告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:じゅうぜん
目が覚めて、一瞬ここがどこかわからなかった。
(……あれ?)
散らかった部屋だ。
分厚い本。床に落ちてるラムネの容器。大量のモニター。謎のモアイ像。
なんかミオの部屋みたいなレパートリーだな……と思ってふと横を見たら、ミオが隣で丸くなって寝ていてびっくりした。
「おわ!」
「んー? なにー? どしたのー……?」
眠たげな声。布団がもぞもぞと動いてミオがゆっくり体を起こす。ふにゃりと半分だけ開いた目が俺の方に向けられる。と思ったらまた閉じる。まだ眠いようで頭が持ち上がり切ってない。メトロノームみたいに頭をゆらゆらさせながら口がむにゃむにゃと動く。
「ほなみぃ……?」
「……穂波ですけど?」
にへ、と口元が緩む。
「おはよおー」
「おはよう」
「ぎゅーしてー?」
「また今度な」
「えー……なんでー? ……めーれーはー?」
「命令……? なんの話だよ」
ゆらゆらしたまま謎に怒ってくる。
寝起きのミオを見るのは久々だ。
ミオは天才だけど、中身はだいぶ子供っぽい。
昔からこんな感じだけど、改めて見るとずいぶんあざとい。
……いや眺めてないで、なんで俺がここに寝てたのか聞き出さないと。
「ミオ。質問があるんだけど」
「んー?」
「俺ってなんでここで寝てるの?」
「あー……それはねぇ……」
揺れてる頭がゆっくりと落ち着く。
ミオの薄っすら開いてた目が俺を見て、
「おやすみぃ……」
「おい!」
眠気に耐えきれなかったのか頭がかくんと後ろに倒れた。
そのままぐらりと傾いていく。その頭が倒れ込む寸前でギリギリ枕を滑り込ませた。
「ちょ……危ないだろ」
ミオはもぞもぞ枕の位置を治して、幸せそうな顔のまま安眠に戻った。頭の安全を俺に任せないでほしい。顔から倒れたらお前もちょっと痛いだろ。
(……これはしばらく起きそうにないな)
溜息を吐いて、とりあえず体を起こした。
◇
ひとまず一階のキッチンに降りて朝食を作ることにする。
時刻はまだだいぶ早い。学校に行くにもけっこう余裕はある。
ミオの家には食材を常備しているので、簡単な物ならすぐに作れた。
とりあえずトーストと目玉焼きでいいかと朝食を作り始めつつ、昨日のことをぼんやり思い返す。
(……ほんと、なんで俺ミオの家で寝てたんだっけ?)
俺がミオの世話を見るのはだいたい夕食までの話だ。
それ以降は何もなければ隣にある我が家に帰ることにしている。
ミオの部屋に泊まることなんてほとんどなかったはずなのに――。
(なんか……昨日の記憶がちょっと無いな?)
熱したフライパンに卵を落とす。
その間も記憶を探るけど、ミオの部屋にいた理由が見つからない。
大雑把に、朝ミオの部屋に行ったとか、学校に行って授業を受けたとかは覚えている。ただし、昼とか、夜もところどころの記憶が怪しい。
ふとスマホを見てみたら、母さんに向けて『ミオが満足してないので泊まっていきます』と連絡していた。……こんな連絡しましたっけ? なんですか? 満足って。昨日の俺、何をしてたの?
「俺もついにボケが始まったのか……?」
「――ふぁぁ……、おはよぉ穂波ー」
怯えてたら、階段を降りてまだ眠たそうなミオがやってきた。
……昨日のことはよくわからない。
しかし、よくわからないことが起きた時、やはり怪しいのはこいつである。
「ミオ、俺なんで昨日ミオの部屋で寝てたんだっけ?」
「……えっ」
そこで、数秒の沈黙。
「そ、それはだって穂波が急に夜這いしてきて……」
「するわけないだろ!」
夜這いなんてするわけない。……ないよな?
こいつまた何か隠してる。今日こそは聞きだしてやる。
「おいミオ。隠してる事があるならはっきり言え」
「えっ? な、なんのことー?」
「めちゃくちゃ目が泳いでるだろうが! まさかとは思うが、俺になんか――」
「穂波、これ見て!」
「え」
突然に俺の前へ差し出されたスマートフォン。
紫の背景に移るハートマークが何重にも分裂して、みょんみょんみょんという音が頭の中に響いて――、
◆
「……ふぅー」
催眠にかかった穂波が虚ろな目でだらんと固まった。
危ない。ギリギリだった。寝起きで油断しすぎて全部バレるところだった。
大きく息を吐いて心臓の鼓動を落ち着ける。
ただ一つわかったこともあった。
「……催眠、寝たら解けちゃうのかー」
眠ると解けるのか。それとも単純に経過時間で解けたのか。
どっちにしても、催眠されてる間の記憶が曖昧になってたようなのは助かった。
(昨日のこと覚えてないなら、もう少し待ってもよかったな)
慌てて催眠を掛けちゃったけど、検証なら思い出す時まで待つべきだったと少し後悔する。
でも、今は次の催眠のことを考えるべきだろう。
「またハグしてもらおうかな……」
昨日のことを思い出して口元が緩んでしまうけど、小さく首を振った。
催眠アプリは穂波の告白相手に対抗するために作ったものだ。
それを私利私欲で別の目的に使うのはどうなんだろう?
昨日の夜、ずっと穂波を拘束しちゃったのもかなりよくなかった。
そのせいで違和感を持たれて追及されそうになったわけだし。
「そう……バレる可能性はちゃんと排除しなきゃ……」
安全を期すなら、昨日の記憶の違和感を消すだけでもいい。
「…………」
いいんだけど。
「……でも、いつ記憶が戻るかのテストがまだ出来てないから」
告白も『まだ結論は出せないように』して。
もう一つ、穂波にバレても呆れられるくらいささやかな催眠なら……別にいいよね。
「えっとじゃあ、今日の指示はですね――」