告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:蝉連山
それからはずっと放心状態だった。
(……俺、告白されたんだよな? 告白……? 本当に……?)
心、ここにあらず。
あの後、六時間目に教室に戻ったけど、桃瀬さんはおおよそ普段通りだった。おおよそというのは、いつもより目があわないとか目があってもすごい勢いで顔を逸らすとか、そういう違いはあったからだ。……いや全然普段通りじゃないな。
俺の方も数時間経っても意識がふわふわして止まらない。
……もしかしてあれは白昼夢だったのでは?
と思い始めるぐらい混乱してたけど、もちろん現実のことだった。
メッセージも届いてるし。
『わがままでごめん! 踏ん切りをつけたいのでどっちにしても対面だと嬉しいです』
そして『ぺこり……』と頭を下げるデフォルメされた猫のスタンプ。
要するに対面でのお返事をご希望とのこと。
わがままなんてとんでもない。俺だって対面で返したかった。
返事をどうするにしても、きちんと向き合う姿勢は見せたいのだ。
ただ、だとしてもすぐ決められるはずもなくて。
(なぜ……なぜ俺なんだ桃瀬さん……)
帰宅してからもずーっと告白の事が頭から離れない。
そんな俺をソファーでゲームをしてるミオがジト目で眺めていた。
「ねー……。穂波、さっきからページ進んでなくない?」
「……あー」
ここはミオの家のリビング。
ミオは時折ラムネを口に放りなげながらソファーで携帯機のゲームをしている。
その前で俺はローテーブルに問題集と白紙のノートを広げていた。試験勉強をしようと思っていたのだ。
普段、試験勉強をする時はだいたいミオに手伝ってもらっている。
いくら生活能力がポンコツなミオとはいえ、頭が良いのは間違いない。俺が詰まっている問題くらいならすぐ的確なアドバイスをもらえる。代わりにクッキーとかお菓子作らされたりするけど。
でも流石に今日は勉強も手が付かない。
「……はぁ」
「今、私に向かって溜息吐いた?」
「……悪い。ミオは関係ない」
「ふーん」
からからとラムネを口に流し込みながら呟く。
「じゃあ、学校で何かあったの?」
「…………いや何もないけど?」
べち、と背中を叩かれた。
「いてえ」
「ひゃくぱー嘘じゃん。嘘はだめだよ。幼馴染に嘘は通じないって古事記にも書いてあるし」
「それはお前の方が嘘吐いてるだろ!」
「んで? 何があったの?」
振り向けばミオの心配そうな瞳と目が合う。……心配させちゃったか。まあ、もちろんそういう流れになるだろう。俺の様子がおかしいことぐらい、ミオもすぐに気づいてたはずなのだ。
ミオを心配させないために勉強は自分の家でやる選択肢もあったけど、どうせ明日とか明後日になればミオを起こしに行くので結局は話すことになる。つまり結局ミオには話すルートしかない。今日話すか明日話すかの違いだ。
仕方ないかと思って、ただいま絶賛悩みまくりの問題を口にする。
「俺、告白されたんだ」
「――はっ?」
ラムネの容器が手から零れて、中身がばらばらと床に散らばる。
「な、な、な、なんて?」
「だから……俺、告白されちゃって」
「こ……こ、こくはく?」
「そうだけど」
「妄想じゃなくて!?」
「俺も考えたけど違う」
「だ、だだ、だっ……」
口元が覚束ない。なんでお前がそんな動揺してるんだ?
「だ……だれに?」
「クラスメイトだけど」
「それっ……つっ、付き合ってくださいってこと?」
付き合う。
言われると急に恥ずかしくなってくるな。
「……それ以外ないと思うけど」
「……っ!」
ミオが突如としてがっと思い切り腕を掴んできた。その細腕でどこから力が出てるんだというくらいの腕力である。あの、ミオさん。痛いんですけど。
腕を掴みながら、不自然なくらい明るい声を発してきた。
「や――やめた方が、いいんじゃないかな?」
「え?」
「だって、大変だよ? 彼女とかできたら。時間ないし。何かするにも相手のこと気遣わないといけないし? 好きなことも自由にできなくなるす? 相性悪かったら雰囲気も最悪だし、喧嘩したら最悪じゃん? 良いこと全然なくない? やめたほうがいいよほら、ね? ね?」
「まあ……そうだな」
恋人ができても良いことばかりじゃない。
ちらっとSNSをのぞけば、不平不満を言ってるカップルなどいくらでも出てくる。
ミオがこくこく頷く。
「だよね? だから彼女作るなんてやめた方が、」
「でも恋人ってそういうものだろ?」
俺も彼女なんて出来たことなどないわけだが、恋人という関係性が良いことばかりじゃないのは承知だ。でも良いことだって当然あって、悪いこと以上にそれを二人で見つけ出していくことが大事なんだと思う。……そうあってほしいという希望もあるけど。
ミオが愕然とした表情で凍り付く。
「……えっ、じゃ、じゃあさ、穂波はさ?」
懇願するような調子で尋ねてくる。
「――それ、どうするつもりなの?」
「え?」
(いや……どうするって言われても)
こっちはまだ何も決まってないのだ。まだ動揺が残ってて落ち着いて考えられてもいない。せいぜい決まってることと言えば、何かしら返事をすることくらい。
「とりあえず返事はするけど」
「は――」
ミオの顔から表情が抜け落ちた。
「へ、返事、するの?」
「するよ」
だって無視はできない。
ずいぶん急だったけど、桃瀬さんとは仲の良い友達だ。
知らない人からの告白ってわけでもないし、ほとんど不可抗力とはいえ勇気を出して告白してくれたのだから、その行為には真摯に報いるべきなのだ。
ミオはなぜか打ちのめされたような顔をしている。
「い、いつまで?」
「……できるなら、明日までには」
「あ、明日!?」
ミオがふらふらと立ち上がって、一歩のけぞる。
「ミオ?」
「ま、待って。やだやだやだやだ……」
「大丈夫か? ミオ?」
「なにかしなきゃ……なにか……」
嗚咽みたいな曖昧な声を零しながら、おぼつかない足取りで階段を登っていってしまう。
(……ミオ?)
たまにある、変な雰囲気のミオだ。
でも今回のはだいぶ重ためのやつだ。
ここまでのは初めて見た。
(話そうにも、声が届いてなかったし……)
何か変な認識をしてそうだが、それを確認するための話ができない。
様子を見に行くのはもう少ししてからの方がよさそうだ。
そうしたら落ち着いてるかもしれない。
あと……こっちは返事も考えないといけないし。
(……なんか急に忙しいな)
桃瀬さんへの返事も必須だ。
向こうは気をやきもきしているだろう。
返事は絶対に早い方がいい。でも雑な結論にはならないように考えたい。
いきなり大変な決断を迫られていた。
……不可抗力だから仕方ないけど、テスト前にこれは大変だ。
◇
その日の夜。
帰る前にミオの様子を見に行くと、部屋を閉め切って何かをしていた。
声を掛けても反応しない。ミオはたまに集中するとこうなることがある。
こうなった時のミオは何をしても一切すべて無視だ。
なので生存確認だけして帰宅した。
我が家のベッドで胡坐を組んで、告白の返事を考える。
考える。
ひたすら考える。
付き合う前のこと、付き合った後のこと。色々考えて結局、朝方近くまで悩んでしまった。
そうしてようやく決めた。
(……うん。返事は、これで)
ようやく結論を出せた安堵に欠伸が出た時、スマートフォンの画面に通知が来た。
心配してたミオからのメッセージ。
やっとあの集中モードから抜け出したのかと内容を見て、眉を上げる。
『見てほしい発明品があるから、部屋に来てくれない?』
……発明品ってなんだ?