吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
『迅雷』と名付けられたその居合はかつての吾輩の代名詞だったらしい。要はモルガナみたいに錬金道具を身につけて、杖ぶんぶんならぬ、日本刀ブンブンしていたようだ。
何度も食らって分かったのだが、雷速の居合いの正体は──自分自身を電磁加速で撃ち出すこと。恐らく日本刀も電磁加速抜刀なのだとは思う。
つまり、吾輩が──レールガンの弾丸になることだ。自殺行為である。
吾輩らしい発想だ。体にかかる負荷や一歩間違えれば爆散してもおかしくない技術を、死んでもいい!という理念で飛び越えたというか。三途の川で反復横跳びしてるというか。
だが、理念はわかった。詰まるところ、いつも通りに死ねればいい。
「結局のところ、ますたぁは甘いんだよね〜自分が死ねば全て解決できると本気で思ってる」
なんて、思っていた吾輩はお笑いだったぜ。数えるのもバカらしくなるくらいに夢の中で首を刎ねられた男へのウルテマからのありがたいお言葉に吾輩は沈黙で返す。
「自分の事は心の底からどうでもいいんだろうけど〜自分を気にかけてくれる他人に関してはどうでもいいとは思えない損な性格だもんね〜だからこうして他人の好意に応える行動ばっかり〜」
「馬鹿だな、ウルテマ。最近は吾輩もちょっとは我儘言うようになってきたぞ」
「へ〜? 具体的には?」
「夕飯のメニューをリクエストしてたりする」
「もうちょっとアルトリウス殿下を見習ったら?」
失礼な。アレは我儘というより命令だろう。
「まあでも、そこをどうでもいい、って思う人はますたぁみたいな生き方はしないよね〜だから人の手の上で転がされちゃう」
「吾輩、誰かの掌で踊るような事はしてないが?」
「ムサシ様とセレナ様に踊らされていたのは、どこのだーれ?」
雷が鳴る。納めた刀ではなく、彼女自身から。あれもしかして、比喩的な意味で今、雷落とされてる?
「他人を蔑ろにできないっていうその甘さは生きていくために重要なのは間違いないよ〜」
「当たり前だろ。他人を蔑ろにする奴は、間違えた時に誰も手を貸してくれない。人間ってのは常に鏡みたいなもんだからな」
「それはそれで人に期待しすぎだと思うけどね〜さてここからが本題」
彼女は眠そうな目でこちらを見て、言った。
「──無価値な貴方が捧げる愛には価値なんてあるのかな?」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、タンゴ、モブガルド・ニャンディアス3世、キミリア。
ティアや馬鹿弟子とのやり取りを思い出す。最高だと思う出来栄えの作品だからこそ自信満々に公開できると彼女達は言っていた。
自分で設定した世界を、国を、人を見てずっと思っていた。果たして無価値な吾輩が考えた世界は
その答えは単純だ。
──その答えだけはずっと出ないまま今に至る訳だ。
ウルテマはめんどくさがりだ。基本、ツッコミ所がない限りは吾輩の脳内に連絡を入れる事もない。そんな彼女が帝国に来てから毎晩吾輩を鍛えてくれている。それがとても嬉しくて………同時に申し訳なくも感じる。
怠惰な彼女がそれでも吾輩に死んでほしくないからと力をつけようとしているのに、今だに彼女に一太刀すら入れられないのが本当に。
「本日はダンジョンの初挑戦でしたね。3世様は護衛で参られるのですか?」
「ああ。新入生達を先輩が引率してダンジョンを経験させるって名目だ。とはいえ貴族の子達を学生だけで見させて死なせたりしたら問題が起きるからな。護衛を連れてきてもいいらしい」
「果たしてそれは実践の特訓になるのでしょうか」
「………空気感や危機感は伝わるだろ、多分。今日も朝飯ご馳走さま」
ありがとう。と礼を言って皿を洗ってから食堂を出る。満腹になったティアと一緒に部屋に戻り、彼女の兵装の確認と自分の錬金道具たちを確認し、服もメイド服から動きやすいレンジャー服へと着替えた。スカートなのはルーフェン殿の趣味である。
しかし、ダンジョン………ダンジョンかぁ。そもそもの始まりは原作のゲームでエロトラップダンジョンがあったのが起源だ。主人公はそこの最深部にて、魔女たちを調教している。その最深部までティアが攻略するのがラストバトルだった。
という訳でスピンオフは原作の前日譚に当たる関係上、ダンジョンはないといけない。だからってスピンオフでわざわざダンジョン攻略を出すのも中弛みが凄いので割愛。
結果、ゲーム版で初めて披露されたのが帝国の学院近くに存在するダンジョン。攻略タイミングは序盤と終盤に限られており、当時はまだNo.8がいなかったので最深部まで行くと現れるみたいなエンドコンテンツを仕組んでいた。
え? 原作のエロトラップダンジョン? 多分、堕ちたモルガナとユニがこのダンジョンを改造改築したんじゃないかな………だからこの時まではまだ大丈夫だと吾輩は思っていました。
「見ろ!! 野生の『お満子うさぎ』だ!! 奴らは弱いが具合はいい!! 捕まえれば暫くは困らんぞ!」
「気をつけろ! 『バ・キュー・ム』だ! 奴の吸引力は侮れん!」
「2人ともしっかりなさい! アレは『ローションスライム』! ぬるぬるしてるせいで剣が通じませんのよ! ここはドロップとティア様の魔法で倒すのよ!」
「そうですか、じゃあ吾輩はこの辺で」
「帰ろうとしないでくださいませ、タンゴ!! 私をひとりにしないで!?」
いやあ、もういいって。ダンジョンに入ったのはまだいい。ドロップ殿が不慣れなティアと吾輩をサポートしてくれるのもとても助かる。でもね?
「何でダンジョンに出てくる魔物達がどいつもこいつも下品なんだよ………!」
「黄金劇場のスケルトンとかレイスってかなりマシな魔物でしたわね………」
「何を現実逃避してるんですか、お2人とも。ほら、早く資材を回収なさい。遅れたら置いてかれまーすよ?」
黄昏れる吾輩達を置いて、レオナール殿に焼かれたスライムの跡地には木材と薬草が残っていた。そう、これこそが帝国をここまで大きくした要因の1つ。魔物を倒せば倒すほど、落ちる利用可能な素材や道具の数々だ。
「無限の資材の正体がこれだなんて………商会で扱っていたのはなんだって言うんですの?」
「あそこで捕まえたうさぎに対して尻を出して腰を振っている男の体液が入り混じったものでごさいまーす!」
「何で説明したんです?? レオナール殿??」
隣を歩くレオナール殿、頭を抱えるティア。そして護衛をしている吾輩。あまりにも珍妙なパーティだ。何故こうなったのか。
発端はアルトリウス殿下の画期的な発言からだった。
『俺の周りに令嬢を集めればいい。大丈夫、俺最強だから』
というわけで集まった新入生のご令嬢達はアルトリウス殿下に集まり、ムサシ殿や経験者のドロップ殿は欲の余りに突貫する男子新入生の担当にされてしまった。
唯一ティアのみ、アルトリウス殿下の婚約者だからと配慮してもらって同じパーティーに入れてもらったのだが、
『えー婚約者〜? アルトリウス殿下に似合わなーい。そんな事より私とかどう? 私、結構尽くす方だよ?』
『腹の中で何考えてるかわかんないよね〜商会の成り上がりとかさ? 高尚な政治とかわかんないよね? 何しにここきてるの?』
『は? 何? 魔族の混じり物が私に意見するわけ? つか、裏でコソコソ陰口叩くより直接言ってあげる私の優しさに感謝してよね。ほら、頭を下げて地面に擦り付けてみなさいよ!』
ティアへの陰口に吾輩への悪口とよくもまあ、尽きないものだ。ならばアルトリウス殿下にも何かあるのかと思ったが、
『アルトリウス殿下はいいんだよ。殿下はカッコよくて素敵だし。お金もいっぱい持ってるし』
『男性だから大体の事を許すのが帝国淑女の嗜みだよね〜何処かの婚約者みたいに小さな体に見合った器の小ささとは違うんですよ』
『せっかく目の保養できたのに、獣の二足歩行とか気持ち悪いもの見ちゃった〜殿下〜あの亜人、ダンジョンの秘め事にしなーい?』
既にアルトリウス殿下の魔法に堕ちてるのか、元々の性根なのか。殺気立ち始めた彼女達に対して、吾輩が錬金道具を取り出し始めた瞬間にレオナール殿が急いで駆けつけたわけで。
そこからひとまずはレオナール殿と後方を担当し、前方はアルトリウス殿下に任せているわけだ。どうしよう、すごく不安。
護衛の騎士団も下がらせて、不慣れなパーティーでダンジョンを巡る。死亡フラグの香りを嗅がせにきてるだろう。
「失礼ですが、レオナール殿。アルトリウス殿下はダンジョンに慣れているのですか?」
「ンンン! 全く慣れてはおりませんね〜! 寧ろ、自信満々過ぎてこちらが心配になってくる所存でございまーす!!」
「その、ずっと疑問だったのですが何で殿下にお仕えしてるんですの? キャロル家とはいえ殿下はおば………我が道を行く方ですわよ?」
「実のところ、大変現ナマがよろしくて!! というのもありますが、父からお目付役としての命令を受けてますゆえに」
指で輪っかを作りながら、そう言うがお目目には中間管理職みたいな疲弊が見えた。
「まあ、だからと言って自分の手を出した女の管理やら費用に関しての兼ね合いに加えて自分には建築の才能があるからと引いた設計図の建築など………私は秘書のつもりはないんですけどねえ!」
「その、いつもお疲れ様ですわ」
「同じ使用人として貴方の頑張りを応援しています」
「ありがとうございます………いやはや、これだけ優しい婚約者がいながら殿下は全く。人を見る目がなさすぎますねえ」
そんな殿下は大名行列みたいに女の子連れて、ずんずんと奥深くへ進んでいく。殿下が気にせずに奥に突き進むのにも訳があり、現在いる二階層はあまり強い魔物が出ないのだ。
それこそ脳味噌まで陰茎になったんか?って言う魔物達で遊ぶ余裕があるくらいなのだから。本当に何でこうなってんだ?? 吾輩がこんな設定書く訳ないだろ。もっと基本に忠実にスライムとか出してたぞ。
忠実だったのはダンジョン入口までだった。入口は無骨な石造りの建物で、周りには大きめの門と跳ね橋を備え、空堀もあった。これに関しては内部からの魔物が出てくるのを防ぐ為だから分かる。
次に内部だが、階層は地下宮殿と言ってもおかしくはない出来栄えだった。壁は石造り、床にも石畳が敷かれ、ディズニーのアトラクション内部と言われてもおかしくは無い。
しかもところどころに電灯のような青白い魔力の照明が点っており、想像以上に明るい。通路の幅も広く、人間の吾輩10人分前後の広さはありそう。
天井も高く、人間が跳び上がって長剣を振っても到底届かないほどだ。まあ、これもいい。ゲーム参照だと思えば納得はできる。理由は聞きたいが。
魔物。どうして??
ダンジョンも帝国の影響を? ダンジョンに女の子との出会いを求めてはいけませんよ?
「あっ、危ないですわ」
悩む余りに頭痛から眉間を抑える吾輩を、現実に引き戻したのティアの声と同時に放たれた光だった。
同時に姿を見せるのはカメレオンの姿をした女の姿。ぺろぺろと舌を回しながらも落ちてきたそれを引き金に、仲間だろう2匹が殿下に襲いかかる。
「殿下はお下がりください! 来て! もう1人の私!
「殿下への義を示して!
「ここで
それに対するのは殿下の側にいたご令嬢達。彼女達は手の甲に刻まれた魔法陣を掲げて、言葉を紡ぐと眩い魔法陣が目の前に広がった。
同時に魔法陣から現れるは、召喚者達によく似た姿でありながらどこか悪魔めいたゴシック姿の女性たちに妖精のようなフリフリドレスの女の子。
これこそがアルトリウス殿下によって生み出された第三の魔術──召喚術。数年で騎士団に普及し、貴族学院の基本授業として導入されるまでに至ったそれは圧倒的な魔法の力でカメレオン女を追い詰めていく。
「よし、皆んなそのまま固めておいてくれ! とどめは俺が!」
そして、アルトリウス殿下が剣を抜く。美しい彫刻が施された西洋の剣を上段に構えて、走り出す。
「これが俺の魔法──
「あっ、駄目っ!」
見守っていたアートの声を無視して、殿下は大上段に振りかぶった剣を一気に振り下ろした。
その瞬間、剣から、不可視の力が強大な斬撃となって放たれた。曲線を描く重力圏が僅かな抵抗も許さずカメレオン女を壁にぶつけて押し潰し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。
部屋の壁から破片が落ちる。息を吐き、やり切った顔で令嬢達へ振り返った彼は皆を安心させるような顔で笑った。
「皆! 安心してくれ! 俺たちの絆の勝利だ!」
「う、う〜ん。こんな狭いところで使う技じゃないと思うけどなあ。もうやり過ぎちゃだめだよ? めっ!」
「仕方ないよっ、アートちゃん! 自称婚約者が手柄欲しさに刺激したからだもん! 殿下は悪く無いよっ! 寧ろ、皆を守ってくれたんだからっ!」
アート殿からのお叱りに肩をすくませた殿下へネヴィア殿が、慰めつつもティアへヘイトを向けるので吾輩の背中に隠す。
「確かにネヴィアの言う通りだ。俺に好かれたいのは分かるが、お前の身勝手な行いのせいでどれだけ皆が危険な目に遭ったかまだ分からないのか?」
「失礼ながら、殿下。貴方も身勝手に騎士団の護衛を依頼せずに勝手にダンジョンに進んでいるではありませんか。此度もティアはアルトリウス殿下が気づいていなかった魔物を狙撃したまでです。まずはありがとうからでは?」
「タンゴ嬢。俺の美学にはこう書いてある………下げたく無い頭は下げられない。ってね」
「よくもまあ、そこまで上から目線でいられますわね………殿下」
「そうやって上から目線だと感じるのはお前が悪いんだよ。自称婚約者? 下から目線で見上げてるその卑屈さが全ての元凶じゃないか?」
「口先だけは立派ですわね。剣先はぶれぶれの癖に」
令嬢達を間に挟んで、前方と後方で火花をぶつけ合う将来の皇帝と国母。居心地の悪さが増していく中、ふとネヴィア殿が崩れた壁の方に視線を向けた。
「あれ、何かな? もしかして、お宝っ!?」
その言葉に、全員がネヴィア殿の指差す方へ目を向けた。
そこには青白い光を放つ花の形をした宝石が咲くように壁から生えていた。見た感じ、水晶のようである。ネヴィア殿をを含め令嬢達はその美しい姿にうっとりした表情になった。
「素敵……あれ、欲しいなあ」
「うーん、気持ちはわかるけどあからさまに罠だからね〜」
「だめかあ〜残念」
とはいえ、明らかな隠し部屋に分かりやすく価値を示すお宝。アート殿もネヴィア殿を嗜め、流石に馬鹿でも罠だと分かるお宝にはネヴィア殿も固執せずに諦めた。
「──違うよ、ネヴィア」
だが、ここにその馬鹿はいた。あろう事か、その男は何も気にしないまま部屋に入ると宝石花を手にしたのだ。
「欲しいものを我慢してどうする。我慢は体に毒だ。押さえつけられた欲望って奴はいつか必ず溢れだす」
「だ、だめだよ! アルくん!」
「大丈夫さ、アート。
瞬間、宝石花を中心に魔法陣が広がる。輝きに魅せられて不用意に触れた者への罠だった。吾輩はティアを抱えて後ろへ飛び退こうとするがそれよりも魔法陣の方が早い。
「て、撤退!! 皆んな、早くこの魔法陣から逃げて!」
アート殿の言葉に令嬢達は急ぐが、不慣れな者達が一斉に動き出してはまともな身動きが取れるはずもなく、魔法陣の中に光が満ち、吾輩達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。
「くそっ、転移系か………!」
やばい。吾輩の本能が訴えている。肌から空気が変わったのを感じた。周囲を見渡せば、ティア含めて令嬢のほとんどは尻餅をついていたが、アート殿やレオナール殿などは既に立ち上がって周囲の警戒をしている。
転移した場所は、直径30メートル、高さ15メートルに及ぶ巨大な空間だった。どうやら階層全体を1つのフロアとしているらしいその部屋の奥には空間があり、覗き込むと水が溜まっていた。脱出路がある気配はない。
「うーん不味いね。階層主の部屋だよ、レオナールくん」
「ええ、くっ、こんな馬鹿な事で追い詰められるとは。申し訳ありませーんが、ここでは互いの蟠りを水に流せませんかねえ? 共闘と行きましょ!」
「私は問題ありません。ティア様は?」
「つべこべ言ってられない状況なのは分かりますわ。よろしくてよ」
「ありがとうございまーす! では皆様! まずはひとかたまりに! 中心は令嬢達で頼みますよー!」
部屋の状況から自分達の危機を理解した2人が、険しい表情をしながら指示を飛ばす。
「うむ、このぷにぷに饅頭体験はこういう時でしか味わえないな」
雷の如く轟いたレオナール殿の号令に、わたわたと動き出す令嬢達は団子になって中心部に。それを吾輩達が外を囲む。令嬢達がおしくらまんじゅうとなる中に混じっている諸悪の根源は全員が無視した。構ってられない。
「──来ますわ」
ティアの耳が何かの波長を感じ取ったようだ。すると、奥の水場から6つの水しぶきが上がる。現れたのは犬の頭。ただし、首が長く触手と言われてもおかしくない先端に犬の頭がついている。それが6体。そんな巨大な魔物は吾輩達を見て、一斉に襲い掛かってきた。
【─────:階層60階】
【参加者:25名】
【個体名:S・ソープレイ】
【試練を開始します】
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