吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。   作:シャモロック

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いつかまた、この空の下で

 吾輩は猫である。名前はクロ、キミリア、おはぎ。激突は既に数十合にも及んでいた。もどかしい物だ。剣と水がぶつかり合い、鎬を削るのをただ眺めるだけがこんなに辛いとは。

 

 吾輩が率先して戦いたいというわけじゃない。なんなら戦うのなんて、めちゃくちゃ怖いし、出来ることなら安全な場所にいたいのが本能だ。

 

 でも、娘達とも呼べる存在が痛みに耐え、傷を負い、それでも誰かのために戦う姿を見て代わってやれないかと思う吾輩は馬鹿なのだろうか。

 

「ナンデアタラネエ! アントキハバカミタイニアタッタノニ!」

 

 斬撃が繰り出されるたびに両断される触手が金へと変わり、そのまま追撃により塵となって消える。延々と繰り返される終わらないやりとり、千日手とも呼べる状況だが、サジェスの声には徐々に焦りが浮かぶ。

 

「あの時は撤退戦だったからねえ。今は守るべき相手はいないから、君を斬るためだけに集中できるのさ」

 

 空気を切り裂き、迫る触手の数は常に十を越えている。金属に変化させ、切り落とす動作、避ける動作に対して、それでも避け切れない負傷が彼女の肉体を傷つけてはいるが、押されているのはサジェスの方に見えた。

 

「さあて、ズレも修正出来てきたことだし………そろそろ、本気で斬らせて貰おう。おはぎ先生しっかり掴まっててほしい」

「ああ! 全力でやってしまえ! 金貨投入は任せろ!」

「では、サジェス。宣告させて貰うわぁ」

「センコクダァ!? ナンノ──」

「それは勿論、君の死因よ──胴体を見てみなさい」

 

 胴体?と吾輩もサジェスの胴体………胴体何処? とはいえ、うようよ蠢く粘体の腹部に確かに花の模様が刻まれている。いや、いつ刻んだ?? 吾輩の目に入ってなかったんだが!?

 

 しかし、その印は見覚えがある。吾輩のスピンオフ上の彼女の決め台詞だ。剣で器用に花の模様を刻み、それを今から死ぬ相手への手向とする。故に『死印』と恐れられ、彼女の剣技の由来ともなった。

 

「今からそこを斬る。防げる物なら防いでみなさい」

 

 変化は劇的で、彼女は滑らかにスタートを切った。

 ごく自然に一歩踏み込み、しかしそれは停止状態から加速したとは思えない、既に最高速。吾輩、後ろに吹き飛ぶとこだった。

 

 最早とりあえず前に金貨を降らせることしか出来ない中、吾輩の耳がずっと何かを切り裂く音がしている。金属音からして、吾輩の金貨を利用して斬ってるんだろうが、最早黄金の煌めきしか吾輩の目には映らない。

 

 それでも美しい光景だった。迷いなく振られる剣筋は黄金色の軌跡を持って飛び散る雫すら吾輩には届かない、黄金の結界のようで。彼女の積み重ねてきた努力に守られている感覚に何処か安心感すら覚える。

 

「クソガァ! クルンジャネエ!!」

「どうしたんだい? 人間風情にそう怯えなくてもいいじゃないか」

 

 でも、サジェスの視点からすればたまったもんじゃない。真正面から最短で迎撃しつつ向かって来るのだ。逃げようにもその距離を取れば、踏み込まれるのは確実。

 

「コレナラドウダァ!!」

「悪くない………が、よくもないね」

 

 分厚い水の壁を用意し、地中に逃げようとしたサジェスを真正面から防御ごと切り裂き、金貨によって地面に入ってるヒビを埋めた。これで奴は目の前の騎士から逃げられない。

 

 守りにはもう入れない。その一手の間に斬られるのがわかってるからだ。だからサジェスは迎撃のために力を溜める。攻撃こそが最大の防御だとばかりに瞬発的な意思を正確にトレースし、水流は触手のようにうごめいてこちらに迫る。

 

「正念場かい? いいね」

 

 それでも眉一つ動かすことなく、無造作に薙ぎ払い、開けた視界にサジェスが嬉しそうに蠢いてるのが見えた。

 

「シネ!!"タイカイヨリキタレ"!」

 

 とんでもない圧力をかけられて圧縮された水が目を灼くようなまばゆい輝きを放っている。秘められた威力がいかほどか、吾輩でも即座に分かる。

 

「アルチナ」

「なんだい、先生?」

「──信じてるからな」

「──うん。その言葉がずっと欲しかった」

 

 視線が交錯した。既にアルチナは次の突撃の準備をしている。回避はない。迎撃一択。放たれた激流は光線のようにも見えた。飲み込まれたら最後、サジェスの一部として取り込まれてしまうのも何となく分かる。

 

 だから、吾輩も覚悟を決めて大量の金貨をサジェスの頭上に落としていく。攻撃にならなくても構わない。奴の水の体に入れておけば、彼女がきっと有効活用してくれるから。

 

 そして、吾輩の騎士は準備が終わったと同時に両手の剣を握り突進した。右腕と左腕を同時に振り上げる。彼女の頭上で、二振りの剣同士が引かれ合い、彼女の魔法により強固に噛み合う。

 

 モルガナはどうやら吾輩の情報からここまで先読みして作ったらしい。顕現するは2振りから生み出された1振りの絶剣。白く黄金色に輝く白金の輝きを持って破壊そのものである激流と対峙する。

 

「死印転華『七分咲き』──『圧・彼岸花』」

 

 垂直に振り下ろされた絶剣は太陽のような輝きを放ち、吾輩の視界から世界を奪った。目に焼きついた光に潰されながら、襲ってくる衝撃波に必死になって縋り付く。

 

 そして、それも徐々に収まり、小さく剣を納める音がして

 

「献花にしては、少しやりすぎたかな」

 

 開いた先には誰もいなかった。大量の金貨も、粘体のスライムも。いるのはこちらを見て呆然とする魔族の兵士や武器を捨てて慌てて逃げ出す魔物達。

 

「か、勝ったのか?」

「うん。そうさ。お姉さんの………いや、私達の勝利だ。おはぎ先生!」

「そうか………そうか!!」

 

 吾輩を肩から下ろし、空高く抱えるアルチナには満面の笑みが浮かんでいる。当然だ。魔族の最高幹部に値する存在を倒せたのだから、安堵するのもしかたない。

 

 ──ダカラ、フイヲツクニハヨカッタ

 

「──っ!! アルチナ、吾輩を投げ──テモオセエヨ、バカガ!」

 

 吾輩の口が自分の意図したものとは別の動きを行った。

 直後、自分の足下の地面が膨れ上がり、爆発。そこから無数の水腕が生まれていく。

 

 それは蛇のように音もなく上昇し、アルチナを狙うが、吾輩の直前の警告を察して即座に身を翻し、跳ぶような動きで距離を取った。

 それを、冷笑して見送る吾輩──サジェス。

 

「吾輩の体にいつ………アントキニキマッテンダロ!! ウルノヤツノジョゲンナンザキキタクナカッタガホケンヲカケテヨカッタぜ!」

 

 身体の中を蛇が這い回るような感覚が全身を支配する。自分の意思とはまるで違う動きをする奇妙さに倦怠感と吐き気を催す。体が侵入してきた異物を拒絶しているのだ。

 

 吾輩がサジェスとぶつかったのは1年前のあの日、そうだ………確かにあの日、奴の攻撃が吾輩の体に掠った。その時か!?

 あの野郎、あん時に吾輩の体に寄生してやがったのか!!

 

「先生!!」

「大丈夫ダ………まだ、かろうじて意識はアル………でも、気を抜けばヌシに触手をぶつけてしまいそうダ」

「サジェス、さっさと先生から出ていけ。斬られたいか?」

「キレるモノならな!! すまん、今のは吾輩ではナイ」

 

 だが、サジェスの判断はアルチナには有効的だ。何せ、スピンオフ上では精神が壊れるくらいに悩んで漸く仲間を斬れたのだ。

 でもそれは、つまり………彼女が覚悟を決めれば、吾輩だろうと斬れるって意味にも変わる。

 

「アルチナ!」

「断る! 私に貴方を斬らせないでくれ………!」

「ムチャイウナ………結構、厳しいんだ! 頼む!!」

 

 声が震え、指先が震え、視線が定まらなくなり始める。

 精神が水に侵されるように肉体の制御すらも徐々に奪われ始めてるようだ。手の感覚もだいぶなくなって来ている。このままだと吾輩という存在がサジェスという存在に塗り潰される。

 

 それが一番まずい。サジェスは乗っ取った相手の知識を読み取れる。そんなことされれば、吾輩の知識が魔族に流用されるのは間違いない。穏健派たる魔王ならともかく、過激派のこいつには絶対に渡してはならない!

 

「──お願いだ、アルチナ」

「やだ………やだっ! 頼む! 何かある筈だ! そう、そうだ! 先生が持ってる他の魔法を今ここで教えてくれ! 何か効果的なのがあるだろう!」

「アルにはアルが………主もわかってイルダロウ? 貴殿は魔法の才能が低いことを」

 

 ロジェやモルガナならともかく、アルチナはどこまで行っても剣が主体の魔女なのだ。魔法の才能だけならおそらく魔女達の中で1番低い。適正もある。短時間で扱えるほど、上手くはいかないのだ。

 

「頼むよ、アルチナ………主にしか頼めないんだ。部下達をこんな地獄から連れ帰るんだろう? ムダダ! テメェらはココでシヌンダヨ!」

 

 いかん、もう時間がない。絞り出すような吾輩の声にアルチナに苦難の表情が浮かぶ。戸惑い、揺れる、そんな剣が彼女の心境を露わにしているようで。

 

「大丈夫………ちゃんと見ているからな」

「──ッ!!」

「だから、最後までその美しさを吾輩に焼き付けてくれ」

 

 消えかける意識、今度こそそのまま、潰れてしまうだろうことがわかったから、吾輩は最後に笑った。痛くはない、悲しくもないと彼女の傷にならないように。

 

「吾輩にかっこいい所を見せてくれ、アルチナ騎士団長」

「うっ………あああああああぁぁぁぁぁ!!」

「フザケンナ!! キルノカ!? ホントウニ!? コイツハテメェノ──!!」

 

 泣きながら、嗚咽を溢しながら、痛みに耐えてアルチナが吾輩に踏み込む。サジェスが触手を使って迎撃をしようとするが、そうはさせない。

 

「おい、スライム野郎ジタバタすんな──テメェはここで吾輩と死ぬんだよ」

「ッ!! イカレテンノカ!! テメェラ!!」

「死印っ天華!!『2分咲き』!!」

 

 大地を削る刃が吾輩の首に向かって伸びて来る。それは空に向かう斬り上げだ。あと、何秒か先に吾輩の首は宙に舞うだろう。それでいい。

 

 吾輩の体で、迫る死に慌てふためくスライムを死に際の馬鹿力で押さえ込む。精神力だけならそう簡単に負けやしねえぞ。なんたって2回は死んでるんだからな!

 

「大丈夫だ、アルチナ。吾輩達はまた会える──この空の下で繋がっているからな」

「──『絞白椿』!!」

 

 剣が吾輩の体に触れた瞬間、吾輩は全てをサジェスに委ねた。涙声が聞こえて、一番聞いていたい彼女の声を最後に意識が落ちる。

 遠く何処かへ落ちていく、いつまでも続くような落下の感覚に身を委ねて──

 

『──ヤマト』

 

 ──誰かが俺の名前を呼んだ気がした。




漸くここまで来れました! 次回はwikiでアルチナ編。
そして、アルチナ視点の後日談でアルチナ編終了です!
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