北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』 作:カムラー
小樽景勝学園の生徒会室で、黒髪ロングストレートの女生徒が一人、上座にある机で書類仕事をしていた。その時二回ノックをする音が聞こえ、
「はい」
と、返事をしてから顔を上げたが、ドアを開けて入ってくる者はいなかった。疑問符を浮かべていると、背後からの風が髪をなでていった。
髪を押さえて後ろを振り返ると、
「よう、ツツジ。元気?」
空飛ぶ布に乗った利羅が、窓を開けて、軽い感じに挨拶をした。
それを見て、ツツジ――樽勝の生徒会長――は頭に手をやって俯く。
「あなたはどこから入ってくるのですか」
「硬いこと言うなよ。窓から出入りするっていうのが最近のマイブームなんだ。それに――」
利羅は「よっと」と、生徒会室に入って乗ってきた布を懐に収納した。
「この時期に俺が正面から入れるとも思えないけど」
「まあ、確かにそうですわね」
ツツジは嘆息して、体を背もたれに預けた。利羅は勧められてもいないのに、彼女の前にある来客用の椅子に座る。
「ところで、おまえの所の闇討ちグループがフライングしているんだけど」
と、すぐに本題を切り出すと、
「まさかそんなことが!? 申し訳ありません。連絡がつき次第控えるように伝えますわ」
ツツジは驚いた顔で口元に手をやる。それを見て、利羅はニッコリとし――
ガツッ!
驚くべき速さで懐から取り出した長い布の先端を札で硬化させ、ツツジが書いていた書類ごとテーブルに突き立てた。
「舐めんなよ。一人二人の勇み足じゃねえんだ。誰かが、しっかりと、そいつらに、指示を出してんだろ。そのことを生徒会長のおまえが知らないわけがないだろ」
低く押し殺した声を、ツツジは顔色一つ変えずに聞いている。
「暗黙の了解なんて破った者勝ちだと俺も思うからフライングについてはうるさく言わねえよ。だが、何人かが怪我してんだ。ソーラン祭りを見に行けないほどの怪我をな。うちの生徒にそこまでされたら、いくら温厚な俺だって黙ってられねえ」
ツツジはゆったりとした仕草で布を指でつまみ、力を入れた感じもなく、簡単に布をテーブルから引き抜いた。
「……本当に申し訳ないと思っていますわ。ですが、今回の大会では会長である私にも把握できないことがあるのです」
「…………」
利羅は布を引き、黙ってツツジの話を聞く。
ツツジはテーブルに肘をつき、手を組んでそこに口元を持ってくる。
「連敗しているだけでなく、記念すべき百回目の遊戯会に負けたことで、生徒の中には何が何でも……なりふり構わず勝とうと思う生徒が少なからずいます。そういった生徒をまとめている誰かが、いるのかもしれません」
利羅とツツジは、しばらく視線をそらさず見合った。そして、利羅が脱力して天井を仰ぐ。
「……ったく、メンドくせえなぁ~」
ぶつくさと文句を口にする利羅に、ツツジはニッコリを微笑む。
「でも、そういった生徒が焦って強行策に出る気持ちも分かるんです。なにせ、あなたの所には称号持ちの新入生が二人も入り、さらに異世界から来た人が何やら変わった能力を持っているらしいじゃないですか」
利羅は来客用のテーブルにあるお茶請けの中に大好物のバターサンドがあるのを見つけ、勝手に食す。
「あ~、まあな。有望な奴らではあるな。おもしれえよ」
「羨ましい限りです。私の新入生の中には戦力になる生徒はいないので」
「新入生の中にいなくても、恐ろしい称号持ちがいるだろ。隠密行動に長けた『北斗』の長谷川司。名前どころか存在すら確認されていない最強のトラパー『網走』。そして空では敵なし、『空知』の称号を持つ巡(めぐる) ツツジ」
「私を数に入れる必要はありませんよ。生徒会として、裏方に専念するつもりですから」
利羅は「ふぅ~ん」と気の無い返事をして、バターサンドの包み紙を丸めて部屋の隅のゴミ箱に投げ入れた。そして目を細め、
「…………ツツジ。『網走』は誰で、今どこにいる」
同時に、二人の腕が動いた。
ツツジの投げた札が向かってきた利羅の布とぶつかり、札が巻き起こした風が、布を床に叩き落とした。
「いきなり女子に襲い掛かるなんて男の風上にも置けませんわね」
「どっちが先だったなんてバカらしい。どういうつもりだ、ツツジ」
二人は椅子から立ち上がり、向かい合う。
ツツジはフッと笑い、
「暗黙の了解は破った者勝ち。あなたが大人しく裏方に専念するとは全く思えませんわ。乱入されてかき回されないよう、何をするか分からない男は早々に退場願います」
利羅は羽衣のように長い布を体の周囲にまとわせ、
「なるほど。俺をおびき寄せるためにうちの生徒に怪我させていたのか……くだらない悪巧みを仕組んだ覚悟はできているんだろうな、ツツジ!」
利羅の激昂が開始の合図となり、生徒会室の窓が割れ、二つの影が外に飛び出す。
一つは布に乗る利羅。そしてもう一つは体一つで空に浮かぶツツジ。
ツツジは体に〝飛翔〟の札をはり、足元にはった〝突風〟の札を適時発動させていた。彼女は数枚の札を取り出し、そこらの宙に浮かせた。そして一枚を背後に浮かし、その札に足裏をつけ、
「〝硬化〟!」
その札をスタート板にし、凄まじい勢いで利羅に向かう。
利羅は乗っている布を操ってかわすが、通り過ぎたツツジはすぐさま頭を下げて縦に半回転し、浮かせていた札に足裏をつけ、再び彼に肉迫する。
避ける体勢が十分でない利羅は、体にまとわせている羽衣の布で、ツツジの手を受け止める。
ツツジが持っていた札が炎を上げる中、〝伸縮〟と〝硬化〟の札をはった羽衣は、燃えていない側の布を伸ばして彼女を攻撃する。彼女は足裏で布を受け止め、〝突風〟の札を発動させて背後に飛び、ダメージを殺した。
ツツジは浮いている〝硬化〟の札に着地し、利羅は炎を手元の札で消火し、睨み合う。
「浮力が弱い武身強化(クロエゾ)を長い時間浮かせるだけでなく、〝硬化〟の札で空気を固めて足場に使う……か。さすがは『空知』の称号持ち。小さいから身軽ってだけじゃないな」
「一言余計です。それに防いでおいてよく言いますわね。私に「さすがは」とでも言わせたいのですか?」
利羅は羽衣の端を持ち、ツツジに向かって振り回した。彼女は迫る布をすぐさま避けたが、布は逃げる彼女を追尾する。浮遊する〝硬化〟の札を使った素早い動きだったが、先読みした利羅の布が〝硬化〟の札を破壊し、動きが鈍ったツツジの足に布が絡みつく。
そして、利羅は容赦なくツツジを地面に叩きつけた。
布の浮遊時間も終わり、利羅は倒れたツツジの傍らに下りた。
「おいおい、生徒会仕事にかまけて腕が落ちたんじゃねえのか?」
「それなら、あなたも腕が落ちていてしかるべきだと思うのですが」
地面を手で押して、ダメージから震える上体を起こし、ツツジは利羅の嫌味に軽口で答える。その返しに彼は笑い、
「うちの生徒会連中はみんな俺を尊敬しててな。仕事は僕達私達に任せてくださいって快く言ってくれるんだよ」
生徒会連中が聞いたらボコボコにされそうなコメントを、ぬけぬけと言い放つ。
「それよりさっさと『網走』の情報を寄こせ。どうせ変な風にそそのかされたんだろ? 俺を遊戯会に出せないようにさせて、おまえが暗黙の了解を破って出場すれば勝てるとか何とかって。バ~カ。個人の力で勝敗が決まる様な単純な行事じゃねえだろ」
利羅はしゃがんで、呆れた様子で髪をかく。
「……あなたがそれを言うのですか。その力で二回も札教を勝利に導いたあなたが」
「あの勝利が俺の力だけだと思ってんのか」
もういいやと、利羅は膝に手を当てて立ち上がる。
「今回の応援合戦遊戯会をしっかり見ておくんだな。たぶんだけど、なまら面白い奴らが大暴れするぜ」
そう言い残して背中を向けて去って行こうとしたが、急にガクッと膝を崩した。「あれ?」と思って立とうとしたが、逆に力が抜けて地面に倒れた。
「ようやく効きましたか。連日生徒会室にバターサンドを用意しておいてよかったわ。しかし、一番単純な手に引っかかる所がやっぱりあなたですね」
上手く体が動かず、利羅は視線だけをツツジの方に向ける。
「……まさ、か、何か、盛った、の……か……」
痺れているのか言葉も上手く回らず、たどたどしくなった。倒れていたツツジは服についた汚れを払いながら立ち上がり、
「敵の兵糧に考えも無しに手をつけるからですよ。それより勘違いしているようですが、私は本当に裏方に専念します。私が暗黙の了解を破って乱入したら、そちらの生徒会が動く。それは上手くありませんからね」
利羅に近づき、懐から一枚札を取り出す。
「普段から仕事をほっぽらかしているあなたが当日まで姿を見せなくても、誰も不思議に思わない。まるでオオカミ少年ですわね、日頃の行いがものを言うのですよ」
ニヤッと口を吊り上げて笑う彼女を見て、
「……まさか、お、まえ……」
「終わりです」
利羅にはった札が電撃を発し、激痛に叫び声を上げる。
札の効力が終わった後、倒れ伏して動かない利羅から黒煙が上がっていた。
終わったのを見計らって、樽勝の生徒が周囲から続々と出てきた。
「お疲れ様です、会長」
「バターサンドを食べなかった時用に待機していましたが、問題ありませんでしたね」
作戦に協力し、潜んでいたのは三年生。二年続けて利羅に辛酸を舐めさせられている上に、彼の強さをよく知っているため、多少卑怯な手段とは知りつつも協力してくれたのだ。
みんなは作戦成功を喜び、利羅をロープで縛って運んでいく。
「利羅はこのまま樽勝で拘束しておきます。これでうちの勝利は固いですね」
「ええ」
ツツジは乱れた黒髪を整えながら、微笑を浮かべて相槌する。
「それじゃ、闇討ちグループには札を奪うだけの指令に変更させておきますね」
「いいえ。変更する必要はありません。そのまま続行させなさい」
ツツジのその言葉に、残っていた人達はざわめいた。札教の生徒を怪我させるまでの過激な手段は、利羅がおびき出されるまでだと思っていたからだ。
制止を進言しようにも、ツツジは生徒会長で『空知』の称号を持つ実力者…………。
「副会長は?」
「それが今日は姿が見えなくって」
小声で話し、各々が目で促し合っている間に、ツツジはすぐ次の話題に移る。
「ところで、『北斗』の所在は分かりましたか?」
目を合わされて聞かれた生徒が背筋を伸ばし、
「はい。どうやら異世界から来た新入生、西宮をターゲットとしているようです」
報告を受けて、ツツジは冷淡に目を細める。
「それは構いませんが……一体誰がどのような指令を出したのですか?」
「さあ。そこまでは」
「…………至急呼び戻しなさい」
そう言い残し、ツツジは学生達に背中を向けて歩き出した。残された生徒は何も言えないまま、遠ざかる小さな背中を見つめた。
カムイちゃん達四人は、西十三丁目にある資料館に来ていた。
「よさこいソーラン祭り中はフィールドが閉鎖されちゃうから、今日は一度六丁目まで何分ぐらいかかるか行ってみようニャ」
週末がよさこいで、次の週末が応援合戦遊戯会。来週無理をして怪我をしては元も子もないので、無理めに頑張れるのは今日ぐらいだ。
「確かにこの面子でどれだけかかるのか、果たしてたどり着けるのか予行練習しておくのはいいな」
西宮もカムイちゃんの意見に同意する。
しかし、やはり似たようなことを考える人は多いのか、資料館は随分と盛況だ。人の多さから、翡翠は周囲を油断なく警戒する。
「西宮、あの『北斗』は見なかったか」
まだ若干怒っていると、西宮は言葉尻から感じ取る。
「あんだけの目にあったんだし、俺がみんなといる時にホイホイ来るとは思えないけど……疲労困憊でまだくたばっているかもしれないし」
そう言われ、翡翠は押し黙った。二人が話している間に、
「カムイちゃん、一緒に札を取りに行きませんか?」
「いくニャ」
透とカムイちゃんは申請するための列に並びに行く。西宮は少し不機嫌な翡翠と待つことになって、心中で重たいため息を吐いた。
カムイちゃん達は数分並んで、窓口にたどり着く。応対する役員は、奇遇にもカムイちゃんが異世界の初日に対応した人だった。
「おじさ~ん、十二丁目からの札をおくれぶんとう」
「はい。あれ? 東屋ちゃんとカムイちゃんか。あ~、それとあの二人もいるのか。なら七丁目からの札でも大丈夫だけど」
十二丁目からスタートする札を出しながら、顔馴染みになった役員が親切に聞いてくる。カムイちゃんは首を横に振りながら、
「今日は応援合戦遊戯会のために、一度十二丁目から六丁目に行ってみようと思ってニャ」
「あ~なるほどね。それじゃ頑張ってね」
役員は軽く手を振って見送った。
四人は十二丁目から出発し、順調に九丁目にまでやってきた。
「ふぅ~、フィールドの『大通公園』の一丁は長いニャ~」
三丁歩き続けてきたカムイちゃんが、少し疲労の濃いため息をつく。
「大体東西に一キロくらいあるからな」
「それに最短距離を行っても、一丁につき二・三回はモンスターに会いますからね。今日ももう八回も遭遇していますし、疲れちゃいますよね」
そう言うが、慣れている翡翠と透は疲れが見えず、休憩だというのに立ったままだ。ちなみに西宮は草むらに腰を落とし、持ってきた水筒のお茶をがぶ飲みしている。
「うへ~、本来の十倍ぐらいの大きさだニャ~」
「その倍率がすぐ出るところがすごいわ」
西宮はそう言って、水筒をカムイちゃんに投げ渡す。
「しかし、やはりこの九・八丁目の距離が一番キツイな」
「九・八丁目は連結しているからニャ~」
カムイちゃんは水筒の蓋にお茶を注ぎ、
「なんで連結してるんだ?」
「ブラック・スライドマントラがあるからニャ」
西宮の質問に答えて、嬉しそうにお茶を飲む。
「なにそれ? 必殺の秘密兵器?」
思わず、カムイちゃんがお茶を噴いた。
咳き込むカムイちゃんに、西宮はキョトンとした顔を向けていたが、
「マジかニャ!? マジでそれを言っているのかニャ、西宮!?」
咳が治まったカムイちゃんが、勢い込んで西宮に顔を近づけてきた。何でこんなに荒ぶっているのか分からない西宮は、目を白黒させて答えられないでいると、
「イサム・ノグチさん作の、黒い滑り台のことニャ!」
興奮したカムイちゃんの言葉で、ようやく西宮は「ブラック・スライドマントラ」を脳内に浮かべることができた。見たことはある。
「あ~、あれってそういう名前だったのか」
カムイちゃんは呆れた感じで頭上にぐしゃぐしゃの線を浮かべ、
「まったく、こんなことサッポロ市民なら常識ニャ。ね、透」
「え!? ええ、もちろんですよ、カムイちゃん」
いきなり話を振られた透はすぐさま同意したが、西宮は彼女の一瞬の動揺を見逃さなかった。絶対同類のはずだと思ったが、
「三人とも、モンスターの気配だ」
翡翠の注意喚起で指摘することができなかった。
休憩が終わり、全員戦闘に備えて札の用意をする。
「岩石系だと鉱物が手に入るかもしれないから嬉しいんだが」
「岩石系だと打撃が主な俺はほとんど役に立たないから嫌なんだけど」
「私は鳥類が嫌だニャ~、あいつら動きが速くて投げ飛ばした札が全然はりつかないニャ」
「私は触手系の見た目がアレなモンスターが嫌です」
などと言う会話で、自然と誰が何が得意で何が不得意なのかという情報交換がされる。
地鳴りと土煙を上げて、モンスターが四人に向かってきた。鋭い一本の角を有したトラ型のモンスターで、角をかいくぐって接近戦に持ち込んでも牙と爪で応戦してくるという、中々に厄介な奴だ。しかも、土煙の感じからけっこうな数がいそうだ。
「獣系か」
少し残念そうに、翡翠が呟く。
「あれ? ちょっと待った。誰か人いないか?」
西宮の指摘で、四人はモンスターの最前を注視する。そこには確かに人がいた。
「大変だニャ!」
カムイちゃんが真っ先にモンスターを迎え撃ちに行き、三人も後に続いた。
モンスターを片付けた後、カムイちゃんは逃げ疲れからへたり込んでいる女の子に手を差し出し、
「大丈夫かニャ?」
「す、すみません。助かりました」
恥ずかしげに苦笑して手を取るのは、薄赤いセミロングの女の子だった。透より低い身長で、体の線が細くて華奢な印象を受ける。カムイちゃんの視線はすぐさま彼女の胸元にいき、仲間と認定してスマイルで彼女を引き起こす。
「見たところ一人のようだが、無理してあまり東の丁目に挑まない方がいいぞ」
翡翠に当然のことを指摘され、彼女は気まずそうに頬をかく。
「あ、はははは、どうやら自分で思っていたよりモンスター相手のブランクがあったみたいです。最近忙しくってサッポロまで来れなかったから」
「もしかして、樽勝の人ですか?」
西宮が聞くと、彼女はニッコリ笑顔でアッサリと、
「そうです。応援合戦遊戯会の前に勘を取り戻しておこうと思って」
敵だと自白した。
四人は困った顔で小さな円を作って、
「どう思う?」
小声で作戦会議をする。
「悪い人には見えませんけど」
「どうするニャ? 倒して札を取り上げるかニャ?」
そういうことを応援合戦遊戯会前にやりあっていると知っているので、カムイちゃんが何気なく提案する。
「いや~、それは気が進まないぞ」
「西宮は甘いニャ」
そう言うが、相手は何と言うか……無邪気なのだ。ここで襲って札を取り上げたら、間違いなくこちらが悪人だ。そう思うから、カムイちゃんびいきの透と翡翠もさすがに同意せず、困惑している。
「……あ~!」
いきなりの彼女の大声に、四人はビックリして円陣を解き、彼女に対して身構える。
驚きの顔を見せる彼女が指差しているのは、
「と、頭頂部に耳、それと美少女……もしかしてあなたは!?」
カムイちゃんは美少女呼ばわりに鼻を高くし、
「なんニャ、樽勝にまで私が美少女! っていう噂が流れているのかニャ~。こりゃ参ったニャ~」
「西宮さんですね!」
四人全員が体を崩してコケる。
『ちっがあ~うっ!』
四人一斉のツッコミに、彼女はビクッとする。
カムイちゃんは慎ましい胸に手をあて、
「私は北海道育成アイドル、北乃カムイだニャ! 西宮はこっち、目つきの悪いツッコミだニャ!」
「俺の紹介が目とツッコミだけかよ!」
「え? え? でも、異世界から来たって」
彼女はカムイちゃんと西宮を交互に見ながら、理解できていないのか慌てふためく。
「確かにカムイちゃんと西宮は一緒に異世界から来たぞ」
翡翠の言葉で、彼女の頭に驚嘆マークが浮かぶ。
「え? 一緒に…………あ、あの~、もう一度お名前を窺ってもよろしいでしょうか」
おずおずと彼女は手を上げて求める。
「仕方ないニャ~、しっかりと覚えてくれニャ。私は――」
「『平(たいら)の――』
と、西宮が上の句を言えば、
「『胸(むね)盛(もり)、北乃カムイだニャ』! って、邪魔するんじゃないニャ、西宮!」
しっかりと下の句を言うカムイちゃんだった。
しかし、彼女は二人の言い合いをよそに頭を抱え、
「…………北乃……きたの……来たの……北乃……そういうことね」
「ど、どうかされたんですか?」
人見知りが発動して少し距離を取っていた透が、頭を抱えていた彼女を心配して声をかけた。すると彼女はすぐさま顔を上げて、何でもないと笑顔で手を振ってから、
「あ、自己紹介が遅れましたね。危ない所を助けてくれてありがとうございました。私は樽勝の三年、アザレアです」
四人はアザレアの紹介を聞いて、思わず硬直してしまった。
…………(とんぼ)。年上だったのか。
次回更新は火曜日予定です。