吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
それはそれとて、誤字脱字報告ありがとうございます。
吾輩は猫である。名前はクロ、キミリア、おはぎ。現在、アルチナの救助に向かう途中である。
「まず隊長に会ったらどうする?」
「まずは怪我の確認を兼ねて服を脱がす。隊長の傷ついた体を舐め回すように見たい。その後にきっちり手当てをして、すまないって言われたいー!」
「甘いな、貴様は。まず、隊長の傷口に唾をつける所から………」
「おい、そろそろその猥談やめてくれ。もうすぐ着くぞ」
「了解、おはぎ参謀!」
「おはぎ参謀、しっかり掴まっててください!」
「吾輩、いつから参謀に昇進したの?」
馬につけられた吾輩専用の鞍で揺られること、丸3日。驚くほど、快適だった。というかこの女騎士達が凄い。器用に風を操り、トップスピードを維持したまま、風除けもしっかりこなす熟練度。
こいつらがいたら、帝国攻略戦も幾分か楽になったんじゃ無いかと思うくらいだ。リリィもそうだが、スライムに負けていい人材じゃない。
「………それだけの強さや経験はどこで身につけた?」
「無論、戦場です。斬って斬られて、また斬って………」
「時に魔族に襲われて尊厳を踏み躙られながらも惨めに生き残ってきたのが私たちなだけです」
「最初に配属された筈の同胞は今の5倍はいました。彼女達の遺体も………この荒野の何処かに眠っているはずです」
「………そうか」
心の柔らかいところを針で突き刺すようだった。顔に出ていないだろうか。主らはアルチナの悲惨な過去の為に生まれただけなのだと、言ってしまえば彼女達は吾輩を殺すだろうか。
「………何、馬鹿な事を考えているんだ。吾輩は。切り替えるぞ。そこの壁と岩の隙間だ」
自罰的な感情を切り捨て、馬を置き、谷底に降りた吾輩達。吾輩が1日かけて登った絶壁を風で軽やかに降りていくのは勘弁してほしい。吾輩にもくれ、そういうの。
「変ですね………この壁、溶けてませんか?」
「鍾乳洞というわけでもなさそうだ………急ごう、隊長が心配だ」
隙間に体を入れ、地底湖への道を行く最中、騎士達が壁を見て怪訝そうな顔をすると、一気に速度を上げた。それこそ吾輩の首根っこを掴んでの高速移動。かかるGに吾輩、吐きそう。
疾風の如く、地底湖まで駆け抜けた先。そこには仄かな青が出迎える神秘的な光景が──存在せず、荒れ果てた地底湖と血と泥で汚れた
「………デイジーにピーチか」
「「隊長!! ご無事ですか!?」」
「私は、ね。でも、もう1人は………」
「一体、何があった。アルチナ? アーシュラは? それにこの枯れ果てた地底湖は一体………」
剣を支えに、今にも倒れそうな膝立ちで彼女は返事を返す。傷口は深くは無い、しかしどこか妙だ。両手でしっかり剣を持ち、地面に刺す事で前に倒れるのを防ぐ姿に違和感など………あっ。
「アルチナ!? 右腕、もう出来たのか!?」
「!? 本当です! 副隊長から右腕がないとお聞きしていたのに!」
「説明してもいいんだけど、まず水を貰えないかい………? 湖が枯れた所為で飲まず食わずでもう3日でね………」
「それを早く言え! ええい、すぐに食えるもの………これだ!」
それはポーチから咄嗟に出て来た。リリィが特に大事に包装していたもので、加えて一緒に飲むようにと念押しされた皮袋を取り出し、前にだす。
アルチナは少し、虚な目をしていたが騎士達が包装を剥がすとすぐに目の色を変えた。
「──おはぎだぁ」
それはあんこたっぷり使った和菓子。帝国では貴族のお茶菓子としてたまに食べられるもの………という設定。対抗馬はどら焼き。
目の前に差し出されたアルチナの好物に、騎士らしさは消え失せ、1人の女性として甘いものを頬張る。1口で1個平らげると、残り2個も瞬く間に口に運んでいく。
「うわ! これ超いい奴ですよ!? 帝国貴族会でしか出ないような高級の! リリィ副隊長、尽くしすぎでしょう………」
「しかも、皮袋の中身、帝国には珍しい緑茶っぽいぞ。リリィの奴、お返しに何を求める気だ………?」
「………隊長と同衾?」
「何だそれ。私もやりたい!」
この2人もリリィと同レベルなんじゃ無いかと思い始めた頃、人心地ついたアルチナは、ゆっくり息を吐くと立ち上がり──髪に隠れた右目から眼球が零れ落ちた。
「あっ」
「あー!? 団長の目玉が!? 目玉が落ちたぁ!?」
「しまった………まだ馴染んでなかったか………あ」
「いやぁぁぁぁぁ!!? 今度は右腕ぇぇぇぇ!?」
いきなりのグロ画像発生。スピンオフでもこの展開を描いた覚えはあるが、モルガナもドン引きしていたような気がする。しかし、漫画と違ってアルチナの成長が異様に早い。
本来なら、腕の形成に1年。リハビリに1年の計2年だった筈なのに………アーシュラがいたおかげで何かあったのか?
「とりあえず脱出しよう。ここはもう敵の根城になりつつある。説明は走りながらしようか」
極めて冷静に言ってのけるが、落ちた目玉をぐりぐりとはめなおしながらやるのはやめて欲しい。吾輩のSAN値が削れていく。2人の騎士はなぜか興奮している。やめろ、変な扉を開くな。
何処か新たなフロンティアを開拓した2人の騎士に連れられて、風魔法で断崖絶壁をひとっ飛びし、馬に乗り込んで走り出す。先導は吾輩達の馬、後ろはアルチナが乗る馬だ。
「──攫われただって?」
「ああ。地下水を辿って来たんだろう、スライムだった。かつて、戦った事がある。サジェスだ」
「彼奴、まだ生きてやがったのか!?」
てっきりリリィが倒したものだと思っていたが、生きていたようだ。完璧に凍りつく前に自分を切り離しでもしたのだろうか。しかし、それが原因でアーシュラが攫われたとなると、
「すまない。吾輩が迂闊にオアシスに寄ったばっかりに………」
「いや、気にすることはないよ。おはぎ。寧ろ、奴は私にどうやら恨みがあるらしい」
吾輩に気に病むなと声をかけてくれるが、スピンオフという予備知識を持ちながら余計な犠牲を生んだことに関しては反省せねばなるまい。
しかし、それよりもアルチナの表情が暗いのが気になる。連れていかれる時に何があったというんだ?
「それって隊長が私たちを逃す為に殿となった時にですかね?」
「そうだ。蓄積した水を飛ばし、超高圧の水の刃は容易く人を切り裂く。雨霰と降るそれを何とか切り払っていたが………やはり、相性差がな。魔法が使えない事をあれだけ恨めしく思ったことはないさ」
「奴に物理は効きませんからね………リリィ副隊長の氷結によって失った水分を取り戻しに来たという事でしょうか」
「だろうね。そこにたまたまいた私とアーシュラを見て、サジェスは私を殺そうとしたが………アーシュラが大人しくついていく代わりに見逃されたんだ」
「それは、良かったですね。今の隊長では………」
「──
吾輩、この体になってある事に気付いた。動物は人間と違い、全身で危険を感知する。迫り来る人や災害からいち早く逃れる為に。地震が起きる直前、犬や猫が騒ぎ出すのはそうなのだと理解した。
だからこそ、怖い。
後ろから発した声はただ空気を震わせただけなのに、今すぐにここから逃げろと本能が叫んでいるからだ。ポタリと、水滴が吾輩の顔に当たる。見れば、ピーチが滝のような冷や汗を流していた。
「失言ですよ、ピーチ。隊長お気になさらず、我々も彼女を含めた王国や帝国民は必ず助け出します。だから、今は我慢です。隊長はまず体を癒して………」
「我慢、ね。そうだねえ。我慢しないといけないんだよねえ」
アルチナの口調から怒りが消えた。代わりに浮かんできたのは、ドロドロにまで煮詰められたような砂糖のような甘い声。だけど、体の全身の毛は逆立ち、今すぐにでも彼女の視界から消えたくなった。
「ねえ、お姉さんはさ………いつまで我慢したらいいのかなぁ」
騎士としての彼女ではなく、隊長としての彼女でもない。迷子になった子供が縋るような声を出し、彼女はそのまま眠ってしまった。騎士達もまた、それ以上の会話をすることも無く、ただ無心で馬を走らせる。
3日の間、アルチナは目を覚ますことはなかった………けれど、彼女の限界が近いことを吾輩達は理解した。
*
「──もう一度おっしゃっていただけますか? 司令官?」
「女というのは人の話を聞かない生物のようだな。感情的に言葉をぶつけるだけ。故に傷物になり、剣も握れない女に生きる価値はない。殺せ。そして、その死体を使って奴らを誘き出すがいい。恨みばかり買ってるんだ。さぞ、いい囮になるだろう」
「お言葉ですが、我らの隊長はこの砦の最高戦力と呼べます。貴方達で何とかできると? 博打と美食に酔いしれている貴方達で!」
「だから、すぐにそうやって感情的になる。余は疲れた。1番と7番の女を呼べ。余は朝まで忙しいからな。2度とつまらぬ事で時間を取るなよ?」
腹に太鼓でも入れてんのかという腹部を揺らして、司令官は去っていき、残されたのはリリィ副隊長だけだった。
「………どうだ? 彼奴がうちの司令官だ。帝国貴族の次男坊でな。地位と名誉に箔をつける為に最前線に来たらしい。小旅行かよ、ふざけんなっ!!!」
「──落ち着け、リリィ。吾輩の髭が凍ってしまう。だが、あそこまで愚鈍だとは思わなかったがな」
窓辺に掴まり、部屋の中を覗き込んでいた吾輩はそのまま部屋に侵入する。司令官の執務室というだけあって快適そうだ。吾輩の足が沈む柔らかい絨毯にふかふかの椅子。机には手付かずの書類が置いてあり、リリィはそれを黙って回収し、代理のサインを記入する。
「前回の1週間と、今回の1週間。合わせて2週間だが………やはり、男たちのサボり具合が酷いな。酒飲むか、博打してるかだろ。奴隷の方がまともに仕事してるぞ」
「加えて書類仕事もアタシがやってるしな。隊長がいた頃は隊長がやってた。そして、偵察に訓練の内容、砦の生活の維持などなどなど。いくら隊長でもそんなのを何年も続けてたら、壊れるのは当たり前だ! クッソ、何でアタシがもっと早く気づいてやれなかったんだ………おはようからおやすみまで一緒にいたのに!!」
「それが壊れた要因の1つでないといいな」
実際は、目の前でアーシュラが連れていかれた事がとどめなのだろう。吾輩がそういう物語にしたから、分かる。彼女はずっと我慢をして来たのだ。
いつか、報われる。いつか、きっと、明日こそは必ず………そうして27年間我慢し続けた結果、彼女は破裂したのだ。
「アルチナの様子はどうだ? 飯は食べてるみたいだが」
「あんまし、良くはねえ。この間、部下の1人が部屋に入った時には床の石畳の数をずっと数えてたって。その度に直した指先が曲がってもすぐに戻して壁の石を数えてたとか」
「だいぶ末期だな………聞きたくないが回復の目処は?」
黙って首を振る。それが答えだった。今の彼女に必要なのは、ストレス要因から離れた上でのしっかりとした休息だ。
しかし、この環境がそれを許しはしない。となれば、彼女を隔離するしかないのだが、そんな建物をわざわざ作るわけにもいかない。
「金はあるんだ………金は。どうして吾輩にはこの環境を打破するような力がないんだ。金があっても彼女の力になれやしない」
「いいんだ、おはぎ。その気持ちだけで充分だ。後は、アタシがやる。今までが隊長に頼りすぎだったんだ。今度はアタシの番だ」
「それじゃあ、何も変わらないだろ!! 何か、何か手はないのか、何か!」
うろうろするが現状を解決するアイデアなど出てくるわけもなく。せめてもの癒しになればと、アルチナの部屋に向かおうとした所で扉がノックされた。
「失礼します。デイジーです。リリィとおはぎ参謀はいる?」
「いるぞ? アタシらに何か用か?」
「それが………『黒猫の宅急便』を名乗る男女の2人組が隊長と黒猫のクロ?に話があると」
「隊長に………? それにクロ? おはぎの名前はおはぎじゃないのか?」
「いや、それは確かに吾輩の名前の1つだ。だが、一体誰が?」
「そこから見えますよ。確かめて頂いてもらえますか?」
まさかモルガナの訳があるまい。ここに来るには帝国を通らないといけないのだ。賢い彼女がわざわざそんな危険を犯すとも考えにくい。となれば、誰が……?
吾輩は窓から下を覗き見る。午後の日差しに照らされて、行き交う人々の中にその2人らしき人物がいた。
「だーかーら、あまり目立つ真似はするなって
「でも、こうでもしなきゃクロには会えないでしょう!
思わず吾輩は飛び出した。太陽のような金髪の男の子と豊かな大地を思わせる茶髪の女の子。あの村での惨劇を乗り越えて、運命に打ち勝った2人の姿が見えたのだから。
「パトリシア! それにロン! 大きくなったな!!」
「パティ! 空から喋る黒猫がっ!」
「やっぱりいるじゃん! 久しぶり! クロ!! 助けに来たよ!!」
吾輩は猫である。名前はクロ、キミリア、おはぎ。そんな吾輩はモルガナの幼馴染にして、残酷な運命を乗り越えた2人と再会を果たすのだった。
吾輩、こういう主人公の行動が巡り巡って助けになる展開大好き侍
ロジェ編はどちら重視が読みたい?
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ラブコメ重視(モルガナ達とイチャイチャ)
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バトル重視(悪役とシリアスバトル)