北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』   作:カムラー

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西宮本領発揮

「…………いやいやいや、待て待て待て。訳が分からん。おまえが向こうについて俺を倒そうとするなら分かるけど」

 

 頭を抱える西宮を見て、司は布で隠れた鼻で笑い、

 

「ふっ、バカなことを。他人の手を借りてターゲットを片付けるなど私のポリシーに反するだろう」

 

「おまえのポリシーを知らんわ!」

 

「大体にして、四人がまとまると勝てないからといって、一人になった時を狙って襲うなど卑怯極まりない。そんな輩、私の正義の心が見過ごせん!」

 

 西宮は「最近も正義の心を聞いたな」と、半眼で道端の木々を指さす司を見て、

 

「いや、間違いなくおまえも俺が一人になるのを窺っていただろ。タイミングが良すぎるんだよ」

 

「ギクッ!」

 

 司は刺々しい効果音が飛び出た胸元を押さえ、布の中で大量の汗をかく。

 

「大方透と翡翠が怖かったんだろ?」

 

「なななんあな、なにうぉ言っているのか知るベスター? わたたたたたしが、だだだ誰を怖いと申しますか!」

 

 キャラ崩壊するほどの動揺を見せられ、あまりに可哀想だったから追及はしなかった。

 

「とにかく! 安心して私に背中を任せて戦え!」

 

「どこの世界に暗殺者に背中を任せるターゲットがいるんだよ!」

 

 などと、西宮がツッコミをしている時に、

 

「貴様、『北斗』だな?」

 

 どこかに隠れている襲撃者の一人が、司に向かって声をかける。

 

 司は鋭い目つきで道の端の木々を睨み、

 

「いかにも。木っ端連中のくせによく知っているな」

 

「貴様には会長から帰還要請が出ている。一刻も早く樽勝に戻れ」

 

 西宮が司の様子を窺っていると、彼はふんぞり返るように胸を張る。

 

「バカなことを。プロたる者、一度引き受けた依頼を途中で放り投げるわけがないだろう。会長だろうが首相だろうが大統領だろうが、任務中の私を止めることなどできないわ!」

 

「ちなみに、その依頼っていうのはどんな内容なんだ?」

 

 流れで聞いてみると、

 

「うむ。異世界からやってきた摩訶不思議な存在である西宮の情報を集め、応援合戦遊戯会の二日目に出られないようにする。というものだ」

 

 まさか正直にしゃべるとはと思いつつ、西宮は沈痛そうに俯いてから、

 

「だからよ~、その摩訶不思議な存在は北乃カムイだってぇの! 依頼主にもう一度確認取ってこい!」

 

「ふ、プロたる者下手に足がつかないよう、依頼人といえども連絡は必要最低限だ。余程のことがない限り、二度会うことはない」

 

「今回がその必要最低限の時だろ! 最早地に足がついて重力満喫しているくせに、そんな細かい所気にすんな!」

 

 ついに西宮のツッコミチョップが司の脳天に決まった。

 

 そんな風に西宮がツッコミしている間に襲撃者達の方針が決まったらしく、

 

「いいだろう。邪魔をするというなら貴様にも少し痛い目を見てもらうぞ!」

 

 動き始めた。

 

 相手が退かないと分かった西宮は舌打ちし、

 

「仕方ない。司、相手は何人でどの辺にいる!?」

 

 共闘を受け入れる。

 

「相手の数は五人で周囲を円状に囲っている!」

 

 司は懐からクナイを取り出し、札と一緒に構える。

 

「やっかいだな」

 

 西宮は右手に〝硬化〟の札をつけ――周囲から一斉に火球が飛んできた。

 

 西宮は部分強化で頑丈にした右腕で、飛来する火球を叩き落とす。司は素早い動きで攻撃を避け、札を手元で発動させて反撃するが、敵には当たってないようだ。

 

 手元で森羅万象(アカエゾ)を使うと、直接札をはるより攻撃力が落ちるため、部分強化で防いでいる西宮にダメージはない。が、このままだとじり貧になる。

 

(このまま遠距離から攻撃を続けられたら、いつか絶対にあたる)

 

 いっそのこと突撃するか逃げるかして相手の隙を見つけるかと考え始めた時、

 

「西宮、少し札を分けてくれ。今日はあまり持ち合わせがなくって」

 

 司が申し訳なさそうに言ってきて、西宮は思わず前につんのめった。

 

「バカかおまえは! 少ないなら少ないなりに考えて……………………あ~も~! 仕方ないな!」

 

 西宮はポケットに手を入れ、森羅万象(アカエゾ)の札を何枚か取り出した。そして、司に手渡そうとした時、こめかみに風の塊が直撃し、手に持っていた札をばらまきながら吹っ飛んだ。

 

「西宮!」

 

 司の声が上がる中、さらに西宮を数発の火球が襲った。

 

 司はすかさず散らばった札の一枚を拾い、解き放った。攻撃は止んだが、手応えはなかった。チラリと西宮の様子を肩ごしに見たが、地面に突っ伏して動かないでいた。

 

 飛び出してきた襲撃者が手に札を持ち、西宮に向かって行く。

 

 司がフォローに向かおうとするのを邪魔するように火球やツララが飛んで来たが、軽やかな動きでそれを避け、西宮と敵との間に立ち、

 

「バカっ!」

 

 と、西宮が叫んだ時にはもう遅かった。

 

 司が踏んだ札が炎を上げて彼を包んだ。「あ~あ」と声を上げる西宮の目の前で、脱皮するように燃える黒装束を脱いだ司は、まだ黒装束だった。

 

 黒装束の司は「ぜえはぁっ」と肩で息をつき、西宮は口を尖らせ、

 

「応援合戦遊戯会を控えて、札の消費を出来るだけ抑えたい相手はトドメが刺せると思ったら直接札をはりにくる。そう考えて罠を仕掛けたのに~」

 

「って、いつの間に!?」

 

 残念げに立ち上がった西宮に、司は驚きに目を見開いて聞いた。

 

「今に決まってるだろ。普通に地面に仕掛けたらバレるから、せっかく札をばらまいて紛れさせたのに」

 

「……そういえば、やられたのに平気なのか?」

 

「部分強化から全体強化に切り替えたから、ダメージは最小限だよ」

 

 服についた土埃を手で払いながら答える。

 

「だが、ばらまいた札じゃ敵が来る所にうまいこと落ちるか分からないはず」

 

「そうだよ。だから、倒れてから手を伸ばしてはったんだよ。敵の視線は反撃にでる司に集まるだろうと思ったしね」

 

「私が反撃すると――!」

 

 司の目が変わった瞬間、西宮は指を鳴らした。

 

 次の瞬間、西宮の背後から音もなく迫って来ていた襲撃者が、地面にはられた札から放たれたカマイタチによって、なます切りになった。

 

「お前達のお仲間からもらった、本命のトラップ用の札だ」

 

 崩れ落ちた襲撃者に、勝ち誇った西宮が言い放った。

 

「どうして後ろから来たのが分かった?」

 

 司だけでなく、周囲の木々にいる襲撃者にも動揺が広がっているのが分かり、西宮は足元にある札を回収していく。

 

「戦闘中に言い争っていたら、後ろから不意打ちかますのは当然だろ。あとは、気配が感じられなくても、俺の後ろを見ているおまえのリアクションで……勘だよ」

 

 札をポケットにしまう西宮を見ていた司は、しばらく驚きに固まっていたが、ふっと笑い、

 

「さすがは私が狙うのに相応しいターゲットだ」

 

 西宮は顔をしかめた。何でまた欲しくない所で評価が上がるんだろう。

 

「貴様ばかりに良い恰好はさせん! 私の実力も少し見せてやろう!」

 

 司がクナイを投げると、木に突き刺さった。すると、その木に潜んでいた襲撃者が仲間の援護を受けて、司へと接近する。

 

 西宮が見ていると、司は〝穿つ〟の札を目の前に浮かせ、

 

「武身強化(クロエゾ)が浮いた!?」

 

「空破穿拳(くうはせんけん)!」

 

 札に拳を叩き込むと、拳大の衝撃波が放たれ、カウンター気味に接近する相手を撃ち抜いた。

 

 倒れた相手を一瞥してから、

 

「まだやるつもりか? 倒れている数より動ける数が多いうちに退いた方が楽だぞ」

 

 しばし沈黙が落ち、木々の間から出てきた襲撃者は倒れた仲間を回収して退いていった。

 

 西宮は黙ってそいつらを見送ってから、

 

「武身強化(クロエゾ)って浮くの?」

 

「森羅万象(アカエゾ)に多少の張力があるように、武身強化(クロエゾ)にも多少の浮力はある。当たり前だ」

 

「へ~」

 

 納得して、西宮は相槌を打った。

 

 司は木に刺さったクナイを引き抜き、

 

「今日は邪魔が入ったから退くが、近いうちに雌雄を決しよう!」

 

 素早い動きで姿を消した。

 

「雌雄を決するって……まだ狙われるのかよ、俺」

 

 ドッと疲れた西宮は、肩を落とした。

 

 風を切りながら走る司は、

 

(西宮が見せた罠は、それほど驚くべきものではない。罠を得意とする者ならばしばしば見せる死んだふりだ…………だが)

 

 思わず、愉悦に隠れている口元が歪んだ。

 

(それを、異世界から来て二か月しか経っていないド素人が考えつくか!?)

 

 このことから、司もまた自分が狙う相手の実力を改めることにした。

 

 

 応援合戦遊戯会を二日後に控えた樽勝は、騒然としていた。

 

「副会長が帰ってきたって!?」

 

「うん」

 

 樽勝の生徒会のメンバーは、その朗報に顔を輝かせた。

 

 最近のツツジ会長の指示は、確かに効果的な成果を上げていた。だが、暗黙の了解を破る結果重視の荒っぽいものなのだ。

 

 会長が何としても勝ちたいという気持ちは分かるし、それは自分達も同じ気持ちだ。が、さすがにやり過ぎと思うのも事実。しかし、『空知』の称号を持つ会長に、面と向かって直談判するのは怖い。

 

「それで?」

 

 何故かしばらく留守にしていたが、副会長ならば何とかしてくれるかも、という期待をこめて聞くと、メンバーの女子生徒は不安そうな顔を見せ、

 

「すぐに会長に会いに行くって……今、生徒会室。誰も入って来るなって」

 

 いくら何でも一人では、と思い、男子生徒も不安そうに顔を曇らせる。

 

 突拍子もない激しい音が、校舎を揺らした。

 

 生徒会のメンバーは示し合わせたわけでもないのに同時に駆け出し、生徒会室のドアを叩いた。

 

「会長! 会長!?」

 

 返事はなく、静かに開けられたドアから、黒髪の少女ツツジが姿を見せた。

 

 細められた冷たい双眸に、駆けてきたメンバーは息を呑んだ。

 

「何ですか、騒々しい」

 

 聞かれ、最前の男子生徒がようやく口を開け、

 

「か、会長、副会長は?」

 

「少し体調が悪いそうで、帰りました。残念ながら応援合戦遊戯会には出れそうにないですわね」

 

 ピシャリと言い切った会長に、追求できる人はいなかった。

 

「ところで、『北斗』の動向は?」

 

 ドアの所でそのまま話し始める。担当していた女子生徒に目を向け、彼女は青い顔で、

 

「は、ははい。依頼を受けた以上、戻るつもりはない……って言ってます」

 

 怯えた様子を気にも留めず、ツツジは耳にかかっていた黒髪を手で直す。

 

「依頼人は?」

 

「それは……」

 

 彼女は小さく首を横に振った。

 

「……仕方ありませんね。もういいです」

 

 ツツジはメンバーを見渡し、

 

「利羅は?」

 

「変わらずです。待遇が悪いとブーブー言ってます」

 

「バターサンドでも差し入れしなさい」

 

 意外性に溢れた相手だけあり、捕まえても利羅だけは油断がならなかった。捕まっていると聞いて一つ頷いてから、

 

「一年生の中から戦力になりそうにない生徒から札を徴収。二・三年に分け与えなさい。あと、闇討ちグループにも帰還命令を。手に入れた札を同じように二・三年に。あとは本番まで休みを取らせなさい」

 

 そう指示を出して、会長は生徒会室のドアを開け、

 

「私は少し生徒会室を片付けておきます」

 

 ツツジの背が低かったため、最前の男子生徒はドアのあいた所から中が見えた。会長の机に半ば隠れるように倒れていた、薄赤い髪の生徒の姿が。

 

 ドアはすぐに閉じられ、鍵をかけられた。

 

 まさか、見間違いだと頭を振るが、再度ドアを叩いて会長に開けさせ、確かめる勇気は彼になかった。

 

「…………やっぱり、今回の会長は、らしくないな」

 

「うん」

 

 それでも、出す指示は合理的で勝つためのものだった。

 

 

 そして、応援合戦遊戯会当日を迎えた。




次回更新は火曜日予定です。
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