告白された事を依存度高めの天才幼馴染に伝えたら催眠アプリを突き付けられた 作:蝉連山
俺の通う高校では、部活動に必ず所属するよう校則に書かれている。
それは俺のような生徒会の役員でも例外なしだ。……せめて免除してくれてもよさそうなものだけどな。学校のためにわざわざ立候補して時間を割いているわけだし。
まあ、だとしても俺はこの部活に入ってただろうけど。
静かな第二校舎の端にある、少し古い立て付けのドアをノックする。
「お邪魔しまーす」
並んだ長机とパイプ椅子、そしていっぱいに詰まった雑多な本。
その奥。一目でわかる美人な女性が、文庫本をぺらりとめくりながら顔を上げた。
「やあ。来たね穂波くん」
「来てたんですね――
絹みたいにさらさらとした長い黒髪。意思の灯る鋭い切れ長の目元。大和撫子らしい整った顔立ち。中性的な凛とした雰囲気で、男子にも女子にも人気だ。しかもそれだけじゃなく、
「テスト期間は生徒会も動いてないからね。穂波くんに会うならここしかないでしょ?」
「あはは、いつもお世話になってます……会長」
霧坂先輩は、なんと生徒会長でもある。
つまりは部活でも生徒会でも俺の上司なのだ。
入学当初、部活動紹介の端っこの方に小さく乗ってるだけの文芸部に行ったら、生徒会で喋ってた美人な女性がいてとてもびっくりしたものだ。
「会長なんて他人行儀な呼び方はしないでいいよ。詩乃と呼んでくれたっていい」
「いや流石に名前は呼べないですよ」
「お姉ちゃんは?」
「おねえ……って呼べるわけないですよ! 勘弁してください!」
「ふふふ。ごめんごめん。冗談だよ」
そんな先輩はいつも無意識なのか距離が近い。
こんなに慕われてて美人の先輩が気軽に接してくれているだけで気恥ずかしいのに、お姉ちゃんと呼ぶなんて無理に決まってる。
もし冗談で呼んだとしても、他の女子にバレたら晒されて制裁を受けることだろう。
(ファンクラブにバレたら廊下で磔にされてもおかしくない)
ちなみに霧坂先輩にはなんとファンクラブもあるのだ。
俺も文芸部に入った時はファンに警告を受けた。
『霧坂会長が文芸部にいる間は干渉しないというのが不文律。会長への興味本位だけで部活に入るのは厳禁』
『でもあなたは下心が無かったことがわかっているのでセーフ』
『ただ無条件で許したわけじゃねえから絶対変な真似すんじゃねえぞ……』
大人しそうなクラスメイトだと思ってたら、過激ファンだった。
世の中が怖い。
だから文芸部はほとんど人がいないのだが、その内のもう一人が先輩の後ろにいる。
「ちなみに足だけ見えてると思うけど、後ろで寝てるのは秋元だ」
「だと思いました」
文芸部にいるわずかなメンバーの一人、
いつも寝不足な顔をしてて心配になる、ここの部長だ。
奥に古いソファがあって、だいたいそこで寝てる。
本を読んでる姿もあまり見ないので、仮眠室だと思ってる節が濃厚だ。
「さっき一度起きたんだがまた寝てしまった。どうも昨日深夜までレスバトルをしてたとかで寝不足らしい」
「……レスバ?」
え、なんか聞いたことあるな……。
でも先輩がレスバしてたとかあんまり聞きたくない。触れないでおこう。
浮かんだ疑問に脳内で蓋をしたところで、ふと霧坂先輩が本を閉じた。
「ところで穂波くん」
「はい?」
「何かあったのかい?」
先に言われて驚く。そうだ。俺は桃瀬さんにバカと言われたダメージを引きずったままここに来てるのだ。それを先輩に相談できたらと思っていたわけだけど。
「……わかりますか?」
「顔に出てるよ。穂波くんは何かあるとすぐ顔に出るからね」
からかうような調子で言われて恥ずかしくなる。そんなに顔に出やすいだろうか。あんまり他人に言われた事ないんだけどな。霧坂先輩が小首を傾げて閉じた本を机に置く。
「お姉ちゃんに話せることかな?」
子供扱いされてるのには一言何か言いたいけど、結局くすくす笑われて終わりそうなので何も言えない。お姉ちゃんではないけどそれは一旦置いておこう。今は何よりも俺の混乱を和らげてくれる意見が欲しいのだ。
恥ずかしさを咳払いで誤魔化してから口を開く。
「ええと、実はですね……」
◇
告白のことは伏せて、さっきの出来事だけをかいつまんで相談してみた。
全部聞き終わった霧坂先輩が口を尖らせて一言。
「ふぅん……穂波くん、仲の良い女の子がいたんだね」
「そこですか?」
口を尖らせてる先輩なんて珍しい。
拗ねてるように見えるのは……考えすぎかな。
「いーや、ふと思っただけだよ」
「なるほど?」
「別に『へえ、穂波くんの傍に私以外の女の子がいるんだ……』とか『ふぅんその子とけっこう仲が良いんだ……』とか思ったわけじゃないよ」
「そ、そうですか……」
反応が難しい。本気なのか、からかわれてるのか微妙なところだ。
固まっていたら先輩がくすくす笑みをこぼす。
「ごめんね。困ってる顔が見れたから満足しようかな」
「はぁ……」
「しかしそうだね……普通に話をしていたと思ったら、急にバカと言われたんだ。相手の機嫌を損ねたけど、理由がわからないと」
「そうなんですよ」
屋上で桃瀬さんからバカと叫ばれたのは記憶に新しい。
メンタルに傷は負ったが、こんな納得できない形で仲違いになるのは腑に落ちない。できれば仲直りしたい。
「先輩なら何かわかりますか……?」
「流石に難しいね……。聞いてる限りだとバカと言われる要因は無いと思うし。何かはあったんだろうけどね」
顎に指先を添えながら悩むように答えてくれる。
話だけでは先輩と言えど全てを見通すのは難しいか。
そんな俺の落胆も顔に出てたのか、先輩が困ったように笑って口を開く。
「……少し雑な助言にはなるけど、ひとまず謝ってみるのは手かもしれないね」
「理由がわからないのに?」
「どうして怒るのかと聞いても、すぐに理由を言葉にできない事はある。まずは謝って、わからないことを下手で冷静に伝えて、落ち着いてから理由を探るのがいいんじゃないかな」
「なるほど……」
頷きながら今までの仲直りを思い出す。
俺が今まで喧嘩した相手と言えばミオだが、あいつの場合は嵐が吹き止むのを待つのが常だった。
ミオの場合、気づいたらスマホの待ち受けが俺のあられもない画像になっているとか、パソコンの検索履歴が全てプリントアウトされて机に貼ってあるとか、ふと部屋を出た数分でドアにオートロックが付いててミオの言う事を聞かなければパスワードがわからないとか。
いずれにしてもたしかに、俺はミオに謝り倒していたと思う。
「謝るのは大事ですね」
「そうだね。謝るのは大事だよ。私なら穂波くんが謝ってくれるなら何をされても許しちゃいそうだし」
「いやいや、何もしないですって」
また冗談を言う。何をされてもなんてそんなわけないじゃないですかー。
先輩が何か諦めるような感じで溜息を吐いた。
「まあいいや。でも謝っても理由が理不尽だったら、特別に私が慰めてあげるからまたここにおいで」
「おお……霧坂先輩……!」
なんか大丈夫な気がしてきたぞ。気づいたらさっきまで重かった胃が少し軽い。やっぱり持つべきものは頼れる先輩らしい。
そこで丁度、部屋の奥で寝ていた秋元先輩がごそごそと起き上がってきた。
「……んん……今何時だ……?」
「午後四時くらいです、秋元先輩」
寝癖だらけの頭をがさがさ掻いて、眼鏡をかけて時計を見ている。
「そうか。……三時間ぐらい寝たか」
「先輩それ、授業中から寝てません?」
「人間が生きていく上で睡眠は何よりも大事だからな。ではな、俺は帰るぞ」
俺と霧坂先輩の呆れ顔には目もくれず、秋元先輩は颯爽と立ち去って行った。
レスバなんかしてるからですよ。
「ははは。あいつはずっとブレないな」
「そうですね」
あれでも秋元先輩は優しい先輩であり、色々とお世話になっているのだ。
俺としては霧坂先輩と同じように尊敬もしている。
人数は少ないけれど文芸部はいいところだ。
消去法で選んだようなものだが、今は文芸部でよかったと思っている。
そんなことを思いながら秋元先輩が去った後のドアをぼんやりと眺め――それがぱたんと閉まるのを見た。
部屋の中に、俺と霧坂先輩だけが残されている。
その状況を認識した途端、くらっと頭の中が揺れた。
(……あれ?)
頭にみょんみょんみょんと音が鳴る。
思考がふわっと浮くような感じがして、急に
――二人きりの時は満足するまでハグをする。
改めて狭い部室を見渡す。
やっぱり俺と不思議そうな顔をした先輩しかいない。
「……ん? 穂波くん、どうかしたのかい?」
うん。今は
二人きりなら
「先輩」
「うん?」
「失礼します」
そしてソファに座ってる先輩の後ろから、
「えっ――ひゃぁ!」
先輩から今まで聞いたことないような可愛らしい声が出た。
日間総合2位になっていて超絶感謝
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