吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。
遂にこの時が来たのだ。何がって? 決まってるじゃないか。モルガナ主導による国家事業。魔導列車の開通だ!!
「というわけなので、クロを頼みますよ。ドラゴ。それと、そちらのティアは私の
「おお、任せてーや。すまんな、クロちゃん。むさい男ばかりやが今回は我慢してな? そちらの嬢ちゃんも。ナツメ商会の者やとは聞いとるけど、すまんな」
「大丈夫だ、気にするな。ロジェはミスト王女殿下の護衛だし、アルチナは他のナツメ商会………というよりは新たな英雄に目を配らせているからな」
泰然自若とした態度のモルガナは黒猫の吾輩をドラゴに預けると、運転席に上がっていった。残された吾輩達は魔導列車内に設置された椅子に深く腰掛ける。4人座れるボックスシート、現代の鉄道に似た内装の中でドラゴ殿は対面のティアの膝上に置く。
本日は試運転。錬金術協会や王女殿下も直接視察に来た上で、彼らを無事にクロイツベルン伯爵領まで送り届けるのが目標だ。
「タンゴ様? このまどーれっしゃ?ってのは何ですの? 外から見た感じですと、多くの荷物を運べそう。な事くらいしか分かりませんわ。姉様は脳内で金勘定してましたけど!」
「少なくともこれからの運送は変わる。より安全に、迅速に、大量の物資を運ぶ事が可能になる時代が来るさ」
「そやなあ。これがあればレリジェーン温泉街まで直ぐに行けるようになるし、里帰りが楽になるわあ」
魔導列車計画………に隠された本当の意図を吾輩は語らない。けれど、王国上層部。そして、軍に関わる者達はこの意図に気づいてる者たちが多くいた。ドラゴ殿も気づいているが、敢えて言わない。
『クロ、私は貴方を失った時からどの道を歩んでもいいようにこの計画を練っていました。王国で錬金術師としてこの事業を抱える道、そして──帝国と戦争する為に必要な兵站や武装の運搬網を作り戦う道』
モルガナはずっと考えていた。あの村に騎士達が来た時に、より素早くかつ大量のものを持って逃げ出すことが出来るようになるべきだと。そして、王国で錬金術師として成果を残しつつ、ずっと考えていたのがこの計画だ。
『今の王国には職人被れの者達や三羽鴉に囚われていた孤児達もいます。人員が溢れているならば有効活用させていただきましょう』
吾輩という無限の財産、ミスト殿を助けたことによる王国の後ろ盾。そして、国の地下に張り巡らされた大規模な魔導回廊。
それら全てを利用し、モルガナは3年の月日を経てこの魔導列車………地下を走る列車を作り上げたのだ。
「まず、ティア。何故、この列車が地下を走るか分かるか?」
「………障害物がないからですの?」
「いい線行ってるが、それだけじゃない。魔物たちによる襲撃頻度の減少も兼ねている」
王国から徒歩で20分くらい離れた場所に作り上げられた建物。そこから地下に繋がる階段はある。吾輩達も降りた先には明るい光を照らし続ける光源ブロックが天井に設置され、周囲は錬金術による硬質煉瓦で補強した、地下トンネルがあった。
「地下にも魔物はいる。が、地下はアースラット軍団の縄張りだ。少なくとも王国周辺はな。なので、その辺りは吾輩が何とかした」
「踊り対決で何とかなるんちゅーが、奇想天外すぎたんやけどな。どちらかと言うと、なんかクロちゃんを気に入ってたっぽいし」
「まあ、ともかく。それにより、魔導列車にデカデカと黒猫に絵が描かれた事で吾輩のものだと認識した奴らは襲わなくなったところか、地下のでかいミミズみたいな化け物も退治してくれるようになったわけだ」
「因みに列車に絵を描いたのは、ずっとだらしない顔しとるロジェちゃんや。何で、あんなにゆるゆるな顔しとるんやろうなぁ………何でやろうなぁ!!」
「タンゴ様が、ロジェスティラ様に手を出したからですわね!!」
「ドラゴ殿、レディ。もう少し声を抑えて………」
違くはないんだけど、違うんです。浮ついた気持ちで手を出したわけではありません。きっちり、責任は取るつもりです………少なくとも彼女がずっと一緒にいたいって言ってくれた弱気な彼女の勇気に答えたいって。
それに、ルノワール一族の復興に協力するって言ったしな。吾輩を繋ぎに使いたいのだと思うけど………吾輩と一緒にいた記憶が未来で辛かったって事にしたくないのだ。
本当に好きな人と結ばれた時に、吾輩を忘れるくらいの方が………いや、初恋の良き思い出くらいになってくれたらいいなと思う。
それはそれとして、ロジェのゆるゆるっぷりはもうちょい何とかして欲しかった。素直なのは美徳だけれど、手を出したのがバレた吾輩は妻2人に2日ほど軟禁されたのだから。
「とか言って、ドラゴ殿も最近はリコリスといい関係だって聞いたが? この間も2人で温泉に行ってたらしいな。女騎士達から聞いたぞ」
「い、いや俺は硬派やからそんな簡単に手とか出さんし………一緒に寝ただけやし」
「こいつら交尾………失礼、営みましたのね?」
「よく耐えたな、レディ。後はその親指と人差し指の動作を止めれば完璧だった」
帝国は一回礼儀作法を勉強し直した方が良いと思う。吾輩よりも酷いぞ。
「よっしゃ、話を戻すで」
「誤魔化したな」
「誤魔化しましたわ」
「真面目な話や。地下通路を丸ごと列車の線路にしたんはええ。魔物の心配がないのもな。で? 肝心の車両の仕組みを教えてや」
「ああ。とは言え大した事はないんだけどな」
とてつもなく簡単に言うと、魔導回廊と変換器による電気を利用したのだ。まず王国地下に張り巡らされた魔導回廊。調べて見れば、国に住む人々からごく僅かな魔力を取り、それを蓄えていた事が発覚。
アゼル卿がその蓄えられた魔力を使ったとはいえ、300年分が使い切られるわけもなくずっと循環し、増幅してはまた循環していたのだ。
モルガナはその事に目をつけ、王国の調査の下で吾輩を立ち会わせて魔導回廊の循環回路と魔導列車の線路を繋げた。
2本の線路の真ん中に3本目を生やし、それが魔導回廊から送られる魔力となる。それを吾輩の首輪を解析し、モルガナが生み出した変換器を搭載した魔導列車へ3本目の線路が接触してる間は魔力が流れるようにした。
そして、魔力が流れて変換器を通じて電気へと変わるとそこからは吾輩が生み出した金やら銅線やらを利用した電磁石によるモーターを搭載。高卒後に、安全衛生や労働基準を無視した工場で働いてた知識が訳立ったわけだ。
皆は資格も無しに200V60Aの設備とかの配線をいじってはダメだぞ? 下手したら丸焦げ黒焼きの完成だ。黒猫みたいに。
メカニカルリレー回路、簡単に言えばスイッチのオンオフ機能も現代に比べればおざなりではあるが、吾輩が見る限り使い物にはなるレベルのものを使用。耐用実験もして、きちんと交換周期も決めた。日常点検やらもしっかり記載したから安全面は問題無いと思いたい。
そんな動力車が2台で荷物車が3台の5両編成だ。安全度外視で行けば、4台は荷物を運べるが事故って計画が凍結になる方が面倒なのでわざと3台に抑えている。その後の改良は王国の仕事だ。
吾輩達はその荷物車の1台を客車として利用しているのだった。椅子とかは全てモルガナがやってくれました。拍手。
因みにアンオブタニウムは車軸や車輪、そして列車の外装に使われております。加工しやすくて丈夫な鋼材とか使い道しかない。
「要するに地下の遺物を利用して、魔導列車は王国の魔力で毎日稼働出来ると言っても過言ではない。国営事業になったら、是非王国の人の切符代は無料にしたいとこだな」
「まあ、まずは利益が出てからやろうな。話だけはしといたるわ。そもそも、本来ならクロス子爵家の事業にして良かったんやで? こちらとしてもその功績があれば名誉どころか伯爵の地位をつけて贈ったるって陛下は仰ってたからな」
「だから、一応は計画がうまく行けば鉄道事業の名誉会長になる約束はしただろ………王国は吾輩を引き込みにかかりすぎだろ。吾輩よりもモルガナを褒めてやれよ」
そんな運転席に立つ彼女は錬金術協会の皆様に説明をしつつ、起動準備を完了させた。ルーフェン殿に用意させた正装を着込んだ彼女は始動キーを回すと、ゆっくりスイッチをONにした。
逞しい音が鳴り、車輪がゆっくりと前に回りはじめる。自転車の速度、自動車の速度、そして鉄道の速度へ変化し、開かれた窓から軽やかな風が通り抜ける。
因みに振動は勿論、モルガナ特性サスペンションがついており、お尻にも優しいし、急な停止にも耐えられるように支えが壁などについているのだ。
とはいえ、ルーフェン殿の領地まで王国から馬車で2日はかかる。地下鉄道とはいえど、半日はかかる見込みなので。
「というわけでこれを貰って、吾輩の勝ちだな」
「アカーンッ!! 待つんや! もうひと勝負! これに負けたら俺の小遣いは消えるんや!」
「大穴狙いすぎなんだよ、ドラゴ殿は………ティアを見てみろ。意外と堅実な賭け方してるぞ」
「ふふ、お母様から教わりましたの。賭け方と………イカサマのやり方を、ですわ!」
「嘘やん?? え、俺イカサマかけられてんの??」
カードを捨てて、支払われた銅貨を受け取り、またもやドラゴ殿が最下位になった。え? 何してるって? 賭博ですが? まあ、暇だからね。各々が時間潰しに入るわけで。
「あかんわ。これはあかん………リコリスの交際費、どうすりゃええんや」
「帝国の女騎士は金より誠意の方が大事だぞ。吾輩が言うんだから間違いない」
「そりゃ、説得力違うわ………ところで、さっきからこちらに目線向けてるけどなんか用なん? 帝国の新たな英雄殿」
「あ、いや、その………」
まったりとした空気の中で、走る緊張感あるドラゴ殿の声。後ろと前に座っていた部下達が魔力を高める中、アルチナの猫撫で声が彼を呼ぶ。
「ドラゴちゃん。ちょっとリコリスについてお姉さん、話があるんだけどいいかしらぁ?」
「え、いや、俺、護衛の任務中で………」
「別に隣の席に移るだけでしょう? 幾ら新たな英雄さんでもこれだけ囲まれて何かやらかすわけないじゃない。安心なさいな………やらかした瞬間、私が首を刎ねるから」
アルチナの覇気に連れられて、ドラゴ殿はムサシ殿と席を変わる。対面に座るムサシ殿、吾輩を大事に抱え直すティア。
「えーっと………ま、魔導列車ってどんな仕組みなんすか?」
「他国の人間に応えるわけないだろ」
「あ、いや、そっすね………ん? じゃあ、なんでティアには教えてたんです?」
「教えても理解できないから」
「ちんぷんかんぷんでしたわ!」
「バカにされてるっすよ、ティア嬢。ってそうじゃなくてっすね………」
しどろもどろな彼の言葉を待つ。ガタゴトと揺れる列車の中で隣席のドラゴ殿がはい………はい………としか答えられないアルチナの圧が増す中で、
「申し訳………なかったっす」
「それは、何の謝罪だ?」
いやマジで何の謝罪なのか。吾輩の命を賭けた事に関しては、ティアの人権を貰い受ける事で清算してる。
「義妹を犠牲にしようとしてまで、自分の私怨を優先しようとした俺は自分が嫌っていた筈の………帝国貴族と同じ振る舞いをした事に」
「その怒りは当然だし、蒸し返す必要もない筈だ」
「それでも、俺は貴方に頭を下げるべきだと思った。交渉通りに魔導列車の計画に参入して、貴方達2人が王国の為に運送の改革を成し遂げようとする姿をずっと見てきて………私怨に囚われて前を見れない自分を、恥じた」
低い声で、絞り出すように、彼はそれを言葉にした。
「貴族生まれが逃げ出した戦争で俺だけ生き残った。後継にアートを取られた。母は父を捨て、権力者の未亡人となり、俺を邪魔者扱いする。うんざりだった。帝国全てに、嫌気がさした。憎むしかなかった。怒りの炎で全て燃やし尽くして復讐するつもりだった」
「………だった?」
「──彼女に出会うまでは」
彼女が誰を示すかは、簡単にわかった。吾輩には彼と彼女の間に、何があったかまでは知らないがそれでも小さな救いがあったのだと。
「彼女の妹を巻き込んだのに、俺は責められなかった。むしろ、ナツメ商会全体で俺の失敗の尻拭いをしてくれた。どうして、そこまで?と聞いた俺に彼女は笑って言ったんす」
「なんて?」
「『貴方の怒りを読みきれなかった私にも責任がある。それに、夫婦って言うのはお互いに支え合うものでしょう?』なんて。俺は自分が情け無くなったっす」
「分かるよ。吾輩も、今でもモルガナやアルチナに支えられっぱなしだ」
辿々しい言葉に俺は黙って頷いた。魔導列車も吾輩がやったのは動力源の改造だけだ。魔導列車やその根回し全部はモルガナによるものだ。それを吾輩達の手柄とするにはちょっと面の皮を厚くしないとならない。
「だからこそ、改めて謝らせてください。俺が、悪かったです。周りが支えてくれなければ全てを台無しにしかけた事をここに謝罪します」
帝国騎士、そして新たな英雄ともあろう彼が王国の軍人達に囲まれた武器も取られた逃げ場のない場所で恥を晒して頭を下げている。周りを見れば、いつでもやれると目をぎらつかせているが、それを目で制し、吾輩は小さく顎を引く。
「敵陣の中でも頭を下げる姿、大義である。貴殿、それを常々忘れるな」
「──有難きお言葉。感謝いたします」
列車は止まらず、揺れる中で小さなわだかまりが溶けてゆく。あえて偉そうにした吾輩の言い方と、それを下手に受けた彼を見て車内の殺気だった空気も霧散する。
「タンゴ様、まるでお偉い方のようでしたわ!」
「実際に偉いらしいんだよ、吾輩って。実感ないけど」
「俺が言えた義理じゃないっすけど、こんな乗り物を作って何をそんな………」
ティアの言葉に内心でため息を吐く。立場というのは面倒だ。王国内だと、1人の男を赦すのにここまで大袈裟にしなければならないのだから。
「まっ、そんな吾輩だから肩肘張るなよ。終着駅はまだ先だ」
カードを切って配る。困惑する彼に銅貨を指で弾きながら、
「それまで、吾輩に付き合えよ。寄り道も楽しんでこその人生だ。そうだろ?」
「………違いないっすね」
彼は配られたカードを手にして賭博に参加するのだった。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。
因みに実験は無事に成功を迎え、国家事業として認められた。魔導列車改めて『クロス・エクスプレス』と名付けられた魔導列車は今後数年かけて王国内の領地を繋げていくつもりらしい。
「タンゴ様。私が『帝国貴族学院』を入学する頃にはナツメ商会にも繋がるといいですわね」
「その間に、帝国と王国が友好を結ぶのは夢のまた夢な気がするけどな」
さて、王国の仕事も一区切りついた。次の大仕事、ティアの学院生活を何とかしてあげなくてはな。少なくとも入学迄の2年の間に魔法の取得は必須だろう。
「ふふ! 楽しみですわ!」
前奏曲はこの辺で。悲劇の幕は上がらせない。とっておきの幻想曲を君に。
100話記念かつ1周年!!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
ハーメルンでここまで長く連載したのは初めてです。今後とも黒猫と魔女達をよろしくお願いします!
それと1周年記念である話を投稿しますので、活動報告で本日の18時にまた来てください。怪しくはないですよ、本当ですよ?
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