吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:あんみつ炙りカルビ
『大和先輩はさ〜なんでそんなに自分に自信がないわけ?』
当時はまだ後輩だった紗良。平然と薄着で自宅に上がり込んで、人のベッドにうつ伏せになりながら、スマホゲームをしていた彼女の何気ない一言。
『彼女が寝取られたとはいえ、あたしみたいな漫画オタクに優しい美少女ギャル後輩に懐かれてんなら普通よくない?』
『逆に、よくそこまで自分を評価できるな??』
金と黒のメッシュを入れたウルフカットの彼女のダル絡みに当時の俺は辟易としながら漫画を書いていた。
『同情はするわよ? でも、妊娠が発覚した挙句に大学中退してお先真っ暗な先輩の事とか気にする必要ある?』
『………………』
『あんた、もしかしてだけど自分が何とかしたら助けてあげられたかも。なんて馬鹿な事思ってないわよね?? それ言い出したら、まっっじで軽蔑するわ。大和先輩のこと』
『何でだよ。おれが頑張ればもう少しマシな結末が──』
ぼすん、とベッドに何かを投げたかと思うとおれの首に彼女の足が掛かる。引き寄せられてベッドに頭を預ければ、彼女が上から覗き込んでいた。
『今回に関してはあんたは被害者で助ける理由はないのよ? 先輩の悪い癖よね。何かあったときに一旦、自分のせいでそうなってないか考える自責の癖がついてる。一体、何があんたにあったのよ?』
両手で頬を挟み込まれたら、漫画制作を中断せざるを得なかった。聞いてもつまらないありふれた話。言わなくてもいい筈だが、その日のおれは何となく口にした。
『幼い頃におれの父親は蒸発して、母親は新しく男を見つけて出て行った事から始まるんだが』
『起承転結の結を話してる??』
『まだ起だよ。んで、祖父母に引き取られたその半年後に母さんが迎えに来たんだ………妹だけをな』
綺麗なおうちがあるわよ。お菓子もいっぱい食べられるわよ?
実際に母さんが言ったのはそんな甘言だった。わざとらしく祖父母がいない時を狙い、玄関で出迎えた妹へそう語り連れて行こうとした。
『慌てて、おれも連れて行って!と泣いたような気がする。1人にしないで………とかも言ったかな?』
『それで?』
『お前はいらない。って拒否された。どうやらおれは父さん似で昔を思い出すからだとさ』
『うっわ』
彼女の整った顔が歪む。怒りを混ぜたそれは誰に対する怒りなのか。当時のおれは察する事もしてなくて。
『殴られて、泣いて疲れて眠って、その後は祖父母によって警察沙汰になった。けれど民事不介入って事で幼少期なのもあってよく分からんがその時は妹が引き取られる方向で流れた』
『うん、まあ。としか言えないんだけど』
『そして、妹は数ヶ月後に自分1人で帰って来た』
『地獄を斜め下に突き抜けるのやめない? 予想裏切っても悪い意味で衝撃を受けるんだけど』
聞きたがったのはお前の方だろと、ほっぺたをつねり返せば返す刀で顔と髪をもみくちゃにされる。とりあえず一通り、感情の行き場を解消したところで口火を切ったのは彼女だった。
『そんで、先輩に【男らしくないから】って振られたのがショックだったと。その男らしい先輩は同人AVの件で前歴つくわ、被害女性からの慰謝料やばいんでしょ? 見る目ないわね』
『そんなお前はなよなよしい情けない先輩を偽装彼氏に選んでるわけだが………見る目ないのお前じゃない?』
『べ、別にあたしの話はいいでしょうが! そ、そもそも〜先輩が寝取られたのも恋愛経験がないからであって〜仕方なく、そう! 仕方な〜くあたしが偽装彼女として恋愛経験積ませようと思っただけよ!』
『恋愛クソ雑魚スライムが何言ってんだか』
『スライムはスライムでもあたしはメタルスライムです〜!! あたしを選んだからには恋愛経験値爆稼ぎ出来るんだからね!! 何よ、その顔!』
信じられません。というのを顔に出せば、彼女の髪で鼻をくすぐられた。甘い石鹸の香りが漂いながらも、それでもおれはため息交じりに返す。
『実際、そうだろ? おれが母さんに置いていかれたのも、おれが両親から放っておかれたのもおれが愛されるような子供じゃなかっただけだ。先輩が寝取られたのも恋愛経験が少ないし、男としての魅力がないおれが悪い』
『だーかーら、違うっての!! あんたが悪いわけじゃない! 考えてみなさいよ! あんたの代わりに連れてかれた妹は自分から帰って来たわ。それはつまり、あんたに問題があったわけじゃなくて、あんたの母親に問題があったのよ!』
『人の頭を叩くな。髪をむしるな。禿げたらどうすんだ』
『うっさい! 禿げろ! クソボケ!! 少しでも自分が関わってたら全部自分のせい!? とんだ傲慢ね!! ハッ、笑えるわ!』
『何がだよ』
『
人の顔を手のひらで挟んで、今にもキスできそうな程に顔を近づけてくる彼女。言葉は強くてもそこには優しさと励ましが入ってる事はよくわかっている。世間的には彼女達が悪いのだろう。因果応報と言うべきなのだろう。
それでも彼女の出した答えに素直には頷けず、黙っていると彼女がフッと微笑んだ。陽だまりのような暖かな顔で。
『まあ、でも安心しなさい。あたしがあんたの彼女でいる限り、あんたの経験値になってあげるわよ。レベルを上げて人間パラメータカンストして、男としての価値………ううん。黒須大和の価値を自分で認められるようになるまで、側にいてあげる』
『何だそれ………新手のI love you?』
『お望みなら偽装の2文字、外してあげるけど?』
『今はやめとく。おれは、漫画に打ち込みたいからな』
『その割には1枚も書けてないんだけど? 締め切りいつよ』
『2週間後』
『ばっっかじゃないの!? ちょっとスケジュール帳よこしなさい! あんたは本当に、適当な計画ばっかり立てるんだから! もう………本当にあたしがいないとダメなんだから、先輩は』
そんな懐かしい何でもない夏の1ページ。いや極道入稿という別の地獄は見たけれど。大事なことは最初から彼女が言っていた。
それをどうして忘れていたのか………それはきっと、彼女がおれの目の前で死んだから。彼女の死に顔を思い出したくなくて。
『大和先輩!』
おれは、愛される人間だと身をもって教えてくれた彼女との幸せな日々の記憶にも蓋をした。魔女達を助ける使命を優先して、自分の価値はないものだと決めつけていた。
だってそうじゃないか。これだけ愛してくれた人を失う一因になったおれが──どうして自分は生きてていい、価値がある人間だと思えるんだ。
なのに、
『クロ、今日は一緒に寝ましょう? また昔みたいにお話をしながら』
こんなおれを愛してくれた。
『おはぎ先生? いいお酒手に入ったの。一緒に飲まない? 2人っきりで』
こんなおれを好きになってくれた。
『クラウン! 見て見て! ユニさんの新作! 早く読も!!』
こんなおれを選んでくれた。
『当然の話ですわ! 自分の価値を低く見積もれば、それだけ周りからも雑に扱われる! 貴方にはそれが分かっていませんの!!』
"無価値"な自分なんかを愛してくれる素敵な彼女達がいた。
こんな自分に"価値"があると勘違いしてしまう優しい魔女達がいた。
もしかして、この世界に来てからも………おれは自分の価値を見誤っていたのか? 雑に扱う自分をいいことに周りもそんな風に見ていたのか?
ずっと、間違えていたのか? そう思っても良かったのか?
おれは自分が思うより──愛される価値がある人間だと。
自惚れたくはない。勘違いもしたくはない。この世界でそんな不幸は山ほどあるんだから!!
それでも、それでも!!
おれは………正しく自分の価値を見定めくちゃらならない!!
『貴方が自分を好きになれるように隣にいます』
魔女達が──こんなおれを愛してくれた。紗良を死なせたこのおれを。
今のおれが無価値なら返す愛にも価値はない事になってしまう。
そんな事が許されていい筈がない!
彼女達の愛は価値なんてつけられ無いほどに満ちたものだった!
それを吾輩は返さないといけない!
無自覚なままに無価値な愛を渡していた今までから決別するためにも、おれ達はここで生き残る!!
なら………どうする?
気持ちは切り替えた。なら後は積み重ねればいい。
無価値なままでいるんじゃなくて、付加価値でもなんでもつけて価値ある自分へ変わればいい! 今までの自分なんて壊してしまえ! 下らない行動の前に思考を変えろ。無価値だと思い込んでいた自分に囚われるな。変化は常に──古い概念を壊す事から始まるんだから!!
「魔法は使えない。錬金道具は残りわずか、錬金術はやる余裕がない」
「………タンゴ様?」
必要なのは1じゃない。1を100に変えるための要素!
要素を洗い出せ。いまここにある既存の何かを、作り変えろ!
「考えろ、考えろ、考えろ!! 他人の二次創作でしか誇れないおれが、今ここで勝つ方法を!! あの人魚野郎に届く武器を!!」
──武器?
『約束通り、ウルに一太刀浴びせたら〜』
──雷が落ちた。
前々から思っていた。アゼル卿を倒した時、鎧は巨大な銃へと変わっていた。ウルテマはおれが持つ武器の刀が美術品としての価値しかないのに、吾輩の武器がそれであるかのように振る舞っていた。
もしかして………スカイクラッドにはまだおれが知らない武器が隠れているのか?
「………ウルテマ」
『うん。なぁに、ますたぁ?』
「──手を、貸してくれ。他でもないお前の力を」
『うん………うんっ!! その言葉、ずっと待ってたよ!! ますたぁ!』
試してみよう。挑戦は変化の第一歩だ。
信じてみよう。戯言だと切り捨てていた──夜明の錬金術である事を!
「スカイクラッド………
『OK、ますたぁ!』
予感は的中した。残骸が電磁力で引っ張り合い、形を変えていく。手甲から飛び出した金剛石の爪を重ねて合わせて作り上げられたのは──黄金色の鞘に入った日本刀。
それを手にして、おれはティアを抱えてその場から電磁加速で天井へ向けて射出する。鎧が変形し、天井に突き刺さる。ぶら下がった状態でおれたちを見失ってるスキュラを見下ろす。
『──君たちはここに置いていく』
あの馬鹿の顔が過ぎる。自己愛に満ちた、誰からも無尽に愛されると思っている後継。そして、おれとは違う価値の持ち主。
彼奴に勝とう。勝ったなら証明できる。
神に選ばれたなんて戯言を宣うアルトリウスが、逃げた相手に勝てたなら………おれは少なくとも神に選ばれた彼奴より価値があるとは思えるから。
こんなおれが魔女達に愛されて、受け取った。
溢れそうな程の愛を彼女達に送り返していいのだと。
「タンゴ様、なの?」
「ああ。皆んな大好き黒猫大和のタンゴ様だよ」
「随分と、その、印象変わりましたわね………その目元から出てる青い炎は?」
「疲れてるみたいだな? 大丈夫、もうすぐあったかい布団で寝れるからな」
幻覚が見え始めているティアの為にも、短期決着が好ましいだろう。スキュラがこちらに気づいた。天井から落ち、電磁力で水中に沈んでいた砂金を巻き上げ足場にする。
そこに彼女を下ろし、目線を合わせた。不安に瞳が揺れている。そんな彼女を安心させるように頭を撫でて、足りない自信をかき集めて笑った。
「今からのおれを見ててくれ、ティア」
「───!」
「この逆境を照らす明るい日輪の輝きを!」
感情に応えるように光出すスカイクラッド。その太陽のような輝きからスキュラの動きに警戒が見て取れる。さっきみたいに光線を逸らす強者じゃなくて、弾き返された弱者がまた戦おうとしてるからだろう。不自然さのあまり様子見をしているかもしれない。
腰だめに刃を構える。腰を深く落として、刀に手を添えて意識を集中する。ずっと見てきた。ずっと受けてきた。五感が引き延ばされ、周囲の喧騒が遠のいていく。
そうだ。吾輩は天才じゃない。ただ人より積み重ねて、既存の何かを変えて誤魔化す事しかできない詐欺師野郎だ。作り替えるならともかく新技なんておれには生み出せない。
だからこれから使う技はきっと………過去のおれが使う技なのだろう。
この技の真髄は自分を何とも思わない無鉄砲さと、それでも死中に活を求める現代知識の一刀。全身から雷が迸り──青い炎が身を包む。
おれもどうやら限界が近いらしい。脚先から腕にまで変な青いオーラ?みたいなんが見えてきた。
なら、もう考えずに振り抜くだけ。この技名は、
「【迅雷】」
全てを、一直線に裂いた。触手も、鱗も、女体も。電熱を帯びた神速の一撃に誰も反応出来ていなかった。おれすらも。スキュラの背後の壁に埋め込む形にはなったがとりあえずは成功か。
スキュラの巨大にデカデカと一文字が刻まれる。後ろを振り返り、睨みつけるスキュラの目に殺意が宿る。
いつもならここで狼狽えるところだが、ここは少し調子に乗ってみよう。幸い、お手本はついさっきまでここにいたのだから。
「悪夢はここまでだ、人魚野郎」
スキュラを見下ろし、おれは言う。
「夜明けの時間だ──ルドルフ・Y ・クロス」
──永き眠りを終えて、夜明けの錬金術師が目を覚ます。
自分が愛されるに足る人物だと思い出した時、その信念は1本の刀に変わる。理由なき強さと覚醒に意味はないのだから。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回主人公無双回。
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