吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
この3人が揃うまでに25話も掛かるとは………
お気に入りと評価ありがとうございます。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、キミリア。その後はデイジーやピーチと無事に合流し、2週間かけて帝国から王国に戻って来たのだった。
特に大きな問題はなく、強いて言えばロジェがたくさんご飯を食べるので追加で食料確保のために魔物を倒したりした事だろうか。知ってたか? 魔物は食える奴と食えない奴がいるらしい。吾輩知らなかった。
因みに魔物の肉は案外美味い。オーク肉とか黒豚より美味いんじゃないかってレベル。逆にゴブリンの肉はエグ味と臭みが凄すぎてダメだったが。アルチナ達も戦場で新鮮な食べ物を食べるときは彼らを倒して食っていたとか。
とはいえ、魔物達を狩れる人物は限られているし、労力もかかるので牧畜の肉を買った方が安牌ではあるらしい。
そして、そんな肉を盛り盛り食べる成長期のロジェと共に吾輩達は遂にモルガナと再会した訳だが。
「モルガナ?」
「………………………」
返事がない。ただの屍のようだ。これには吾輩もびっくり、予想だと泣きながら抱きしめてくるような感動の再会を想定していたのだが。
いや、モルガナも成長したのだろう。男親に対して抱きつくような真似は恥ずかしいのかもしれない。それはそれで、寂しいものが………ん?
「……………クロ」
まるで砂糖菓子のような甘ったるい声で吾輩の名前を呼んだモルガナが吾輩を抱き抱えて、扉を開けて。
そして、全力で部屋から逃げ出した。まさかの事態にアルチナとロジェは置いてけぼりである。
「ちょ、モルガナ!? モルガナさーん!?」
「ねぇクロ? 私の夫? 今度こそずっとずっとずっとずーっと一緒にいてね? 私のそばにいてね? それで私たちが最っっ高に幸せになったその時に2人で一緒に死のうね? もう1人で死なせないからね!!」
「モルガナさん!? 綺麗なお目目のハイライトは何処に行ったのかなぁぁ!?」
わあ、我が娘の愛が重いなあって薄々思ってだけどここまでとは思ってなかったぜ。大丈夫だよね? せいぜい、たっぷり猫吸い八時間コースしてからの添い寝くらいで済むよね? ね? モルガナさん? こっち見て?
「私たち2人だけの世界を作りましょう! 私たちの邪魔をする人は誰もいない、私たちは2人で、何をしてもいい。どんな事をいつまででもして行ける。そんな世界を、作りましょう!!」
「あっ、これはダメだ。助けて、アルチナ!! ロジェ!! 吾輩もう2度と外に出られなくなっちゃう!!」
「何故別の女の名前を? クロには私だけいればいいでしょう?」
「ひいっ!!」
「もしかして、あの女達に何かされましたか?? じゃあ、やはり私で上書きしないと。特別室へご案内しましょう。大丈夫、3日もあればクロは私色に染まるはずだから」
「吾輩の貞操の危機!! おっ、ロンとパティ!! ちょうどいい所に! モルガナの暴走を止め………おいまて! ねえ、何で祈りを捧げてんの!? あっ、待って! 部屋に戻らないで!! お金あげるから助けて!」
口角が吊り上がり、目が血走った状態で凍てついた声を出されるとどうなるかって? めっちゃビビる。美人の顔って怒ると超怖いよね。吾輩、人間だった頃に経験あるって、そんな事言ってる場合じゃねえ!!
完全にやばい。モルガナさんが、ヤンのデレになってしまっている。感情豊かになって良かったね。やかましいわ! 吾輩が関わった事でこうなるのは完全に予想外だろ! うおおお! モルガナの為にも猫なんかで処女を捨てさせてたまるかぁ!
吾輩、必殺の金貨祭りを始めようとした瞬間、壁と床と天井がいきなり凹み出しながらモルガナの背中に迫って来るのを見た。余りの音にモルガナが振り向いた瞬間、その死角を縫うように追跡者が彼女から吾輩を掠め取る。
「えっと………あの人が、クラウンの娘のモルガナさん?」
「ロジェ!! そうだ。確かに彼女は吾輩の娘だ。吾輩に似ず頭のいい子に育って」
「クロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロ」
「頭の………いい、子?」
「すまん、今は脳味噌がどっか行ってるみたいだ。おねんねしてるかもしれん」
「寝言は寝てからいいなよ」
流石の義賊! 吾輩を盗む手際は鮮やかだった。モルガナも手を開いて閉じて、吾輩が手にいない事がわかると首を45度横に曲げた。
昔のホラーで吾輩こんなの見た気がする。その姿にロジェが後ずさる。分かるよ、ホラゲだったら今から追跡パートだもん。
「──泥棒猫」
「ひいっ!! と、とりあえず逃げるよ! クラウン!」
「吾輩、大賛成!」
不気味を通り越して、平坦な声にロジェはすぐさま近くの窓を蹴り破り、外に飛び出して──再び、モルガナの前に降り立った。蹴破った筈の窓は割れてはおらず、背筋に嫌な予感だけが伝っていく。
「は?」
「え? ボク、確かに外に出たはず………まさか」
「逃がさない」
モルガナがいつの間にやら禍々しい杖を手にしてる。頭蓋骨があしらわれた呪いの杖みたいな武器、吾輩知らない。ロジェは何かに気づいたようで脚力にものを言わせて走り出した。
車に乗っているように風景が後方へ流れていく中、しばらくしてロジェは再び足を止めてぶるぶると振えだす。
「ニガサナイ」
眼前にモルガナの背中が見えたからだ。なんてこったい、どうやらループでもしてるのか。吾輩達は屋敷から出られないらしい。
彼女は首だけ振り返ると、蒼いお目目から光を消して1歩踏み出す。ロジェは反射的に部屋の扉を蹴破ろうとしたが、びくともしない。
「ニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイ」
「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
モルガナが構える杖が2本増えて、背後に浮かぶのは3本。合計5本の杖の矛先がこちらを向いており、もはや戦闘は免れない。
いや、何で戦う必要があるのかって話ではあるんだよ? 吾輩、もっときゃっきゃうふふでチピチピチャパチャパするような空気を期待してたんだよ?
「こ、こうなったら戦闘だ! 頼んだぞ、ロジェ!」
「うえっ!? や、やるの!? あんな怖い人………人?と!?」
「彼女は人だ! 確かに今は下手な怪物より怖いけど!」
とりあえず少し冷静にさせないと、モルガナとまともな会話もできやしない。吾輩が犠牲になれば早いって? いくら何でも娘の初体験の相手が父親代わりの猫なのはちょっと………。
「"摩天楼"」
「早速何かしかけてきた!? クラウン!? 何あれ!?」
「逃げろ! 建物に押しつぶされるぞ!」
床や天井、壁など建物内部あらゆる所が軋みだし、降り注ぐ柱の雨。ソロモンの柱の強化版である。本来は外で使うことで摩天楼を形成するような技なのだが、部屋内部で使うとこうなるんだなぁって吾輩遠い目。
「げ、現実逃避してないで何か助言ないの!?」
「全部避け切っといて助言いるのか? とりあえずこちらの有利な点はモルガナは主の魔法を知らない事だ。何とか『青色』を当てて冷静にする。それくらいしか場を収める事はできないだろう」
「そ、そもそも既に館内部はだいぶ滅茶苦茶なんだけど………?」
「モルガナは建築魔法の使い手だからな。幾ら壊しても大丈夫なんだろ、多分」
「──話し合いは終わりましたか? では行きます」
廊下を埋め尽くした柱の一部に小さな扉が形成されると中からモルガナが杖を持ち歩きながら現れた。先端に鋭い刃がつけられたそれは杖よりかは槍のように見えて………刹那、その刃先がロジェに迫っていた。
「!? 『
突き出された槍の一撃を、下から打ち上げる形で逸らしたロジェが遂に芸術魔法『絵画』を発動する。床が変化し、赤い絵の具に変わったかと思うとそのままロジェの足に纏わりつき、赤い靴に変化。
そのまま、モルガナの顔目掛けて振り抜くがいきなり現れた壁がそれを防ぎ、同時に壁から炎が吹き出し、モルガナの顔を掠めた。
「なるほど………足技使いですか。ではこうです」
「へ? うわあっ!?」
距離を取ったモルガナが、杖を回して軽く床を叩くとロジェの足元にいきなり穴が開き、腰あたりまで埋まってしまう。
すっげえ、吾輩が知らない間にモルガナの魔法の実力がスピンオフ時代に近づいてるぅ。とはいえ足を防いだからと言って、ロジェの魔法は止まらない。
「『万彩顕現』!!」
手をつき、床を絵の具に変化。赤青黄緑の絵の具が意思を持って、モルガナに迫るが床や壁から生えてきた柱によって全て阻まれてしまう。
燃えて、濡れて、風で吹き飛んで、落雷に撃ち抜かれたような柱を見て、モルガナは小さく拍手する。
「なるほど、そういう魔法ですか。恐らくは私と同じ芸術魔法、分類は『絵画』と言ったとこでしょう」
「な、何のことかな? ボクは粘体を操る魔法で………」
「いいえ、貴女の魔法は物質を変化させた絵の具を対象者にぶつける事で
「………………」
「沈黙は肯定と捉えます。例えば対象者が赤を『熱い』や『情熱』として捉えていれば炎や興奮状態にさせられる。現に私は赤色を暖かい色と認識してますから、先程は炎になったというわけですね」
「こ、この人理解力高すぎない?………何で一目で、分かるのさ………」
「まあ、モルガナだからなぁ………」
スピンオフではいきなり使えるようになった魔法から逆算して、理論やら何やらを構築した魔女だしなぁ。この言い分だと、魔力操作による肉体強化も覚えてそうだ。さっきの槍捌きも一朝一夕なんてもんじゃなさそうだしな。
しかし、彼女の言葉から不気味さが消えている。もしかしてだいぶ落ち着いてきたか? なら話し合う余地があるといいんだが。
「クロが教えているとはいえ、その技量は見事。貴女が私の仲間になりたいと言うなら喜んで受け入れましょう」
「モルガナ………!」
「という事なので、早く我が夫を返しなさい。これから、5年分の蜜月を交わすのですから」
「モルガナ!?」
前言撤回。やっぱりまだ冷静ではなさそう。近づいてくる彼女の瞳が娘ではなく、女としての情熱を感じるのは何故だろう。しかし、今がチャンスだ。さあ、ロジェ!! 今こそ青色をぶつけて冷静さを取り戻させろ!!
「あ、じゃあ渡す代わりに解放してくれる………?」
「交渉成立ですね」
「ロジェ!? 裏切ったなぁ!?」
迷う事なく、吾輩をモルガナに差し出したロジェは何処か呆れてるようで。モルガナは奪い取るように吾輩を抱きしめると足を鳴らして、ロジェを穴から解放する。
吾輩の怨みがましい目に、彼女は目が泳ぎまくっているが助ける気はもはやないらしい。ねえ、痴話喧嘩に巻き込まれた被害者みたいな顔しないで! 助けて!
「だ、だってこれは………その、2人のお話だし………ぼ、ボクには関係ないから」
「その通りです。ロジェスティラ。今日の所はアルチナと帰りなさい。また明日会いましょう」
「あ、うん。それじゃあ………頑張ってね、クラウン」
「頼む、助けて!! ロジェ、行かないで!!」
廊下を早歩きで逃げていったロジェの後ろ姿を見送ったモルガナは、吾輩の体をしっかり掴み直すと吾輩を真っ直ぐ見つめた。その顔はいつもの怜悧な顔つきはだらしなく熔けていて、吾輩の本能が警鐘をけたたましく鳴らす。
「ふふ、やっとこれで………2人っきりですね」
「あっ………あ、あああ」
吾輩の震える体を抱えて、モルガナは躊躇いもなく歩き出す。明かりがつかない廊下を、吾輩を飲み込まんとする闇の世界へ迷う事なく進んでいく。彼女の胸から感じる乙女の鼓動に吾輩の運命を予感しながら、諦めの表情を浮かべるしかなかった。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、キミリア。次回があればまた話そう。吾輩には明日がないかもしれないからな。
ラブコメを期待している諸君、ちょっぴり期待して良いぞ。
そして、ハードなR18を期待してるそこの君、今の内トイレ行って来てね。