告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:じゅうぜん
「――んっ?」
ぱちぱちと目玉焼きの油が跳ねてる音で意識が戻った。
「やば、焦げてる……!」
「穂波? 大丈夫?」
「ああ……」
一瞬、意識が飛んでいたようだ。
寝不足だろうか?
首を傾げつつも、とりあえず目玉焼きの処理からだ。
少しだけ焦げた目玉焼きを皿に乗せる。
「目玉焼き、ちょっと焦げたけど……大丈夫か?」
「平気だよ。穂波の愛がこもってればなんでも食べられるから」
「おおそうか。じゃあ野菜も食べられるよな?」
「……あれは愛を弾くように作られてるからね!」
「そんなわけないだろ」
ミオと二人、適当な話をしながら朝食を用意して食べ始める。
しかしなんだか違和感があった。
(……あれ? なーんか忘れてるような)
首を捻ってもやもやした記憶を探ろうとする。
ただ頭の奥に霧が掛かっていて、知りたい部分が思い出せない。
(……まぁいいか)
そうしてるうちに思い出すのを諦めた。
大したことじゃなかったような気もするし。
そんなこんなで食べ終わった後。
まだ時間はあるけど、ひとまず着替えだけすることにした。
なぜかミオの部屋に俺の制服が畳んで置いてある。なんでだっけ?
「穂波、学校まで時間あるよね?」
「ん? そうだけど……どうしたんだ?」
準備を終えてソファにいたら隣にミオが座ってきた。
なぜかそわそわと体が揺れている。
「んー。なんか最近、穂波が冷たいじゃん?」
「そんなつもりはないですが」
「外も寒くなってきたしさ」
「……え、体温の話?」
「や、ごめん外は関係なくて。だから、えっと」
どうしたのかと思いながら、様子がちょっと変なミオの言葉を待つ。
「……ちょっとだけ『寂しい』なぁ……って」
「寂しい……?」
上目遣いのミオにどうしたのか聞こうとした瞬間、頭の中で音が鳴った。
みょんみょんみょんという間の抜けた音が脳内で反響。
そして俺の頭に――
「――そっか……そうだよな」
背中に手を添えて、ミオの体を横たわらせる。
その頭を俺の膝の上に置いて、膝枕の姿勢になった。
そして寝転んでるミオの頭に手を乗せて、そのまま撫でた。
「寂しい思いさせてごめんな」
「……ぁ」
そのままいたわるように頭をゆっくり撫でた。
「穂波……こ、これって?」
「え? ――『寂しくさせたら頭を撫でるもの』だろ?」
いつものことをやってるだけなのに、何をびっくりしてるんだ。
ミオがへにゃりと相好を崩す。
「そっか。ふへへ……膝枕まであるんだ……子供の頃みたい……」
そう言われて、頭の中にまだ小さい頃の映像が浮かんだ。
そうだ。昔はミオがよく不安がって泣くから、こうして頭を撫でていたのだ。
(あれ?)
……でも、その言い方はちょっと変だな。
「何言ってんだ? いつもしてるのに今更だな」
「あっ、そ、そうだね。しまくりだった! うん!」
ミオが慌てて頷く。
その顔を上から覗き込んだ。
「…………」
「な、なにー? どうしたの穂波?」
最近のミオはどうも慌ただしい。……なんか、似たようなことを何度か思っている気がする。でもその違和感は何かの理由で解決したような気もして……。
いやわからない。何があったんだっけ。どうも記憶が曖昧だ。ミオが変なのは確かなんだけど。
「お前、やっぱ変じゃないか?」
「変じゃないですけどー? 穂波の目がふしだらなだけでは?」
「節穴な」
……なんかいつもよりテンションが微妙に高い気がする。寂しいと言ってたのはどうしたのか。
なんとなくいいようにされてる気がして、ミオの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「適当言う余裕があるならそろそろやめていいか?」
「ふへへ……もうちょっと待って……――そうだ」
ふとポケットから紐の付いたぬいぐるみを差し出してくる。
「これ、穂波にプレゼント。日頃お世話になってるお礼で」
「……ルクスのぬいぐるみキーホルダー?」
「せいかーい!」
ミオがにこりと頷いている。
渡されたのはプリクルに登場する妖精キャラ『ルクス』の小さいぬいぐるみキーホルダーだった。星をモチーフにしたデザインがちりばめられた服を着てる、二頭身の丸みを帯びた小さくて可愛らしいキャラである。
「こんなグッズ出てたっけ?」
「もちろん自作だよ」
「おお……流石」
ミオの才能はグッズ作成にも発揮される。
フェルトで作られたような小さいぬいぐるみで、クオリティはめちゃくちゃ高い。
「なんで急に?」
「お礼だってば。いつもありがとうの気持ち」
不満そうに頬を膨らませるミオ。
ちょっと怪しいけど、お礼というならありがたくいただいておこう。
「学校のリュックに付けといてね?」
「付ける場所が指定されてるのか……まぁいいけど」
学校でプリクルのファンだというのはほぼ喋っていないけど、桃瀬さんに見せたらびっくりしてくれそうだ。リュックの内側に入れておけば、あえて見せない限りはバレないだろう。
そして口元がニマニマにやけているミオの頭を撫でて、解放されてから学校へと向かうのだった。
◆
「ふへへ……久々に頭撫でてもらっちゃったな……」
穂波を見送ってから、指先で頭に触れる。
催眠では『寂しいと言った時に頭を撫でてほしい』ぐらいだったけど、膝枕までついていたのはラッキーだった。
(穂波の中だと慰めるのと膝枕はセットなんだ……)
小さい頃の穂波を思い出して口元が緩む。
私が悲しい気持ちになった後、落ち着くまでよく膝枕で頭を撫でてもらった。
そのまま寝ちゃって、起きたら穂波が足を痺れさせてることなんかも度々あった。
(今度は抱きしめながらしてもらおうかな……)
穂波にやってもらいたいことリストが増えていく。やっぱり催眠アプリを作った私は天才だ。ついさっき乱用をやめようと思ったことは脇に置いておくけど。
「さて……じゃあ次は
二階に戻って、用意しておいた【親】のイヤホンを耳に当てる。
これが動いてないと困るんだよね。催眠アプリより全然簡単だから動いてないことは無いと思うんだけど。
がさがさという音が耳に入った。
「よかったー、聴こえてそう」
聞こえてくるのは布に擦れるような音。
しばらくしてから「今日は早めだな……テスト勉強でもするかぁ」という穂波の声がした。
【親】のイヤホンは【子】の機械が拾った音を聞けるように作っている。
そして穂波に渡したルクスのぬいぐるみには【子】の機械が入っている。
二つは繋がってるから、穂波の周辺の音が拾えるのだ。
これで学校にいる穂波の様子がわかる。
その――近くにいる人のことも。
「……穂波に告白してきた女の子はどんな子なんだろ」
デスクの上で頬杖を付いて、電源の入っていないモニターを見つめる。
黒々とした画面に私の顔がぼんやり映っている。
なんだか平坦な顔をしてたので微笑んでみた。
盗み聞きしたなんて気づかれたら怒られそう。
けど女の子と一緒にいたなんて聞いたら私だって気になるわけで。
告白してきた子のこととかもこっちは全然知らないままなわけだし。
穂波ってその子にどういう対応してるんだろう? とかどういう催眠が適切なんだろう? とかそういうのも考えなくちゃいけないし。
「敵情視察ぐらい、してもいいでしょ」
そう呟いたらイヤホンから『あれ? ほなみん?』という可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。