吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
吾輩は猫である。名前はクロ、キミリア、おはぎ。
訳あって、人間側の国に戻る為に絶壁を頑張って登った所だ。爪が割れそうで痛いが休んでばかりもいられん。
見渡す限りの荒野を吾輩は走っていく。死の大地ではあるが、逆に視認性がいいのは助かる。特に夜ならば吾輩の姿はあまりにも目立たないからな。
とはいえど、吾輩の足で拠点に着くまでどのくらいかかるやら。水や保存食も持ってきたが、人間の体で3日分。吾輩なら、1週間といったところか。最悪は鼠や虫を捕まえて飢えを満たすほかあるまい。
「それよりも副隊長達の方が気になるな………吾輩、奴等をアルチナの回想でしか描いてないから細かな人格まで分からん。猫嫌いだから、殺す!とならなければ良いが」
既にルートは吾輩が描いた漫画からずれまくっているが、一応時系列通りに整理しよう。でないと、不測の事態に対応できんからな。
本来ならば、アルチナは27〜30まで幽閉されて苗床にされていたはず。その間にアルチナの部下達は無能な上司のせいで徒に疲弊していた。
そして、悲劇のきっかけとなるのがその上司及び男性騎士達である。彼らは男尊女卑の世界かつ帝国騎士である事に加え、自分らより強い騎士であるアルチナを目の敵にしていたのだ。
アルチナ率いる女騎士10人に対し、男性騎士は40人なのに男性騎士達は、偵察及び戦闘以外のことをやるつもりがなかったのだ。
武器や食料の確認、洗濯や清掃。本来ならば持ち回りで行う全てをアルチナ達に任せて、彼らはその間酒を飲み、博打などしていた。
最前線だというのに、緩い空気にアルチナも上司に忠言をしたが女だからと下に見られ、聞き届けられる事はなかった。それが後の悲劇の原因となる。
きっかけは、飲料水の確保である。このアホ上司と男騎士達は気紛れに買い出しを代わって、拠点に来た行商人から飲料水を確保しようとしたのだが、その日は特別にワイン樽が入荷しており、飲料水の3倍程する値段だったが彼らは欲に負けて購入したのだ。
いや戦争中に何しとんねんという話ではあるが。そのせいで必要分の飲料水を発注するお金が足りず、仕方なくいつもより一回り小さく、少ない数で購入をする。
えっと………ああ、そうだ。水の不足は命に関わる事くらいはわかっていた上司は男性騎士に水を探してこいと命令し、荒野なんかで見つかるわけねえよ、と誰もが思っていた中で彼らはオアシスを発見する。
彼らは歓喜し、持って来ていた空樽にその水を入れて持ち帰った──それが本当に水だったのか、確認も取らずに。
アルチナがいれば、周りに植物が生えてない事や骨になった動物から毒か何かだと判断しただろう。確か、そう描いた筈だ。
しかし、運命のコインは投げられ、その樽は拠点へと持ち運ばれた。樽は女騎士達によって開けられ、料理や飲料水として使っていく。だから、変化が起きたのも彼女達が早かった筈………この先は確か、
「いかんその後は何だっけな………水が尽きただけで、こうも考えがまとまらんか」
日が10回沈んだから、10日は経過した頃だろう。そろそろ水がつきかけて来たせいか、喉の乾きを満たせと体が信号を出している。
そんな中、視線の先にキラキラと光るものが見えた。近づいて見れば、美しく透き通った水だ。
水だ! 水が飲める!と体が喜びをあげる一方で吾輩の記憶は警鐘を鳴らしていた。周りを見れば植物は生えておらず、同じように水を飲みに来た死骸は骨の姿になっていた。
「………やめておこう。まだ雨水が降る事に期待だ」
実際に体験する事はやはりでかい。この水………いや、水もどきと呼称した方がいいかもな。実はこのオアシスは地獄殿にいる魔族達の最高幹部が仕掛けた罠である。
この水は………実はスライムなのだ。それも胎内に侵入し、乗っ取るというかなりタチの悪いスライムだ。
女騎士達もこいつらに乗っ取られ、拠点にいた男性騎士達を料理に毒を混ぜて毒殺。以後は彼らも乗っ取られ、人類の砦は魔族の手に落ちる。
「そこにアルチナが帰還して………自分達を切り捨てた国と付いて来てくれた部下達を天秤にかけて、彼女達を泣きながら切っていくだったな。いやー思い出せてよかった………良くねえよ」
本当、何してんだ吾輩。そのせいでアルチナは復讐者に堕ちたんやろがい。理不尽への我慢をやめて、自分達を見下す帝国と部下達を殺した魔族へ復讐する剣となったんだろうが。
吾輩がいる限り、そうはさせん。そう、例えオアシスから水が盛り上がり、重力に逆らってそのまませり上がり、十メートル近い高さの小山になったとしてもだ………なんだって??
「ヒサシブリノエモノジャネエカ! クイデガネエガナイヨリマシカ! サア、コノオレ『サジェス』ノカテニナレ!!」
「お、おいおい!? その喋り方、名前………何で魔族の最高幹部がここにいやがるんだ!?」
「ナンダオレヲシッテイルノカ。ヨクミレバドウホウカ?」
「おお、そうだ。吾輩は同胞だ。だから、見逃してくれ」
「カンケイネエナァ、カンケイネエンダヨォ!! アノ
「あの女………?」
吾輩が知る限り、このサジェスというスライムこそあのオアシスの罠を考えた魔族の最高幹部の1人の筈。そして、漫画ではアルチナに一太刀で切り捨てられていた敵だった。
オアシスはこいつの部下達がしていた筈だが、何故本人がこんな所に!? まずいまずい、吾輩じゃあこいつには勝てない!
「クライヤガレ!!」
「間一髪で回避!!」
飛んできた触手を横っ飛びで回避し、背中を向けて全速力で走り出す。思い出せ、思い出せ、奴の設定を!!
スピンオフ作品でも魔族は出した方がいいって編集に言われたけど、原作のような奴らを出すわけにいかなかったから全員異形系のイケメンですけどね、はっはー! 笑ってる場合か! 吾輩!!
そう…そうだ! 確か、奴は魔族の最高幹部として特別な【
7つの美徳が内の1つ。『知恵』を司るもの! 有する性質は『蓄積』!!
「フンッ!!」
「ぎにゃあああ!?」
あぶねっ! 何か掠った!! 尻尾焦げた!! 弾丸か!? いや水か! 奴はそうだ、蓄積した水をウォーターカッターのように吹き飛ばす設定だったな! しかも、奴はここの水源を溜め込んでるせいでここが死の大地になったんだもんな!
「コザカシイ!! シネ!!」
「金貨ガード!!」
必殺金貨ガード。大量の金貨を降らし、目眩ししている間に逃げる技だ。奴はその美徳の性質上、水源からは離れられない。あのオアシスから距離を取れば逃げ切れ──空を見上げて何を?
「"アラシノヨルニ"」
「大量の水を吹き出して………まさか、そんな!?」
空から落ちて来るのは高圧に固められた水の刃、五月雨式の斬撃だ。範囲が広い! 逃げられん!
「ぎぃ、にゃああああああああ!!?」
「ヨウヤクツカマエタ。クロウサセヤガッテ」
迫り来る刃雨を交わしきれず、手足胴体を微塵切りにされたような感覚。同時に一気に襲いかかる虚脱感と、視界に入る赤い景色………どうやら全部吾輩の血らしい。
非常に不味い。ここで死ねば、次の魔女の候補に飛ばされるかもしれないが、そうなればアルチナを助ける事が出来なくなる。ただでさえ、吾輩の漫画と違って元最高幹部がいるのだ。より、被害はデカくなる可能性が高い。
何とかして逃げないといけないのに、体が全く動かないのだ。脳味噌が茹るような熱に消えゆく意識を何回も覚醒させようとする痛みの連続、そして冷たい粘液が吾輩の体をゆっくりと引っ張っていくのを感じる。
「…今回、は……ここまでか」
「シカシ、チイセエナ。クウ
「──ッ!」
弱い自分が情けない。猫の身で彼女達をかっこよく助けられない自分が憎い。このまま無駄死にする事が何よりも恐ろしい。
だけど、死に体だった体に熱が入る。その言葉だけは何としても否定しなきゃならない。
だって──自分には『価値』がないと思われたくないから。
「ナンダマダヤルキカ」
「生憎、吾輩は………諦めが悪いんだ」
「ヤメトケヤメトケ。オレニブツリコウゲキハキカナイ。ゼンブ、ミズノカラダデウケナガシチマウカラナ」
「やってみなきゃわかんねえだろうが!」
背中に縛っていた短刀を抜き、口に構える。相手は余裕綽々だ。でも、構わない。油断も慢心も勝手にしてろ。吾輩は、俺の価値はテメェなんぞに決められる筋合いはない!
『お前さ、人の褌で相撲を取ってちやほやされて嬉しいわけ? 忘れんなよ? お前の価値は俺の原作の付加価値でしかない。自分自身に価値があるとか、自惚れんなよ、バーカ!』
「うおおおおおっ!!」
脳裏に蘇る言葉を火種に、怒りを燃やして、それを糧に、体に鞭打って走り出す。1発目を躱し、2発目が掠り、3発目の触手が、足元を崩して、
「ムダナアガキゴクロウサマ」
「──すまない、アルチナ」
4発目の触手が、吾輩の眼前に迫り──
「確かに無駄かもしれねーけど、その勇敢さ、アタシは嫌いじゃない!」
──目の前で儚く砕け散った。
冷えた空気が運んできたのは薄汚れて壊れかけた鎧の女性。手にした細剣を振るえば、空気は凍り、吾輩の体に刻まれた傷口が凍結する。見覚えのある鎧だ、そうアルチナと同じ鎧の………
「さて、そこの黒猫。お前には幾つか聞きたいことができた。まず、アタシのお姉様ことキャロル隊長は無事か? 特にあのお胸とか御御足に傷がないといいんだが」
「オマエ………アノムラサキカミオンナノナカマダナ!」
「ッ!! 馬鹿!! 前だ!」
あろうことか、スライム野郎に背を向けて悠長に背を向けて真剣な目で欲望丸出しな発言。吾輩の叫びも遅く、スライム野郎の触手が彼女の後頭部に──
「ん、大丈夫。もう終わったしな!」
到達する直前に、動きが止まった。目で追えばスライム野郎の体は水源から凍りついており、もはや身動き1つ取れないようだ。いつの間にか戻していた細剣から雪の結晶を散らして、彼女は吾輩を抱え込む。
「やっぱ、この短剣………アタシがプレゼントした奴だな。お前はキャロル隊長の協力者か?」
「そうだが………主はまさか、あの変態の………」
「変態じゃねえって、ただの淑女だ! キャロル隊長の右腕にして副隊長『リリィ』! よろしくな、可愛い協力者さん?」
吾輩は猫である。名前はクロ、キミリア、おはぎ。
窮鼠猫を噛む事は出来なかったが、救援は来てくれたようだ。
『』の諺が間違っているのは仕様です