北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』   作:カムラー

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闇討ち襲来

 アザレアとの自己紹介を終え、

 

「え~っと、それじゃ九丁目にある帰還用のキューブまでアザレアさんを連れてく?」

 

「まあ、助けておいて放っておくのも後味悪いしニャ。そうするかニャ」

 

 他の二人も異論なく頷くが、

 

「あ、大丈夫です。私も六丁目に行く予定ですから」

 

 四人の「九・八丁目の敵から必死に逃げていたのに、何言ってんだこの人」という目を正確に感じ取ったらしく、

 

「もう! そんな目で見ないでください! ブランクがあってちょっと油断しただけで、ホントは強いんですよ!」

 

 プンプンと頬を膨らませて怒る。その仕草はまったく年上に見えなかった。

 

 再び四人は作戦会議のために小さな円を作る。

 

「どうする?」

 

「もう放っておいていいだろ、基本的に今は樽勝とは敵対関係だし。あの人が無謀に特攻して怪我をしても、私達に関係ない」

 

「そうなんですけど…………カムイちゃん、どうしましょうか?」

 

「…………」

 

 顎に手を当てて考えたカムイちゃんが、

 

「よかったら私達と一緒に行くかニャ?」

 

 と、提案した。

 

「いいんですか?」

 

「ここから一緒の方向に向かって進むのに、変な距離開けて会話もしないなんて気まずいニャ。それならいっそのこと仲よく進んだ方が楽しいニャ。中国の言葉でこういうの何て言ったっけニャ~」

 

「呉越同舟」

 

「お~それニャ」

 

 カムイちゃんはパンッと手を叩いて西宮に笑いかけるが、彼は疲れたようにため息をつく。

 

「カムイ~、少しは考えろ。もしあの人がスパイで、俺達の内情を知るために一芝居うって近づこうとしていたらどうする?」

 

「平気平気ニャ。それじゃ出発するニャ~。あまり立ち止まっていたら正確な到達時間が分からないからニャ~」

 

 カムイちゃんは西宮の心配をよそに、アザレアの背中を押して進みだした。仕方なく、他の三人も歩調を合わせて歩き出した。

 

 

「カムイちゃんは地元世界でアイドルだったんですか?」

 

 どうやらアザレアは年下関係なく丁寧口調のようだ。かしこまった問いかけにカムイちゃんは大きく頷き、

 

「そうニャ。北海道を中心に活動して、国中に私の名があまねく広まるように積極的な活動をいくつもしているニャ」

 

「すごいですね」

 

 微笑みながら応対するアザレア。西宮は何となくカムイちゃんの意図に気づき、

 

「確かにカムイはすごい。地元世界の一国をほぼ支配下に抑えてから、異世界に打って出てきたからな」

 

「え、一国を!?」

 

 アザレアの驚きに、西宮はハッキリと頷き返す。

 

「そう。各都道府県に最低一人のカムラーを配して……あ、同盟国もあったな。まあ、とりあえず、九割方は支配して、カムイは自分の意思でこっちの世界に来たんだ」

 

「……自分の意思って、事故で飛ばされてきたんじゃ……」

 

「いや、それがどうも二人は本当に自力でこの世界に来たらしい。私も信じられなかったが、実際にそれが可能だという力を見せられたから、信じないわけにはいかない」

 

 翡翠の言葉に、アザレアは言葉を失った。

 

「まあ、私は選ばれし者だからニャ~。しかし、西宮がそんなに私を褒めるとは不気味だニャ~。私の財布のヒモを緩めさせて奢ってほしいものでもあるのかニャ」

 

「一応俺はカムイのファンだから、普及活動に協力しているんだよ」

 

 西宮が考えるカムイちゃんの考えはいたって単純。アザレアがスパイでも構わないのだ。虚実混ぜ合わせた情報で手強い相手と思わせる。事前に襲われるのはそこそこの実力者だということは、繭からの情報で分かっている。だから、襲われないようにするため、張子の虎でも大きく見せてやればいい…………ただ、誇張した感はあるが、今出した情報は全て本当のことだ。

 

 カムイちゃんの真意は実際に分からないが、「実は昭和生まれで実年齢は三十を超えている」「先祖が殺した化け猫のたたりで猫耳がついている」「すすきのがホームグラウンド」など、かなり適当なことを言い、アザレアの反応を面白がって五人は進んだ。

 

 

 出発から一時間と少し。五人はゴールである六丁目の屋外ステージに到着した。

 

「ホントにアザレアはけっこう強いニャ」

 

「だから、ブランクがあるだけって言ったじゃないですか」

 

 あれからも数回モンスターと遭遇したが、アザレアは逃げ回らず、積極的に戦闘に参加していた。

 

「と、得意なのは武身強化(クロエゾ)なんですか?」

 

 初対面の人だが、女性ということで透もまだ話しやすそうだ。

 

「ええ。でも、森羅万象(アカエゾ)だって同じくらい上手く扱えるわ」

 

「……西宮、あの人をどう思う?」

 

 翡翠は三人から少し離れた場所で、

 

「と、とりあえ、ず……俺よりは、実力が、上だ。しかも、けっこうな、実力を隠してる」

 

 息切れが激しい西宮は、六丁目クラスのモンスターになると防戦一方になる。早い話実力が伴わないので、囮や盾になって攻撃は他の三人に任せている。これがこのチームの基本戦略になる。

 

「だな。もしかしたら応援合戦遊戯会の二日目に出てくるかもしれない。事前に存在を知れてラッキーだったかもしれないな」

 

「…………」

 

 カムイちゃん達と楽しげに話すアザレアを見て、西宮は確かにそう思った。同行を許したことで、誤情報の流布と相手の実力の確認と、一石二鳥といけた。カムイちゃんがそんなことを考えているわけないから、ノリと勢いだけで決めただけだろうが、

 

(相変わらず、運だけはいい)

 

 西宮は笑って、膝に手をついて曲がっていた上体を起こし、

 

「お~い、そろそろ帰還のキューブに――」

 

「西宮!」

 

「っどぐぅぅふっ!」

 

 声に顔を向ける暇もなく、くの字に曲がった体から変な空気の音が漏れ出た。吹っ飛んだ西宮はステージをゴロゴロと転がり、カムイちゃん達の足元まできた。

 

「どしたニャ、西宮?」

 

「お、俺が、聞きたい、わ~」

 

 響く痛さと衝撃から気絶しなかったのは奇跡と言えよう。神に感謝したくない部類の奇跡だが。

 

 カムイちゃんが西宮のいた場所を確認すると棍を持った翡翠がいて、ステージ下を見て構えていた。

 

「敵だ!」

 

 翡翠がステージの床を指さすと、なかった札があった。どうやら西宮に向けて投げられた札で、それから助けるために翡翠は激しく彼をぶっ叩いたらしい。どちらのダメージが上かは結論を出したくない。

 

 カムイちゃんと透、アザレアが翡翠に駆け寄ると、ステージ下に七人いた。敵意をむき出しにする彼らは、間違いなく樽勝の学生だ。

 

「ふ、こんなこともあろうかと――」

 

 カムイちゃんは自信タップリに札を一枚手にし…………グイッとアザレアを引き寄せて、彼女の頬に札を近づける。

 

「この娘の命が惜しければ近づくんじゃないニャ!」

 

 ガクッと、思わず透と翡翠がつんのめった。

 

「な、何をやっているんですか、カムイちゃん! そんなのアイドルがとる手段じゃありません!」

 

「にゃふふふふ、敵を出し抜くには意外性が重要ニャ。見るニャ! 奴らは困惑して動けないでいるニャ!」

 

 確かに七人の襲撃者はポカーンとしていた。

 

「闇討ちしに来たような奴らを上回る卑怯な手段を初手からかますな!」

 

 再起不能かと思われた西宮のツッコミチョップがカムイちゃんの後頭部に決まった。

 

 カムイちゃんはぶすくれた表情で振り返り、

 

「何するニャ! 何のために樽勝の生徒と一緒にいたと思ったニャ!」

 

「人質にするためと考えていたおまえが、敵よりも恐ろしいわ! 返せ、俺のホッコリと感心した気持ち!」

 

 カムイちゃんに肩を抱かれて拘束されているアザレアは、「たははは」と困ったような顔で苦笑いを浮かべている。

 

「ふっ、私は敵には容赦しない女ニャ。生き馬の目を抜くアイドル業界、敵を作らないのは当然だけど、敵となった人は全力で潰すのが常識ニャ!」

 

「……樽勝との敵対関係は一時のことで、行事の終わりと共に終了する。その後でハチャメチャしたカムイのファンになってくれる人が、樽勝にどれだけいるかな」

 

「……………………(とんぼ)」

 

 カムイちゃんはシュパッとアザレアの体から手を放し、指で挟んだ札をビシッと襲撃者に向ける。

 

「さあ、来るなら来いニャ! 正々堂々私の正義の心で――」

 

「どの口がそれを言うかぁ!」

 

「ニャン!」

 

 ドンッと押されたカムイちゃんがステージ下に落ちた。それを追って翡翠も下り――

 

「棍操術、シャクナゲ!」

 

 地面に叩きつけた棍が爆炎を起こし、心が戦闘態勢に入っていなかった敵を襲う。

 

「ふん。おまえら、この二人のペースに合わせていたら戦えないぞ」

 

 残り火がある棍を振り回す翡翠に向け、襲撃者の何人かが手元で札を発動させて狙う。

 

「翡翠、下がって!」

 

 ステージ上から札を発動させた透が、飛来する火や水を打ち落とす。

 

「そんな離れていたら、透には勝てないニャ」

 

 走り出して迫るカムイちゃんに、襲撃者達は目を見張る。なぜなら、札の対人戦の基本は遠距離から札で牽制しつつ、隙が出来た時に接近して札をはりつけ、大ダメージを狙うというもの。相手が迎え撃つ体制の時に無策で突っ込むのはバカがやること。

 

 迫るカムイちゃんに向け、襲撃者は札を持った手を突き出す。

 

 だが、カムイちゃんは俊敏な動きを見せて紙一重で避け、横を通り抜け様に相手の胸に札をはる。さらに迫ってくる二人の敵に対して、カムイちゃんは避けながら相手の体に札をはる。

 

「燃えろニャ!」

 

 カムイちゃんが指を鳴らして合図を送ると、札が激しく燃え上がって敵を襲った。

 

「札をはらずに私の動きについてこれる人は、そうはいないニャ」

 

 パチンと星を飛ばすウインクで勝ち誇るカムイちゃんに、

 

「カムイ、後ろ!」

 

 注意喚起する西宮の声が響く。

 

 素早く後ろを振り返ると、まさに敵が目前に迫っていた。カムイちゃんは手首の動きだけで札を投げ飛ばした。が、狙いが甘く、軽々と避けられる。

 

「バカが! 人間相手に札を簡単に投げつけられると思ってんのか!」

 

「思ってないニャ。私は札を投げつけるのが下手くそだからニャ。でも、一人率先して受け止める奴を知っているニャ」

 

 敵はニヤリと笑うカムイちゃんの顔を見て、背筋に冷たいものを走らせる。

 

「ユナイテッドフロント!」

 

 カムイちゃんの掛け声が上がり、敵のさらに背後にいる天見の腕に、カムイちゃんの投げた札がはりつく。

 

 振り返った敵の眼前に、天見の燃える腕が迫り、

 

「十字火炎!」

 

 アックスボンバーが決まった。

 

 

 襲撃者を全員倒し、フィールド外に強制帰還される前に札を回収した。

 

「いや~、けっこう持ってたニャ~」

 

 ホクホク顔で、カムイちゃんは戦利品の札を扇のように広げる。

 

「あ、トラップの札があるんならくれよ。使ってみたかったんだ」

 

 カムイちゃんと西宮が札を分けている間、

 

「翡翠! 鉱石まで取ることないでしょ!」

 

 翡翠は奪った赤い石を手の中で遊ばせる。

 

「私は『石狩』だぞ。勝った場合に石を奪うのは当然のことだ。売ればいい金になる」

 

「私、翡翠のそういうところが嫌い」

 

「生活費の足しにしているんだ。キレイごとを言ってられるか」

 

 そんな四人を、アザレアは遠くから眺めている。

 

「皆さん強いですね。今の人達は皆さん二年生でしたのに」

 

「なんだ、アザレアの知り合いだったのかニャ?」

 

 聞かれて、苦笑しながら首を横に振る。

 

「いえ、向こうはたぶん私に気づいていなかったと思いますけど」

 

「でしょうね。人質にされた時も相手の反応がいまいちだったから、知り合いじゃなさそうだなとは思いました」

 

「あれは冗談。私のオチャッピーだニャ。蒸し返さないでほしいニャ~」

 

 手をパタパタと動かすカムイちゃんに、苦笑いの視線が集中する。そんな中、「でも」と前置きしてアザレアが、

 

「暗黙の了解でよさこいソーラン祭りの前は襲わないことになっているのに…………ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」

 

「別にアザレアが謝ることはないニャ」

 

「…………」

 

 気にしてそうにないカムイちゃんが気楽に言うが、曇ったままのアザレアの表情は晴れない。

 

 カムイちゃんはアザレアにツツと近づき、掌を返して、

 

「細けぇことは気にすんな」

 

「だから、若い人は分かんないって」

 

 すかさず、西宮のツッコミが飛ぶ。

 

「闇討ちの注意は行き渡っているんだし、早かろうが遅かろうが毎年恒例でお互いやってることなんだし、恨みっこなしだろニャ」

 

 あっけらかんと言い切るカムイちゃんを見て、アザレアは堪えきれず少し噴き出す。

 

「思っていた人物像より、随分と楽しい方ですね、カムイさんは」

 

「親しくカムイちゃんって呼んでほしいニャ」

 

 パチンとウインクを飛ばすカムイちゃんに、アザレアは手を差し出す。

 

「会えてよかったです。今度は応援合戦遊戯会で会いましょう」

 

「お互い頑張ろうニャ」

 

 しっかりと握手をして、アザレアとは別れた。

 

 

 よさこいソーラン祭りが賑やかに終わり、フィールドは解放されたが、カムイちゃん達は安全のためと札の消費を抑えるため、本番までフィールドには行かないと決めた。

 

「それはいい。それはいいんだけど……他の二人はともかく、カムイは去年までの遊戯会の映像を見て、どういったものか事前知識を持っておくべきだろ」

 

 学園の資料室で去年までの応援合戦遊戯会の映像を見ていた西宮は、寮までの夜道を一人歩いている。「噂のスープカレーのお店に行ってくるニャ」と言ったカムイちゃんの言葉を思い出し、自然とため息が出て、足を止める。

 

「…………いるんだろ、出てこいよ」

 

 その声に反応し、道の脇の木々がざわめく。西宮は内心で「うわ~、本当にいたよ。カマかけてみただけだったのに」と思ったが、顔は「バレてんだよ」と自信ありげなものだった。

 

 カムイちゃんのように驚異的な聴力を持っておらず、翡翠のように気配を察知できない西宮には、敵が何人いるかは見当がつかない。

 

(人気が少ない夜道だけど、目撃者が来れば退くか……)

 

 そう思った西宮は、

 

「絶対にまた襲ってくると思ったぜ。前回の失敗が報告されていれば、今度は一人ずつ確実に減らそうとする。だが、称号持ちや常にその二人のどっちかと一緒にいるカムイは襲いにくい。下手したら返り討ちだ。なら、弱そうな男を始末してしまえってな!」

 

 一際大きな声で、敵の考えを代弁する。

 

 当然敵からは何の反応もないが、西宮が期待したのは声を聞きつけて誰かがやってくること。だが、しばらく待っても誰かが来る気配はない。

 

(ダメ……か)

 

 そう諦めかけ、ポケットの札に手をやろうとした時、

 

「待て!」

 

 待望の声が響いた。

 

 晴れやかな顔で西宮がそちらを向くと、

 

「誰の差し金かは知らないが、西宮を倒すのは俺の役目だ!」

 

 闇に溶け込むような黒装束の男を見て、西宮は思わずコケた。

 

「ややこしい時に出てくるんじゃない、長谷川司ぁ!」

 

「ここで出ずしていつ出てくる! それに、ターゲットを横からかっさわれるなどプロとしてあるまじき失態だ。貴様を倒すのはこの俺だ。俺が倒すまで貴様が誰かに倒されては困る。だから……」

 

 握った右拳を西宮の眼前に持っていき、

 

「共闘だ、西宮!」

 

「はぁ!?」

 

 あんぐりと口があいた西宮は、「様式美すぎんだよ!」というツッコミが言えなかった。




次回更新は火曜日予定です。
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