吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
「学院では決闘制度って規則がありますわ。互いに名誉や誇りをかけて剣と魔法で戦う。由緒正しい歴史が。これによる勝敗の決着は皇族であろうと翻してはならない。何故なら、帝国の歴史と血筋に泥を塗るから。そんな誇りがない者達は食われておしまいですわ」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。
ティアと紅茶を飲みながら、彼女の話を聞く。姉のセレナから聞いていた話のようだが、こうすると割と騎士の国っぽく聞こえるな。
「ですが、今の帝国貴族………伯爵家から上はそれを野蛮だと鼻で笑うのがかっこいいと思ってますわ。異界用語で言う、『冷笑』?みたいな感じですわね」
「だから決闘を行わないと? それこそ帝国貴族の陰湿さなら突かれそうな言いがかりだが」
「そう。だからこそ、学院は決闘の規則に1つの条件をつけ加えましたの。
「騎士の誇りはどこへやらだな………このスコーン美味いな」
お茶菓子は王国から仕入れた小麦によるスコーン、それを連邦国から仕入れた果実のジャムと法国の特産品のクリームを使って頂く。各国で生み出された美食はナツメ商会を通じて帝国に搬入され、ここ貴族学院にも届いている。
つまり、ティアに喧嘩を売るという事は帝国の兵站を担うツーウンユ家と連邦国と交易を行うナツメ商会を敵に回すというわけだ。今後、こんな優雅なお茶会なんて送れるわけもない。
そんな無茶を普通なら、やらないだろうが………そこをやるのが帝国クオリティ。
「そして、それは
「戦力を用意したのは、アルトリウスってところか………それがティアが友達になれそうな人物って事でいいんだよな?」
「はいですの! 彼女の名前はドロップですわ。私でも名前を聞いたことがありますの。男爵家の次女でありながら、単身であの黄金劇場から金貨を大量に持ち出した勇敢な人物!」
「あの最下層のスケルトンキング倒したのか………」
「しかも、その金貨は他の自分と似たような環境にあるご令嬢達の支援に使われますの。その気高さから学内でも人気が高く、派閥を形成してますわ! あと、アルトリウスの21番目の愛人ですわ」
「最後の情報いる?」
彼女が捲し立てるように語る事から、それなりに有名なのは違いない。それで男爵家の次女でありながら派閥を形成し、単独でダンジョンを踏破できるほどの実力者。
「それとティアは真正面からやり合うわけか。一応、聞いとくがムサシ殿を指名するつもりは?」
「ありませんわ。相手は正しく、礼儀を持って私に挑んできましたもの。ならばその気高さに免じ、私自らが決闘に挑む事こそ彼女への最大限の礼となりますわ!」
「レディが、気持ちのいい人物で良かったよ」
鼻高々にふんすと胸を張るティアの心意気は立派なものだ。これくらい気風のいい人物ばかりなら帝国は腐らずに済んだのではないだろうか。
「ウルテマはその辺り、どう思う?」
「ん〜無理じゃないかな〜上が腐ってたら腐敗はどんどん下に及んでいくから〜。異界の人物やティア様みたいな人物がいても暗躍と策略で落ちる事もあるしね〜。ますたぁ、紅茶のお代わりは?」
「くれるか? しかし、いまだに信じられないな………
そんな事を呑気に
「だから違うよ〜この世界はウルの魔法とますたぁの変換器を活用した情報空間だってば。ティア様を招き入れられたのは単に相性が良かったからだね〜波長を操る魔法でますたぁと脳波を合わせたら案外いけちゃった」
「いけちゃった!で済ませていい世界じゃなさすぎるな。『記憶を情報に変換して再現』するそれを吾輩達と電気信号で繋いだネットワークみたいなもんだろ? これ、上手く使ったら現代世界により近づけるんじゃないか?」
「むり。費用対効果が釣り合わないから。まあ、今は明日のこと考えよーよ。ねっ?」
思考の中だからか、ウルテマも本来の姿で吾輩達に奉仕してくれる。いやまじで唸るほどに紅茶と茶菓子が美味い。これ味わったら確かに吾輩の紅茶はカスや。シンプルにメイドとして格の違いを教え込まれたわ。
現にティアも夢の中ならいくら食べても太らねーですわ! パクパクですわ! とか言ってずっと見ていた悪夢のストレスを解放するかのようにウルテマの料理を味わっている。特に今日は英気を養いますわ!とありったけの茶菓子を食べてるくらいだ。
「燃えますわ! 相手にとって不足なし! それに初めての決闘ですもの! 大物喰いしてやりますわ!!」
「ああ、その粋だ。吾輩、ティアが勝つことを信じているからな」
「ふふ、見ててくださいませ。タンゴ様。貴方が育てた魔法の素晴らしさをとくと教えてさしあげます!」
それだけ言うと、彼女は紅茶を飲み干して何もない空間に腰掛ける。すると瞬く間に現れたピアノに指先を添えて、演奏を始めた。
悪夢から逃れて吾輩の夢の中に来るようになってから、彼女はピアノの練習もこの世界で始めるようになったのだ。
「さて、吾輩達も始めますか」
「あーあ、今日もやるの〜? たまにはお休みしようよ〜ますたぁが強くならなくたって、魔女達みーんなが守ってくれるのに〜」
「後ろから指示だけ出して甘い汁すするおっさんがいたら殴りたくなるだろ? それと同じだよ、ウルテマ」
ティアが越えるべき目標に向けて努力をするならば、吾輩も同じように努力する。特に今は帝国という危険地帯にいるのだから、護身を身につけるのは間違いない。
「じゃあ、頼むぞウルテマ。
「全くもう〜安請け合いするんじゃなかった〜お義姉ちゃんおねむなんだけどな〜」
そうは言うが、瞬きをする間にその手には無骨な日本刀。彼女本来の武器ではないそれを手にして構える姿は何処か既視感があった。納刀された刀から、バチリとオレンジ色の雷が迸る。
「じゃあ、ますたぁ。頑張ってね〜」
──オレンジの光が見えた。
「約束通り、
背後で声が聞こえた。振り返ろうとして、首が回ってはいけない場所まで回った。もつれる体がどんどん上へ上がっていく、違う自分が床に向かって落ちている。
「夢の中だし、ウルが再現し直すから何回死んでもだいじょーぶ………安心して、死んでね?」
結局、今夜もひたすらにボコボコにされたのだった。
いや強すぎるって。これが過去の吾輩ってマジ?
*
「おはよっ! アルさん! いいお天気ですねっ!」
「ああ、おはよう。ネヴィア。実に決闘日和だな」
「んん〜実に素晴らしい朝日でございますなぁ! おはようございます! 我が友よ!」
「ああ、友人Cいたのか?」
「相変わらずの塩対応!」
「うーん、朝からみんな元気だね〜」
「なんだ? アートは元気じゃないのか?」
「ううん。昨日はアルくんがいなかったからよく眠れたしね。腰の痛みもすっかり抜けちゃった」
肩に指先をすりすりしてくるアートには逆襲のキスをお見舞いしてやる。朝から濃厚なベーゼを受けて顔を赤くしてもう!と怒る彼女の可愛らしさに癒されながら、応援席に腰掛けた。
何となく周りの空気が弛緩するのを感じる。きっと選ばれし人間たちが座るべき場所に座ったからだろう。今後はここが俺たちの専用席になるに違いない。こうして社会の規則は出来ていくわけだ。
そんな今日は決闘だ。きっかけは些細なこと。自称婚約者(笑)のティアがネヴィアに対して言い掛かりをつけたのだ。
『ネヴィア様、ここは学院。教育の場です。アルトリウス殿下と仲がいいのは分かりますが………いえ例えどんな時だとしても説明会を抜けてまで会いに行くのはいかがなものかと』
せっかく俺が迎えに来てネヴィアと愛を育もうとしたのだが、つまらない嫉妬で邪魔されたのだ。それを咎めるのは簡単だったが、代わりにネヴィアが怒ってくれた。
『何それ、嫉妬? 愛と青春は放っておいたらすぐに消えてなくなる雪みたいなものなんだよっ? 貴女は新雪の溶けやすさを知らないんだね。可哀想に。冬の冷たさしかしらない貴女はきっと真冬に見上げる月の美しさも知らないんだから』
『………? え、っと? つまり、何が言いたいんですの?」
『私達の青春の邪魔をしないでって事!! もういいっ! いこ! アルさん!』
彼女に手を引かれて、俺たちはその場を後にした。彼女はいつもこうだ。俺たちのような選ばれた人間には、望んでもいないような人間関係の線が勝手に引かれてしまう。
そのほとんどは『好き』だの『くたばれ』だのと相手にするのも馬鹿らしいが下手に扱うとそれが爆弾に繋がっている事もままある。俺みたいな人間は下手に触るだけで炸裂するそれをネヴィアは解体してくれるのだ。
ならば、その勇気に免じなくてはならない。個人的なご褒美は野外のお馬さんごっこ(意味深)で解消して、潰された彼女の優しさを決闘で晴らす事にしたのだ。
最近、献上された女の中に腕が立つ子がいた気がするから彼女を宛がった。相手はなんて事ない似非ピアニスト。ネヴィアとは比べて格段に劣るし、貧相な体つきから運動神経も感じられない。やっぱり女の子は胸だよ、胸。あ、鶏肉だと胸よりはもも肉だけどね。桃尻は大好きだけど。
『さあさあさあ! 入学早々、決闘のお時間がやって参りました! 選手入場前から既に決戦の熱が高まっているようです! では早速、行きましょう! 青側は〜!! 今、堂々と選手入場です!! 凛とした静かな見た目に惑わされることなかれ、彼女は恐るべき魔法使い!! ダンジョンを踏破し、その功績を持ってアルトリウス殿下の女となった『蒼炎』のドロップです!!』
ドロップが入場する。お椀型のDカップを揺らしながら、入場する彼女はスカートとストッキングの絶対領域がとても眩しい。サイドでひとつにまとめ、肩の前に流した髪が風を切って歩く彼女に靡く。
「ふーん、あれがアルくんの新しい女の子なんだ〜昨日も朝まで彼女と愛し合ってたんだって?」
「俺の愛が迸ったからね。それに英気を養うって側面もあったし………朝まで頑張ったからきっと彼女は勝つさ」
『さあ──そして赤側からは、彼女が現れます! 今や学院で知らない人はいない最大派閥の女王様! かのセレナ様の妹であり、アルトリウス殿下の婚約者! ティア・F・ナツメ様です!!』
腕に弓を構えて現れたのは幼女だ。通う学校を間違えてるらしい彼女は、意気揚々と対戦者の前に現れて、髪をふわっと靡かせる。
自信満々だが、果たしてその虚勢が何処まで続くのやら。全く見ものだよ。
「そうは思わないか? 友人C」
「──アルトリウス殿下」
普段から太鼓持ちで俺を鼓舞してくれる彼が静かに言った。普段のふざけ顔は何処へやら。やれやれ余裕のない男は嫌われるぞ? モテモテハーレム主人公皇帝の俺からの助言だぞ?
「おい、話くらい聞けよ」
「今は貴方の悪ふざけに付き合う暇はありません。しっかり見ていてください」
「えっと、レオナールくん? どういうこと?」
優しいアートがいなかったらぶん殴ってたところだ。全くこれだから、こいつは嫌いなんですよ。肝心な部分でノリが悪い。戦闘時とかダンジョンに潜る時とか、いっつもこうなんだから。
まあ、そんな友人から部下に格下げ寸前の男はモノクルを光らせて、
「──この勝負、決着は一瞬です」
「って、そんな事全員わかりきってるやないかーい!」
どう見ても分かりきった事を溜めて言うからこってこてのツッコミをせざるを得なかったじゃないか! アートも苦笑してるし、ネヴィアも笑ってる。
そもそも自称婚約者は魔力強化が出来ないって話だ。そんな奴がダンジョンに単身で潜るような女にどうして勝てるというのか。
それにドロップは火と風の二重属性持ち。圧縮した火炎に風を混ぜる事でより強く燃える蒼い炎を操るのだ。
全くレオナールは笑いのフリとオチについて知らないようだ。
『それでは、決闘──開始ぃぃぃぃ!!』
では、この俺が正しくお笑いというものを教えてあげよう。レオナールよ、これで君も明日から帝国一の笑い者だ。大丈夫、滑ったとしても友人として宮廷道化師として雇ってあげるからな。
「ではこれより、1発ギャグ皇帝ペンギン──」
刹那、俺の視界を閃光が塗りつぶした。眩む世界にアートの横顔はまるで笑ってるように見えて、中々いいなと思いながらも自分の視力が潰された事にやっぱりいらっとした。
決めた。ティアは絶対に許さん。ぐつぐつ煮込んで出汁を取って、モテないダサい気持ち悪い貴族の跡取りに売りつけてやる。
『現役貴族女学生のらぶらぶ♡出汁』とか書けば売れるのは間違いないだろうから。
「──なんという事だ」
そんなレオナールの言葉に俺は観客席から決闘用の場所を見下ろせば、そこには蒼い炎が霧散し、地面に倒れ伏したドロップの姿と………無傷のまま開始線から一歩も動かない幼女の姿だった。
「安心してくださいませ、皆様。彼女は急な光と音で気絶してるだけですわ。どなたか、彼女を医務室まで運んでくださいませ。いないのであれば、私がお運びしますが」
ざわめく観客席に彼女の凛とした声が響く。慌ただしく、観客席から飛び降りた傷ありの令嬢達が彼女の肩を支えるとすぐに消えていった。だが、衝撃は残ったままだ。
まあ、何となく俺にはわかったけどね。
『な、何が起きたと言うのでしょう! 一瞬の光の後、すでにドロップは倒されていました! ティア様の魔法が当たったのでしょうか!? ああもう! 全く分かりません! それだけの速攻! 瞬く光のような決闘!! まるで、閃光のごとき彼女の戦いに皆様、どうか拍手を!!』
実況の使命を思い出した令嬢が震える声で何とか言葉を吐き出し、自称婚約者は優雅なカーテシーをかました後、出口へと向けて歩いていった。
「アルくん。今の何が起きたか、わかった?」
「ああ。さっきのは陽動だよ。一瞬の光で皆の目をくらませた後、代理の騎士がドロップを倒したんだ。ティアの魔法はアクメビームだからね。ドロップがそれで負けたなら今頃あそこは水溜りが出来てるさ」
「ンン〜ッ!! すんばらしい慧眼! 流石はアルトリウス殿下ですねえー!! であれば、この哀れな太鼓持ちたるレオナールの考察も聞いていただけますか〜!?」
観客席にいる皆が納得したように頷く中、レオナールが自分の話も聞いてほしいと大層に体を振って訴えるので仕方なく聞いてあげるとしよう。まっ、優れた統治者は部下の発言を聞くものだからな。
「ではでは、皆様ご静聴を。恐らく、あれは急な光と音による視覚と聴覚への攻撃と思われまーす! 人間、いきなり信じられないものを見た時や処理しきれない音を聞いた時にそれ以上の被害を防ぐ為、意識を失う事があるのです。それを彼女は意図的に引き起こしたのでしょう! さながら、音爆弾! と言ったとこでしょうか」
「うーん、でもレオナールくん。光は凄かったけど、音は観客席まで届かなかったよ?」
「そこが彼女の怖いところです。この距離で音が届かなかった………つまり、彼女は
静まり返る観客席。レオナールの考察は的を得ているところもあるだろう。だとしてもだ。レオナールは些かビビりすぎている。
「いいか、お前はそんなんだから友人Cなんだ。例えそうだとしても、魔力強化が出来ないならば近づいてバッサリ行けば問題ない。そうだろう、皆んな? 我らは騎士! 剣で外敵を撃ち倒す者だ! 遠距離でちまちま魔法を使うしか能がない女なんかに簡単に負けるはずが無い!!」
「………そ、そうだな! 俺たちは騎士だ!」
「剣を奮うことすら出来ない女達に負けるかよ!」
「女達は黙って股間の聖剣を磨いてればいいんだ!」
沈黙が反転し、攻勢へと変わる。これでいい。これこそが俺が大好きな国、帝国としてあるべき姿だ。外野からいくら言われようと変わる必要はない。
「俺たちには確固たる信念と自信がある。ない者達はそれをこの貴族学院で見つけるといい! 女を知らない者達は好きなだけ女を抱けばいい! 昨日までの自分とはおさらばだ! 始めよう! 俺たちの青春………いや、性春を!」
「また、こうなってしまいましたか〜」
「うん。レオナールくん、いつもお疲れ様」
「流石はアルさんです。中々できる事じゃないですねっ!」
今にみてるといいナツメ商会。俺はお前たちとは違う。目立つ奴の揚げ足を取ったり、負けた奴を叩く事で自分の地位を確かめたりはしない。
他人は他人で、自分は自分。断固たる決意と揺らがない自分があれば、そんなさもしい行為なんてやめさせてやるよ。
「ンン! それでドロップさんはどうするのです? お見舞いに行くのですか?」
「え? いや、やめとくよ。負けたあいつが悪いし、それに今日はアートの埋め合わせをしないといけないからな」
「もうっ、アルくんのえっち」
「………さいですか」
何せ、俺は優しいからな。今日くらいは勝利の美酒に浸らせてやるよ。
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