告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:蝉連山
学校での俺はそこそこ多忙である。
今日も学校に着いた途端いきなり先生から手招きで呼び出された。
「おーい委員長!」
「……えーっと、もしかしてまたプリント持ってきてくれですか?」
「よくわかったな! 二時間目の前に資料室まで来てくれ!」
「……っす! 了解っす!」
「すまんな! いつも助かってるぞ!」
調子の良い笑顔に苦笑いを向ける。
俺はこのクラスの学級委員をしてるので、先生から雑用を頼まれることが多い。しかもそれだけでなく、
「なー、委員長って生徒会だよなー?」
「うん、そうだけど?」
今度は横からクラスメイトの女子に声を掛けられる。
「部活の展示で教室の申請出したいんだけど、わかる?」
「……なるほど。おっけー。申請書、生徒会室にあるから持ってくるよ」
「まじ? さんきゅー委員長!」
こんな感じで、生徒会の仕事まである。
委員長と生徒会を掛け持ちしてるので、いろいろ雑用を頼まれることが多いのだ。
(いつものことながら微妙にやる事が多い)
一人で苦笑して小さく溜息を吐く。
俺は別に内申点が欲しいとか、リーダーでありたいとか、そういう大層な想いがあるわけじゃないのだ。元々そういう職務はやりたい人が手を上げるまで待つタイプである。
じゃあなぜ俺が面倒なことをしてるのかと言えば……。
教室の窓側。一番後ろの机。そこにある誰もいない席。
本来はこのクラスにいるはずのとある引きこもり幼馴染のためだった。
(みんなほぼ気にしてないだろうけど)
なんの偶然か、ミオとは同じクラスなのだ。
そうなれば俺もぼーっとしてるわけにはいかない。
もし急にミオが来た時、たぶん俺はミオの傍にいることになる。
あいつが一人でいられるかめちゃくちゃ不安だからだ。
そうすると幼馴染だというのはみんな気づく。
そうなった時、俺が影の薄いぼっちであるよりは、よく頼まれ事をしてる委員長かつ生徒会の人だった方が印象はきっと良い。そしてその印象の良さはたぶん、周りから見たミオの印象にも関わってくる。
だから腐れ縁の幼馴染としては、一応できることはやっておくのだ。
(ホームルームまでちょっと時間あるな)
こういう頼まれ事は嫌になる前にすぐ終わらせるに限る。
時間もあったので、頼まれた申請書の方はささっと生徒会室から持ってきた。
「はいこれ、さっき頼まれた申請書」
「はや! まじ助かるわー!」
「じゃ、それ書いたらまた後で……」
「あー待ってて! 今書いちゃうから!」
待ってと言われてしまったので足を止める。……慣れない女子と喋るの下手くそだから離れようとしたんだけど。そわそわしてる俺に気づいているのかいないのか、彼女がペンをさらさら動かしつつ口を開く。
「委員長、お礼ってわけじゃないけど、最近流行ってるウワサ教えたげよっか?」
「噂?」
「もし好きな人がいたらさ――"スマホのロック画面を好きな人にして三日バレなかったら恋が叶う"らしいよ?」
「へー、初めて聞いたな」
そんな噂があったんだ。恋愛系のおまじないって中学とかで流行ってたかもしれない。高校でもあるんだなそういうの。
「委員長もやってみたら? 私以外でね」
「…………」
「はい書いた! よろしくー!」
にっこり申請書を差し出される。
……えっ? 俺、今何もしてないのにフられなかった?
◇
そんな風に頼まれ事をこなしつつ、昼休み。
弁当箱を持って屋上へ上がる。いつも昼食はだいたい屋上で食べているのだ。俺の顔を見て何かやる事を思い出されても困るし。
階段を登りながらふと浮かんだのは今朝に聞いた噂のこと。
スマホのロック画面を好きな人にして三日バレなかったら恋が叶う、か……。
正直ちょっと大変そうだな……。
まず写真を入手するのがむずい。どうやって相手だけが映った写真をゲットするんだ。集合写真とかでもいいのか? でも相手の部分だけ切り取ったとして、もし他の人がバグって判定に入ってたらとんでもないことになる。関係ない奴と謎のハーレムが出現するかもしれない。
(まあ俺はいいかな)
元々おまじないとかあんまり信じる方でもない。
俺の傍にはそんなの目じゃないくらいなんでもできる天才がいるわけだし。
もしかしたらミオぐらいになれば恋を叶えさせるようなアイテムも発明できるかもな……。
そんなどうでもいいことを考えつつ、いつもの場所である給水塔の下に腰を下ろした――途端、
「ほなみん、おつかれー!」
「おわ!」
明るい声と共に、その子が隣に座ってどーんと肩をぶつけてきた。
驚いて振り向くと、そこにはにぱっと笑顔を浮かべるギャルがいる。
「やっほー! びっくりした?」
「びっくりしたよ……普通に声かけてくれればいいのに」
「へへー。ごめんごめん。すぐ後ろいたのに全然気づかなかったからさー」
申し訳なさそうに手を合わせてる女の子。高校で出来た友達だ。
「もしかして何か頼み事? ――
クラスメイトの
明るく染めた髪。校則に背かない程度に崩した制服。
目が大きくて、顔が小さい。そしてスタイルがいい。パッと見た印象だけでも人目を引くのに、それに加えて誰に対しても衒いなく明るく接する。いつも屈託のない笑顔を浮かべて、みんなの中心にいるゆるふわギャル。ほとんど天使みたいな人である。
そんな桃瀬さんと俺がなぜこうして仲良く喋ってるかと言うと……。
「頼み事じゃないよほなみん。昨日の見た?」
「昨日の?」
「そうだよ昨日――プリクルの最新話だったじゃん!」
「ああ……!」
深く頷く。俺が桃瀬さんと仲良くなったきっかけのアニメ。
それが『魔法少女プリズム☆スパークル』通称『プリクル』なのだ。
俺も大好きなアニメで毎週リアルタイムで見ている。
元々はミオが好きだったのだが、一緒に見てる内に俺もドハマりしたのだ。
ただし、残念な事に昨日は見れてない。なぜかと言えば、
「いやごめん……流石にテスト期間だから見てなかった」
もちろん昨日最新話だったのは知っていたけど、テスト期間なので我慢した。アニメを見ると一気に時間が取られてしまうわけだし。
「え? テスト期間でも見ていいよね?」
「平気だけど……でも他の回も見たくなって時間取られない?」
首を傾げながら言ってくる。俺だって見たいけど誘惑に負けるわけには……。
「わたし昨日、全話見たけど?」
「全話!?」
今30話くらいあるのに!?
「勉強中って息抜きしたくなるじゃん?」
「それは息抜きのレベルじゃないのでは?」
「いいのいいの! 勉強はいずれやればいいからね」
「テスト今週からだけどね」
「え」
笑顔がぴたりと固まる。しまった。思わず現実を突き付けてしまった。
桃瀬さんががくりと肩を落とす。
「……ほなみんが言わなかったら期限伸びてたかもしれないのに」
いやそんな観測するまで確定しない、みたいなやつじゃない。
「ちなみに昨日の面白かったの?」
「ちょーーーー! 面白かったよ!」
尋ねたらぐわっと顔を寄せてくる。ちょ、近い!
「ルナちゃんの過去が出てさ……! ずっと秘密になってたからヒカリちゃんとの仲もちょっとだけ壁があったじゃん!? けどようやく――」
「ストップストップ! めっちゃネタバレになりそう!」
「そ、そっか! ごめん!」
桃瀬さんが慌てて顔を引く。良かった。実を言えばネタバレなんかより、単純に距離が近いのが心臓に悪い。
「まあ俺ネタバレ気にしないから平気だけどね。テスト終わったら見ようかな」
「うんうん、絶対見てね! 話できるのほなみんしかいないし……。他の人だとからかわれちゃうじゃん?」
桃瀬さんが抑えた声で言う。
たしかにプリクルの対象年齢は子供向けだ。なのであんまりそういうのに理解の無い人からは、まだそんなの見てるのかよ、と言われるようなアニメではある。実際、そう言ってる同級生もいた。
桃瀬さんはいわゆるオタクではないが、プリクルだけは偶々ハマったようで、かなりの熱量を注いで見ている。なのでその熱量を吐き出せる相手が学校にいるというのはありがたいらしい。
「あの時もほなみんがいなかったら……」
「ん?」
「あ、いやいや! なんでも! なんでもないよ!」
顔を赤くしてぶんぶん手を振る。
その瞬間、桃瀬さんの制服のポケットから――スマホがぽろりと零れ落ちた。
「あっ」
地面に落ちて、ぱっと付いたスマホのロック画面を見てしまう。
その画面に、なぜか遠くを見つめる俺の顔が映っていた。
……え? 俺の顔?
「……なんで?」
「――っ!」
思わず声を出した瞬間、桃瀬さんが目にも止まらぬ俊敏さで落ちたスマホに飛びつく。しゅばっと画面を抑えて電源を切る。その間、たぶん1秒もない。
しかしその一瞬の間に俺の目にはしっかり焼き付いてしまった。
明らかにカメラに気づいてない俺の横顔。
知らぬ間に撮られたと思しき写真。
それにこの慌てようは一体何事か――と考えて、ふと脳裏に浮かんだ言葉があった。
丁度、今朝聞いたところなのだ。
――ロック画面を好きな人にして三日バレなければ恋が叶うという噂。
桃瀬さんが耳まで真っ赤にして、ぷるぷると震えながら振り向いてくる。
「み――見た?」
慌てていて、首を振るか見てないと言うかで迷って固まる。でもそれがよくなかった。せめてどっちかにするべきだったのだ。今度はその後悔までが頭を巡って、頭の中で必死に回答を探す間に桃瀬さんの顔がどんどん赤く染まっていく。
「そ、それぜったい見てるやつじゃん……!!」
「……ええと」
「さ、さいあくほんとぉ……! スマホおいてくればよかったぁ……!」
桃瀬さんの目が潤んで涙声になってしまっている。やってしまった。見た? と聞かれた瞬間に俺は全力で誤魔化すべきだったのだ。こうなってしまったらもうだめだ。
幸いなのは屋上にいる他の生徒は気づいてないところか。いや一番最悪な相手に気づかれてるわけだから、何も幸いじゃないか。
桃瀬さんが頬を両手で抑えて弱々しい声で呟く。
「もう……こうなったら仕方ないか……」
「え?」
「別に見られたら成立しないってわけじゃないでしょ……!」
そのまま真っ赤な顔で隣に座りなおしてきた。
「えーとね……ほなみんに説明するとね……」
せ、説明するの!? これはどういう顔で聞けばいいんだ。
心臓がさっきからずっとばくばくしている。
「……お察しの通りなんだけど、三日バレなければって噂でスマホの画面変えてました」
「は、はい」
「…………」
「…………」
沈黙が気まずい。
桃瀬さんが一つ息を吸った。
「ほなみん、今、彼女っている?」
「い、いないですが」
微かに震える息が吐き出される。
「……よかった。じゃあ、不幸中の幸いってやつかな」
「え?」
想像もしてなかった急展開に頭が混乱している。彼女がいないと言って、よかったと言われる。というかそもそも恋愛のおまじないのような噂があって、桃瀬さんが俺の顔を画面に設定していたわけで。そんなのはもう、
「じゃあ、もう……どうせいつか言うつもりだったし?」
言うまでもない。
視線が合う。射抜かれる。
熱を帯びて潤んだ瞳がこっちを捉えて、
「あなたのことが好きです。……わたしと、付き合ってくれませんか……?」
か細い声が耳に届いた。
愕然としていたら、桃瀬さんがゆっくりと後ずさりしていく。
「返事。今じゃなくていいので……」
「…………」
「なので……」
「…………」
「えっと……!」
「…………」
「その……あの……っ! お返事、お待ちしてるのでっ! それじゃっ!」
耳まで真っ赤にして逃げるように立ち去っていく。
本当に、あまりにも予想だにしない突然の告白だった。
心臓がずっとめちゃくちゃうるさいし、頬もとんでもなく熱い。
「……へ、返事ぃ……?」
動揺がずっと収まらないまま、俺は五時間目のチャイムが鳴り終えてもしばらく屋上で呆然としているのであった。