何故だろう。
青い海に青い空。片手に芝刈り機を持ち、その背に女子高生たちの掛け声を受けながら自分に問いかける。
何故だろう。
齢二十四にして特に定職に就かずバイトしていたはずなのに、何故か女子高生で芝刈り機片手に青一色の景色を楽しんでいるのは。
「おい」
時を遡り思い出してみれば丁度受験シーズン。適当に入れたバイトの最中。会場で迷子かましたバカ(知り合い)を追いかけてみれば何の運命の悪戯か二人まとめて女子しか乗れたいはずの機械に乗れてしまった。
「おい」
それからは殆ど強制だ。何か事情聴取は異様に長いしバイト代は入らないし本当にツイていない。
「……………おい!」
「あん?」
隣で立つ女を見る。
ドギツイ女。バケモノ女。傍若無人のワガママ女。俺から彼女を称する言葉は色々あるが、これが一番しっくり来る。
「何だよ、超人女」
「その呼び名を止めろ。ここでは織斑先生と呼べ」
織斑千冬。ISなるものの競技で一番強いやつ。
「それは申し訳ありませんね、織斑先生。仕事の邪魔なんでどっか行っといて貰えます」
「そうはいかん。お前の管理も私の仕事だ」
そんなものを仕事にされても困る。俺は立派な大人なのだ。管理される筋合いはない。自己管理くらい余裕でできる。
第一俺が知る中で一番自己管理できて無かったやつが人を管理できるとでもいうのだろうか。
「………できるんだろうなぁ」
ドイツに強制連行された時に見た感じではできていそうだった。部屋に戻った瞬間アレだったけど。
「失礼なことを考えているな?」
「………何のこと?」
刈った草を集めながら俺はため息を吐いた。
とにかく邪魔だ。昔の俺ならいざ知らず、今の俺が彼女と関わる理由はない。
そんな俺の考えを悟ったのか、超人女は俺の首根っこを引っ捕まえて顔を近付ける。
「大なり小なりお前は狙われるだろう。その時に自分を守れるようにしておく必要がある」
「え、何?俺狙われてんの?」
少しだけ、話が気になってきた。確かに世界に二人しかいないISの男性操縦者。研究者からしたら徹底的に調べ上げたいことだろう。
だけどそんな狙うとか下手したら犯罪紛いに聞こえそうなことまでするものだろうか。
「いや、やるんだろうなぁ」
俺は再び空を仰ぐ。
俺の知り合いの科学者であるあの天災女でも同じようなことをするだろうという確信がある。
もっとも、彼女ならばそうする前に理解できてしまいそうなものだが。
「………とにかく、お前にはその為の訓練をしてもらう。昔の様にビシバシ鍛えてやるから期待しておくんだな」
フフ、と笑う超人女。何だかとっても楽しそうでせうね?
やっぱりコイツは鬼だ。鬼女だ。一歩間違えればコイツが鬼嫁に進化したかと思うとゾッとする。
「止めろよな。俺がお前に勝てる訳ねーだろーが」
「誰が私に勝てと言った馬鹿者」
いや、この鬼畜女ならばそれくらい言いかねない。
そもそも、俺はこれから用事があるのだ。
「悪いけど俺今日は放課後山田先生と飲みに行くんだよね」
「………ほう?」
おっと、露骨に不機嫌になりやがったな?だって何かあの人から何か目が離せないし。
俺は未だ首根っこを掴む鬼畜女の手を解いて距離を取る。先程から感じる殺気が怖い。これほどの殺気はドイツで出会った少女と仲良くなった時以来か。
だが、俺にだって引けない理由はある。
俺にだって人生の春が欲しいのだ。一度目の春はなーなーでホットリミットして霧散して行ったが、今度こそは手に入れてみせる。
「ならば私も一緒に行こう。問題児どものおかげで飲みたいと思っていたところだ。ちょうど明日は休みなことだしな」
淡々と告げられた言葉に俺は顔を歪ませた。
冗談ではない。この鬼畜女は俺から春まで奪うつもりなのか?
この女は昔からこうだ。俺がナンパに出かければ何かにつけてもう一人と共に邪魔をする。
「テンメェ〜………」
もはや我慢の限界だ。ブチッという音すら聞こえてきた。
俺は腰を下げて足を回す。回転蹴りは確かに命中した。それなのに超人女は体勢を崩さない。
「見ねぇ内に重くなったんじゃねぇの?」
「成長したからな、お前が好む様な胸部装甲に」
「………お前、冗談とか言うんだな」
二重の意味。
胸部装甲なんて暗喩を使ったこと。そもそもの話、その胸部装甲が目測全く成長していないこと。
成長したというならばせめて片割れくらいには大きくなってから来いと言ってやりたい。
「言いたいことがあるならはっきり言え」
「言ったらお前がショック受けそうだからヤダ」
気遣いは最低限してやる。いくらかバケモノじみた女だとしても女は女なのだから。
「よし、気が変わった。やはり訓練は必要だ。山田先生との食事は断れ。今日は私に勝つまで眠れると思うなよ」
普通の女性………例えば山田先生が今の言葉を言ったのならばドキッとしたのだろうが、コイツが言うと恐ろしくて仕方がない。
こうなればもうコイツは言うことを聞かないのだ。
俺はポケットに入れていたケータイを取り出す。
「もしもし、山田先生ですか?───はい、実はその件で。急用ができてしまって───はい。すいません。はい。また後日」
ピッ、と電話を切って俺は超人女に断ったことをアピールしてやる。
ムカつくことに何だか満足そうだ。ふざけるな。
「こうなりゃもうヤケクソだ。乗ってやるよ、その訓練!吠え面かくんじゃねーぞコラ!」