吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
毎回2話投稿したい気分になりましたが、時間がない問題を解決しないと無理なので諦めます。でも、時間があればやりたい。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、キミリア。作戦当日の夜、いつもの建物の屋根の上で、落ち着きなく彷徨くリリィの足元に吾輩はいた。頭を抱えて。
「さっきから何を唸ってんだよ、おはぎ参謀」
「そういう主こそ落ち着きなさすぎだろ。心配しすぎだ」
「そっくりそのまま返してやる」
お互いに言い放つが、心配事は尽きないので互いの行動を止める事はない。吾輩は言い過ぎたロジェの心配を、リリィはアルチナの心配だ。特に吾輩は気が気じゃない。冷静になってみれば、何故吾輩はあそこまで厳しい言い方にしたのか。
「もう少し言葉を柔らかくするべきだったか? いやだがしかし………」
「ッ!! 来たぞ、おはぎ参謀!」
身悶えする中、突如建物からものすごい勢いで人が飛び出して来る。突然与えられた自由に覚束ないものや知恵がない為、どうすればいいかわからずに寝転がるもの。そして、意思を持って裏路地を通って逃げようとするものだ。
見下ろした先に、アルチナ達の姿は………あれ? 吾輩の目がおかしくなったか? いきなり建物が少し横にずれた気がする。いや、見間違いじゃないな。建物が斜めに斬り落とされたらしい。やる奴なんて1人しか思いつかないが。
「やっぱり加減が難しいわねえ。ここまでの威力はいらなかったのだけど」
「こ、殺す気かぁ!! まさか全員逃した後に、囲まれたと思ったら普通建物ごとぶった斬るかな!? どこにそんな馬鹿がいるんだよ!!」
「あ、ロジェちゃん生きてたのねえ。それと貴女も怒るのね」
「本気で狙ってたの!? そりゃボクだって怒る時は怒るんだぞ!」
そんな欠陥住宅と化した建物の正面から堂々と出てきたのは、紫髪の騎士と藍髪の義賊。余りの無茶苦茶っぷりに気弱さはどこへやらと噛み付くロジェをアルチナは受け流すが、
「こっちだ、急げ!! 奴らが主犯だ!」
「そこまでだ、アルチナ!! 今回ばかりは貴様の色気が通用すると思うなよ!!」
「お姉さんの裸見て鼻を伸ばしてる癖に、説得力ないわよぉ?」
「というか、なんで全裸で堂々とできるの!? ボクなんかシーツ巻きつけてるのに恥ずかしいんだよ!」
「そこの小僧もだ!! さっさと膝をつけ!」
「お前、顔覚えたからな!」
その間に集まってきた見張りの衛兵達が、彼女達を囲む。どうやら数で圧倒するつもりのようだ。そうはさせるか! 待っていろ! すぐに吾輩が囮に向かう!
「ちょっと待てや」
「ぎにゃあ!」
と、かっこよく助太刀しようと飛び出そうとしたが、リリィに首根っこ押さえられて宙ぶらりん状態へ移行。振り向けば魔族すら逃げ出しそうな顔で吾輩を見下ろす鬼が1人。
「おはぎ参謀はここでアタシと待機だ」
「むっ、何故だ。吾輩、納得が行く理由じゃないと助けに向かうぞ」
そもそもは、吾輩が牢屋からアルチナとロジェを先導して脱獄する筈だったのだが、リリィの一声によって全員が反対に回ったのだ。権力による支配などリリィはそんな事をする筈じゃなかったはずなのに………変わってしまったのか? 吾輩が知らない間に。
「それはぐうの音も出ないような完璧な理屈なんだろうな? リリィ」
「だって、アンタはアタシらが見てないところだとすぐ死にかけるじゃんか。そんな奴を鉄火場に送れねえよ」
「………………ぐぅ」
「ギリギリ出たな、ぐぅの音。それにアタシは気になってんだ。ルノワール一族って奴の実力をな」
ちょっと吾輩からでは反論出来ないので、大人しく宙ぶらりん状態のまま、見守ることにする。それに、リリィはロジェの実力を見極めるつもりらしい。
その視線の先には、全裸のまま堂々と双剣を構えるアルチナと両頬を両手で叩きながら自分に活を入れるロジェの姿。
「さあて、準備運動くらいにはなるかしらぁ?」
「う、うう………頑張れ、ボク。負けるなボク!」
「かかれ!!」
そして、襲いかかる衛兵達に彼女達2人は前に出た。アルチナは最早太刀筋が追えないので観察するのは諦める。大体、無双シリーズと同じような事が起きてるくらいの感覚。気づいたら人が吹っ飛んでる。
彼らは本気で彼女が誘惑するしか能がない騎士団長だと本気で思っていたんだろうか。そんなんで帝国で女性が上にあがれる訳がないだろうに。その勘違いが今の現状を導いてるとしたらご愁傷様としか言えない。
逆にロジェの方は、些かおかしな動きをしているように見えた。頭や手を揺らしながら衛兵が反応した先には彼女はいない。しかし、衛兵の反応を見る限り、ロジェを見失ってるような………?
「マジか、あいつ。反射的に人の死角に潜り込んでやがる。どんな動体視力してんだよ………」
「わかるのか、リリィ? 吾輩にも説明を頼む」
「そうだなぁ、人が目の前の相手を見失うのは自分の視界からいきなり消えるからだ。それが魔法なのか死角に入ったのかは置いとくが、当然の考えとして人に見つかりたくないなら死角に入り続ければ良い」
「それが衛兵達がロジェを見失ってるように見えるのか。じゃあ、あの頭や手の動きはなんだ?」
「相手の反応先を決めてんだ。手に反応したらそことは逆に、頭に反応したらそこから逆に。相手が反応した視界の逆を突くための誘導って言ったら分かりやすいか?」
なるほどと吾輩は頷く。確かに、吾輩が描いた中にはその設定があった。実際に俯瞰して見ると変な動きではあるが、目の前の相手からしたら煙のように消えたように見えるのだろう。
『影駆』と名付けられたそれこそ、一族に代々伝わる『ルノワールの秘伝書』に書かれた走法の1つだ。代を重ねるごとに人間離れしていくとファン達からは言われたのを思い出した。
「そんで、その動きを支えるのがあの脚力だろうな。あの歳でかなり鍛えられた立派な足腰と………視力もいい筈だ。アタシにだって出来ねえんだ。どんな目ん玉してんだよ」
「そして、その脚力を相手に向ければこうなると」
目下で、またもや馬鹿でかい音と共にロジェの前蹴りが炸裂。吹き飛んだ衛兵は壁を突き破り、起き上がって来る事すら不可能のようだ。その惨状を起こしたのがパッと見、小さなガキにしか見えない相手に衛兵達の動きが止まった瞬間、ロジェは既に相手の懐に入り込んでいた。
逆立ちするような体勢から一気に飛び上がり、両脚で衛兵の顎を揺らした後、強靭な体幹で空中で回転し、側頭部に右足を叩きつけてボールのように吹き飛ばす。相手からしたら気づいたら吹き飛んでるようなもんだろ、これ。
「しかも、魔法使わずに魔力操作だけでこれかよ。才能の塊すぎだろ、やってらんね〜」
「………魔力操作?」
「え? 何言ってんだよ。魔力を操作して肉体を強化する。これ自体は魔法を使う上での基本だろ? おはぎ参謀もあんだけ金貨産んだり、芸術魔法なんて生み出してんだから知ってんだろ? 空属性でも魔力操作はできるって話だし、隊長も使ってたしな」
「ワガハイ、ソレシラナイ」
何それ?? 吾輩本当に知らないんだが?? えっ、そんな設定書いた事ないんだが?? いやね? 確かにファン達からも突っ込まれてたよ? いくら何でも肉体が強すぎないって?
でも、その強化方法あったら空属性の無能感なくない? いやまあ、炎や水を出すみたいな視覚的に派手なものもないし、四大属性も同じように自分の肉体を強化できるなら立ち位置は変わらないのか?
しかし、吾輩が付け加えた設定じゃないとすると元々この世界はその設定で成り立ってるという訳か。なるほど理解した。今後もこんな事ありそうで吾輩怖い。
「アンタもつくづく天才側だよな。何で、基本の魔力操作知らなくてそんだけのことできんだよ」
「吾輩が知りたい」
「アンタ、もうちょい自分の事を知る努力しようぜ………小さなガキでも存在する理由や意味に悩むってのに」
「そんな事言われてもな。吾輩は使命優先で、自分の事はわりかしどうでもいいのだ。別に吾輩が猫のままで困る奴はおらんだろう」
そもそも何で猫になってるのか。何で金を稼ぐ魔法なのか。そもそもどうしてスピンオフ漫画に似た世界に転生してるのか。全てがさっぱりなのである。まあ、吾輩の事だしどうでもいいが。
おい、それで何でため息をつく? これだから猫は、みたいな目でみるのはやめてほしいんだが?
とりあえず戦いも終わったみたいだからさっさと下に降りようぜ。なんか、アルチナがまた微妙にショック受けてるからちょっと気になるし。
というわけでリリィに抱えられたまま地面に降りる。今思えば、こんな3階建ての屋上から躊躇いなくジャンプして降りられるのも魔力操作による強化のおかげなんだね。吾輩、皆んな高い所から躊躇いなく飛び降りてすげえなってなってたわ。馬鹿かな?
「あ、し、知らない人がいる………」
「大丈夫よ。彼女はお姉さんの部下だから。久しぶりね、リリィ。元気にしてた?」
「あ~~~ほんま、ほんまにほんまあ~~~ムリッッ!!! 脱獄したばかりなのに、顔がいい! もっと見せてください、顔がいい! 好きもうほんとに、タスケテ!!!なんでこんなにも輝いてるのもしかして私の太陽なの?!そうだよ!!!!あーーーーーーっ!!」
「………部下?」
「やめて、ロジェちゃん。お姉さんをそんな目で見ないで。暴走する以外は頼りになるのよ。本当よ、きっと、おそらく、多分、いつか」
「惨状から目を逸らすな」
いきなり限界オタク化したリリィにロジェは訝しげにアルチナを見つめ、アルチナは居た堪れなさにそっと目を逸らしたが、ひとまず合流はできたのでさっさと逃げ出すことにする。
なので、騎士の礼服を剥ぎ取るな、財布を盗むなそこの脱獄犯2人。もろに犯罪者だぞ、金なら吾輩が出してやるから。
「フゥ〜〜〜! さて、では馬車までご案内します隊長。先導はアタシが。隊長はまたで申し訳ございませんが、後ろを。おはぎ参謀とルノワールは私と隊長の間に入り、一列を崩さないでください」
「いきなり仕事が出来そうな人になった………!」
「仕事はできるのよ、仕事は。お姉さんをちょっと崇拝してるだけで」
「隊長の香りなら幾らでも吸ったり吐いたり出来ます! なので終わったら、また下着をください!」
吾輩を抱えて走るロジェが列から離れようとした。
すぐさまアルチナとリリィに連れ戻された。
「………せ、性癖は人それぞれだからね。ボ、ボクはアル姉が同性愛者でも、気にしないよ」
「お姉さんは異性愛者よ。歳下が好きなの」
「でも隊長、少年くらいの年齢が好きですよね。ルノワールくらいの」
ロジェが壁を蹴って、本格的に逃げようとした。
アルチナに捕まり、暴れるロジェ。性癖の違いで仲間割れするのはやめてくれねえかな。流石に。
「失礼ねぇ。最近は同年代でもいいと思うわよぉ。ねぇ? おはぎ先生?」
「吾輩、人間だった頃は20代後半だぞ? 少なくとも主より歳下だが」
「そうなの? ところで話は変わるのだけど、32歳の歳上女房に興味はないかしらぁ? 簡単な料理や育成、掃除は得意だし、この体好きにしていいわよぉ?」
「あ、アル姉が肉食獣みたいな目をしてる………」
「一般的には隊長は行き遅れだからなぁ………あぶねっ! 隊長!? 今、後ろから投石しましたか!? 今のは後頭部破裂しますよ!?」
もうこれ突っ込み出したら埒があかないな。吾輩黙っておこう。女性が3人集まれば姦しいと言うがこれだけ騒いでも集まってこないって事は警備はやはり、富裕層がある中心部に集められているらしかった。
好都合だと、吾輩達はそのまま貧民街を抜けて、外と内を区切る壁の前で止まる。今頃、他の家畜や奴隷達は正門前に集まっているはずだ。
デイジーやピーチ達は正門前に奴隷達が逃げ出せるように馬車を偽造して用意してると言っていた。見張りの兵も無力化しておくとも。
「では隊長お願いします」
「なるほどねぇ。正門は囮で本命はこちらと。下がってなさい。斬るわぁ──絶剣、抜錨」
愛剣を構えて、真四角に剣を振えば豆腐のように刃が通り、人が通れるほどの穴が開通。その先には百合の花があしらわれた馬車が1台止まっており、中からローズ達が顔を出していた。
「来ました! ジャスミン、マーガレット出発準備!」
「隊長! お手を! おはぎ参謀もこちらに!」
「リリィ副隊長! デイジーとピーチも馬に乗ってこちらに向かってるそうです! 号令を!」
「よし! 馬を走らせろ! 後にデイジー達と合流して王国に向かう!」
「最高速度で向かいます! 掴まっててください!」
リリィの号令に御者台にいたであろうジャスミンの声と同時に一気に急加速。吾輩の体が反作用で吹き飛ぶ中、ロジェがしっかり掴んで吾輩を抱き抱えてくれた。
「助かった。ありがとな、ロジェスティラ」
「う、うん。それと………ぽ、ポーチは返すね」
「そうか。それで、答えは出たか?」
そう言うと、吾輩が預けたポーチを返して来た。それを受け取り、吾輩は彼女を見上げながら凛々しく引き締まった顔つきをした彼女に問いかける。
「答えはまだ、出なかった………でも、ちょっとだけ思ったんだ。ボクは自分が嫌いだ。うじうじしてて、自信もない。そんなボクが外の世界へ逃げ出しても意味があるのかって」
「それで?」
「アル姉にも話した。そしたら、彼女は言ったんだ。『自分で確かめたら?』って。そうだよね。結局、ボク自身が誰かに必要とされるかなんてその『誰か』に会ってみないと分からないんだって」
そこで彼女は吾輩を掴んで目線が合う位置まで持って来た。その瞳には気弱で自信ありげな少女はいない。宝石のように未来に期待をしている義賊の姿がそこにはあった。
「アル姉はこうも言ってた。『自分の世界を変える出会いが2回もあった』って。それを語るアル姉はとてもキラキラでピカピカで、凄く羨ましかったんだ」
「そうだな。だから、彼女はあの牧場でも折れなかったんだ。その出会いが彼女を支えているから」
「うん。だから、ボクは出ることにした。必要とされる『誰か』を待つんじゃなくて、ボクを必要としてくれる『誰か』に会いに行く為に。その出会いはきっと、ボクにとってかけがえのない宝物になる気がしたから」
「──いい答えだ。吾輩、安心したよ。ロジェスティラ」
その選択は間違いではない。これから始まる王国で、彼女は彼女にしか救えない人物と出会うのだ。他でもない義賊たるロジェスティラを必要とする誰かに。彼女の物語はそこから始まるのだから。
ひとまず脱獄しないなんて未来にならなかったことに吾輩、安心してるとロジェが何かを口にしようとして戸惑っていた。どうかしたのか? トイレだろうかと思っていれば、意を決して彼女は言葉を口にする。
「………ロジェ、でいいよ。黒猫さん。ボクの名前長いし」
「そうか? なら、吾輩のことも好きに呼べ。全員が全員勝手に名前つけるからな。ロジェも好きにするといい」
「いいの? それじゃあ………」
彼女は少し、瞑目すると何か良い名前が思いついたのか彼女ははにかみながら、照れくさそうに吾輩の新たな名前を呼ぶ。
「クラウン………うん。キミの名前はクラウンだ!」
「クラウン………道化師って意味か?」
「違うよ。ボクにとっての王冠。ルノワール一族を継ぐ者としての象徴の意味だよ!」
「それは、随分と重たい意味合いだな」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、キミリア。ルノワールの王冠になってしまったが、構わない。彼女が5代続く義賊の最後にならないように足掻くのが吾輩の仕事なのだから。
そろそろ自己紹介の名前をいっぱいあってな、でまとめていいだろうか。