告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:蝉連山
うちの家の隣には天才少女が住んでいる。
彼女の逸話は数知れず。
三歳くらいでパソコンを触って気づいたらアプリができてたとか。
小学生の頃に思いつきで発明した物が大学教授を驚かせたとか。
気まぐれに書いた論文が海外で取り上げられてテレビに出たとか。
それで海外の有名大学から勧誘を受けたけど「遠いから」と断ったとか。
その他色々。嘘か本当かわからないものまで。
周りはみんな大きな期待を向けていたものだ。
この子は将来どんな凄い人物になるんだろう?
エンジニアとして生活基盤を根っこから革命させるようなシステムを開発するのか、研究者として世界を揺るがす大発見をするのか、はたまた会社とか創業して誰もが知るくらい世界的に有名な人物になるのか。
きっと何になっても、素晴らしい業績を残す人になる。
そう信じて疑わなかった。
そんなお茶の間を賑わせていた天才少女は今――。
「あ、穂波だぁー。レスバで疲れたから肩揉んでぇー?」
部屋に引きこもって、ジャージ姿で毎日ネットに明け暮れていた。
◇
散らかった部屋。
脱ぎ散らかした服、チョコとかクッキーとか飴とかの包装紙、空のペットボトル。謎の難しい言葉が掛かれてる雑多なジャンルの本。不規則に並んだ青白く光る大量のモニターにぶおおんと低い音で稼働してるコンピュータ。何に使うのかわからないモアイ像。……本当になんだこれは?
そんな物でごった返した部屋の奥に元天才少女、
「あ、
「肩くらい自分で勝手に揉んでろ」
「ええー?」
「なんだよその不満げな声は……」
いつも通りのダメさ加減にげんなりする。
ミオが天才としてもてはやされていたのはもはや過去の話。
高校生になった今、元天才の幼馴染はこの薄暗い汚部屋に引きこもっているのだ。
「私徹夜までしたんですけど?」
「なにちょっと頑張った雰囲気出してんだよ。レスバするなら寝ろよ」
「仕方ないじゃん。こんな天才美少女が丁寧に指摘してあげてるのに向こうがめちゃくちゃな理屈で諦めないから」
澄ました顔で他人に責任を押し付けるミオ。
たしかにまあ、自分で美少女というだけあって容姿はめちゃくちゃ整っている。
座ると床に着くくらい長くて綺麗な銀髪。瞳は透き通るアメジストのような紫。色白でほっそりとしたスタイル。
父だか母だかの家系で北欧の血が流れているとかで、見た目には完全に海外の人形みたいだ。過去にテレビに取り上げられたのも、その容姿が一役買っていると思う。
でもこの散らかった部屋でジャージ姿でいる分には、ただレスバ相手にイキってる引きこもりJKにすぎない。
「向こうからは天才も美少女もわからんだろ。いいからお前は早く寝ろ」
「穂波つめたーい。幼馴染なんだからもうちょっと優しくしてくれてもよくない?」
「優しくしたらすぐ寝るのか?」
「うん、穂波がぎゅーして添い寝してよしよししてくれたら一発でおねむ」
「赤ちゃんか?」
俺――
六歳くらいの時、東雲家が隣に引っ越してきた。
そこで親にミオと引き合わされてからずっと一緒だ。
ミオが引きこもる前も後もこうして変わらず付き合っている。いわゆる腐れ縁である。
「穂波が添い寝してくれるなら赤ちゃんプレイも辞さない覚悟だよ」
「趣旨が違うし……そもそも生活能力だけ見たら今でもほぼ赤ちゃんだろ?」
「えっ、ひど!」
がーんとしてるミオ。自覚なかったの?
ミオは生活能力が皆無だ。食事とか風呂とか、平気で抜く。
一人にしておくとガンガン不健康になってくので、週に何回は必ず様子を見て飯を作って食べさせたり、風呂に入らせたりしている。ほぼわんこの世話に近い。
そのわんこが急に不満げに頬を膨らませ、ジャージのジッパーを下ろして胸元を見せつけてきた。
「じゃあ聞きますけど、穂波は赤ちゃんにこんなBIGな胸があると思うわけ!?」
胸を張るとだるだるの部屋着に無視できないくらいの盛り上がりができている。
そして必死そうに潤んだ目で見つめてくるミオ。
「……BIG?」
健全な男子なら盛り上がるべきなんだろうが、こうしているのが気の知れた幼馴染という状況のせいでいまいち盛り上がれない。
「なにその微妙な顔。別に十分あるでしょ? 触って確かめてみる? 穂波なら別に構いませんけど?」
挑発的に口の端を釣りあげて形の良い胸を掴んでくる。
けどもちろん、こんなからかい紛いの演技も日常茶飯事だし。
「いや赤ちゃんを触ってもなんとも思わないから」
「おいこら! 人の体を赤ちゃん言うな!」
「赤ちゃんプレイも辞さないとか言ってなかった?」
「赤ちゃんプレイと赤ちゃんは別でしょ!」
直前の演技はどこへ行ったのか。通じないとわかるやすぐにぷんぷんと怒ってくる。
ミオの顔面はたしかに非の打ちどころがないぐらいに整っているが、見ていてドキドキする事はない。ジャージ姿でぐうたらしてるミオは色気みたいな物とは皆無だし、容姿だってずっと見てるから流石に見慣れてきた。
幼馴染ってたぶん、そういう物なのだ。
……それにしたって生活の面倒くらいは自分で見れるようになってほしいけど。
「お前……俺がいなかったら生活どうすんだよ」
不意に思ったことが口をついて出る。
その瞬間――ぴたっと時間が止まった。
「穂波が――いなかったら?」
なぜかミオが凍り付いたように硬直している。
「な――なんで……っ? なんで……そんなこと言うの?」
「え」
「わ、わわ、私、何かしたかなぁ……? 穂波に嫌われちゃった……?」
「あの」
「ご、ごめっ、ごめんね? 悪いところあったら直すから……っ! そんなこと言わないで? 何処にも行かないよね……? 独りにしないで……っ!」
「いやいや待て落ち着け!」
いきなり震えだして、目の焦点が合わなくなってきたミオを慌てて揺する。
「例えばの話だよ! どこにも行かないって!」
「た……例えば……?」
肩を揺すってると、真っ黒だった瞳に色が戻ってきた。
「た――例えば、か。そっか、なんだぁ。いきなりだからびっくりしちゃった……」
「いや……びっくりしすぎだろ」
「ほ、穂波がそんなこと言うからじゃん!」
誤魔化すように肩をぺしぺし叩いてきた。
若干ぎこちないけど、普段の雰囲気に戻ってるようだ。
(……こいつ。たまに変になる時あるんだよなぁ)
昔から時折ミオはこういう風になることがある。
だいたいは何か誤解をしてるだけなので、それを解いたらすぐ直るけど。
「……じゃあ、そろそろ学校行くから。飯は冷蔵庫にあるの温めて食えよ。前みたいに忘れて倒れないようにな」
「はーい。問題ないよ、赤ちゃんじゃないからね!」
そんな腐れ縁のようにだらだら続いてる、お隣に住む天才幼馴染との関係性。
俺達の関係がおかしくなるのは、この日――俺が告白されてからのことだった。
カクヨムに投稿していた物のリメイク版です。
よろしくお願いします。