女教官は墜とされたい 作:コーネリア大好き
やる事は至って簡単。キャリバーに乗って、決められたコース上を飛行。観客達を沸き立たせた後に会場へと着陸し、衆目にその姿を晒す。
そう至って簡単。今アマギ・ケイが破廉恥極まる出で立ちであるという一点を除けば。それっぽく隠してくれるパーツこそついているものの胸の膨らみと尻の輪郭を浮かせるどころか目立たせている信じられないスーツであるという一点を除けば。
『教官? 何故、映像をカットしているんですか?』
「……映像がノイズ混じりな気がして切った。音声だけでも問題はないでしょう別に」
慣れ親しんだコクピットに乗り込み2本の操縦桿を握り締め、シートに体を固定する。その様な姿勢を取った上で通信回線を開き、コクピット内部の様子を他人に見せるとしよう。
ちょうどカメラの角度は搭乗者を少し上の角度から映す。つまり、ケイの信じられないパイロットスーツ姿をほぼ丸ごと教え子達に見せつけるのだ。
無論許容できない。普段冷静な大人であろうと努めているだけではない、一人の人間としてこの様な痴態はちょっとくらい隠しておきたいという切実な気持ちからである。
(……でも、どうせ最後にはコクピットから出ていかなきゃいけないんだったなぁ)
今日何度目かのため息をつくが、それで目の前の試練が終わるわけでもない。嫌だ嫌だと言って取り下げてもらえるほど大人の世界は優しくないのだ。
とはいえ通信は音声だけに絞り、ケイは教え子二人に呼びかける。
「ハヤテ、タクミ。私達がやるべき事は理解できてる?」
『はい。指定されたコース内を飛行する、それだけですよね?』
「そう。さして難しくはない事だけれど、規模だけは大きいから各メディアもきてる。だからくれぐれも勝手な行動を慎む様に。わかってる? タクミ」
『わかってます! 教官……そんなに俺の事、信用なりませんか?』
「たとえ貴方が前回の戦闘で最も戦果を上げたエースパイロットだとしても人間として信用できない」
『こ、こんなにもひたむきで真面目な俺なのに!』
(今のところ一番姿を見られたくない子だ……)
ズラリと並んでいる3機のキャリバーで最も特徴的なカラーリング、真紅の機体。つけられた名前は『デュランダル』。搭乗しているのはケイが指導した生徒の中でも最優秀と言われる、トマリ・タクミだ。
口数は多く、ついでに緩い。17という年相応と考えるべきだが、死線に立つにはイマイチ真剣さを感じない少年だ。
「ともかく学校時代の訓練と同じ。あまり気負わずにお願いね」
『了解……!』
式典の目玉である飛行パフォーマンスまであとわずか……かつての愛機の体内でケイはじっとその時を待つ。
こんな風に目の前の事だけを考えて操縦桿を握るのは随分と懐かしいと感じている。とっくの昔に前線からは退いたというのに、気持ちは未だに戦う事を忘れられない様だ。
(まぁ……無理なマニューバをしなければ大丈夫)
その時が来た。マミ広報官からの「どうぞ!」という通信に背中を押される様にケイは操縦桿を押し込み、エクスカリバーを発進させる。背面のブースターが火を噴き、格納されていた倉庫から動き出すと共に全身に僅かながら圧力がかかる。
破廉恥極まりないパイロットスーツだが、最新技術を用いているだけの事はある。コクピットにかかる負荷を可能な限り軽減してくれている事が初速からも判断でき、一人のパイロットとしてケイは「ほぅ」と声を漏らしていた。
(わざわざ作っただけの事はある。エクスカリバーの反応も良い……飾り立てられているとはいえ、これなら多少なりとも戦闘は行えそうなくらい。10年もあれば機体性能はここまで引き上げられるのか)
それまでの羞恥心もすっかり忘れ、空を駆けながらケイは新技術で作られたエクスカリバーの性能にうんうんと小刻みに頷く。未だパイロットとしてのこだわりは胸の中にあり、そして『どれだけ有用なのか』を真剣に考え込んでしまう程だった。
そうして熱中していたところでケイはハッとする。こんな風に年頃の女性らしい心よりも、一人の兵士としての精神を優先してしまうから良くないのだ、と。
(……元は一般人で、普通の学生だったのにね)
頭ではそんな風に過去を振り返りながら、ケイの操縦はブレてはいなかった。予定通りに3機のキャリバーはコース上を飛行し、地上にいる人々はその姿を見上げ歓声の声を上げる。カメラ越しに足元を覗き込めば、憧れや喜びを目に宿した人々の顔がよく見えた。
(こんな女をまだ英雄として見てくれるだなんて)
10年。子供が小学校に入学し、そして卒業するよりもずっと長い。中学卒業辺りまでだ。それだけの月日が経ち、なのにまだ人々はアマギ・ケイという人間を『皆を救った人』として認識してくれている。たとえそれが結婚できない理由の一つだとしても、ケイは『よかった』とほのかに気持ちを昂らせてしまっていた。
少し高度を上げ地上から離れていく。ここから大きく旋回して会場へ戻り、そして10年前の英雄は今……と皆に見せつけるわけだ。幻滅されない事を祈るしかない。
などと、浮き足立っていた気持ちを僅かに萎ませていたところで、センサーが反応するよりも先にケイは頭上の雲からゆっくりと降下してくる複数の機影を認めた。鋭角が目立つ、攻撃的なフォルムである。即座に識別をかけるが味方の信号ではないと即座に判断し、彼女は僚機の回線へと叫ぶ。
「二人共、上からレイダー。数は五。式典会場目掛けて降下してきている。ここで迎撃します」
『ッ!? きょ、教官よく気付きましたね?』
『さっすが俺達の教官!』
「センサーよりも先に視覚情報を優先しなさい。といってAIによる自動補正を信じ切れというのは酷な話か……ともかく、エンゲージ!」
少し高度を下げればすぐに式典会場が見える。そんな位置で戦闘を行えば少なからず地表に対して被害が出るだろう。となれば、今ここで敵を撃退するしかない。たとえ戦闘を想定していなかったシチュエーションだとしてもだ。
一つ問題があるとすれば突然の襲撃まで想定していなかった事。ハヤテとタクミの機体は内臓兵器の類で対抗できるだろうが、式典様に飾り立てられたエクスカリバーでどこまでやれるのかという話である。
コクピット内のディスプレイが武装一覧を見せてくれるが、案の定使えそうなものは見当たらない。となると……できる事は一つである。
「時間をかけたくない。私が前に出て敵の注意を惹く。二人はその隙に地上に降りて民間人の避難を優先して」
『しかしそれでは教官の負担が……! 私達二人の方がずっと!!』
「私より貴女達の方が優れていると?」
『―――了解です』
ハヤテの判断は速い。『チーム』内では参謀的役割を任されているだけあって、戦力的に見て最も期待できないのがケイのエクスカリバーがこの状況で囮になるには最適だと理解してくれていた。
カメラが敵影を鮮明に映す。やはりレイダーだ。10年前とは異なり、生命体の表面を装甲で覆い疑似的な二足歩行兵器に仕立ててある歪な造形は、何度見ても生理的な嫌悪感を抱く。
数は五。自分が鍛え上げた教え子に後を託し、ケイは機体を加速させる。
「んっ、ぐっ」
直後に全身が悲鳴を上げた。全盛期よりも更に上をいくエクスカリバーの加速は、既にパイロットの座を退いた身であるケイの肉体には酷なものだった。加えて『古傷』もある。単なる飛行程度ならまだしも、戦闘行動に移る為の加速など到底耐えられはしない。
それでも操縦桿を握る手に込められた力が緩まないのは、彼女がかつてエースパイロットであった事を何よりも証明している。
突撃を仕掛けてきたエクスカリバーに気付いてか、レイダーが携行している銃器を構える。弾道予測はそこまで難しくはない。これまでの戦闘から偏差射撃を行える程利口な知能をしていない事はわかっているのだ。
「保ってよね、28歳……!」
敵機の発砲に合わせ、機体を縦に回転させる。予想通りのコースで狙ってきた射撃を難なく回避し、敵陣まで肉薄したところでエクスカリバーはマニュピレーターを尖らせ、手近なレイダーの腹に貫手を叩き込む。気味の悪い水音に続き、マニュピレーターは見事にトンネルを開通させた。
キャリバーの装甲ならば貫手で撃破する事は容易い。代償にそのまま腕部をダメにするという弱点はあるが。
早速一機仕留めたところでその残骸を蹴り飛ばし、ケイは敵の注意を惹くべく更なる加速を試みる。本来は近接戦闘用に調整されていた機体である。変則的な加速などお手の物。集団を翻弄し、そして自分を追う様に仕向けるなど慣れたものだ。
ぎゅん、と急制動と共に方向転換する。何か動く度にケイの筋肉は叫び、臓物がひっくり返ったかと思う程の吐き気が押し寄せてきた。そしてその一瞬の不調は、それまで雄々しく戦っていたエクスカリバーの勢いを殺すには十分すぎる。
「ああもうっ……情けな―――」
自分がそうする様に仕向けたというのに、いつの間にか黒々としたレイダーの機体がエクスカリバーを囲い込んでいた。ほんのわずかな隙を逃さずに詰め寄ってきた判断力は、群体と考察されているだけの事はある。
未だ消えない体の痛みに舌打ちしながらもせめて防御姿勢を取ろうかというところで、思い切りレイダーの一撃が機体へと叩き込まれる。コクピットにまで衝撃が走り、コクピット内に一斉にアラート表示が溢れた。致命的な損害ではないものの、このままではまずいとしきりに叫んでいた。
(あぁ、うるさいうるさい。わかってるからそういう死ぬ死なないは)
まさか全機撃墜ができるなどとは思っていなかったが、それでもこうも容易く窮地に陥るとは悔しいものである。判断力と精神力はまだまだだが、肉体はアマギ・ケイという人間がパイロットとして不適格なのだと証明してしまっていた。
とはいえじゃあ諦めて死ぬなど到底ありえない。ではどうするか……などと機体の右腕が歪んだ状況からの打開を考えていた、その時である。
エクスカリバーを包囲していたレイダーの内の一体が背後から両断される。一刀の下に切り捨てられた残骸は赤黒い液体をこぼしながら地上へと落ちていった。
『教官! 無茶しないでください!』
「タクミ……! なんで!?」
『なんでも何もないでしょうが! 戻ってきたんですよとんぼ返りでね! ここで戻らなきゃ男じゃない!』
地上に降りろ、という指示を無視してタクミは駆けつけていた。それなりにドスの効いた声色で訴えかけたつもりだったのだが、この何を考えているのかさっぱりわからない少年は納得がいかなかったらしい。
デュランダルに備えつけられた高周波実体剣は敵の血で赤く塗れ、すぐに次の獲物を求めて空中を駆ける。
タクミという少年が近接戦闘において誰よりも秀でているとまでは理解していたものの、間近で見るとその戦い方には神がかったものがあった。腕部から展開するたった二本の実体剣を振るい、彼と彼のデュランダルは残る敵機を次々と切り裂いていく。反撃の隙さえも許しはしない。
「……私より、ずっと強い」
10年前、かつて自分が辿ってきた道を別の誰かが歩いている。まだ若く青臭かった時だからこそできた姿が今目の前に広がっていて、ケイはなんとも言えない気持ちに駆られた。
デュランダルが最後のレイダーを斬り落とし、敵機の反応が完全にセンサーから消え去る。そこまで確認してケイはひときわ大きなため息をつき、
「タクミ。まずは助けてくれてありがとう。あのままだと危険だった。そして次に……上官の命令を無視した事に関して後程処罰を」
『え~!?!? 俺、教官が危ないと思って戻ってきたのに! あ、いやでもありがとうなんて言ってもらえるのは結構嬉しいかも……』
「はぁ……さっきの動きが貴方のものだなんて、誰が信じてくれるのやら……」
『えへへ、そんなに褒めなくても~……って、え、教官!? なんすかそのカッコ!?』
「は?」
『うおっっっっっっっ、でっっっっっっっっっっいや平常心、平常心で……!?』
一体何を言っているのか、と首を傾げていたケイは通信の映像に映っているタクミの顔がどんどん赤くなっている事に嫌な予感を覚え、つい先程まで切っていたエクスカリバーのコクピット内映像がどういうわけか復活していた事に気付いた。
先程の一撃でシステムのどこかに障害が起きたのだろう。よりにもよって通信回線が馬鹿になってしまったらしい。つまるところ、今タクミから見て画面内にはあの信じられない格好が映り込んでしまっているわけで……
「いや、その、この服装には理由があって、着てくださいと頼まれたわけで」
『教官! ご無事ですか!? タクミが勝手にUターンして……ってひゃああ!?!? なんなんですかその、その……その服はぁ!?』
『教官、まさかそんなので式典会場に降りるつもりだったんですかぁ!? あ、やば、鼻血が……』
「う、うるさぁい! 二人共今すぐ通信カット、今見たもの全部消去! でないと、でないと……ひぃぃぃん……!!」
タクミに続いて戻ってきたハヤテも合わせ、教え子の前ではしたない姿を晒してしまった事実。しかもこれから大勝利をおさめて帰還してきたところを狙ってくるメディアにも今の姿を見られてしまう恐怖。
ナイーブな感情など消えさり、アマギ・ケイ28歳の頬に涙が伝うのだった。
〇
月面大戦10周年記念式典にレイダーの襲撃!?
迎え撃ったのは人類希望の星『GOE』とその指導者アマギ・ケイ!
28歳の美人教官 太陽の下に晒すのは10年前と変わらぬセクシースタイル!?
『あのスタイルであの服装はもはや兵器だろう』大統領語る
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〇うお……でっっっっっか……
〇条約違反だろこれ
〇消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ
〇AIでスーツ部分だけ肌の色に補正とかできるんじゃないのこれ
「―――最悪すぎる」