吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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クロネコヤマトの宅急便

「………知らない天井だね」

「おお、今度こそ、起きたようだな。自分の名前は言えるか? 所属、歳は?」

「………おはぎの妖精さん」

「これがボケなのか、右目がないからなのか、吾輩反応に困る」

 

 地底湖の畔で日々を過ごす事、2週間。魚料理に飽きてきたアーシュラが蒲鉾もどきを作り始めた頃、ゆっくりと左目を開けてアルチナが目を覚ます。

 

 そのまま体を起こそうとして──既に失った右腕側に力をかけたせいで横倒しに転がってしまう。

 

「っ!!」

「おい、無茶をするな。右腕がないんだ。無理に体を起こさず、そのまま寝ていろ」

「君は………いや、君たちは何者、待て、それより私がどれだけ寝ていたか分かるか? そもそも、ここは一体」

「色々話したい事もあるでしょうが、まずは食事に致しましょう。こちら、魚をすり身にしてあら出汁を使ったつみれ汁です。お水はこちら」

 

 アーシュラが用意していた石を削り作った簡易的な皿、そこに魚のつみれ汁と皮袋に入った水を提供する。今更ながらアーシュラがいてくれて助かったな。彼女がいるだけでQOLが爆上がりだ。

 

「そんな事よりも部下達が危ないんだ………全員で突撃しか作戦がない司令官に任せていられない………」

「焦る気持ちも分かるが、今の主が行っても足手纏いだろ。部下を案じるなら、まずは体を治す事が先決だ」

「………おはぎ」

「………それ、吾輩の名前で決定か? 黒いからか? 餡子を連想するのか?」

 

 這いつくばってでも、拠点へ帰ろうとするアルチナを押し留めて、利き腕を失った彼女に尻尾で皮袋を口に運ぶ。最初は口を閉じていた彼女だが、雫が唇に触れた瞬間、渇きを思い出したのかすぐに口をつけて飲みだす。

 

 渇きが満たされれば、今度は腹が音を鳴らし、震える左手で石の皿を掴むと豪快に飲み込んでいく。味わうよりも飢えを満たす事を重視した中で彼女の瞳から涙が溢れていた。

 

「焦らなくても構いません。おかわりはまだありますから」

「ついでに干物も焼くか。腹一杯になったら、吾輩らが食うから好きなだけ食え」

 

 その後はただひたすらに、アルチナが飢餓感を癒す作業だった。どれくらいそうやって喰らっていたのか、保存食も底をつきかけた頃、アルチナは大きく息を吐き、顔を上げる。

 

 そこには、若くして帝国の騎士団長にまで登り詰めた凛々しき女性がいた。目元にはまだ薄ら隈があるが、顔色は最初よりは遥かにいい。

 そんな彼女は襟を正すと、ゆっくりと頭を下げた。

 

「この度は、私を助けていただき感謝する。良ければ君たちの名前を教えて欲しい」

「吾輩はただの黒猫だ。こっちは、アーシュラ。あの魔族の国に囚われていたが主を連れて逃げ出してきたらしい」

「アーシュラです。貴方が目覚めて本当に良かった」

「そうか、魔族に………という事は帝国からか? それとも王国から誘拐されたか?」

「………王国からですね。あの悪名高い【三羽烏】に捕まって奴隷としてここまで連れて来られました」

 

 三羽烏か、ロジェスティラの敵たる奴らの名前が出てくるとはな。確か、吾輩の設定では王国に根を張る犯罪組織だったはずだ。主に奴隷産業を主軸にしており、性奴隷、食用奴隷、殺害用奴隷を売りつけている筈。

 

 漫画では魔族と繋がっているなんて書いた覚えはないが、繋がっていてもおかしくはない。特に魔族からすれば、女性奴隷など喉から手が出るほど欲しい筈だ。

 

「まだ、捕まっている者たちはいたかい?」

「かなりの量でしたが、どこかに移動すると看守が言っていましたね」

「恐らく、目的は【繁栄の砦】だろう。希望する魔族達を集めて、行為を行うつもりだ。()()()()()()()()()()が故に君たちを人間から買ったんだろう」

「ああ。奴らはそうやって子孫を残す。何故かは分からぬがな」

「………その、意図的に流していたんだが何故君は喋れるんだい? もしや、魔物ではないだろうね?」

「まあ、それが普通の反応だろう。安心しろ、吾輩は主の味方だ………その失った右腕と右目を取り戻すためにここにいる」

「っ!? 戻るのかい!? 私の右腕と右目が!?」

「ああ、吾輩が作った………まあ、吾輩が作ったと言ってもいい魔法の1つ『彫刻』を使えばな」

 

 原作では、魔族達の繁栄の礎として3年。片腕を切り落とし、脱獄してからここで傷や体力を戻すのに2年。片腕のまま駆けつけるまでにそれだけの時間がかかったせいで、アルチナは部下達を見捨てる事になった。

 

 だが、この世界では違う。既に1年未満で救出した事で、4年の空きが出来た。無論、吾輩の知る通りに動くとは思えんから、念のため、3年に短縮するが、それでも右腕で剣を握れるようにはなるだろう。

 

「どうする? 吾輩は別に無理にとは言わん。それこそ、アーシュラでも構わないが」

「いえ、わたしは遠慮します。自分の魔法がありますし、それにその魔法はきっとアルチナ殿に相応しいと思うので」

 

 吾輩の選択肢にアルチナは唇を噛み締める、が決断は早かった。

 

「教えてほしい。その魔法を。空属性である私でも使えるのなら!」

「当然だ。むしろ、空属性でなければ使えまい。その為にもまずは体を治す事だ。体力を回復させてからでないと辛いからな」

「少なくとも、盗んできた薬や包帯がなくなるまでは安静にしていただきます。貴女の力はまだまだ必要ですから」

「………分かった。すぐに治そう。私の体だ。乗りこなし方は自分が1番よくわかってる」

 

 気を昂らせていたアルチナだったが、吾輩らの忠言も一理あると考えたか、ゆっくり体を倒すとそのまま寝息をたてる。栄養を摂った体が、回復の為に再度の休息を求めたのだろう。

 

「安心して、眠るがいい。少なくとも、ここには主を傷つけるような人はおらんよ」

 

 肉球で彼女の目にかかる髪を払い除け、そのまま彼女の身につけていた鎧や剣に目を向ける。鎧はボロボロで、剣も刃こぼれが激しい。よくここまで死なずに戦ってこれたものだ。

 

「頑張ってる褒美におはぎでも作ってやりたいが………餡子はないしなぁ。アーシュラ、主は餡子を持っていたりは?」

「いえ、流石に………そもそもアレは帝国内で流通している和菓子のはず。異界からの知識と聞いてますが、1から作るにはここの設備では無理ですね」

「………だよな。帝国独自の情報の賜物だからな」

 

 また嫌な記憶を思い出した。原作の時点で、中世ヨーロッパの世界観の癖して何故か和菓子でロジェを懐柔する主人公がいたっけな。

 いやまあ、流れとして可笑しくはないんだ。料理で心を掴んで、絆を深める。うん、悪くはない。初の魔女攻略がロジェなのも分かる。内向的な性格だから流されやすいからな。

 

 ただ、以下の流れでロジェが落ちたのは納得いかん。

『は、初めまして………』

『え、その、美味しいお菓子のお店がなくて』

『主人公さんの和菓子美味しいです!』

『抱いて!』

 どうして、和菓子食べただけで股を開くんですか??

 媚薬でも混じってたのか?

 吾輩、分からないんだ。ロジェスティラの気持ちが何もかも。

 そのせいで世界観調整するのに割と力技使ったんだからな!

 

「どうかしましたか? 何か嫌な記憶を思い出したような顔ですが」

「いや、気にしなくていい………とにかく吾輩達も休むとしよう。明日から吾輩の魔法の座学の開始だ」

 

 吾輩用の寝床である丁度いい石に寝っ転がる。猫の体はこういう時に便利だ。人間だった時の体が恋しくないわけではないが、それは一旦後回しでいいだろう。

 何故なら、モルガナの所で死んだ吾輩がアルチナの所に移動する結果を見ると………もし、吾輩が死んだ場合、次の魔女の側に移動する可能性が高いからだ。

 

 その力が人間の体でも発揮されるのか、それとも人間で死んだ場合、猫の姿に戻るのか。そんなややこしい事考えるくらいなら、魔女達がどうすれば幸せになれるか考えていた方が有意義だ。

 

 それにしても今頃、モルガナはどうしているだろうか。

 不本意な別れ方をした娘の未来を心配しつつも、吾輩は丸くなり眠りにつくのだった。

 

 

 

「〜〜という訳だ。要するに世界に変化をもたらすのが空属性の基本。そして、主に教える芸術魔法『彫刻』は空間と人体に変化をもたらす………『切削』と『塑像』だ」

「切削はまあ字面からして予想はつくけど、塑像とは何かな?」

「芯となるものに粘土や石膏をつけて、肉付けし、像を作ることだ。主に必要なのはこちらの力だな。一旦、切削は後回しでいい」

 

 そう、この魔法こそがふた○り性欲頭チ○ポ性騎士になる原因となった魔法である。この魔法はあらゆる素材を物体にくっ付け、加工する事ができ、その上時間が経てば馴染んでくるのだ。それが人体であろうとも。

 

 これがあれば、アルチナの右腕を成形し、眼球までも作る事が出来る。治療にも使えるが、治すわけではなく、埋め込む形になるので痛いのは痛い。

 

 だからこそ、痛みも苦しさも誰かの為ならばと我慢できる芯が通った彼女に相応しい。戦闘スタイル的にも邪魔しないしな。

 

「主には3年以内に塑像を覚えてもらう。そうすれば、余裕を持って部下達を助けに行けるだろう。今の主では足手纏いもいいとこだ」

「………話はわかった。だが、どうにかして私の生存を知らせる事は出来ないだろうか。それだけでもあの脳筋司令官の動きを抑える事が出来る。このままだと作戦もなし、突撃して彼女らも繁栄の道具にされてしまう」

 

 最初は黙って聞いていた彼女だったが、かかる日数を聞いて頭を抱えた。気持ちはわかるが、アルチナはモルガナほど芸術魔法に対する理解力が高いわけじゃない。

 これでも少なめに見積もっている方だが、焦りが混じって修行が進まないのも本末転倒か。

 

「確かに一理ある。仕方ない、吾輩がなんとかしよう。主の生存を証明する道具や言葉、会話は何かないか?」

「それなら、私の副隊長にこの短剣とこう伝えてほしい………『私の部屋から、盗んだ勝負下着を返しておくように』と」

「………………伝えるのは、その構わんが、主はそれでいいのか?」

「………………それさえなければ正義感が強い頼りになる騎士なんだ。私が、お姉さんが我慢すれば良い話だからねぇ」

 

 遠い目をしているが少し、素の表情や感情が出た気がするな。いい傾向だ。短剣もどうやらその副隊長からプレゼントされたものらしい。サバイバルに役立つ丈夫さだ。吾輩の護身用にいいかもしれない。

 

「看病はアーシュラ。主に任せたい。良いな?」

「お任せあれ! アルチナ殿には手を触れさせません!」

「………まさか、君が行く気かい!? 危険だ! 人間側とはいえ、魔物の残党が彷徨いているんだぞ?」

「バカを言え。女性をこんな危険な目に行かせるわけには行かないだろ。吾輩、紳士だからな」

 

 それに喋る猫の方が魔物達も同胞だと思ってくれるかもしれない。食われたらそれでおしまいだが。

 

「それに主らが頑張ってるのに、吾輩だけ何もしないわけには行かんだろう。安心しろ、吾輩は必ず戻る。約束だ」

「………約束、か。なら、お姉さんとも約束してくれるかい? 怪我なく無事に帰ってくる事。お姉さんの為に死んだりしないでくれ」

「分かった。漢として約束は果たす。じゃあ、行ってくる」

 

 短剣を背負い、アルチナが覚えている限りの地図の内容を受け取り、吾輩は外に駆け出す。今の吾輩はクロネコヤマトの宅急便だ。なんとしても伝言を届けなくてはならない。

 

 吾輩は猫である。名前はキミリアとおはぎ。

 迫り来るは巨大な壁、まずは軽く乗り越えて行こうか!

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