吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
色々な布石を貼りまくる回なので
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。
決闘から1週間後、今日から本格的な授業の開始だ。そんな本日も嫌になるくらいの晴天で。カーテンを開けた事による日差しの強さにティアが微睡みながら体を起こす。
「おはよう、レディ」
「ふみゅ………おはよ、ですわ〜」
彼女は体を起こす。王国の魔女たちの居住地たる旅館で。転移扉があるのだから、わざわざ夜這いの危険性がある寮に住む必要はないとの判断だ。あと、快適性は旅館の方が遥かにいいしな。
因みに寮には玩具シリーズの玩具の人形が寝かせられている。これに夜這いを仕掛けようとした瞬間、まあ色々と大変な目に遭うのでこれが噂になれば彼女が寮で寝れるようになるのも近いかもしれない。
本人はこの数年で旅館での住まいに慣れてしまった感はあるが。
「もちゃあ!」
「いつもありがとな。チップだ」
「もちゃ!」
用意した器にはお湯があり、タオルも用意する。帝国ならばこれら全ては本来使用人達が日が昇る前から井戸の水を汲んで〜沸かして〜などの手順がいるが、ここならばハクたちが全てやってくれるのは非常に助かる。
ティア←吾輩←ハクの流れで奉仕をされている………吾輩メイドの仕事全く出来てないな? 錬金道具による護衛しかやれてないな??
「今日はどんな髪型がいい?」
「可愛い奴がいいですわ!」
「じゃあ、編み込み入れたやつにしようか」
あ、一応髪のセットとかは吾輩がしている。流石に服は自分で着てもらうしかないが。ティアも自分でやりますわ!と言ってくれるのは助かる。
モルガナが作った化粧品を使った髪は昔に比べて随分とさらさらになった。指を絡ませると解けていく髪を編み込みながら、最後に髪留めでまとめて完成だ。
「ふふふ〜ん」
「上機嫌だな、ティア」
「当たり前ですわ! 今日からドロップが復活しますのよ! 楽しみですわ!」
準備が完了すると、次は朝ごはんなので貴族学院の食堂へと移動する前に、モルガナ達と挨拶を交わす。快く送り出してくれた皆に手を振りながら転移扉を通り、不思議な箱庭の部屋へ移動。そこから寮の部屋へ階段を上がる。
クリアリング、ヨシ! 部屋内には誰もいないようだ。1階で助かるな。窓から入ればすぐに寮の部屋だ。本来なら地位が高い程、部屋の階数は高くなるが………アルトリウスの嫌がらせだろう。ネヴィアは子爵だが、アートと同じ階層らしいし。
「土に埋めるだけであんな部屋が出来るなんて王国の錬金術は進んでますわね」
「帝国だと錬金術も神聖術もあんまり進歩ないよな。時々異界の民達によって変革が起きてるっぽいが」
「帝国は異界の人頼りですもの。それこそ異界の人を呼び出す方法ができる前………帝国独自の文化なんてものは400年前くらいにしかないと思いますわ」
学生寮から本館へ移動し、食堂と書かれた部屋に入ると豪華絢爛に飾られた軽く百人は着卓出来そうな長机が並んでいた。
席についている生徒らのリボンの色が机ごとに違っていることからして、どうやら学年別に分かれているらしい。教師たちは、ロフトの中階で食べるようで、使用人達が慌ただしく動いていたので吾輩も合流する。
「おはようございます、3世様。裏手へどうぞ。朝ごはんの用意ができています。ここは我らにお任せを」
「吾輩って働いてるみんなを見ながら飯を食うような奴に見える?」
「いえ、全く。ですが、巫女姫様からは『いい加減に自分の立場に見合った振る舞いをさせてほしい』と言われてますので。それに3世様の為に暖かなご飯を用意してますので早めに食べていただきたいのですが………」
「それはズルだろう………!」
「あと、正直に言わせていただくと役に立たないので後ろに引っ込んでもらいたいのですが」
「朝ごはん食べてきます」
さも準備してきます。という態度のまま、厨房に引っ込めば使用人の皆様達がこぞって足を止めて挨拶をするので会釈しつつ、案内に従って厨房に用意された………絶対、厨房用ではない机すぎる。滅茶苦茶、木のいい匂いがするもん。何年も使ってる奴ではないな、これは。
「おはようございます。3世様。本日は何に致しましょう?」
「おはよう、ヨミ。えっ、品書きとかあるの?」
「ございます。ですが申し訳ありません。本日は異界御膳、同界御膳の2種類しか用意できていないのです。こちらからお選びいただけますか?」
「それは全然構わないけど、因みに内容は何が何だ?」
「異界御膳は異界の皆様が好む御膳になっています。ライス、ミソスープと言えばお分かりになりますか? 同界御膳はこちらの世界の朝食になります」
「じゃあ、異界御膳で」
かしこまりました。と礼を言って彼女はその場を後にした。待つまでの間にと、出されたのは暖かな緑茶。舌先に残る僅かな苦味と仄かな甘さに舌鼓を打っていればすぐに食事が到着する。
「お待たせしました。こちらがライスとミソスープ。具材は根菜類と芋類を使用しています。主菜はトラウトタスクと呼ばれる魚を干したものを焼いたものです。副菜は採れたて卵を使用した卵焼きと煮豆です」
「ちゃんとした和食だ………」
感動するくらいには和食で、吾輩びっくり。とはいえやっぱり米は少しパサついてるし、味噌も風味が違うが全然問題ない。魚の干物も鮭っぽくて美味い。いやほんと、ここが帝国じゃなきゃ滅茶苦茶嬉しいのに! 帝国じゃなければ!! 皆が働いてる仲、食べるご飯も罪悪感もすっごいし!
「明日から、吾輩も働かせてください………」
「ダメです。慣れてください。巫女姫様の旦那様となれば、今以上に豪華な生活が待ってるのですから」
「具体的には?」
「朝から晩まで美食美酒を嗜めますし、綺麗どころを揃えていただき好きに扱っても構いません。娯楽の国と言われてるだけあり、飽きることない娯楽の数々を貴方に与えると………巫女姫様は気合いを入れていました」
気が狂う〜連邦国だとそんな生活が続くの正気か?
そんないい暮らしをしてたら人間としてダメになってしまう。
「というか吾輩みたいな奴に料理を振る舞うことに不満とかないの? 巫女姫が勝手に言ってるだけ。って思ったりしないのか?」
「お忘れだとは聞いてますので伝えますが、我ら使用人全員は貴方様に恩しかありません。むしろ、漸くお返しできると一同気合いが入ってます。むん」
もう吾輩連邦国に行かない方がいいかもしれん。くっ、王国を見習ってくれ。とりあえず放っておいてくれる方が有難い。猫は構われすぎると嫌われるんだぞ。
「ご馳走様でした………ところで何だが」
色々言ったが、出された食事は勿論完食した。そんな味わいつつも、微妙に落ち着かない食事を得て食後のコーヒーを頂きながら疑問が1つ。
「何でしょう」
「学生の皆は本当に朝から、こんなに食べるのか?」
こちら側から食堂が見える窓から覗くと何とまあ豪華な生活が広がっていた。
食卓の上には大きな鳥のロースト、星の形をしたミートパイ、いい香りのするトマトスープパスタ。焼き立てのパンに瑞々しい果物を使ったジャム。見渡す限りのチーズを炎で溶かし、根菜類にかける物まで。そんな豪勢なご飯を朝から高級そうなワインで流し込む者たちまでいるが………重くない?
若いからって暴飲暴食は良くないと思う。食べ盛りとはいえやり過ぎだ。
「まさか。全部食べる人などいません。まだ満足しないうちに机の上から料理がなくなるなどもっての外。絶対に食べきれないだけの量を並べることが帝国貴族に対する礼儀なのです」
「それ、飢饉の今でもやるのか? 貴重な食材無駄にし過ぎだろ………」
「ごもっともです。なので残飯は私達のご飯となります。勿論、作り替えはしますし、これに比べれば3世様は残さず食べてくれるので助かります」
「学院でこれなら、帝国だけでどれだけフードロスが生まれてんだよ………」
食事を終えて去っていく学生達、机には大量の残飯。幾ら何でも量が多すぎるので吾輩も手伝うことにした。ヨミが何か言いたげではあったが、一飯の恩という事で見逃してほしい。
そして、積み上がる残飯の山をヨミ達はせっせと処理していく。まだ食べられる鶏肉を丁寧に取り除き、チーズを溶かして残った芋を潰して和えたりと可能な限り残飯を自分達の賄いへと変えていく。
「3世様。この後、時間があるようでしたらムサシ様達に朝ご飯を届けに行ってもらえますか? ムサシ様達はこの朝ご飯が貴族の残飯でできていることはご存知ですので」
「ああ、任せてくれ」
大量に用意された余ったパンと鶏肉、ポテサラを使ったサンドイッチのお重を両手に抱え、首からは淹れたて珈琲の魔法瓶を提げた。
えっほ、えっほ、ムサシ殿達に毎日ご苦労様って伝えなきゃ。えっほ、えっほ。
学院の敷地内には一応、騎士の詰所がある。本来ならばシフト制らしく、男性騎士の新人達がこぞってやらされるのだが、それだけだと警備として不安なので腕が立つ騎士達もちらほらいる。
ただ、今年はナツメ商会のご令嬢2人がいるからと婚約者のムサシ殿が手を挙げた事や戦争により疲弊したキャロル家、ヒーコシセンター家が譲った事もありムサシ殿達が占有している。
「お疲れ様。毎度、黒猫大和です。朝ご飯の配達だ」
「お疲れ様っす。今日はタンゴなんすね。新人共! 今から1時間休憩とする! すぐさま配給に移れ!」
「「「はいっ!」」」
辿り着いた先では、汗だくで剣を振る若い子達の姿。吾輩が来たことやムサシ殿の号令によって漸く解放されたとばかりにふらふらで吾輩からお重と珈琲を受け取る。
「今にも死にそうだが、大丈夫なのか?」
「甘いっすよ、剣で腕を立てたいやつも学院で女子生徒の尻を追っかけたい奴もまずは1回ゲロ吐くまでやらせるっす。帝国貴族だから〜なんてのは俺の目が黒いうちは絶対に言わせない」
「あまり厳しくしすぎると離れるんじゃないか?」
「それならそれで構わないっすよ。努力すらしない、根性もない、なのに口だけ達者なやつを鍛えるほど俺たちも暇じゃないんすから」
それはそうなんだが………いや、こういう考えは良くないかもな。ムサシ殿がパワハラやセクハラやらかしてるならともかく、シンプルに厳しいならこちらから言うことはない、言うことはないだけだ。
「手伝いますよ」
「えっ、あ、ありがとうございます」
「皆様が頑張ってくださるから、私たちは安心して暮らせるんです。今はきついかもしれませんが………積み重ねは裏切りません。なんて、使用人風情が言っても信頼はないかもしれませんが」
だから行動で示す。先輩達に配給を終えた彼らに変わって吾輩が配膳していく。サンドイッチと珈琲を用意して、バイトで培った接客笑顔で疲弊し切った彼らに目線を合わせて声をかけた。
「貴方達に剣を教えるムサシ様は守りに優れた騎士です。本来、騎士というのは誰かを守る者。彼から学ぶことはきっと多い筈です。頑張ってくださいね!」
「は、はい!! ありがとうございます!」
「あ、あの、お名前は!?」
「テメェ、抜け駆けすんな!」
「タンゴです。それでは皆様、この辺で」
ウルテマ譲りのカーテシーで挨拶をして、その場を立ち去る………なんで手で顔を覆ってるんだ、ムサシ殿。
「こうやって、ティア嬢を毒牙にかけるんすね………」
「人を女たらしみたいに言うなよ」
「事実っす。女たらしじゃなくて、人たらしっすけどね」
「………もしかして、照れてる?」
「さっさと戻るっす。頼んだ剣や鎧の修理も終わってないんすよね? ほら、行った行った。しっしっしっ」
すれ違い様に耳を赤くしたムサシ殿に雑に扱われながらも使用人達の部屋へ戻る。吾輩の錬金術のアトリエとなった部屋でムサシ殿から預かっていた騎士団の剣や鎧を修繕していく。
素材を入れて、剣を入れて錆やひび割れを直していく。簡単な作業だが、数が多い。必死でこなしていく内にお昼になったので食堂へ戻る。
お昼も変わらず、フードロスが大量に生まれる中で余りをいただいた後はティアの部屋へ戻ると、彼女がいた。
「忘れ物か? ティア?」
「貴方を待ってましたのよ、タンゴ様。さあ、一緒に授業に出ますわよ!」
「何を言ってるんだ? 使用人が授業に参加するなんてそんな………」
「だから、黒猫になるんですのよ!」
「吾輩を毛皮の上着にしたいんですの??」
帝国では黒猫は不幸の象徴とされている。故に倫理観が終わってる帝国では殺されるか、毛皮を剥がれるかの2択なのだ。もしかして吾輩、ティアに嫌われてる?
「違いますわ! 私を信じてくださいまし!」
「えぇ………やめておくわ。普通に心配だからな」
「そうですの? じゃあ、仕方ありませんわね」
ティアが区切る。諦めがいいなと思った矢先、
「──ならこれは上司命令にしましょう」
雰囲気が変わる。可愛らしさは鳴りを顰め、ナツメ商会という人の上に立つべき者の圧を感じる。
「今すぐ、黒猫になりなさいな。これは私からの、命令ですわ」
「………はい」
結果、吾輩は負けた。笑いたければ笑え。あの圧はセレナ殿にも負けてないって。アレは吾輩が知ってる悪役令嬢のティアだって。
黒猫姿になった上でティアに抱えられて、学院を移動する。途中ですれ違ったヨミには微笑ましい目で撫で回された。解せぬ。
「遅いわよ! ティア様! もうすぐ授業が始まるってのに、何処に行ってらっしゃったの!?」
「この子を部屋に迎えに行ってたんですの。もしかしてドロップ、心配してくださったの?」
「べ、別にそんなんじゃありません! し、心配なんかしてないんだから!」
そこにいたのは復帰したドロップ殿だった。ポニテだった髪はティアと似たようなツインテール。叫ぶ口元には八重歯が見え、世の中の男性が好むような肉体という………なんだろツンデレなのもあって平成初期に出てきそうなヒロイン感が凄い。
「へ、ヘェ〜可愛いじゃないですか。で、でもティア様の方が可愛いんだからね! 勘違いしないでよねっ!」
「勘違いしてませんわよ。面白いですわよね〜タンゴ」
「にゃー」
やる気なさげに返事をしておく。初めて教室に入ったが、大学の講義室が近いかもしれない。吾輩、大学行けなかったから紗良の大学時代にあった文化祭のイメージになるが。
しかし、黒猫を教室に連れ込むのはいかがかと思ったが生徒達は遠巻きにしてるだけで近づいて来ない。
「でもティア様? 幾ら何でも、決闘でドロップに圧勝したからって自分の我儘をなんでも通せるわけじゃないんですよ? 特に黒猫なんて………帝国では不吉の象徴、ナディーが生まれたのもそのせいと言われてます」
「あら大丈夫ですわよ。まさか、あれだけの実力差を見せつけておきながら私の愛猫に手を出すなんて………そんな馬鹿な真似をする人はいませんわよ、ね?」
どころか、ティアに静かな声に息を呑む始末。これもしかして、手を出したら撃ち抜くぞって周りを脅してらっしゃいます??
「それにかなり大人しいので授業の邪魔も致しませんわ。机に座って聞いてるだけ。授業を放ってアルトリウス殿下と楽しんでるネヴィアに比べれば遥かにいいと思いますが?」
「にゃー(それとこれとは別な気がするが)」
暴論、極論の類だがドロップ殿は確かにと頷く。猫が授業受けてるのが問題にならないってネヴィア殿、どれだけこの1週間でやらかしたんだ?
そんなやり取りの最中、講師が入ってきたが机に香箱座りする吾輩を一瞥し、二度見した後に何事もなく講義を始めた。これが問題にならないって??
「さて、本日は帝国の歴史について話していこうと思います。皆様ご存知の通り、帝国は500年前に初代皇帝『竜騎士』によって設立されました。それ以来、我が国はこの大陸を代表とする先進国として進んできたのです! 発展途上国たる王国や奴隷達が国ごっこをしている連邦国とは歴史が違う!」
『開幕早々熱が入ってるね〜』
『これ最早、洗脳だろう』
眠そうな顔をする演技の吾輩に、脳内からウルテマがちょっかいを掛けてくる。時折、ぽりぽりという音がするからなんかポテチでも食べてらっしゃる?
「ですが、清廉潔白な覇国たる帝国にもやはり弱みはあるもの………初代は優れた騎士でありましたが、その次代は呪われていました。皆様も名前だけは聞いたことがあるでしょう。『ナデシコ』または『ナディー』という悪魔の名前を」
『撫子………?』
『本名はナデシコ、愛称はナディーですわ。タンゴ様』
『ちくわ大明神』
『誰だ今の………ってちょい待て!? 本当にどちら様!?』
余りにもびっくりして、思わず立ち上がってしまった。とりあえず誤魔化すためにうろうろした後、ふて寝体制に入る。
『魔力を雷に変換して情報をやり取りしてるんですのね? ですけど、何かしらの波長を感じましたわ。異界用語でいう電波?って奴ですわね。なら、私もそれに波長を合わせれば会話くらいは出来ますわ』
『あらやだこの子怖い』
『いつかやると思ってました〜モルガナ様が先だと思ってましたが〜』
『嘘でしょ。モルガナにも怯えなきゃならないの??』
ちらっと見上げれば、ティアは熱心に話を聞いてるが頭の中では吾輩達と会話をしているのだ。その素振りが全く見えないのが本当に凄い。
「ナデシコは初代皇帝の竜騎士の長女として生まれましたが………その際に母親の命を奪ったとされています。成長してからも長男たる二代目皇帝の邪魔をするばかりで知能の発達が遅れていたとも。二代目の手記には書かれていましたね」
『事実ですわ。具体的には幼少期から、生き物を殺しては腑を啜ったり。夜な夜な部屋を抜け出しては墓場で死体と踊る姿などが絵画として残ってますの』
ホラー映画の悪役じゃないんだぞ。吾輩が知らないことから後々作品に追加されたのだろう。何の役割があるかは今の時点ではわからないが。
「そして、初代皇帝が亡くなった後は二代目の英断によって国から追放されました。それまでに彼女が残した国の傷跡を考えれば当然でしょう。人体実験に使う為に人間を繁殖させようとした牧場や魂を呼び出す為の魔法陣。死体を切り張りする為の研究施設など………当時の国民は恐怖で夜も眠れなかった筈です!」
『今でも牧場が利用されてることは?』
『帝国民で生きるには都合の悪いことは忘れないといけませんわよ』
『なら吾輩、王国民でいいわ。心はずっと王国にあるから………』
『王国心………なるほど〜キングダムハー『記憶を読むんじゃない』』
どんな時だって、吾輩魔女達と生きてきたけども。死んだ後は毎回光の中で目が覚めるけども。
「そして、ナデシコは国を追放された後………大悪党へと姿を変えたのです。そう──
『はい!?!?』
『タンゴ様、尻尾が私に当たってますわ』
寝耳に水もいいとこだ。吾輩が知る限り、魔族が生まれた理由は書いてすらなかった筈。テンプレだからとなあなあにしていた筈なのに!?
そうか、それが彼女の役割………魔族の母として彼らを産んだって事はもしかして、初代魔王?
「そして、奴は帝国から南東に位置する砂漠に国を作りました。魔族達の国たる『魔公国』と呼ばれる悪しき国を。奴らの進行もそこから始まりました。魔王とその妻ナディーによる世界侵略が」
『加えて七元徳もだろ? よく聖女勇者勝てたな』
『どうして、その張本人御一行の1人が首を傾げてますの?』
『ますたぁは400年前の記憶がないから〜』
だが、初代魔王的な感じではなかったようだ。女が魔王だと元々の話がブレるからな。魔族は男しか生まれないっていう設定だし。
その後の話は帝国の3代目皇帝が如何に優秀で、魔族達を今の死の大地に押し込んで400年平和を維持してるかの話になったのでとりあえず聞くだけに。
暫くすると授業が終わる。今日はこれで最後らしく、外に出ていくものたちやお茶会を開催する為に部屋に向かうものたちまで。吾輩もティアに抱かれたまま、お茶会の会場へ。
「お疲れ様。ティア………あら、タンゴを連れてきたの?」
「今日はタンゴに私の演奏を聴いて欲しかったんですの!」
「ふしゃー」
先にお茶会会場にいたセレナ殿は吾輩を見て、固まったがすぐにティアから差し出された吾輩を膝に置くと背中を撫で始める。次第に撫で方に熱が入り出し、割と丁寧にふわふわの毛皮を堪能し始めた。
いいだろ? 魔女達が猫吸いするから磨きまくったふわふわの毛皮だぞ。
「それでは皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。先日は私の強さを、知ってもらえたと思います。ですが、それは私の一面。今日は皆様に別の一面を見せたいと思ってますわ」
ティアが鍵盤へ手を置く。彼女が奏で始めた冒頭の旋律は、今から何かを語り始めるのではなく、すでに語られたことを、遠くから思い出そうとするように現れた。
音は留まったまま、少しずつ姿を変えていく。同じ輪郭を残しながら音の数を増やす。旋律そのものが別の場所へ移ったわけではない。
それでも、周囲の響きが変わるたび、同じ声が違う表情を見せた。
ネヴィア殿が一方的に聴かせる音の暴力なら、こちらは静かに語りかける対話のような音楽だと思った。
「………凄いよな」
「ええ、ティアは本当に音楽に関しては凄いですわよ」
「それだけじゃないさ」
2人の音楽を聞く機会に恵まれてるから気づいた共通点。2人とも、ピアノを奏でる時、自分が作った音楽を聞かせる時、どこまでも自信満々だ。
自分の演奏が一番だと、最高の時間にするというのが音に乗って伝わってくる。
気付けば音楽は終わっていて、疎に拍手が始まり次第に大きくなっていく。用意していた紅茶は飲まれることなく、冷めていて。どれだけ彼女の音楽に夢中だったかが分かるようだ。
「どうでしたか?」
「素敵な演奏だったわよ。音楽だけは昔から素敵ね」
「姉様に褒められましたわ!」
「皮肉が通じないのも美徳よね」
優雅に挨拶を終えて、彼女がこちらへと戻ってくる。セレナ殿とのやり取りを得た後、吾輩を抱えて覗き込むティア。
『凄く良かった。まるで語りかけるような音楽で………好みだけどネヴィアよりは好きだな』
『むふふふ〜ですわよね〜! この調子でネヴィアに勝ってみせますわ! 今度の曲は自信作ですのよ!』
眩しい。彼女の追いつけると信じているその姿が。自分が生み出した作品が必ずウケると思っているその自信が………吾輩にとって羨ましい。
かつて何度もオリジナル作品を出しては読み切り以来、連載まで行かなくて。何が面白くて、何が面白くないのかもわからなくなって。
自分の作品に価値があるのかどうか、考え出して。
そもそも自分に価値がないのだから仕方ないと諦めて。
『なぁ、ティア。どうしてそこまで自信満々に演奏出来るんだ?』
だから聞いてしまった。愛弟子にも聞いた創作者としての問いかけ。自分の作品が最高だと、強く言い切れる根拠が聞きたくて。
そんな吾輩の問いかけにティアは吾輩のお腹に顔を埋めながら、なんて事ないように。
『だって──自分が最高の出来!だと自信満々に思わない曲を演奏するわけないですわ』
『いやいや、師匠。確かに作品の価値は他人が評価するものだ。でも、そんな世の中だからこそ──自分くらいは面白い!と自信を持たなくてどうするんだい?』
愛弟子にして馬鹿弟子の言葉とティアの言葉が重なった。その域に達する事はついぞ最期まで辿り着く事は出来なかったが………それがきっと吾輩に足りないピースの1つだと思った。
吾輩は、いつかその領域にたどり着けるのだろうか。
再開した漫画は背景は余白まみれ、台詞も空白だらけでとても漫画家が書いたなんて言えないけど。
『そう、だな。そうだよな………いや、聞けて良かった』
ロジェは頑張って夢に手を掛けた。ティアは難しい目標に対しても諦めずに頑張っている。吾輩もそんな2人を見習って見えない道を歩き続けるしかないのだ。
まあ魔女達を救う方が優先だけどな。吾輩の個人的な後悔とかは投げ捨てて構わない。どちらが価値あるかなんてのは皆、言わなくても分かるだろう? 漫画よりも人命だ。つまらない漫画よりも魔女達に決まってる。
その後はお茶会は進み、ティアにさまざまな話を聞く令嬢達が多くいた。ナツメ商会が取り扱うモルガナの錬金道具やティアの音楽について、そして黒猫たる吾輩を撫でようとする者達。
流石に不吉の象徴たる黒猫を撫でようとする令嬢は一部だけだったが、それでも会話のきっかけにはなったようだ。ティアは侯爵家の次女だから話しかけるにも用がないと失礼にあたるだろう。
お茶会も完了すると、夕食だが夕飯は食堂で取らない者達がいる。何故かって? 寮の部屋でいちゃつく奴らが多いからのようだ。なので吾輩達も食事を受け取り、部屋に戻る………と見せかけて旅館へ移動する。
「食堂のご飯も美味しいですけど、量が多くて………出されたものは食べ切らないと勿体ですもの」
「食べ切れる量だけ食べた方が残す罪悪感もないしな」
「それにお蕎麦とかおうどん美味しいですわ! あっさりしてて、もたれた胃でもするする入りますもの」
ハクたちが用意してくれた夕食のうどんを平らげて、ティアはお風呂へ向かう。吾輩と一緒に入ろうとごねるがそこはしっかり拒否する。
手を出すつもりはないが、下手に入った場合にナツメ商会にキズモノにしたな、ごらあ?みたいな事言われて責任問題発生するかもだから。
「じゃあ、お姉さんと一緒に入る?」
「いいよ。ならこの間のお酒、熱燗にして入りながら飲もうか」
それに吾輩には美人な妻達がいるしな。今日はアルチナと飲みながら、語り合う事にする。日によってはモルガナと入ったり、ロジェと入ったりするが、今日は2人とも仕事でいないようなので。
とりあえず軽く3時間くらいお風呂でアルチナと語り合って、ゆっくりした後、吾輩は猫の姿でティアの部屋へ向かう。悪夢を見る彼女に寄り添ってあげる為だ。
「今日も、遅かったですわね………? 捗ったんですの?」
「淑女がそういう事を聞くんじゃありません。宿題は終わったのか?」
「勿論ですわ! 学院の授業って最低限ですもの。この調子なら、参加しなくてもいいってなる気持ちもわかりますわ」
「ああ〜アルトリウスとか、授業に出てないけど期末考査は満点だから許されてるんだっけか。それはそれで学院生活を舐めてる気はするが」
「まだ帝国を知ろうとしてるタンゴ様の方がいいですわよ?」
「吾輩とアルトリウスを比較してもどんぐりの背比べだからやめておけ。さっ、明日も早いからもう寝よう。続きは夢の中でだ」
はーい。と元気よく返事した彼女の腕に抱かれて、吾輩も眠りに入る。湯たんぽ代わりか抱き枕代わりに抱きしめられたまま、沈む意識に身を委ねていく。そして、気付けば、吾輩達はあの夢の世界にいるのだ。
「さてさて〜お仕事しますか〜今日こそ一撃入るといいね〜」
「言ってろ、ウルテマ。今日こそは記憶を返してもらう!」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。
これが吾輩の1日だ。振り返ると使用人の仕事全然してないな、吾輩。
お気に入り・評価ありがとうございます。励みになります!
感想もいつもありがとうございます! 読んでます!
どしどしください! 待っています!