告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:蝉連山
学校に来たけど、めっちゃ頭がふわふわしてる。
いつもなら色々雑用を頼まれるものだが、今日だけはみんな「大丈夫か委員長?」「ぼーっとしてるな」「先生から伝言でプリント取りに来てくれって頼まれてたけど」と心配そうな顔を向けてきてた。おい、結局雑用頼まれてるのかよ。
ただ、別に体調が悪いわけではないのだ。
俺の反応が遅かったりぼんやりしてるように見えるのは、昨日の出来事がまだ尾を引いているせいなのだ。
(告白されたわけだからな)
しかも、相手は同じクラスにいるわけで。
ちらと目を向けたら、同じくこっちを見てた桃瀬さんと視線がぶつかった。
……慌ててお互いさりげなく視線を滑らせる。
見ないようにしようと思ってるのに、ふとした瞬間に視線が向いてしまう。
……すると向こうもこっちを向いていて慌てて逸らす。
そういうことが何度かあって緊張感がすごい。
(磁石じゃないんだから)
恥ずかしい気持ちもあるが、それ以上にこんな不自然なことをしてたら何が起きたのかと勘繰られそうだ。
桃瀬さんが俺を見てるのは返事が気になるからだろう。
……だけど申し訳ないことに、俺はまだ『返事を決めかねてる』。
(せめて保留にすることだけは伝えておいた方がいいか)
そう気づいて、こっそりメッセージを送る。
『返事なんだけど、まだ少し考える時間もらってもいい? 待たせてすみません』
『早い内に絶対返すから』
桃瀬さんはすぐに気づいたようで『OK!』と言ってるデフォルメされた猫のスタンプが送られてきた。
これで少しは気を待たせる時間も減るだろうか。
そんなことをしていたらお昼休みのチャイムが鳴る。
自分で作った弁当を取り出して、いつも通り屋上へ向かった。
(……流石に今日は桃瀬さんも来ないだろうな)
たまに一緒に食べたりするけど、毎日一緒に食べてるわけではない。俺と違って桃瀬さんには友達もたくさんいる。昨日の今日で一緒にご飯を食べるなんてことはないだろう。
……なんて思ってたけど。
◇
「ほなみんやっほー、隣いい? いいよね?」
「え」
「はぁ、りっこ達から逃げるの苦労したー。なんか様子変とか言ってくるんだもん困るよねほなみんは平気だった?」
「平気というか」
「今日のお弁当美味しそうだね食べないの?」
「食べるけどそれよりなんか……大丈夫?」
昼休みはいつもの如く屋上にお弁当を食べに来たのだが、なぜか来ないと思ってた桃瀬さんがやってきた。しかも明らかに様子がおかしい。すごい早口だしこっちの様子関係なくガンガン喋ってくるし。
「思ったんだけどプリクルとプリクラって似てない?」
これはだめだ。こんなどうでもいいことを桃瀬さんは言わないのだ。
よく見れば目が焦点もあわずにぐるぐるしている。
明らかに何か空回りしてる兆候だ。
「桃瀬さん!」
「ひゃっ」
肩に手を置いて目を見つめる。
「一回深呼吸して!」
「えっ?」
「いいから、吸ってー……吐いて―……」
すーはーと桃瀬さんが息を吸って吐いて、ぐるぐるしてた目に焦点があってきた。でも大丈夫だろうか? 何か急に調子を崩すようなことがあったのかもしれない。風邪とかひいてないよな?
心配で眺めていたら、だんだん桃瀬さんの顔が赤く染まってきた。
「ほ、ほなみん! 顔見すぎ! もう平気だから!」
「そ、そっか! よかった!」
ぱっと手を放して顔を背ける。
そうだ、そういえば俺たちって告白された仲なんだった。
でもなんでこんな微妙な関係なのに桃瀬さんは会いに来たんだ。
すぅはぁと深呼吸してる桃瀬さんが落ち着いたのを見て尋ねる。
「その……桃瀬さんは友達と食べるんじゃなかったんだ」
桃瀬さんには友達がたくさんいる。というか大多数の人は桃瀬さんと一緒に食事を取りたいと思っているだろう。わざわざ俺のような気まずい奴と食べなくてもいいのでは。
「そのつもりだったんだけど……」
「だけど?」
「そうすると……ほなみんに会えないし?」
桃瀬さんが顔を窺ってくる。思わず言葉に詰まった。
心なしか赤く染まっていた頬がさらに色づいたように見える。
「それにわたし思ってたことがあってさ……。言い訳に聞こえるかもだけどぉ……」
桃瀬さんが口元をもにょもにょとさせている。
「告白したらどうしても一緒に会いづらくなるじゃん? だって気まずいは気まずいもん。返事を考えてる間とか普通はやっぱちょっと距離できるんだと思う、けど、でもね?」
ぐい、と顔を寄せてくる。
「わたしは! 告白しても頑張って会いに行った方がお得だなって思ったの!」
どうしても告白された時のことが頭をよぎる。
心臓がせり上がるような感覚を覚えた。
「気まずいのを除いたら友達だし、話も合うし、そもそも普通に好きだし会いたいじゃん? それに一緒にいた方がアピールもできるでしょ? だから――」
そこで盛り上がっていたテンションがぱっと落ち着く。
「ちょ、ちょっと喋りすぎかも」
「い、いや……」
「でも」
顔を引いて、ちらりと窺うような顔でこっちを見て。
「ほなみんさえよければ、一緒にいさせてもらってもいいかな……」
流石に動揺する。心臓が痛いぐらいに跳ねていた。俺は今とんでもないことを言われてるのではないか? でもこんな風にお願いされて嫌と言えるわけがない。この状況で嫌だと言える奴がいるんだろうか。
「えっと……その、なんというか」
「うん」
「……あ、ありがとう?」
桃瀬さんが吹き出した。
「ここお礼言うとこ?」
「いや……だって急だから何言えばいいかわからないし」
「ひとまず、嫌がられてないってことでいい?」
「それはもちろん」
嫌だとは思わない。めちゃめちゃ恥ずかしいくらいだ。
「へへ……じゃあよかった! ご飯食べよ!」
「……うん」
俺たちはその後、いつものように一緒にプリクルや授業やテストの話をしながら昼ご飯を食べた。どっちもずっと顔が赤かったけど。
◇
しばらく喋って顔の赤さがようやく引けてきた頃、気づいたらもうチャイムも鳴る寸前の時間になっていた。
「そろそろチャイム鳴るから帰ろっか」
「わ、もうこんな時間なんだ。たしかにみんな帰ってるね」
屋上にいた他の生徒もぱらぱら扉の奥に消えていく。
「桃瀬さん先に帰っていいよ」
「ほなみんは?」
「俺はもう少ししてから帰ろうかな」
もし一緒に帰ってからかわれたりなんかしたら、今までならスルーできたけどもう無反応ではいられない気がする。だって実際に告白されてるわけだから。付き合ってるならいいかもしれないけど、付き合ったわけでもない微妙な所だし。
「ありがと。じゃあわたし行こうかな」
そうして俺達以外の生徒が全員、屋上から消えていた。
今のこの瞬間、屋上にいるのは俺たち二人だけ。
「うん……俺は少し……したら……帰ろう……か……な……」
あれ?
周りに、誰も、いない?
「……ほなみん? どしたの、急にふらふらして」
頭の中でみょんみょんみょんと間の抜けた音が鳴る。
急に思考がぼんやり歪む。
そして頭の中に一個の命令が浮かんできた。
――二人きりの時は相手が満足するまでハグをすること。
周囲を見渡す。さっきまで屋上にいた他の生徒はみんないない。
この状況は、
そうだ。二人きりならハグをしないと。
急いで近寄って、桃瀬さんの背中から手を回して抱きしめた。
「へ!?」
「…………」
「ほ、ほなみん!?」
桃瀬さんが急に慌てたような声を出す。
「……ん?」
どうしたんだろう。何かあったんだろうか。
俺を見て何かびっくりしたような顔をしてる。
え、何もないよな……?
別にこっちは二人きりだからハグしてるだけだし。
評価感想が染みる……
ありがとうございます!