告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:蝉連山
抱き着いているだけなのに桃瀬さんが急に慌てている。
一体どうしたんだ。こっちはハグしてるだけなのに。
「ほなみん!? な、なにしてるの!?」
「……どうかした?」
「どうかしたじゃなくて! こ、これ、なに!?」
なにかと言われても――、
「普通二人きりの時は相手が満足するまでハグするよね?」
「はぐ!? そ、そうなの!? そうだっけ!?」
桃瀬さんの顔がすごい勢いで真っ赤になっている。
これはもしかして熱でもあるんだろうか。
「……大丈夫? 保健室とか行く?」
「それはどっちかといえばほなみんの方ですけど!?」
「……え? なんで?」
「なんでじゃなくて!」
「……やっぱ体調悪いんじゃない?」
「もうなんなのこれー!」
桃瀬さんが叫ぶと同時、ついにチャイムが鳴ってしまった。
やばい、これじゃ遅刻してしまう。
「桃瀬さん満足した?」
「してる! めちゃしてる! 供給過多!」
「そっか。よかった……」
桃瀬さんはよろよろと離れていき、すうっと息を吸いこんで叫んだ。
「ほ、ほなみんのバカぁぁあ!」
謎の罵倒を俺に投げつけて桃瀬さんは駆けて行った。
ぽかんとその背中を見送り、思わず声が漏れる。
「えっ? な、なぜ?」
意味が分からない理不尽な言葉。
しかし女子からのバカという言葉はシンプルにメンタルへ多大なダメージを食らわせてくる。なにこれきつい……。あれ。俺は告白されたはずでは……? 一体何が起きたんだ……?
チャイムが鳴り終えてからもしばらく胸を抑えて蹲っていた。
……二日連続で五時間目だけ欠席した俺は、後日先生に呼び出されるのだった。
◇
午後の授業が終わり、休み時間。
俺は胃の底に大きなダメージを感じながら呆然と何もない空間を眺めていた。
(いきなりバカだなんて……)
遅刻して教室に戻ってからも、桃瀬さんとは全く目が合わない。
心当たりも全然ないし、あんなにいきなり態度が変わるなんて絶対に変だ。
桃瀬さんも桃瀬さんで、顔を真っ赤にしたままで過ごしている。
仲の良い友達が桃瀬さんにどうしたのか聞いてたけど、
「七花どしたのー?」
「顔真っ赤だよー?」
「な、なんでもない! なんでもないからぁ!」
「声でかw」
「ウケるw」
とクラス中の視線を集めていて明らかに様子がおかしい。
まさか本当は俺の返事が遅いことに内心ブチ切れてたのか……!? 桃瀬さんは「いいよ」と言っていたけど、裏では「見損なったよバカぁ!」くらいに思っていたのだろうか。
(いや……そんな人じゃないよな……)
笑顔の裏で実はブチ切れてる桃瀬さん、なさそうだ。桃瀬さんの内面はほとんど天使に近い。そんな風に思うことはない気がする。
最後の授業中もぐるぐる巡る思考の答えは出ないまま。
ホームルーム終わりに教室を出る所で桃瀬さんと目が合う。
「…………っ!」
しかし顔を背けて逃げるように立ち去られた。
な、何があって避けられてるんだ……? 昼の時間は夢だったのか……?
がくりと項垂れていたら、スマホの画面に通知が届く。
差出人の名前は『霧坂先輩』だった。
『穂波くん。今日は部室に来る?』
起き上がってスマホを開く。
先輩からのメッセージなんて珍しい。すぐに答えた。
『はい。お邪魔する予定です』
『そう、じゃあ私も行こうかな』
じゃあ、なんてありがたいことを言ってくれる。
しかも先輩に会えるのは今この状況ではとてもありがたかった。
(先輩なら相談に乗ってもらえるかもしれない)
ちょっとダメージの残る胃を抑えつつ、俺は部室のある第二校舎の方へ向かった。
◆
教室を逃げるように早足で飛び出して、トイレに逃げ込む。
「なんなんだよぉ……」
へなへな座り込んで、顔の熱を冷まそうと頬に手を当てた。
「本当にもう……そっちは不思議そうな顔してさぁ……!」
頭にぐるぐる巡る困惑の原因は当然、さっきお昼休みに出来事。
「なんで抱きしめてきたのぉ……!?」
全身にどうしようもなく焼き付いてしまったあの感触。耳元の声。不思議そうな表情。
好きな男の子が二人きりになった途端に抱きしめてきた。
「返事はまだって言ってたじゃん……っ」
スマホの画面を見られてやけくそで告白してしまったのは昨日のこと。
返事はまだ、と言われてたはずだった。
なのに返事もないのにいきなり抱きしめ――、
「~~~~っ!」
声にならない声が漏れた。恥ずかしいどころじゃない。
全身が沸騰しそうなくらいに熱くなっている。
(本当にどうしちゃったの……!?)
流石にちょっと様子が変だったな、とは思う。
まるで抱きしめることが当たり前のような顔をしてたし、保健室行くかなんて変な心配もしていた。どちらかと言えばおかしいのはそっちの方なんですけど!
「でもそんなことされたら……」
彼の考えている事はわからないけれど、問題は今の自分の状態だった。
どくどくと心臓の鼓動が止まらない。
息が荒くて、熱っぽくなる。
風邪でもひいたみたいだ。
そうじゃないことは自分でもわかってるけど。
叫び出したい気分だったけど、外に響いてしまうからできない。
もどかしい。今すぐに走り出したい気分だけどそんな変人にはなれないからこらえるしかない。こんな頭の中がごちゃごちゃして熱が巡ってどうしようもないのは間違いなく、
「ほなみんのせいだからね……!?」
小声で呟いて立ち上がった。いつまでもトイレの個室にいるわけにはいかない。さっさと帰ろう。やっと顔の熱も落ち着いてきた……はずだ。どくどくうるさい胸を抑えて、深呼吸しながら下駄箱へ向かっていく。
――でも結局熱は全然引いてなくて、ばったり会った他クラスの友達に『どしたの七花? 顔真っ赤すぎるんだけどーw』なんてからかい材料をみすみす差し出してしまうのだった。