北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』 作:カムラー
「と、言うわけで、利羅を助けに樽勝に行くニャ~!」
『おお~!』
西宮は目の前で腕を突き上げている三人を見て、こめかみを指で揉みほぐす。
「ちょっと待て」
止められ、音頭を取っていたカムイちゃんが疑問符を上げる。
「どうしたニャ西宮? 本番当日だっていうのにテンション低いニャ」
「あ~よかった。今日が応援合戦遊戯会当日だっていうのは分かってるんだな」
「当然ニャ。もうツイッターにも書いたニャ~」
と、カムイちゃんはスマホ画面を西宮に見せる。そこには「おはようていざん。今日は暴れちゃうニャ~」というコメントがあった。
透と翡翠がすでに乗り気なのを見れば、知らなかったのは自分だけなのは分かる。ここ数日調べもので別行動を多くとっていたため、それは別にいいのだが……。
「なら、なんで午後に本番を控えているのに、わざわざ小樽に行くんだよ。間に合わなかったらどうすんだよ。いや、それ以前に会長を助けにってどういうこと?」
「当日までに利羅から何も連絡がなかったら、樽勝に捕まっているはずだから助けに来てくれって、樽勝に行くっていうメールに書いてあったニャ」
そう言えば、あの会長はカムイにだけは行く先を教えていたのを思い出した。
「……なんでわざわざ当日に、しかもカムイに頼むんだよ。生徒会の人に頼めばいいのに」
西宮はため息をつきつつ、後ろ頭を手でかく。
「それはおそらく、当日ならば樽勝の主だった戦力がサッポロに来て、学園が手薄になるからだろう。昨日までなら万全迎撃態勢が整っていて小樽駅から出ることもできなかったはずだ」
「なるほど」
「それと、生徒会の人に樽勝に行くと言ったら力ずくで止められていたでしょうし、準備や運営などで忙しいでしょうから気を遣ったのかも……」
「…………」
翡翠と透の説明で日時と人選には納得できたが、まだなぜ助けに行かなくてはいけないのかという思いはあった。ハッキリ言って単独で敵地に向かって捕まるなんて、自業自得ではないのか。
だが、カムイちゃんは拳を固く握り、背中に炎のオーラを背負う。
「利羅にはお世話になったし、いつか借りは返したいと思っていたニャ。利羅を助けに行く。これは決定事項ニャ! どうしてもって言うなら、西宮は来なくてもいいけどニャ」
二〇一三年のカムイちゃんと利羅の話は、西宮も聞いた。確かに利羅にはカムイちゃんだけでなく、カムラーも大きな恩がある。
「……カムイ達がいなかったら予選突破できないだろ……え~っと、今が八時半で、応援合戦が十一時からで、遊戯会予選が一時から四時まで。大体フィールドの六丁目まで一時間ちょいかかるから、応援合戦をサボっても、遅くても二時半にはフィールドに行かないと厳しいのか」
しっかりと時間の引き算を開始する西宮を見て、三人は分かっていたかのように笑う。
「……ところで、生徒会の方達、お仕事大丈夫だったんでしょうか?」
ポツリと呟いた透の言葉で、四人はシ~ンとする。
「……ちょっと見てから行くかニャ」
好奇心も刺激され、カムイちゃんの提案にみんな賛成した。
カムイちゃん達は少し離れた曲り角から、生徒会室前の様子を窺っていた。
生徒会室前では、せわしなく動く生徒会メンバーに加え、
「すみません、荒谷先生。色々手伝ってもらって」
白衣姿の荒谷先生もいた。
「ふん、別に構わない。それに、あの玄武院に裏方が務まるとも思えないしな。あいつは本番でどういった形でもいいから盛り上げてくれればいい。それで樽勝よりもうちの学園が優れていると知らしめられればいい」
相変わらずの札教学園第一主義に、聞いていた四人は大きめの汗をかいた。
「樽勝の人達は何時に来る予定だ?」
メガネ学生が聞けば、ニコニコ学生が書類をめくり、
「生徒会の人達は少し早く九時にはこっちに来て手伝ってくれるらしいよ」
「応援団の人達は九時に大通入りで、一般の生徒達は十時ぐらいから来るそうでぇ~す」
三つ編みグルグルメガネの女生徒が付け足す。
そして、生徒会のメンバーはテキパキと荷物をまとめ、順次運んでいく。
……………………(とんぼ)。
「ビックリするぐらい平常運転だニャ」
コクコクと、カムイちゃんの言葉に他の三人が頷く。
「会長の存在意義って……」
と、生徒会のメンバーが大荷物を抱えて近づいてきたので、四人はサッと壁際によって気配を消す。
「会長は何やっているんだろうな」
話ながら荷物を運んでいるせいで、メンバーはカムイちゃん達に気づかない。
「花火でも用意してるんじゃない?」
「今年は何をするつもりなんですかねぃ」
「ほら、あんな馬鹿のこと考えてないで大通公園に急ぐわよ。あいつのフォローで忙しいんだから」
生徒会メンバーが通り過ぎてから、四人は壁際から離れる。
「これは……どうあっても連れてこないわけにはいかないニャ」
最後の会話に、今期生徒会の底知れない信頼というものを感じ、カムイちゃんはやる気を強めた。
「……なんか、カムイとマネージャーの関係を見ているみたいだ」
「私とマネージャーはあんなキラキラしたものじゃないニャ~」
苦虫を噛みつぶしたような顔で、カムイちゃんは吐き捨てた。
「おい、そこにいる奴ら、ヒマなら手伝え」
背後からの声に、四人は肩を跳ねあがらせた。
振り返ると、段ボールを抱えた荒谷先生がいた。
「いや~、それがこれから樽勝に会長を救出しにいかないといけないんで」
やんわりと西宮が断りを入れると、その内容に荒谷先生の眉が動いた。
「救出? おまえらに助けられるのか?」
実力を蔑んだ目は、明らかにカムイちゃんと西宮の二人だけに向けられていた。
「うっわ~……この前回のサッポロを救った英雄に対しての物言い、信じられないニャ」
荒谷先生はカムイちゃんの話の途中で段ボールを抱え直し、
「まあ、あいつが捕まっているんなら、それには何か意味があるんだろうな」
さも何も聞いていなかったように、
「流したぞ」
「たぶん、異世界から来た人の株が上がるような話は一切したくないんだと思います」
荒谷先生の徹底した異世界嫌いに、もはや四人は言葉が無かった。
「っていうか、生徒会長が敵に捕らわれているかもしれないって聞いて、何もないのかニャ?」
「基本的に、教師は生徒主体のイベントに口を出さないんだ。自主性だ、自主性」
「何でもそれで通そうというのは悪しき風潮だと思うけどニャ」
これまた聞いてない風を装って、荒谷先生は時計を確認し、ワザとらしく「オッ」という顔をして生徒会メンバーを追って歩き出す。
「お祭り男がいないとイベントも盛り上がらないし、早い所連れてこいよ……あ、人質交換でおまえら二人が捕まってこい」
「それが担当する生徒にかける言葉かニャ!」
すたこらと去っていく荒谷先生の背中に、カムイちゃんの怒声が飛んだ。
四人は十時半に樽勝の敷地前に着いた。
「ここが樽勝か」
西宮は校舎を見上げ、札教以外の札を学べる学園に興味深そうだ。
「札教よりは広くないけど、虱潰しとなると時間がかかりそうですね」
透の言う通り、当てもなく一人の人間を探すとなると、一日仕事になりそうなぐらいの広さはある。
どうしようかと四人が苦慮していると、何人かの樽勝の生徒がその横を通り過ぎていく。
「なあ、ちょっと居残りの生徒多くないか?」
翡翠に言われ、樽勝の中を覗き見る。
言われてみれば、もうそろそろ応援合戦が大通公園で始まるというのに、それなりの生徒がいるように思えた。
「そうですね。札教でしたら残るのは札が無い生徒と、イベントごとに興味のない生徒ぐらいなんですけど……」
「こんなにうちの闇討ちグループは札を奪うのに成功していたのかニャ」
「う~ん、ちょっとした罪悪感が芽生えるな」
「残っているということは札を持っていないだろうから敵にはならないはずだな。何人かに会長の場所を知らないか聞いてみるか?」
翡翠の提案に、西宮は難しそうな顔で唸り、
「人質の場所なんて、一般学生は知らないと思うぞ」
その時、カムイちゃんは「あ!」と声を上げて三人の注目を集める。
「こういう場合って、わざと騒ぎを起こして利羅のもとへ行ってもらう人をつけるのが様式美、なんじゃないかニャ?」
名案とドヤ顔をするカムイちゃんに、透は「う~ん」と苦笑し、
「会長の場所を知っている人が誰か分からないので、後をつけようがないですよ」
「…………いや、試してみるか」
顎に手を当てて考えていた西宮は、カムイちゃんの提案に乗る。
「本気か、西宮?」
「もちろん。この人数で探すのは大変だろ」
と、西宮が取り出したモノを見て、三人は大よその作戦を理解した。
薄暗い狭い一室で、利羅はパイプ椅子に寄りかかってバターサンドを口に入れる。
「あ~あ、見張りはいなくなったけど、札がないと脱出もできねえな~」
この部屋に閉じ込められ、気がついた時は布も札もスマホも全て没収されていた。窓は足元にある小さいもので、肩でも外せない限りは抜け出せないし、ドアは鍵をかけられピッキング技術でもなければ開けられない。
現状、逃げ出すことは不可能だ。
「カムイが助けに来てくれればいいんだけど、問題はどうやってこの場所を教えるかってことだよな」
スマホもないから連絡は取れないし、この部屋には紙もペンもない。窓でも開けてバターサンドの包み紙でも捨てるかな。と、利羅が小さな窓を開けると、
「…………ん? なんか外が騒がしいか?」
もう学園にはそんなに人が残っていないはずだと、寝そべって窓から外を覗き、聞き耳を立てると、
「モンスターだ!」
「逃げろぉ! 札が無いから逃げるしかねえ!」
驚くような叫び声が聞こえてきた。
「小樽にモンスターって、聞いたことないぞ?」
利羅の視点からは逃げる人の足元しか見えず、何が起こっているか全く分からないが、かなり騒ぎになっているのは間違いない。
「なんなの、あのモンスター!? 見たことないわよ?」
「ピンクだ! ピンクの悪魔がやってきたぁ!」
「何体いるんだぁ!?」
悲鳴じみた叫びを聞き、利羅は「ん?」と首をひねった。見たこともないピンクの何体もいるモンスターに、心当たりがあった。
すると、トコトコと歩いてきた手の平サイズのモンスターとバチッと視線があった。
「もにょ~! もにょもにょもにょ~!」
利羅を指さし、モンスターは飛び跳ねて奇声を上げる。
しばらく時間が経ち、ドアがガチャガチャとなり、バンッと荒々しく開けられた。
「もにょ~!」
「親玉出た~!」
楽しげに悲鳴を上げた利羅の目の前に、もにょもにょかむいが現れた。
次回更新は火曜日予定です。