女教官は墜とされたい   作:コーネリア大好き

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コーネリアもシャムナも好きですがラクシャータも好きです


女教官は一人で考え込みやすい

 久しぶりの実戦だった。それも愛機に再び乗り込んで。

 かつてアマギ・ケイは何度も何度もレイダーとの戦闘で刃を振るい、そして必ず生きて帰ってきた。

 それ故につけられた名前が『騎士王』。エクスカリバーを手に戦うキャリバー部隊の長として最も優れた存在であった。

 故に、レイダーの本拠地を叩くべく地球の全勢力が月面へと差し向けられたあの決戦の日。ケイは最後まで戦い続けた。今でもあの日の事をハッキリと思い出せる。

 

━━━アロンダイトとガラティンが中心部へ突入! 突入口を死守しろ!

━━━あんな大軍勢を、我々だけで!?

━━━未来の為に死ぬか、無駄死にか、どちらが良い!

 

 『ラウンズ』の仲間達を改造された月の内部へと送り込み、ケイは押し寄せるレイダーを足止めするべく戦いを挑んだのだ。

 残っていたキャリバーの数などたかが知れていた。つまりは死ねと言われている様なものだった。だがケイは、騎士王は生還した。エクスカリバーの武装を駆使し、ほぼ全損状態に追い込まれながらも。

 

 そこまで力を振り絞れる理由があった。そこまで全力で戦い続けられる原動力があった。

 ラウンズの一人、アロンダイトのパイロットである青年がいた。操縦技術ではケイには負けるものの、咄嗟の判断力と諦めない心が誰よりも強かった彼に……ケイは心惹かれていたのである。

 

 

「まあ、そんな彼、ガラティンのパイロットととっくの昔にくっついていたんだけどね」

「メディカルチェックの流れから、どうしてこんな話になるんですか」

「昔話に花を咲かせるのもたまにはいいでしょう。折角ケイがまたエクスカリバーに乗ったわけだし」

「思い出したくない話を聞かせられるというのは……あまり」

「なぁに暗い顔してるの。貴女昔からそうよね〜」

 

 スンと鼻を効かせれば消毒液の匂いが感じ取れる純白の医務室。丸椅子に腰掛けて渋面を浮かべるケイに手をひらひらと振っておどけるのは、『保健医』のララである。

 年は35。レイダーとの大戦時にはケイ達『ラウンズ』の専門医を担当しており、当時から若きパイロット達のフィジカル、そしてメンタルケアまで行っていた、器量のある女性だ。

 終戦10周年式典の翌日、ケイの肉体に不調はないものの念には念をという事で検査が行われた。結果は異常こそなかったものの、データそのものはあまり良くはない。

 

「……改めて見せておくけど、もう貴女はキャリバーに乗れる体じゃない。日常生活を送る分には支障はないけれど、これ以上強い負荷がかかったらどうなるかわからない」

 

 先程の軽い声色から一転し、ララは携帯デバイスの画面をケイへと手渡してくる。内容は検査結果だ。

 要約すればこうである。

━━━月面での戦闘によりアマギ・ケイの肉体は臓器に深刻なダメージが与えられている。治療を施した上で完治は不可能。

 つまりは、かつて最強と謳われた騎士王は今や剣を持つ事さえ許されなくなったのだ。

 

「また暗い顔してる。前向きに考えなさいな。前線に飛ばされる事はもうないだろうって」

「その代わりに10年前と同じ事を繰り返しているんですよ。10代の子供を、キャリバーに乗せるだなんて……」

「ええ、よくわかってる。だからねケイ。貴女がやるべき仕事はあの子達を支える事。大人として、教官として、かつてキャリバーに乗っていた者として」

「……」

 

 ララはまっすぐな瞳でケイを見つめ返してくる。人をからかうのが大好きと自称する彼女だが、時折こうして真面目な人間性を覗かせる事がある。大抵そういう時は、相手に心からの激励を送るのだ。

 彼女の目から見て今ケイは迷っている様に見えるのだろう。そうでなければわざわざこうは言ってくれない。

 

「……わかりました。私も、自分にできる事を精一杯頑張ってみようと思います」

「それでよし。暗い顔ばっかりすると男に逃げられちゃうんだからね〜」

「っ……」

「そ、そんなにマジな顔で悲しまないでよっ。私が悪かったから。

 

 

(別に、好きでこんな顔してるわけじゃないし。ちょっと三白眼なだけだし)

 

 医務室を後にし、向かう先は『GOE』のメンバーが住む基地内の『教室』である。

 キャリバーに乗る者の中にはまだ10代の若者達もいる。彼らは正式に軍に配属されながらも、生活の中で若者同士でコミュニケーションを取る場として『教室』が設けられる。

 そして『教室』での指導を行う教師役がケイというわけである。ララも軍医でいながら、同時に少年少女達の悩みや相談を受ける保健医役を担当しているのだ。

 

(大体何よ、ずっと前から付き合っていたとか。あんなに出撃続きでどこにそんな元気があったの……)

 

 さてケイ本人はと言えば教え子達の元へトボトボと向かいながら、ララとの会話でぶり返してしまったかつての未練に心を囚われつつあった。

 忘れようと思ってもなかなか忘れられないもので、ふと脳裏をよぎればしばらくの間は苦い気持ちとは拭えない。今回の場合、過去の出来事のみならず現在までもしこりを作っていた。

 

(トマリ・タクミ……彼の動き、全盛期の私よりも上かもしれない)

 

 教え子の一人。おしゃべりでイマイチ掴みどころのない少年。ただしその操縦技術は10代の、それも訓練期間を経た時期の人間のものとは到底思えない。

 訓練生の時点で他の生徒とは何かが違うとは感じていたが、実戦に出るたびにその気持ちはだんだんと大きなものになりつつあった。

 そして何よりも……

 

(……『リュウセイ』の事ばかり思い出す)

 

 蘇る光景は想いを寄せていたアロンダイトのパイロット。タクミの様に明るく、そして勇敢な男だ。

 当時ケイは口数も少なく馬鹿が付く程の真面目だった。それ故に作戦中はまだしもプライベートではてんで周囲と仲良くできず、半ば孤立さえしていた。

 そんなケイに手を差し伸べてくれたのがアロンダイトのパイロットだったのだ。だがそんな彼も今は所帯を持っている。しかもチームの仲間と。

 

「……はぁ」

 

 一体何がダメだったのやら、と28歳にもなってケイは重苦しくため息をつく。良くない癖であるとわかっていながらも最近は文字通り息をする様に出てしまう。

 このままでは婚期を逃す。大戦の英雄という無駄に大きい看板だけを背負って、だんだんと。

 

(っ、駄目駄目。こんな事ばかり考えていたらみっともない。プライベートの前にまず目の前の仕事。とにかく教室に行って、それで……)

 

「うあ〜……」

 

 気を取り直そうとしたところでケイは頭を抱え、基地内の通路に唸る様な悲鳴を響き渡らせる。次なる悩みが何かと言われれば、それはつい昨日全世界に向けて中継された最悪な姿である。

 ボディラインがバッチリ見えるだけでなく、胸と尻までほぼ晒している様なあの変態的パイロットスーツ姿、それをしっかりと式典会場で晒す羽目になってしまった。

 もちろんあんなものを教え子達が見ていないはずはない。そして彼らは『教室』で今頃ケイの到着を心待ちにしているのだ。

 

(鬼教官で通してるのに……)

 

 あまりの悲しみと緊張感から涙を流したい気持ちに駆られながらも、恥ずかしいので行きたくないなどと子供の様な言い訳が通用する年ではない。

 眉毛をハの字に落ち込ませつつも、ケイは自分に言い聞かせながらだんだんと大人らしくビシッとした足取りで『教室』へと向かっていく。

 

「……ないよね?」

「誰か……か?」

「じゃあ……って来いよ!」

 

 通路の奥に位置する『教室』から途切れ途切れだが賑やかな声が聞こえてくる。年頃の少年少女らしく騒いでいるのだろう。

 絶対自分の話題だ、自信過剰な考えだけど自分の話題だ、と緊張しながらもケイはわざと履いているハイヒールの靴音を響かせて歩く。

 

(とりあえず第一声はいつも通り厳しめに、厳しめな感じで……)

 

 そうして入口に立ち、おほんと咳払いまでした上で自動制御のドアを開こうとし、どういうわけか認証用のタグを近づけるよりも先に開いた。内側から誰かが開けたらしい。

 

「え?」

「んおっ」

 

 誰が?と疑問に思うよりも先にケイの胸にどすんとぶつかるものがあった。少年の頭である。

 谷間に顔が埋まっているが、思春期特有の色気づいた気持ちを感じさせる染めた茶髪は判別できる。こんな派手な髪色の人間は一人しかいなかった。

 

「……トマリ・タクミ?」

「えっ? 何、教官?」

 

 視界が埋まっているせいなのだろう。慌てたタクミが行き場のない様子で伸ばした手はそのまま双丘を鷲掴みにし、突然の展開にケイの唇からは呻きが漏れた。

 

「んぅっ」

「え!?!? ちょっとあの、俺どこ触ってるんですこれ!」

 

 そこでようやくタクミは我に返って弾かれる様に離れてくれたものの、目の前に立っている人物がケイであると理解し、そして何かを確かめる様に両掌をワキワキと動かし、時代次第に青ざめていく。

 『教室』内にいる仲間達は一連の流れに様々な反応を取っていた。

 

「……あの、馬鹿っ」

「あははっ、たっくん変態でやんのー! 変態変態、あははは」

「柔らかそ……」

「教官ってあんな声出すんだな」

「きょ、教官違うんです! これその、全然教官が来ないからどうしたのかって話になって、それで誰か探しに行ってこいという事で俺になったわけでして!」

 

 一瞬にしてここに来るまでに固めていた意思が崩れ去り、ケイは頭が真っ白になった。怒りではない。強い羞恥である。

 その原因であるタクミはと言えば顔を真っ赤にして首をひたすらに左右に振りながら弁明を続けている。

 怒るべきか、怒るべきでないのか、そのどちらも判断がつかない。ただとにかく涙がこぼれ落ちそうになるのを堪え、ケイはバキッという音が聞こえてきそうな笑みを浮かべた。

 

「トマリ・タクミ。とりあえず席につきなさい」

「あっ、その、あっはい……」

 

 アマギ・ケイ28歳。その心中は穏やかではなく、荒れ狂う嵐の如く。

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