告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:じゅうぜん
学校へ向かっていたら駅のホームで「あれ、ほなみん?」と声をかけられた。
振り返るとそこになぜかぽかんと口を開けてる桃瀬さんがいる。
「えっ、桃瀬さん?」
なんでここに?
「もっ、もしかしてほなみんっていつもこの駅だったの?」
「……まさか桃瀬さんもここ最寄りなの?」
「そ、そうだよ。……偶然だねー! あははー……」
「あはは……」
ぎこちなく笑う俺たち。周囲のサラリーマンになんだこの学生はという目で見られている。いやだってしょうがないじゃないですか。
俺たちの関係性は非常に微妙なのだ。
まず告白の返事を保留にしてる。
さらに昨日俺は何かやらかしてしまった。桃瀬さんにバカと言われるくらいの大ごとである。しかしその原因がわかってない。
桃瀬さん、ここは気づかないフリするところじゃないか。
でも話しかけてきたのも桃瀬さんらしいといえばらしい。たぶん驚いた勢いでそのまま声を掛けてしまったんだろう。いないはずの人がいたからつい口に出ちゃったような。今日は俺が早い時間に来たからたまたま鉢合わせてしまったようだ。
「ほなみん、いつもは別の時間だった?」
「あ、うん。普段はあと一本後ろで」
「そ、そうなんだ……」
「うん……」
なんて気まずい。
気まずい空間のまま電車がやってきて、目の前でぷしゅーとドアが開いた。
ひとまず乗って入り口近くでつり革に捕まる。
「…………」
「…………」
しかし会話が発生しない。人の数が少ないせいでなんとなく沈黙も目立つ。
いつもならプリクルの話題か、桃瀬さんが何かしら話題を差し出してくれるので大丈夫だった。しかしそれを不発にさせるほどの気まずさが場に満ちている。
こういう時どうすればいいんですか? 誰か助けて! 先輩!
(いや……そういえば先輩はひとまず謝れって言ってたな)
霧坂先輩は、嫌われたと思ったのならひとまず謝罪から入るべきだ、と助言をくれた。
ここはその助言に従ってみよう。
「ええと、桃瀬さん」
「は、はい! なんでしょう!」
「昨日はごめん」
「……え?」
桃瀬さんがきょとんと目を丸くする。
「俺、たぶん桃瀬さんが何か気に障ることをしたと思うんだ。気づけてなくてごめん」
誠意をこめて頭を下げる。
でも桃瀬さんが困ったように首を傾げた。
「ええ? し、してないよ? ……や、何もしてないわけじゃないけどね! でも気には障ってないっていうかぁ……」
「え」
あれ。おかしいな……。
「でもバカって言われたから……」
「あっ、あれはだってほなみんが……!」
はぐ……とか……、という風に聞こえたが、小さい声すぎてうまく聞き取れない。
「はぐ?」
「わぁ! 今はだめだよ!?」
桃瀬さんが急に大きな声を出すので、近くに座って新聞を眺めていたおじさんが何事かと顔を上げてきた。すみません。……はぐとかふぐとかは分からないけど。
「えーと、とりあえず、怒ってはいないと……?」
「……うん。怒ってはないよ」
なんだそうなのか。ほっと一安心で肩を撫でおろす。ただでさえややこしい関係なのに、もっとややこしくなっていたら困ったことになる。
でも……桃瀬さんがちょっと不満げに俺を見つめているのに気づいた。
「……でも」
「でも?」
「……聞きたいことは、あるよ」
緊張したような口調にこっちもどきりとしてしまう。
じっと、こっちの目を見て何か言葉を考えている。
「…………」
「…………」
さっきとは違う沈黙が降りている。なんとなく目を逸らせないでいる内に次の駅に辿り着いてドアが開いた。ここの駅はけっこう大きめの所なので、人がけっこう乗ってくる。俺達は立ったまま端へと追いやられていく。
ドアの端にある手すりの傍に、二人で身を寄せるようにして立った。
桃瀬さんの顔がずいぶん近くにある。
目が合って、桃瀬さんがぎゅっと身を固くする。
……そうだよな、流石に近くにいるのはあんまりよくない。
「ごめん。こんなくっついちゃって」
「……え?」
「人いなくなったら離れるから」
「……離れちゃうの?」
「え?」
不思議な言葉が跳ね返されて気がした。
離れちゃうの、とは?
桃瀬さんが拗ねるように呟く。
「……昨日はあんなことしたくせに」
「……へ?」
急に思わぬことを言われて、慌てて昨日のことを思い出す。
昨日は、昼休みに話をしたことは覚えている。
その時は隣り合って座ってたくらいだ。"あんなこと"ではないはずだ。
以降を思い出したいけど、昨日の記憶はだいぶ霧がかっていて思い出せない。
桃瀬さんが唇を尖らせて顔を覗いてきた。
「……もしかして忘れてる?」
「……なんのこと?」
「忘れてんじゃん!」
はーっ、と目の前で大きく息を吐かれた。……クソデカ溜息じゃん。俺はクソデカ溜息を吐かれるぐらい大事なことを忘れてしまったのか。
「もー……こっちはあれが返事かもとかめちゃめちゃ悩んでたのに……!」
「ご、ごめん」
「別にいい……いやよくないけど」
桃瀬さんは眉間に皺を寄せたままむすーっと唇を尖らせている。
不機嫌な桃瀬さんなんて、とんでもなくレアだ。
昨日の俺は一体何をしでかしたんだ?
そこで電車がまた止まる。俺達の目的の駅の一つ前だ。
そこもまた乗換で使われる駅なので、さっき乗った大勢の人がぐわっと一斉に降りていく。流れに巻き込まれる前に一度降りようとしたが、その最中に桃瀬さんが顔をしかめた。
「――いたっ」
足の部分に目を向けている。見下ろすと脛のあたりに傷がついていた。
「桃瀬さん、大丈夫!?」
「あ……うん、平気だよ。ちょっと足ぶつかったくらいだから」
一気に降りていく客に足をぶつけられたようだ。
大丈夫だとは言っているけど、多少心配ではある。
「いや、学校着いたら保健室行こう」
「え? 大丈夫だよ」
「念のためだよ。折れてたら困るし」
「それは大げさすぎるなぁ……」
そう言っている内にすぐ学校の最寄り駅に着く。
さっきの気まずい感じは一旦うやむやになった。
見た感じ軽い怪我だろうけど、ひとまず学校の保健室へと二人で向かった。