吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
「あの決闘の意味をアルトリウス殿下は理解してないでしょう。そして、これから私たちが行う事も」
「すいません、婚姻目的の茶会の意味は吾輩にもわかりません」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。
上の会話は決闘直後の翌日の会話である。昨日に遡るが、集まった吾輩とティア、そしてムサシ殿を連れたセレナ殿は椅子に座りながら気絶したドロップを見つめていた。
「この決闘が意味するのはアルトリウス殿下の配下が負けた事………即ち彼の影響力が削れた事を意味する。特にドロップさんは傷物にされた令嬢を連れて魔物を狩るなど自活を推進する革新派。本来ならこんな簡単に切り捨てていい人材ではないのよ」
「もっと優れた人材がいるとかじゃないのか? それこそ騎士団の人員とか奴なら顎で使えるんじゃ………?」
「五聖騎士の人材は魔族との戦争でほぼ壊滅っすからね。わざわざ使える人材を皇帝でもない男につけるなんざバカのやる事っす。だから、キャロル家の跡取りを言い訳代わりに付けてるとは思うんすけど」
「じゃあ、つまり気軽に使える人材をわざわざ手放したって事? 流石に考え無しすぎるだろ………」
「それだけじゃないわ。今回の決闘で生じた互いの契約条件も上乗せされるの。こちらはティアには伝えてなかったわね? いい機会だから説明しますわ」
今回の決闘、実はティアはただ単に受けただけだがしっかりと連絡と相談はセレナ殿にしていたようで彼女は意地悪そうな顔で口角を上げる。
「今回の条件はネヴィアさんからは『二度とアルトリウス殿下に近づかないこと』でした。とはいえ、これはティアが勝利したので関係なし。まあ、好き好んで近付くような人ではないのだけれど」
「姉様、話がずれてますわ」
「あら失礼。そして、私からは『ドロップさんの派閥の取り込み』を提案。簡単に承諾されましたわ。ではこれが何を意味するか。タンゴ、貴方には分かるかしら?」
「単にティアの味方が増えるって事だろ? あとは、アレか。アルトリウス殿下は一度失敗したらすぐに切り捨てる薄情さを持ってると知られるとか?」
「6割正解ですわ。流石ですわね。では、残り4割は何かと言うと………『まともな価値観を持った貴族令嬢の取り込みによる婚姻外交』ができると言うこと」
婚姻外交?と吾輩が首を傾げたその時、ベッドがもぞりと動き、毛布からドロップ殿が顔を覗かせる。眩暈がするのか、顔に手を当ててこちらを見渡し、現状を把握したらしく、大きく息を吐いた。
「ドロップは、負けたのね」
「ええ、負けましたわ。さて、敗者は勝者に従うもの。異論はありますの?」
「ありませんわ、ティア様。それに、なんだかずっと悪夢を見ていたような気がするくらいですから………」
「やっぱり彼女も洗脳されてたみたいっすね」
「ああ。ティアの閃光で目が覚めたらしい。強い衝撃を与えれば解除されるのか?」
ヒソヒソと男同士で話していれば、ドロップがベッドの上で居住まいを正す。
「ナツメ侯爵家の皆様、それからツーウンユの後継殿」
「俺は後継として認められてないっすけどね」
背筋をピンと伸ばしてこちらを見つめるドロップは、まるで礼儀作法をきちんと躾けられた良家の娘のようで、ベッド上に三つ指をつき、頭を下げる。完璧な所作だった。
「決闘はドロップの負けですが……敗者の戯言として、どうか仲間達は見逃してください。代わりにこの身体、好きにしていただいて構いません」
「いらねえっすよ。こちとは、戦争と略奪婚のトラウマで勃つもんも勃たねえんすから。ただ、うちのお嬢様からは話があるみたいっすけど」
流された目線はムサシ殿の向かうが、肩を竦めてあっさりと返す。いや、あっさり流していい内容ではなかった気がするなぁ………もう少し、なんかあるだろうよ、それは。
「ムサシの事は夫婦の問題なので一旦脇に「まだ夫婦じゃないっす」置いておいて。ドロップさん。でしたら、貴女とそのお仲間にご提案があるの。聞いてくれるかしら?」
という台詞を聞いて、今現在。建物の一角を借りて、お茶会が開かれた………とても危機迫る顔をしたムサシ殿の部下達らしき男達とその圧に若干泣きそうになってるご令嬢達という地獄。
それを少し離れた机に座り、優雅に吾輩が入れた紅茶を飲み『美味しくないわね』と呟くセレナ殿。余りにも悪役令嬢の貫禄がありすぎる。もしかして、ティアの悪い部分を全部持っていきました?
「さて、帝国貴族の婚姻事情に無知な方もいるだろうから説明するわね」
「事実なんだけど、言い方もう少しどうにかならなかった?」
「まず学院内では派閥に入ることが暗黙の規則とされてますわ。自分で立ち上げるも構いません。現に今は私が立ち上げた派閥とアルトリウス殿下の派閥が最大手ですわ」
ウルテマの指示通りに入れ直した紅茶を飲み、本題に入るセレナ殿。ティアもこうした場ではきちんとした作法を行うようになったのが成長の証だと思う。夢の中だとマナーはどこかへ行くが。
「そうして、入学後にはこうした茶会を開き派閥に入りたいという希望者を募ると共に、子爵以下の殿方達は自分の結婚相手を探すのですの」
「殿方達は? 令嬢さん達はどうなるんだ?」
「基本は家が決めた相手と結婚ですわね。女が家の判断に逆らう事はいけないというのが帝国らしさですわ。しかし、何処にも例外はありますのよ。例えば、三女や四女。また妾の娘。などの家から婚姻すらも紹介されないもの達は学院で相手を見つけるしかありません」
「いつから貴族学院は婚活会場になったの?」
「因みに女性が失敗した場合は、良くて貴族の玩具に。悪ければ家畜牧場行きになります」
「終活をする為に学院に来たわけじゃないだろうに」
某トレセンの風評被害が浮かんだが、それより酷いのは設定を作った本人なんだから分かっている。王国でも三十路過ぎの女性に求婚されていたのだ。遥かに民度が低い帝国だと生死をかけた学生生活になる筈だ。
だからなのだろう。茶会に参加している顔ぶれも令嬢達は違う。ドロップ殿の派閥の令嬢達は皆一様に緊張したり、落ち着かないように周りを見渡しているが、
「この後さ、アルトリウス殿下のお茶会行くでしょ? やっぱさ〜殿下の愛人になるのが1番の勝ち組だよね」
「それ! しかも今なら五聖騎士のキャロル家もついてくるじゃん? もうこんなしけた茶会よりそっちに本腰入れるでしょ!」
「貧乏男爵の正妻より、皇帝の愛人の方が責任感なくて楽だもん。それまでの暇つぶし暇つぶし………だけど侯爵家の癖に紅茶は不味いのね」
「悪い茶葉しか使ってないんじゃない? 成り上がりなんてそんなものよ」
侯爵家の長女が開いた茶会を舐めてるとしか思えない令嬢達もいらっしゃる。その癖におかわり自由のドリンクバーみたいに紅茶を飲むのだから、もう。後、紅茶が不味いのは吾輩のせいだから、セレナ殿はそんな目で見ないで。
「見なよ………あれが帝国の一般の令嬢っす」
「吾輩、無性にモルガナ達に会いたくなってきた」
モルガナをぎゅってしてよしよししてあげたい。アルチナとお酒の飲み比べしたい。ロジェと感想会したい。同じ帝国出身なのにこの差は酷い。何がって一応モルガナは皇女だし、アルチナは公爵令嬢なんですよ? キャロル家の令嬢なんですよ?
「吾輩、幸せ者だったのかもしれないな………」
「美人を3人侍らせといて何言ってんすか………」
「しかも、現地妻が他にもいるかもしれないのがタチ悪いわね」
「セレナ殿違うからな? ユニは別に現地妻じゃないからな?」
「なら、貴方が手紙に一文追加して黒猫の毛を送るだけで連邦国からの経済制裁が無くなるのはどういう事かしら? しかもご丁寧に香を焚いた口付け付きの手紙が返ってきておいてそれは苦しいんじゃない?」
「全ての鍵はウルテマが握ってますので………」
「全責任、他人に押しつけましたわね、タンゴ」
事実100年前に何があったかを知ってるのは彼女だけなのでぇ。とりあえず吾輩がユニを口説いたみたいな扱いになっているのはおかしい。多分、モルガナ達と同じように接してあげただけに違いない。
でも前例が3人いるので多分吾輩が悪い。
つまり、全部吾輩のせいでQED。証明終了である。
「それでは………お時間になりましたのでこれにて本日のお茶会は終了致します。また開きますので良ければ気軽にご参加くださいませ」
「今後の日程は私の方から展開させていただきます! 次回は若輩ながら私もピアノ演奏いたしますのでよろしくお願いしますわ!」
そんな雑談をしつつ、せっせとお茶やお菓子のおかわりをしていればナツメ姉妹によって茶会が締められる。それを聞いて、さっさと会場を後にする令嬢が半分。後片付けを開始する参加者だった騎士の皆さん。そして、
「あの、こちらを………」
「あら、ありがとうございます。いい香り………お名前は?」
「しっかり、並んでくださいませ〜姉様はきちんと皆様の挨拶をお聞きしますわ〜」
セレナ殿に香水や宝石のお土産を渡すご令嬢達だった。緊張している彼女達はセレナ殿の前に並び、何故かティアが列整理の音頭を取っている。それは本来、吾輩の役目では?と思ったが片付けが忙しいのでありがたい。
粗方捌き終わり、茶会の会場も綺麗にし終わった所で漸く今回の目的についてセレナ殿が話し始めた。
「今回の令嬢達の中で礼儀がなっていたのはどなたか分かるかしら?」
「当然。セレナ殿に挨拶に来た者達だろうな。ドロップ殿の派閥はもちろん、緊張してたのは入学したばかりの子達、派閥に入れてもらって学院の悪習から守ってもらいに来たのが目的だな?」
「ええ。そして、その子達とムサシの部下………将来的にムサシの家臣団となる者達の嫁探しも兼ねています。騎士達には好みの子がいたら斡旋し、彼女達の護衛をしてもらう」
「無論、手は出さないように厳命っす。手を出したりしたら、俺が殺す。無理矢理は良くない。純愛が一番っす」
「………こじらせてるムサシ殿は置いておくけども、それによる婚姻外交が目的ってのはどういうことだ?」
「さっきも説明したように、令嬢達はまともな相手が見つからなければ人生終了。であれば、まともな相手を紹介する事は恩を売る事に繋がりますわ。賢い貴族であれば、英雄とナツメ商会の名前は無視できませんから」
つまり、賢い貴族はしっかり挨拶をしてきた彼女達なわけだ。ティアが先程からせっせとリストに書かれた名前を音読し、暗記しているのもその一環か。彼女達にはムサシ殿が騎士を派遣し、護衛させる。
そこから自然に恋愛関係になれば良し。ならなくても英雄やナツメ商会との繋がりを得られるという面では悪い相手ではない。
「逆に頭が悪いのが茶菓子と紅茶をバクバク食べるだけ食べてアルトリウス殿下の愛人になりに行った令嬢達ですわ。あの見通しの甘さからして、伯爵家か子爵の三女から五女あたりでしょう」
「幾らアルトリウス殿下が女の子に甘いからって、出せる金は限られてるっす。自分で稼ぐ気がゼロならば殿下に頼るしかないっすが………殿下は別に自分で稼いだ金があるわけではない」
「つまり、皇族として国庫から出さざるを得ない。なら愛人を抱えるには限りがある………? いやでも後宮とか手段はあるだろ?」
「教養も礼儀もない者達を後宮に抱え込む筈がないでしょう? それならさっさと家畜牧場に送られますわ。というか今はそうなりますわよ。魔族との戦争、悪化による経済崩壊。飢饉による食料問題、そして、連邦国からの制裁………国庫に金があるわけがないですわ」
「何で帝国滅びてないの?」
吾輩の素朴な疑問に、こちらが聞きたいという顔で返さないでいただけます? とはいえこんな泥舟状態を直視して、真っ当な貴族令嬢達を抱え込みに来ているって事は。
「狙いはツーウンユ家を
「うふふ。面白いことを言うのね、この駄目イドは」
「いやー爆笑もんす。あっはっはっは」
棒読みの返答と、否定がない返事に吾輩も察した。
帝国の食生活を支える農耕地を抱えるツーウンユ家、唯一他国とやり取りをするナツメ商会、そして国庫の代わりに吾輩が金貨を度々補充している黄金劇場があるムサシ殿の領地と武力の象徴たる灰燼の騎士が率いる騎士団。
その領地をまとめて国として正当化できる──皇女の存在。
「お前ら………吾輩の妻に確認とったか?」
「取りましたわ。何なら連邦国からは全力で支援しますと言う密命まで来てますわ」
「いや、タンゴが間にいると話が早くて助かるっすね」
「吾輩の知らない間に話が進んでて怖い」
吾輩が魔導列車の線路開通やティア、ロジェと戯れてる数年の間に着々と下準備が進んでるの怖い。革命の種火がどんどん大きくなっている事にため息をつくが、こちらからは止めるつもりはない。
それが大きな物語の流れだから。
でも、血が流れないほうが好ましいけど。
「お茶会は今後はティアが主導でやりなさい。私は今年卒業、派閥は貴女に引き継ぎます。私は補佐に回りますわ」
「はいな、姉様! 今後は演奏会も開くつもりですわ! 演奏家の支援もやりたいですの!」
「まずはしっかり運営できるようになってからよ。私がムサシに嫁ぐ以上、ナツメ商会は貴女と旦那様にかかっているのだからね?」
「ティアなら引く手数多だろうしな。吾輩も応援してる」
「ティア嬢が手を引きたいのは1人だけだと思うっす………」
まあでも、とセレナ殿は区切る。音で覚え切ったのか元気よく返事をしたティアを見て、
「今日のお茶会は普段より礼儀良かったわね。亜人の奴隷を連れてきてあからさまに男女の仲を見せつける者もいませんでしたわ。ティアの初めての茶会にしては良かったですわね」
「暴れる使用人もいなかったっすもんね………亜人達の飼われてる癖に勝ち誇った目がムカつくんで、奴らに売られた喧嘩買ってた甲斐はあったすかね? 連れてこなくなったという事は」
「話には聞いてましたけど、後継者を産む代わりに亜人の奴隷を支援する屈辱的な契約が学院にもあるってほんとですの?」
「あるわよ。私の母が父と交わしたあの悪魔のような契約は。最も、そこの使用人は薄々気づいていたようだけどね」
実に気まずい。そうなのだ。スピンオフ作品を1回しか書いたことがない吾輩が知ってる限り、セレナとティアは腹違いの姉妹なのである。
セレナの母は貴族の令嬢であり、ナツメ商会との政略結婚だった。丁重に扱われ、夫人として申し分ない生活をしていたのだがある日彼女は………野生味溢れる亜人を奴隷として買い上げた。
綺麗に言えば彼女は燃え上がるような愛を理解した。
口汚く言えば彼女は彼のワイルドな魅力に堕落した。
下品に言えば彼女は彼の下半身に寝取られたのだった。
「薄々、セレナ殿とティアは異母姉妹なんだろうなとは………」
「それは私達姉妹の肉体から判断したのかしら?」
「性格に決まってるが? なので、無言で剣を抜かないでいただけるか?? ムサシ殿」
吾輩がセレナ殿の体目当てだと思っているのだろうか。というかその態度からして大分ムサシ殿はセレナ殿に絆されてない? 見てみなさいよ、嫉妬してるムサシ殿を見てにっこにっこですよ。貴方の未来の奥様。
「あらそう? じゃあ、ティアはどうかしら?」
「ね、姉様!?」
「ははは。レディのような人物は吾輩には勿体無い。それこそアルトリウス殿下みたいに女を侍らせてるような奴。吾輩もだが、そんな奴はやめるといいさ………痛い痛い痛い。ぐりぐりと足を踏まないでいただけるか??」
姉妹仲良く、足の甲をぐりぐりしないでいただきたい。腹違いだからなんだというのだ。こんなの即興で出来るならもう普通の姉妹と何ら変わりないだろ。
「さてタンゴに関しては焦らずに行くとして、気をつけなさいね。ティア。夜這い、既成事実、望まない妊娠、肉。幾つかの理由で卒業までいかない令嬢が半分くらいいるのがこの学院よ。彼がいるからと油断しないように」
「悪意の底なし沼かよ。どんだけ深いんだ、この沼」
「まだタンゴは浅瀬でぱちゃぱちゃしてただけっすからね」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。
帝国の悪意に吾輩王国に帰りたくなってきた。
モルガナ、アルチナ、ロジェ………お前らがいないと寂しいよ。
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