北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』 作:カムラー
「ホントにいた」
「すぐに見つかってよかったですね」
「敵に捕らわれるとは、まったく軟弱な」
もにょもにょかむいの後ろから、西宮、透、翡翠が顔を出す。利羅は面目無さそうな苦笑を浮かべ、
「みんなで来てもらって悪かったな」
「お礼ならカムイちゃんに言え。助けに行くと言い出したのも、探し当てたのもカムイちゃんだ」
と、チャンスとばかりに翡翠はもにょもにょかむいの頭を撫でながら言った。
「サンキュー、もにょ蔵」
「もにょもにょ!」
もにょもにょかむいは細い腕をグルグルと回し、利羅の胸元をポカポカと殴る。利羅は笑いながら腕を伸ばしてもにょもにょかむいの額を押しやる。
「悪い悪い。その姿だと、どうしてももにょ蔵って言うクセがついてて」
リーチの長さが全然違うため、もにょもにょかむいの腕はむなしく空転する。その様が可愛いものだから、透と翡翠はホッコリとした目で眺め、癒されていた。
そんな様子を最後尾で見ていた西宮は半眼で、
「しかし、提案しといてなんだけど、本当に反則級の能力だな。どっからこんな数の仲間を呼び寄せているんだか」
ひょいっとドアから顔を出して廊下を見回せば、あっちにもこっちにも大小様々なもにょもにょかむいの仲間が闊歩していた。
「騒ぎを起こすのと人手を増やすのと、一石二鳥の作戦だったぞ」
「久し振りに見るもにょ化したカムイちゃんは、また一段と可愛らしかったですし」
透のべた褒めに力が抜けた西宮は、「あっそ」と口から力なく呟き出した。同じカムラー同士だが、二人はカムイちゃんの見る場所が確実に違うようだ。
「これ以上騒ぎを大きくするとマズイから、そろそろ帰ってもらえ」
「もにょ!」
もにょもにょかむいは利羅に突っかかるのを止め、ビシッと敬礼して応え、何やら腕をうにょうにょと動かす怪しい踊りを始めた。
「西宮、ちゃんと『羊蹄山の水』は用意しているんだろうな?」
「当ったり前だろ。カムイと違って、用意もしてないのに変化させるか」
西宮は五〇〇ミリのペットボトルに半分ほど入った水を見せる。以前羊蹄山の水汲み場まで行って汲んできたものだ。
「もにょもにょ」
仲間を帰還し終わったと、もにょもにょかむいが手を上げて主張する。
変なモンスターがいきなり消えたため、樽勝全体がキョトンと呆けたように静かになった。この隙にさっさと脱出しようと、部屋から廊下へ順番に出て行く。
「それじゃ、みんなでさっさとサッポロにかえ――」
と、利羅が部屋から出た瞬間、爆発が五人を襲った。
小規模ながら激しい爆風は五人を吹き飛ばし、壁や床に叩きつけた。
「一体何だ?」
背中を打った衝撃から咳き込み、翡翠は苦しそうに声を出した。
「油断した。トラップだ」
爆心地にいた利羅が一番ひどい恰好だ。爆発のせいで髪が焦げてチリチリとなり、服は煤で汚れ、壁にさかさまに叩きつけられていた。
「だ、大丈夫なんですか?」
「問題ない。これぐらい日常茶飯事だ」
そんな所からも生徒会メンバーの苦労が窺えて、透は気まずそうに口をつぐんだ。
「カムイちゃん、大丈夫か?」
「も、もにょ~」
もにょもにょかむいは目をグルグルと回しているぐらいで、怪我はない。
「……ぬぅああ!」
いきなり上がった声に、みんなの視線が西宮へと向けられる。彼は一番離れていたので、爆風に背中を押されて床に転んだ程度のはずだが。
「どうした、西宮?」
四人に背中を向けていた西宮は、膝立ちで起き上がってゆっくりと振り返る。
四人は思わず固まった。
西宮のお腹辺りが水で濡れていた。そして、床に目を向ければ、彼の体で押し潰されたペットボトルの残骸が転がり、小さな水たまりが出来ていた。
その水は…………『羊蹄山の水』。もにょもにょかむいがカムイちゃんに戻るために必要なもの。
『うぅわわああああああ~!!』
叫び声を上げて一斉に動き出し、
「寝ろ! 浴びろ! とりあえず体をこすりつけてみろ!」
四人は痛む体も忘れてもにょもにょかむいを引っ張ってきて、少量の水たまりの上を転がし、西宮のシャツを脱がしてそれもゴシゴシとこすりつける。
「もにょ!? もにょもにょもにょ!」
もにょもにょかむいが悲鳴を上げるが、四人は懸命に試みる。
…………………………………………(とんぼ)。
「戻らないですね」
先程よりも目を回したもにょもにょかむいが、打ち上げられたマグロよろしく廊下に横たわっている。
「……西宮、予備は?」
「寮にある」
まあ、今手元にあるなら、あれほど慌てなかっただろうし。
「今から寮に行って水を取って来て、カムイちゃんを戻してここから大通公園に向かうとなると、三時は超えるな」
利羅の言う通りだ。そしてその時間は、考えていた二時半を大幅に過ぎてしまう。
時間を聞いた途端、西宮、透、翡翠は力が抜けたように腰を落とした。
「どうする?」
「モンスターに勘違いされるもにょもにょかむいは公共交通機関に乗れないだろうし」
「タクシー……はダメですね。五人で割ってもいくらかかるか分かりませんし」
シンっと静まり返る。体のダメージも少なからず影響し、名案どころかやる気も沸いてこない。こういう時に根拠もなくポジティブ思考でみんなを引っ張ってくれるカムイちゃんも、今は「もにょ」としか言えないもにょもにょかむいとなっている。
「俺に考えがある。任せろ!」
一人立っている利羅が、えらく自信たっぷりに声を出す。
「会長」
「大丈夫なのか?」
暗い顔で見上げてくる後輩たちに、利羅はことさらに明るい顔で、
「俺を誰だと思っている。適当な称号がないから『幻惑の布使い』と周りに言わせている男だぞ。布さえあれば何とかしてやる!」
…………(とんぼ)。
「自信満々にイタイことを言っているような気がするのは気のせいだろうか」
「触れたらダメだ」
「あ、あの~、それで、どういう布を用意すればいいんでしょうか?」
「細長い布だ。赤とか明るい色のものならなおよし!」
時間はない。それにここは樽勝、何がどこにあるかもよく分からない。三人はすぐさま言われたものを見つけに動いた。
大通公園六丁目の屋外ステージの前。多くの観客が囲む中、応援団員を後ろに控えさせ、高下駄に年季の入った(ように見える)山伏装束を着た団長が腕を組んで仁王立つ。
彼が睨みをきかせる方向から、野太い声で樽勝の校歌を合唱させる一団が現れた。それに合わせ、札教も校歌を歌い出し、太鼓を荒々しく打ち鳴らす。
周囲の観客も盛り上がりを見せる中、樽勝の応援団が札教の応援団と一定距離を開けて止まり、応援団長を筆頭に両者睨み合う。
そして、両応援団から団員が出てきて演舞を披露する。観客の学生達からは荒々しい野次が飛び交う。
一つ大きく太鼓がなると、演舞がひとまず終わり、両校の野次もおさまる。
両校の応援団長が一歩ずつ前に進み出て、
「逃げずにやってきたことだけは褒めてやる! だが、今年も連敗の歴史を刻むことになるだろうがな!」
「ほざけ! そっちこそ尻尾を丸めて学園に引っ込み、奥歯をガタガタさせていなかっただけ褒めてやる!」
「はっ! 勝てる勝負から逃げるバカがいるか!」
「あ~バカだから自分達が負けることも分からないんだな!」
軽いジョブを撃ちあった団長の二人は、ギンッと睨み合い、
「自分達が過去にどれだけの大敗北をかましたのかも忘れるような素敵脳の持ち主が、高尚に人間の言葉を使おうとするからバカが露呈するんだ。分かってますか~。今何連敗中か言ってみろ~」
「あ~嫌だ嫌だ。過去の栄光ばかりに執着する老害思想! そんなもん日向で茶でも飲みながら猫相手にでも語ってろ! 若者は未来だけ目指して前に進む!」
「同年代相手に訳の分からない若さアピールしてんじゃねえぇ! こっちだって若さを武器に前を目指しているんだよ! おまえらとは、そのエネルギーが違うんだ!」
「違うって言うそのエネルギーはどうやって計ったんですか~。見えるんですか~、重さがあるんですか~」
「あるんです~! 感じ取れない奴はそのエネルギーが低いんです~。それか目が悪いんです~」
「裸眼よりメガネ男子の方がキャラ立ちしやすいんだよ!」
両応援団長を筆頭に、何だかわからないやり取りはヒートアップしていく。
そんな舞台裏で、始まったことでようやく一息つけることができた札教の副会長は、お茶を飲みながら応援合戦を見ていた。
「今年もすごい勢いですわね」
声をかけてきた人に目を向ければ、少し背の小さい長い黒髪が綺麗なツツジがいた。
「あ、ツツジ」
昔から見知った顔に、副会長の顔が穏やかに微笑む。それに合わせて、ツツジもニッコリと笑う。会場の準備やら何やらで朝に顔を合わせていたが、のんびりと話をできる余裕なんて全然なかった。
副会長は役員用に買ってある(自分が飲んでいるパックのお茶と同じ)ものを、ツツジに渡す。
「顔を合わせるのは久しぶりですわね。元気でした?」
渡されたパックにストローをさして、静々と飲むツツジの目の前で、副会長の顔が疲労に染まる。
「……すんごい世話がかかる奴がいて、毎日大変よ」
「ふふふ、楽しそうですわね」
「冗談」
「で、その会長さんは?」
聞かれて、副会長は肩をすくめる。
「ツツジだって知っているでしょ。あいつが大人しく裏方に徹して作業を手伝うと思う? またぞろどこかに隠れて、良い所を独り占めしようと狙っているんでしょ」
「そんなこと、敵である樽勝の生徒会長に言っちゃっていいんですか? 暗黙の了解を破ると副会長自らが公言しているようなものですわよ」
「ツツジだって大方見当はついてるでしょ。だから、そっちも暗黙の了解を破ったんでしょ?」
副会長はお茶を飲みながらあっさりと言う。利羅がいる時点で、どうせ今年の応援合戦遊戯会は暗黙の了解破りが多発すると思っていた。とは言え、最初に破ったらさすがにお詫びをしないといけないな~と思っていた所、樽勝から破ってくれた。負担が一つ減ったので、むしろお礼を言ってもいいくらいだった。
「でも、ツツジにしては思い切った作戦だったわね。他の役員……特にあの副会長とは口論にならなかったの?」
「やっぱり皆さん何としてでも連敗を止めたいという気持ちが大きかったので」
言外に問題ありませんと込める。
「なるほどね。けっこう決まりにうるさそうな副会長が乗ったところを見ると、その気持ちの大きさもうかがえるわね」
飲み終わったお茶のパックを潰し、手近のゴミ箱になげる。
「でも、その副会長は? ピンクの髪しているから目立つ人なのに」
準備の時に目にしていなかったのを思い出し尋ねると、ツツジは眉をハの字にして、
「ちょっと無理がたたって、今日はお休みなんです」
「そうなの? 残念ね」
「はい」
副会長はふと、隣に立つツツジを眺め、
「ところでツツジ、あなた」
「はい?」
「…………あ、ううん、何でもない」
「気のせいだった」と笑って、手を振った。
檄文披露や演舞を終え、昼食タイムに入る。その間に、一時から始まる遊戯会に向け、資料館から運ばれてきたキューブがステージの中央に鎮座する。
キューブの周囲の床に――ステージギリギリのところまで――札を円状にはる。札を踏み越えるとフィールドに飛ばされるのだが、一斉スタートをする学生の数を考えるとこれでも小さいぐらいだ。
学生達が大通公園で思い思いに過ごしている時に、
「ようやく会えましたわね、『北斗』」
すみの木の影にいた長谷川司の背中に、ツツジが声をかけた。
「……会長か。こっちは会う必要はないと思っていたが」
「隠密行動に長けたあなたは三日目に必要な戦力ですわ。変な一年生にかまけていないで、予選を突破することだけに集中なさい」
「それは無理だ。なぜなら私は任務遂行を第一に考える。そして、任務を途中で変更することはしない」
しばらく、ツツジは黙って司の背中を見続けたが、彼の意見が変わることはなかった。一つ嘆息し、
「まあ、いいでしょう。予選を突破するならうるさいことは言いません」
前に進み、隣に並んだ時に彼の背中に手をやる。
「ただし、個人的判断で予選突破が出来そうになかったら、ただじゃすましませんわよ」
司は背中に置かれた手から、一瞬強烈な圧を感じた。が、それは一瞬であったため、ツツジは何事もなかったように前に進み出ていった。
司はゴクリと喉をならした。が、彼はすぐさま切り替えてキューブを見張る作業に戻った。
西宮が朝からサッポロを離れたのは当然知っている。追いかけることはできたが、振り回されて振りきられ、その間にフィールドに入られてはマズイと考え、追わないことに決めていたのだった。どうせ、フィールドに行くためにはここに来て、キューブに飛びこまないといけない。
一時まで数分となると、集まっている学生達から我慢できないという熱気が伝わってくる。簡易テントで作られた本部から、マイクを通して会場にいる学生達に放送が流れる。
『それでは、遊戯会を開始いたします。フィールド内では学生同士敵対するも協力するも自由ですが、フィールド外での戦闘行為は禁止します。フィールド六丁目にある屋外ステージをゴールとし、ゴールをした者に対しての攻撃も禁止です』
正式なルールは確かに少なかった。
『終了時刻の四時までにゴールした者だけ、明日以降の遊戯会に参加できます。みなさん明日も参戦できるよう、頑張ってください』
そして、秒針がコクコクと時間を刻み――一時になった。
『スタート!』
開始の合図と共に、多くの学生がキューブへとなだれ込んだ。
『さぁ~! ついに第一〇一回応援合戦遊戯会の遊戯会が開始されました! 最初にキューブに飛び込んでいくのはいずれも腕に覚えがある実力者集団! そして、実力者集団が戦っている隙をついて抜けようとする一か八か集団! 遅くなりましたが、実況は札教学園放送部、淵田ことフッチーが中立放送でお届けします! そして解説はある意味異世界人を差別しない男、この先生を見ていると教育の明日を憂いてしまうでお馴染みの、荒谷先生です!』
『異世界人はさっさと脱落しろ』
『はい、ぶれない一言をありがとうございます! なお、遊戯会の模様は会場に設置されている大型モニターの他、テレビ・ラジオでも放送されます!』
熱狂的なアナウンサーは生き生きとしゃべっていた。
次回更新は火曜日予定です。