

 驚く二人に、特に去年は圧巻だったと透と翡翠が興奮混じりに話す。その様子を見て、何であの会長が生徒会長に選ばれたのか不思議に思っていた西宮は、何となく納得できた。

 

「つまり、利羅はお祭り騒ぎの時に際立つ目立ち屋だったから、平時を知らない生徒とノリと勢い大好き生徒の票を集め、会長になったんだニャ」

 

「淡々と台無しにしてんじゃねえ!」

 

「何するんだニャ。おそらく事実だニャ」

 

 脳天チョップをくらったカムイちゃんは、口を尖らせて文句を言う。

 

「だとしても、様式美があるだろ! 今のは会長の株が上がる展開だろ!」

 

 と、西宮がカムイちゃんに顔を向けていたため、去年の会長選挙を見ていた繭が顔を伏せていたのに気づかなかった。

 

「そ、そんな事より、気をつけないといけないよ、キミ達!」

 

 繭はカムイちゃんと西宮の話をぶった切るように、一際大きな声を上げて注目を集める。

 

「樽勝としては――特に百回目の雪辱を晴らすため、会長が在学中に一勝はしておきたいはずだ。今年は去年を越えるほど、過激な年になるかもしれない。去年までは暗黙の了解でよさこいソーラン祭りが終わるまでは情報戦だけだったけど、今年は何人かがすでに襲われたっていう話も聞いているからね。キミ達も個別に襲われるかもしれないよ」

 

 翡翠は眉をひそめ、憮然とした様子を見せる。

 

「襲われると言うが、それはどの程度の襲撃なんです? 大怪我させられるというなら黙っていられない」

 

 繭は笑いながら「大丈夫」と答え、

 

「襲って札を回収するだけだよ。この時期札の需要に供給が間に合わないから、持ち札ゼロになると個人で再び集め直すのは無理だね」

 

「学園の生協売り場にも高価な札しかもうなかったな」

 

「そういうこと。襲われて札を奪われないようにするのは元より、襲われた時に札を節約するっていうのも大切なことだよ」

 

「なるほどニャ~。事前に聞いておいてよかったニャ」

 

 頻繁にフィールドに行くため、四人はけっこう札に余裕を持っている。気をつけていけば困る様なことにはならないだろう。

 

 繭は携帯で時間を確認し、腰を上げる。

 

「気をつけてよ。ボクは今回、キミ達に目をつけているんだから。しっかりボクの記事になるような活躍を見せてよね」

 

 そう言い残して、繭は小走りで去っていく。これからハードな部活動が待っているのだろう。

 

「ふふふふふ、愚かな」

 

 どこからともなく聞こえてきた声に一番早く反応した西宮が、声もなく頭を抱えた。だから代わりに、

 

「こ、この声は!?」

 

「まさか、『北斗』!?」

 

 透と翡翠がノリよく驚いてくれた。

 

「今になってようやく自分の置かれた立場を自覚するとは、あまり私を失望させないでもらいたい」

 

 声はどうやっているのか、四方八方どこからでも聞こえてくる。立ち上がって臨戦態勢を取る透と翡翠は、視線を定めることもできず、キョロキョロと見回す。

 

「ふふふ、襲われたとしても命は助かると胸を撫で下ろしているところ悪いが、私はそれほど甘くない。北東北の方角に向けて呪殺の札をかかげ、毎夜祈ることで貴様の精神をズタズタにしてやろう」

 

 長谷川の言葉に驚き、西宮は顔を上げて透と翡翠に目をやる。

 

「呪殺の札!? そんな危険なものがあるのか!?」

 

「ないぞ」

 

「じゃ、効果なんて出るわけがないだろ!」

 

「そうでもないぞ。よく知りもしない人から毎夜呪われていると思うと、嫌な気持ちになるだろ。前々回のターゲットなんて、毎日玄関のドアに刺さっている藁人形を見てノイローゼで倒れたぞ」

 

「おまえが陰鬱のしつこい奴だっていうのは分かったよ!」

 

 と、猫耳をピクピクさせていたカムイちゃんは、ひょいっとテーブルの下をのぞきこむ。

 

「お~い、一つ聞きたいことがあるんだけどニャ」

 

「ふふふ、何だ? ターゲットでもない者とはあまり会話をしないのが鉄則だが、質問によっては答えないこともないぞ」

 

「ずっとそこにいたのかニャ?」

 

「ふふふふ、まるで私がどこにいるか分かっているような口ぶりだが、その通りだ」

 

 西宮の対面に座っていたカムイちゃんに背中を向け、体育座りをしている黒装束の男がそこにいた。

 

「そうなんですか」

 

「ほ~」

 

 長谷川はいきなり冷たい鉄棒を背中に入れられたような悪寒を感じた。

 

 テーブルがあるため上の様子は分からないが、まるでテーブルが徐々に下がってきて、自分を押し潰してくるような感覚にとらわれた。

 

 長谷川は声も出せず、口をパクパクと動かす。その声なき声が聞こえたわけでもないが、カムイちゃんが答えを教えてくれる。

 

「私はホットパンツ着用だから別に気にしないけどニャ~。スカートの女の子がいるテーブルの下に隠れるのは、ど~かと思うニャ~」

 

 別に西宮は信心深いわけではない。呪いの札を見つけても「あっそ」で済ませることができる。藁人形が毎日ドアに刺さっても「アホくさ」で済ませられる。そんな西宮が、静かに胸元で十字を切った。

 

 この時の長谷川が金縛りのような硬直から抜け出し、称号持ち二人からの猛攻から夕陽が沈むまで逃げ切られたのは、やはり『北斗』の称号を持つ実力者だったからだろう。

 

 このことから、西宮は自分を狙う相手の実力を改めることにした。

 

「それにしても、利羅は小樽に何しにいったんだろニャ~?」

 

 カムイちゃんは連絡がないスマホを見て、独りごちた。




次回更新は火曜日予定です。
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