吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
『俺にスピンオフ依頼が………?』
『そうなります。私としては貴方に任せたくはないのですが』
すぐに夢だと分かった。猫の身にしては高すぎる視線、綺麗なオフィスに騒がしい電話の数々、社員達は自分の担当と納期や内容やらの話をしている中で、俺は編集長と書かれた机に座る人物に声をかけられていたからだ。
『それは、やはり………俺では実力不足だと』
『そうではありません。むしろ、貴方を巻き込みたくはない。しかし、貴方にはアレンジャーとしての才能がある。それを見込んで話をしているまでです』
彼女は高校生の時に、一番最初に持ち込みを見てくれた人だった。厳しくも理詰めで何処がダメかを逐一教えてくれる熱心な方で、彼女が編集長になるまでの5年間、お世話になっていたのだ。
今のアシスタントのバイトも彼女が紹介してくれたおかげで、何とか食い繋いでこれた………今は金欠気味でバイト代まで1週間はあるが。
そんな彼女からの依頼に、内心は疑問しか出てこなかった。俺より優れた作家はそれこそ、山ほどいる。なのに、佳作に引っかかるくらいの俺を呼び出したのか。
『あまり、大きな声では言えませんが………身内がやらかしましてね。その補填を様々な所で補おうとしているのです』
『はあ………そう言えば、旦那さんが大手企業の取締役でしたっけ』
『はい。ですが、彼は息子に甘く………いえ、私も晩年に出来たせいか甘やかし過ぎました。会社を継がせようにも経験も知識も足りないので、入社させてゆっくり教育していこうと思っていたのです』
ああ、状況が読めてきた。その息子が何かしらの損害を出したのだろう。その補填に広告用の漫画やイラストを描かなきゃいけない流れか。
確か、この出版社もその大手のグループ企業の中核企業のはず。そんな尻拭い、確かにお偉い作家さんに任せるわけにはいかない。
『受けてくれますか?』
『分かりました。貴方には恩がありますし、今回で返済させてください』
自信満々に頷くと、彼女は肩の荷が降りたように息を吐き、妖しく笑うと、自分の鞄から何かのパッケージを取り出した。
『因みに描いて欲しいのはこの………【黒魔女集会〜異能催眠で魔女とH!俺のデカ○ンで孕ませズッコンバッコン世界征服〜】です』
『なんて??』
とても50代とは思えない若々しさを保つ編集長が絶対に言わない言葉を羅列したように思える。疲れているかもしれない。今日は早く帰って寝るとしよう。
『まずこれはうちの夫の会社の新部門で発売されたr18のゲームなのですが、内容は鬼畜リョナグロゲームになりますね』
『待って待って、理解が追いつかない』
『それでプレイしたのですが』
『プレイしたんですか!? 編集長が!?』
『まあ、その、人をかなり選ぶゲームです。息子の趣味がこうだとは私も思いたくはありませんが………』
『心労お察し致します………』
とはいえ、現実はそうは上手くいかず、編集長は俺にパッケージを押し付けながらハイライトの消えた目で淡々と説明を重ねていく。
ここ最近、窶れたとは思っていたがそりゃそうだ。あらすじを見る限り、よくある異世界もののファンタジー系だが、魔女達の悲惨な姿がちらほらと見える。
そんなゲームをプレイして、補填に当てるとすればそりゃ白髪も以前より、多くなるわけだ。
だけど恩人が、ここまで草臥れているとなれば、
『──必ず、結果を出して見せます』
男として、やる気を出さねばならないだろう。
*
「………それがまさか、こうなるとはな」
「おっ、起きたか? アタシが分かるかー?」
「ああ、リリィだな? ここは………?」
どうやら吾輩、あの後気を失っていたらしい。揺蕩う意識を頭を振って無理やり覚醒させるが、だるさからまた背中から倒れてしまう。手足を見れば包帯が巻かれ、薬品臭が鼻を刺激する。治療してくれたようだ。ありがたい。
背中越しに感じる柔らかい感触は、おそらく寝台だ。頭の下にあるのも、枕と呼ぶべきそれである。つまり、ベッドで寝ているらしい。簡易的だが、質がいい事から偉い人の寝台の筈だ。
まあ、それよりも気になるのは………
「アタシの部屋だ! 殺風景で悪いな!」
「どこが??」
この部屋一面に貼られたアルチナの絵画だろう。いや、すげえな!? 羊皮紙を使ってるとはいえ、この枚数どんだけ描いてんだ! 給金何に使ってんの!?
「部下達もなー? 副隊長の部屋には入りたくありませんって言うんだよ。そんなにアタシと2人になるの嫌か?」
「吾輩、口をつぐませてもらう」
そりゃ、こんな猟奇的なストーカーとかB級スラッシャー映画の殺人鬼の部屋みたいな場所にいたいとは吾輩思えん。絵の上手さがロジェに並ぶのが妙に腹立つ。
「さて、意思疎通はしっかり取れるみたいだし、サジェスと敵対してた感じから魔族or魔族の裏切り者って認識なんだが合ってるか? まあ違っててもその認識で話を進めるが」
「それは………吾輩をいつでも殺せるようにか?」
「ああ。だから、慎重に答えてくれよ? 猫の氷像なんて、売っても金の足しにはならないしなー!」
吾輩の毛が逆立つのが分かる。こいつはやると言ったら、やる。嘘を1つでもついたらその時点で、凍るのが本能で分かってしまう。アルチナが言ってたのは間違いないようだ。変態、だが正義の騎士だと。
「吾輩、アルチナに協力する黒猫だ。名前はおはぎとつけられた。今の彼女は魔族に連れてこられた一般人………アーシュラという女性と峡谷の底にある地底湖で傷を癒している」
「容態は?」
「アーシュラは無傷、アルチナは………右目が陥没。右腕も肩から先がない。だが、吾輩なら何とか出来る。そして、遠い未来に彼女の力が必要だ。故に吾輩はアルチナに協力している」
「そうか………こっからだと、馬を走らせても5日はかかるな。流石にそれだけの期間、空けるわけにはいかねえ。あの司令官抑えなきゃなんねえし」
「部下達に向かわせるわけには行かないのか?」
「そうすっと普段の業務が回らなくなるんだ。じゃなきゃ、もう指示出してる。アタシが隊長放っておくわけねーだろ。隊長、どうかご無事で………!」
「人様の勝負下着に手を合わせながら、言うことではないな」
ならばやはり、吾輩がメッセンジャーになるしかあるまい。行きに10日前後なら、行き帰りで20日。約1ヶ月って訳か。水と食べ物を多めに持っていけば何とかなりそうだ。今回みたいに襲われなければだが。
「伝えたい事は伝えた。吾輩はそろそろお暇………」
「待て待て待て、怪我してんのにか? いくら魔法で傷を治せるとは言え、1日くらいは大人しく寝とけ。裏切り者だろうが、情報提供分くらいは払わせてくれよ」
「………すまん」
副隊長の言葉に、体から力が抜ける。それもそうか、10日間走りっぱなしで満足に身を休めてもいなかったからな。幾らでも寝れる気がする。とはいえ、宿代が情報量だけでは足りんだろう。
「リリィ、少ないが取っておけ」
「ん………おいおいおい!? 金貨じゃねえか!? しかも純金の!? こんな純度帝国じゃあ滅多にお目にかかれねーぞ!?」
「………? そんな事ないだろう。帝国は人間の4つの国の中でも強大だ。集まる金も比較にはなるまい」
「ああ、知らねーのか。その金貨、混ぜもんなんだよ。金貨に銅混ぜて水増ししてんだ。そんで浮いた材料費は全部、上層部の懐にって訳。おかげで通貨の価値は急落、物価は倍以上に跳ね上がってんだ」
「………あー、そんなのもあったな。帝国終了のお知らせは来たか?」
「そうならねーように、『ナツメ商会』がギリギリで踏ん張ってるけどありゃダメだな。後、10〜20年後には帝国の経済はぶっ壊れてんじゃねえか? 既にまともな金貨は溶かされて、悪貨が良貨を駆逐してるっぽいって商人から聞いた」
心当たりしか無い内容である。実はこれ、4番目の魔女でありナツメ商会の伯爵令嬢『ティア・ナツメ』が解決する案件だ。帝国は良くも悪くも傲慢な為、帝国でしか使用できない金貨(皇帝の顔が彫られている)を外部とやり取りする時は為替に商会を通している。
そんな中で、この事件。まだティア・ナツメは生まれていないが今頃、彼女の家族はとんでもないことになっていそうだ。吾輩もその修羅場に参加するのは嫌だ。猫の手も借りたいとこではない。
「だから、砦に来る商人らも足元見てやがるから想定よりも倍以上の費用を取られんだ。なのに、司令官は何もしねえ。おかげでアタシらの仕事は増えてばかりだっての! このままだと戦死するより過労死するわ」
「なら、吾輩がその仕事を減らしたならば………アルチナの救助に向かえるか?」
「──何するつもりだ? 悪りぃが司令官殺すのはナシだ。アタシらのせいにされちまう。状況によっては分かるな?」
「何、簡単な話だ。主らは人手が欲しい。物資も足りない。それの補填に追われている………ならば、世界共通の力でぶん殴ればいい」
「それは、つまり?」
吾輩のニヤリとした顔に、リリィも勘付いたか不敵な笑みを浮かべる。人も物資もどこに集まるかなんてのは簡単な話。
「世の中、金だよ。金」
*
「という流れから1週間経った訳だが………ここまでとは」
「いやアタシも予想外だったわ。でも、まあこれなら何とかなるわな」
魔物達からの侵入を阻む外壁の内側、即ち帝国側の領土となる平地だ。周囲は大きな山に囲われており、この自然の要塞に加え、帝国の平地へ続く荒野に砦を築けばいいという皇帝の案により、築かれた。
その砦より更に内側には騎士や兵士の物資を供給する商人達の拠点があり、普段はやる気のない商人見習いや小遣い稼ぎに来た商人などばかりが居たはずが、
「おい! 酒だ! 酒をよこせ!」
「そこの寂しい兵士諸君! 初物性奴隷はいかがかな!? 奉仕させてよし! 雑に扱ってよし! 何なら魔物に襲わせてもいい!」
「武器や鎧はこちらから! じゃんじゃん買っていってくれ!」
類を見ないほどに活気に溢れていたのだから。やった事は簡単である。まず吾輩が生み出した金貨をリリィとその部下達に枚数ごとにきっちり区分けして確保。
そして、司令官へ報告。内容は『魔物達がかき集めていた金貨を発見しました』だ。魔族ならともかく魔物達は総じて知能が低い。似たような事例として、きらきらしているからと宝石を溜め込んでいた者たちもいたらしい。
そんな降って湧いた金、しかも帝国ではお目にかかれない純金を前にすぐに司令官は金貨を大量に手にした事を上に報告。すると、我先にと純金貨を手に入れる為、帝国の商人達が集まって来たのだ。
「これでまともな物資と奴隷………労働力は手に入った。男共に真っ当な奴らは取られて犯罪奴隷しかいねーけど、それならそれで使い道はある。それこそ、まともに働けば解放するとかな。しかも、金貨入り」
「帝国の経済が怪しい以上、一発逆転を賭けに奴らは集まって来たんだろう。それくらいの恩赦はあるべきだ。吾輩、あんまり奴隷とか好きじゃないが」
「アタシだって好きじゃねーよ。帝国くらいだぜ? 国家ぐるみで奴隷商売してんの。そんなんだから、他の3国から目の敵にされてんだよ」
「ああ。だが、これで当初の目的は達成した………手筈は?」
「今日の夜中から作戦開始だ。アタシの部下、2人つけさせる。どちらも風属性の使い手だ。新鮮な食べ物に久しぶりの休養も取れたから、やる気も元気も充分だ。馬も使えば3日で隊長の所まで行けるだろうよ」
「よし、道案内は吾輩に任せろ。食料や水はどうする?」
「おう、それなんだが………面白いもんが流れて来てな」
それでも往復1週間かかる道のりに関する問題に、リリィはこの1週間で見慣れた口角を上げて笑うと、小さなポーチを取り出した。
「何だそれは?」
「これか? 実はな? 商人の中にわざわざ王国から来た奴がいたんだけどよ。碌でも無いものを仕入れちまったらしい。それがこれ。『ポーチに入れたい荷物分の金額を入れると中に荷物を山ほど詰め込める』って話だ。買った商人は馬鹿みたいに高い金で買ったらしいが、アタシらには価値がある。だろ? おはぎ」
「おいおい、まるで吾輩の為にあるような道具じゃねえか。製作者は誰だ? 感謝の手紙を書きたいくらいだ」
「名前までは聞かなかったな………ただ、今年の王国公認錬金術師試験に最年少で合格した才女らしい。12歳だってよ、12歳。天才かよ、全く………どうした? 急ににやけて」
「ふふ、いや何でも無い。ちゃんと頑張ってんだなって思っただけだ」
例え遠く離れていようとも吾輩達は繋がっているようだ。きっと、いつかまた吾輩達が再会する日も来るのだろう。その時までに吾輩は主の味方を増やしておかなくてはな。
「預かろう。腰回りにつけてくれ」
「ああ。1週間分の食料と水はこっちで用意した。金額はこれくらいだ。ポーチへの支払いと………隊長を頼む」
「ああ、任せろ」
吾輩は猫である。名前はクロ、キミリア、おはぎ。
待っていろ、2人とも。今、行くからな。