北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』   作:カムラー

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秘密兵器登場

『さあ! 十二丁目に下り立った学生達がすぐに戦闘に入りました! 乱戦で状況説明が困難なため、まずは荒谷先生になぜ両校実力者から投入していくのかについて説明してもらいましょう』

 

『相手が強いのに弱い奴を出したら一方的にやられて数を減らされるからだ。二日目の競技がまだ秘密だから、両校できるだけ実力関係なく人数を残したいんだ。応用がきくからな』

 

『なるほど』

 

『それに、やはり一番にゴールする生徒は目立つからな。そこは譲れないんだ』

 

『そうでした!』

 

 そこを引き出したかったのか、フッチーは盛り上げるためにマイクに力を入れる。

 

『初日に最初のゴールを切った人は間違いなくヒーロー! 今年は誰がその栄誉を手に入れるのでしょうっか! そして、この第一陣がゴールし始めた時に、第二陣である賑やかしのコスプレ集団。リミットぎりぎりに出発する第三陣が続きます』

 

 会場の大型モニターを見ている観客から、最初の歓声が上がり、すぐにアナウンス席でも映像を確認する。

 

『――おおっとぉ! 一人混戦とした場から抜け出た! あのピンク髪の小柄な学生は……』

 

 フッチーは本部から回されてきた書類を受け取り、

 

『樽勝のアザレア、三年生だぁ!』

 

 樽勝の学生達から、一際大きな声が上がった。

 

 放送席の隣にある本部では、書類を渡しにいったツツジが席に戻ってきた。

 

「アザレアさんって少し副会長に似ているわね」

 

 隣に座る札教の副会長が、モニターを見ながら話し始める。

 

「髪色が同じですからそう思うだけではありませんか」

 

 余裕たっぷりの笑顔でツツジは答える。

 

「フィールドに出没するピンク髪の実力者の報告を受けていたから、てっきりそっちの副会長だと思っていたんだけど……」

 

「アザレアさんにはここしばらく、ブランクを埋めるためにフィールドに通ってもらいました。そちらに警戒されすぎないよう、わざと目立つ特徴をつけて……こちらの副会長だと思わせられれば儲けものだと」

 

「じゃ、もしかしてあの髪って」

 

「カツラですわ」

 

 副会長は渋い顔をしてそれを聞いた。ピンク髪の実力者がいると聞いて、おそらく向こうの副会長が見込みのある者を鍛えているのだろうと思い、放っておいた。

 

(だって、そんな特徴的な髪色をしている人が、二人もいるなんて思わないじゃない。それに――)

 

 利羅がいないせいで仕事に忙殺されていたのも、その情報を深く追求しようとしなかった一因だ。副会長は脳内で、利羅への罰ランクを一つ上げた。

 

「彼女はうちが用意した秘密兵器ですわ。ブランクさえなければ、確実に一位を取れる人材を用意しましたの」

 

 ツツジは副会長の後悔が分かっているかのように、得意気に語る。

 

「ブランク……髪の色が違うとしても、確かに去年まであの子を見た記憶がないわね。印象に残らないような実力だったのかしら?」

 

 ツツジは笑顔でモニターを見ていて、それには答えない。まだ始まったばかりで、全てを教えるつもりはないのだろう。

 

「でも、一位を確信するのは早いと思うわよ。うちだって黙って見送りはしないわ」

 

 副会長の言葉に呼応するように、モニターにアザレアを追う影が現れた。

 

『きたぁ~! 札教のウルフこと、三年桐山がアザレアに迫るぅ~!』

 

 札で強化して走っているのか、桐山はアザレアを抜いて立ちはだかる。

 

『今年三年の札教のウルフは、去年は素早さをいかして目を見張る活躍を見せたからな。今年は一位を目指してとうぜ――』

 

 荒谷の解説の途中で、二人はぶつかり合った。桐山は素早い動きで札を使って牽制し、アザレアが札を投げ飛ばした後、身を屈めて彼女の懐に入ろうとした。

 

 次の瞬間――

 

『し、信じられません。一瞬です! 一瞬のうちに札教のウルフがやられましたぁ~!』

 

 フッチーの実況通り、大の字に倒れた桐山の横をアザレアは走り抜けていった。

 

『荒谷先生! 一体何が起こったのでしょうか!?』

 

 聞かれた荒谷は、札教の生徒がやられて少し悔しそうな顔をしながら、

 

『自爆だ』

 

『自爆?』

 

『つまりは、相手の速さを逆手に取ったカウンターだ。ウルフは投げ飛ばされた札を全部避けたつもりだったんだろう。が、アザレアは一枚だけ浮力をきかせて奴の前に留めたんだ。そしてその札、おそらく〝硬化″の札で空気を固体化させ、それに気づかなかったウルフがぶつかったんだ』

 

 説明を聞いて、フッチーは顔をしかめて額を押さえる。

 

『うわ~、痛そう~……でも、ウルフは前にある札に気づかなかったんですか?』

 

『前と言っても若干上に、だ。人は自分の視線より上のものに気づきにくいからな。ましてや相手は平均よりも小柄だ。自然と視線は下にいきがちになる。上にある浮力をきかした武身強化(クロエゾ)の札に気づかなくてもしょうがない』

 

 フッチーは頷き、改めてマイクに向かう。

 

『さぁ~! ウルフを倒したアザレアは独走状態だぁ! 慌てて追いかけようとする札教の生徒を、樽勝の生徒が阻む阻む!』

 

 モニターに向かって、観客達は歓声を送る。最初からかなりの盛り上げを見せている。

 

「ホントにすごい実力ね」

 

 ム~っと、副会長は悔しそうにしながらもアザレアの実力は認めた。

 

「並の相手では足止めにもならないと思いますよ」

 

 ルンルンっとした雰囲気がツツジから感じられ、副会長は唇を噛んだ。

 

「……盛り上がりそうな相手に見えるけど……」

 

「ふふふ、誰に期待しているんですか?」

 

 ボソッと呟いた言葉を聞かれ、副会長は反射的にビンッと背中を伸ばした。

 

「べ、別に、誰にも期待なんてしてないわよ!」

 

「単独で止められるとしたら、彼だけでしょうね。私としては、来ることがないのを祈ります」

 

 あえてツツジが名前を出していないのが分かって、副会長は腕を組んでプイッと明後日の方を見る。そのため、「来ることは絶対にないでしょうけど」というツツジの呟きを聞き逃した。

 

 

 その日一番の歓声と落胆の声が同時に上がった。

 

『強い! 強すぎる! 並みいる札教の生徒を退けて、今、アザレアが堂々のゴールイン! 見事一位となりましたぁ!』

 

 大型モニターでは、フィールド六丁目のステージに立つ、ピースするアザレアが大写しされている。

 

『いや~、まさかまさかの独走でしたね。この結果をどう見ますか、荒谷先生?』

 

 フッチーは大人げなくぶすくれている荒谷に聞いた。

 

『……まずは、アザレアの札の扱いが上手いとしか言いようがない。これが称号を持たない一生徒だとはとても思えないな。得意とするのがどちらか分からないほど、武身強化(クロエゾ)も森羅万象(アカエゾ)も使いこなしている』

 

『ですね。まさに死角なし! と言ったところでしょうか』

 

『彼女が相手なら一位を取られても半ば仕方がないが、最悪なのは……札教の生徒が躍起になって必要以上に襲い掛かったことだ』

 

『残らず返り討ちにあいましたね。しかも、けっこう簡単に。樽勝の生徒はアザレアが戦っている間に何人かは彼女を追い抜くことができましたが、彼女が一位になった方がいいだろうと思って、譲りましたね』

 

 荒谷は顔をしかめて、ため息を一つする。

 

『まあ、それはたぶん正解だろう。第一陣の勝負は七対三で樽勝の勝ちだな』

 

 解説の間に続々と生徒はゴールするが、その先着十人は全員樽勝の生徒だった。

 

『いや~、これほど圧倒的に差がついたのも近年では珍しいですね。さぁ~、そしてぇ? こちら六丁目の会場に目を向けますと、第二陣のコスプレメンバーが準備をしていますが……随分とえらいことになってますね』

 

 気づけば会場には、魔法使いコスやアニメキャラコス、ぬいぐるみなどの恰好の人達。みこしや龍などの大掛かりの手作り作品を持つ人などが集っていた。

 

『いつ頃の遊戯会からこんな奴らが出始めたんだ』

 

 声の感じからも、荒谷が呆れているのは分かった。

 

『とは言っても、いつも白衣姿の荒谷先生もある意味コスプレですよね』

 

『違う!』

 

 第二陣のメンバーも続々とフィールドに入っていくが、大半はパフォーマンスに熱中して、タイムオーバーになるのだ。

 

 さっきまでは熱狂していた会場に、魔法使いと龍の戦いが始まって笑いが溢れる。

 

『しかし、気になるのは未だに札教の生徒会長の姿が見えない、ということですね。彼なら目立つ第一陣か、コスプレをする第二陣あたりに出没すると思ったんですが』

 

『…………玄武院が現れることがなかったら、全ては異世界人が悪いことになるな』

 

『はい、ただいま異世界人の皆様に濡れ衣が着せられましたぁ。まったく気にしないでくださ~い』

 

 第二陣が活躍する時間帯は見ているだけで面白いので、放送も和やかなものだ。

 

 ちなみに今モニターでは、龍の必殺技の火吹きが誤爆して、龍が見事に炎上してたりする。

 

 

 二時半が過ぎると、第三陣がスタートし始める。この時間帯になるとまた生徒同士の戦いが激化していく。とはいえ、のんびりと戦っている暇はない。だから、第三陣の生徒同士はあまり戦わない。彼らを邪魔するのは、先に来ていた第二陣の生徒だ。

 

 一転してお邪魔キャラに変わる第二陣。もしぬいぐるみにやられようものなら、当分は友達にからかわれることになるだろう。

 

『さぁ、ほとんどの生徒が出発しましたね。ただいまゴールから来た情報によりますと、ゴールしたのは札教が六七人に対して、樽勝が一〇五人』

 

『第三陣には目立った生徒もいないから、おそらく人数差は左程変わらないだろう。二日目の競技にもよるが、今年札教は厳しいかもしれないな』

 

 荒谷の解説に頷きながら、フッチーがモニターの実況を開始しようとした時、

 

『おや? 何でしょうか、会場の一角が騒がしいですね』

 

 観客の人ごみを、大声を上げて道を譲ってもらい、かき分けてくる人がいた。

 

『どうやらコスプレをした生徒のようですね。遅刻してしまったのでしょうか? 猫耳姿の可愛らしい生徒ですね』

 

 その放送に、何人かが敏感に反応した。

 

 人ごみから最初に抜け出したのは、

 

「ネギ味噌納豆でご飯をかっこんでいたら少し遅れたニャ~!」

 

「あ~も~! だからそんなに余裕はないって言ったんだ!」

 

 カムイちゃんに引き続き、肩で息をつく西宮が出てきた。

 

「仕方ないだろニャ! 昼食も食べずにいたら力が出ないニャ!」

 

「カムイちゃんの言う通りだ。少しギリギリになったとしても、何か食べておいた方がよかった」

 

「それに三時前には間に合ったんですし、いいじゃないですか」

 

 棍を持つ翡翠とマント姿の透は、髪を乱し、ようやくといった感じに出てきた。

 

「まず私が先に入って迎え撃とうとする敵がいないか確認してくる。少し待ってから来い」

 

 翡翠はステージに上がり、キューブへと飛び込む。

 

「あ、私も行く」

 

 透は観客からの視線から逃げるように、翡翠を追ってキューブに飛び込む。

 

 残されたカムイちゃんと西宮に、自然と観客の視線が集まる。もうステージ前に残っているのは、二人だけだ。

 

 少し待てと言われたから西宮は休憩も兼ねて待つが、周囲の視線に居心地は悪そうだ。だが、一般人と違ってこの注目をチャンスと思い、

 

「北海道育成アイドル、北乃カムイだニャ。今日のために用意していたモノマネを一つ」

 

 カムイちゃんはコホンと咳払いを一つし、

 

「皆さんにはちょっと殺し合いをしてもら」

 

「おまえの苗字でバトルロイヤル前にそれはやめろ!」

 

 慌てて西宮のツッコミチョップがカムイちゃんの脳天に決まる。

 

「もう行くぞ!」

 

「にゃ~!」

 

 頬を赤くした西宮は、カムイちゃんの首根っこを掴んでキューブに飛び込んだ。

 

『な、何だったんでしょうか?』

 

『アホ以外の何者でもない』




次回更新は火曜日予定です。
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