告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:じゅうぜん
水村穂波くん、改め、ほなみんと仲良くなったきっかけを思い出す。
元々、なんとなく色々と仕事をしてくれてる人だなーと思っていた。
クラス委員に生徒会。色んな理由で色んな頼まれごとをしている。
少し大変そうにはするけど結局受けてすぐ解決してくれる。だからみんなつい頼ってしまう。
けれどわたしは彼に一つ、気になっているところがあった。
(なんだか、たまにぼーっとしてるような?)
当時はまだ、水村くんと呼んでいた。
水村くんは時折、一人でぼーっと何もない所を見つめている。
視線の先を追ってみるけど、人も物もいっぱいあってどこを向いてるのかピンとこない。
(なんでかなあ)
疑問には思ったけどすぐに忘れてた。
その頃はまだ、ただのクラスメイトなのだ。
理由を探るほど水村くんの事が気にはなってなかった。
――それが変わったのは、わたしが落とし物をした日から。
「え? このキーホルダー誰の?」
教室の隅に、わたしの大好きなアニメ『魔法少女プリズム☆スパークル』のキーホルダーが落ちていた。
それを聞いた途端に、さあっと顔から血の気が引くのがわかった。
(わたしのだ……)
誰にも見つからないよう、バッグの内側にこっそり付けていたはずのキーホルダーが無くなっている。いつ落としたのだろう。そういえば紐がほつれていたような気もする。
わたしが『プリクル』が好きなことは友達にも隠している。
それは大好きなアニメを軽い調子でさえもからかわれたくなかったからだ。
つまりこういう事が起きてほしくなかったからなんだけど。
「え、ヤバくね? このクラスこんなアニメ見てる奴いんのかよ!」
しかも良くないことに、拾ったのはよく騒いでいる隣のクラスの男子だった。
時折わざわざこっちのクラスに来て大声で話す。割とみんな迷惑している。しかも、わたしの友達に知り合いがいるせいでこっちに絡んでくることも多い。苦手な人だ。その人に見つかってしまった。
丁度わたしの友達を見つけて、へらへら近寄ってくる。
「ね、これ誰のかわかる?」
「えー知らないよ」
「桃瀬ちゃんは?」
いきなり呼ばれて一瞬息ができなくなる。馴れ馴れしく呼ばれるのも嫌だけど、それ以上にいきなり目の前に隠していたものを突き付けられて頭が真っ白になった。
気づかれてはいないはずだ。けど咄嗟に対応できなかった。
「……えっ、と……」
「え? これもしかしてぇ、桃瀬ちゃんのやつー!?」
話しかけてきた彼が意味のわからないところで盛り上がる。
そうなん? と隣の友達が聞いてきて、それにも対応できなかった。
こんな風に気づかれるのは嫌だ。好きな物がこんな人にへらへら触られるのも我慢できない。
失敗した。大好きだから、元気が出るから、持ってきていただけなのに。違うと一つ言えばいいのに。動揺してそんな簡単なことすらできなかった。こんな風になるなら、プリクルなんて持ってくるべきじゃ。
「うるさい」
涙が出そうになった瞬間、ひどく冷静な声が教室に響いた。
驚いてみんな一斉に音の出どころを見る。
水村くんが眉をひそめて立ち上がっていた。
騒いでいた男子が声を低くする。
「……は? お前誰だよ。てかもしかしてこれ、お前のやつなん?」
「そうだよ。返せ」
(……えっ)
男子がつまむように見せびらかすキーホルダーに、水村くんは躊躇いなく頷いた。
そんなはずはない。だってあれはわたしのだ。
「お前、高校生にもなってこんなアニメ見てんの?」
「誰がどのアニメ見ててもいいだろ。年齢制限があるわけでもないんだし」
「……誰か庇ってんじゃねえだろうな。オタクが」
水村くんの正論に、男子は攻める方向を変えたようだった。
あてずっぽうかもしれないけど、言ってることは正解だ。
プリクルのキーホルダーなんて、持ってないはずだから。
でも、水村くんは真顔のままいきなり呟いた。
「私はあなたのような人が世界で一番きらい」
「は?」
「今のは第3話『謎の転校生!?』で月影ルナが言ったセリフだ。ルナとの出会いは主人公に対して辛辣な台詞から始まるんだ」
周りはみんなぽかんとしていた。いきなりこいつは何を言うのだろう、という顔だ。
わたしも驚いていた。けど理由は違う。
……あってる。台詞も説明も間違ってない。その台詞は本当に作品の中にあるものだ。
「でもそこから主人公に絆されて変わってくんだ。『あなたって何を考えてるのかわからないわ』って疑問を持ったり、『大馬鹿者ね。あなたって』とか少し心を開いたり、『あなた程度なら守ってあげる』とかちょっとデレてたり」
驚いたことに、彼が言っているのは全てプリクルの中に出てきた台詞だった。
呆気に取られてる男子に首を傾げる。
「いくらでも語れるぞ。こっちはオタクだからな」
「……ちっ。萎えるわ」
「キーホルダー返せ」
男子が雑に放り投げたキーホルダーを受け取る。ハンカチにくるんでバッグに仕舞うと、何事もなかったかのように着席した。
丁度チャイムが鳴って、休み時間が終わる。
男子は隣のクラスに戻って、担当の先生が教室にやってくる。クラスメイトも慌てて自分の席に戻った。緊迫していた雰囲気は先生のゆっくりした声に紛れて、だんだんと薄まって消えていく。
(水村穂波くん……だよね?)
それから彼を目で追う事が増えた。
◆
その放課後に勇気を出して話しかけてから、わたしと水村穂波くん、改め――ほなみんは友達になった。
内緒でこっそりプリクルの話をする秘密の友達。
話している内に、だんだんと彼のことが気になっていく自分がわかった。
ほなみんの優しい受け答えや、わたしの楽しいと思う物を楽しんでくれる感性が心地よかった。
そしてほなみんをよく見ている内に、前からぼーっとしてる理由にも気づいた。
(不登校の子の席、見てるんだ)
気づいたのは席替えがあってからだ。
ほなみんの変わる前と後の席で、視線の向く先が変わった。
共通点は、窓側の前にある一つの空席。
そこは――『東雲ミオ』という女の子の席だ。
(どうしてその子の席を見てるの?)
東雲ミオという女の子は、入学してから一回も見ていない。
担任の先生から健康上の理由だ、と軽く言われて、それきりクラスの皆の記憶からは放り投げられている。
(知り合いだったりするの?)
健康上の理由ということだから何か病気なのかもしれない。
病気の知り合いが戻ってこれるように願っているとか。
それとも他の理由があるとか。
まだ聞けていない。
人が少ない時、ふっと手が動いて、その遠い目をした横顔を写真に納めた。
(わたしはきみを見てるのに)
きみはどうしてそこにいない女の子を見つめているんだろう。
◆
小さなもやを抱えながらも、二人で過ごす時間は楽しかった。
それが終わったのはわたしのせい。
ロック画面を彼の写真にしていたタイミングで、そのスマートフォンを落としてしまった。
「……俺の顔?」
「――っ!」
しかも丁度それをほなみんに見られてしまった。
それから何をしたのかあんまり覚えていない。
でも間違いなくこう言ったことは覚えている。
「あなたのことが好きです。……わたしと、付き合ってくれませんか……?」
◆
不注意で告白をした日は一日中落ち着かなかった。夜はずっと叫び出したい気分で布団を抱きかかえてじたばた転がっていた。言っちゃったという恥ずかしさと達成感。でも今じゃなくない? という後悔と不安。それから……期待。
ほなみんはどう思っているんだろう?
そんな風に思った翌日――なぜか二人きりになった途端抱きしめられた。
(ええええっ!?)
おかしいおかしいおかしい。
当たり前みたいなこと言ってるし、逆にこっちが心配されてるし。
混乱していたら――次の日も膝枕で頭を撫でるなんてことをしてきた。
本当に意味がわからない。こんなことする人じゃないと思ってたのに。何か変な物が憑いてたりしない?
けれど――それで吹っ切れた部分もあった。
きみがそういうことをするのなら、わたしだってしてもいいよね?
おかしなことをしてるなら、こっちも少しくらいおかしなことをしたっていいよね?
告白したけどそれでアプローチが終わるわけじゃないし。
好きだって伝えてから、気持ちを隠す必要が無くなって少し楽になった。嬉しいとか好きだとかくっつきたいって思った時に伝えたら、彼が恥ずかしそうに目を逸らすのも発見だった。ぐらっときてくれてるかな。
告白したわたしってけっこう無敵だ。
「じゃあ――デートしよ?」
膝枕をされながらそう言った時のほなみんは目を丸くして、戸惑ってる風だった。
でも考えて、頷いてくれた。
……それ、脈ある? どうかな?
尋ねたいけどまだ悩んでるみたいだから我慢しよう。
だけど小指は結んでおく。こんなことも前までは絶対にできなかった。今ならできる。
もっとすごいことだってできるかもしれない。
「絶対、約束だよ」
きみがもし誰か別の人を見てたとしても、わたしの方を向かせてやるのだ。