吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
次は流石に当初の予定通り、土曜日ですね。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。目の前に現れるはずもない魔女がいて吾輩困惑。その動揺を知ってか、知らずか目の前のギャルは吾輩の脇の下に手を突っ込み、持ち上げた。
この体勢、実は腰とか足とか結構来るのでやめてほしい。地面に向かって伸びてる感覚。まるで体が餅になったよう。
そして、まじまじと布越しでも分かる彼女の視線。暫く見た後に口元がにっこりと笑う。どうやら気は済んだらしい。
「ほんと、おひさすぎでマジやば!! ほんとに100年後に会えるとかマジ感動なんだけどっ! モフガルド・ニャンディアス3世!!」
「………ユニティ・ブバスティスであってるな? 芸術魔法『文学』を扱い、連邦国に所属するマフ………ギャ………秘密結社『夜想文庫』の頭領。死神と人間の間に生まれた【死を忘れた女の子】」
「いっや〜他人から聞くとはずいね、その名前! 問題なし! オールオッケー!! どうどう? 3世から学んだ言葉、ぱーぺきにマスターしちゃったかんじー!」
「ああ、うん。いいんじゃないか」
「ちょいちょい、塩すぎ! もっと再会を分かち合おうよ!!」
そうは言っても吾輩、主の事はスピンオフ漫画でしか知らんからな。とは口が裂けても言えない。
ユニティ・ブバスティス。魔女の旅団のムードメーカー、明るく楽しく人生は自分の気分次第!をモットーに
「へいへーい! 気分上げてこ、盛り上げよ!! そっちの可愛い子もさ!」
「うわわわわわ………」
「すまんが、ユニティ。ロジェは人見知りなんだ。出来ればもうちょい抑えめで頼む。このままだと圧倒的な陽キャオーラで灰になってしまう」
「あ! もしかしてこの子が言ってた………なるほど、ユニちゃんビーム!!」
「ああああっ!! か、体が灰になっていく………こ、これが太陽の光!!」
「陽キャビームですぐ死ぬ奴とか見た事ねえよ」
まるで吸血鬼のように陰気なオーラがユニの謎のポーズによって吹き飛んでいく。主の魔法は違うだろー、ビームはティアの専売特許ですわー!
頭の中で未来のNo.4のエセお嬢様口調の高笑いが浮かぶ中、地面に落とされた吾輩はとりあえずロジェの頭上に帰還し、尻尾で軽く頬を叩いて意識を回復させる。
「で、何で主がここにいるんだ? 連邦国は大丈夫なのか?」
「多分!!」
「すっごく吾輩心配」
「それに、呼んだのは3世の方なわけじゃん? ウチだってここまで来るには苦労したんだから………船と馬車を乗り継いで1ヶ月、ウチは遂に温泉郷に辿り着いたんだから!!」
「ただの観光旅行に来たの? お前」
しかし、意味がわからない。何故吾輩が100年前に存在してる? よく似た黒猫ってオチは………ないよな、多分。魂の形で人を判断してる以上、同じ魂があってたまるか。
いまのところ、順繰りに魔女達を巡っている事からもしかしたらティア辺りで吾輩は過去に飛ばされるのか? うぐぐ、状況証拠が少なすぎて判断がつかん。
「なわけないじゃん! 3世とはちょっと悪巧みしたくてさ〜!」
「ロジェ、今すぐ戻るぞ。嫌な予感しかしない」
「わ、わかった。全力で飛ばすね」
「あっ、そういえばさっき温泉まんじゅうの屋台来てたの思い出したんだけど〜!!でもウチ、今3世とおしゃべりしなきゃだし〜すぐにいなくなるって言ってたし〜誰か代わりに買ってきてくんないかな〜?お願いっ!」
「任せて!」
あからさまな罠の誘いに乗って吾輩の足元から消えたロジェ。あまりにもチョロい。和菓子無血開城は伊達じゃ無い。
それに消えた瞬間に、そのままユニに首根っこ掴まれた吾輩に逃げる道はなく、ぷらぷらと揺られながら、悪い顔してるユニに溜息をつく。
「え、あの子大丈夫?チョロすぎて逆に心配なんだけど。3世が三羽鴉を使って鍛えたくなる気持ちも分かるわ〜」
「………何故、三羽鴉の事を知っている?」
「え? 言われた通りに1週間前に潰してきたからだけど」
「───はい?」
【朗報】吾輩の知らない間に、奴隷組織壊滅!
【悲報】ロジェの成長フラグ全部折れた模様。
どういう事なの?? 何が起きてるの??
「え、ちょ待って!3世が言ってたんだよ?『三羽鴉、ウチの支配下に置いていいから潰してこい』って!でさ〜、その3人使ってロジェって子の成長の礎にするんだって〜!マジやばくない?」
「ワガハイ、ソンナノシラナイ」
「もうそうやってすっとぼけて〜奴隷達はウチの方で全員回収したし、状況は整えて置いたからさ。後は3世の指示待ちだよ?」
「整えた? 何を?」
「
ただ彼女は何てことなしに物騒な言葉を言っただけだ。だというのに、どうして吾輩はこんなにも安心感を覚えている? ユニが吾輩を殺すはずがないから? 恩人だから?
人って言うのはそうやって危機から目を逸らした隙に死んで行くんじゃないのか? 目の前に立つ死の具現化から!
「ちょ、そんなビビんないでってば〜!なんかさ、初対面のときのウチ見る目みたいでウケるんだけど〜やめてよ」
「す、すまん。久しぶりすぎて吾輩の本能がな………そ、それよりも秘伝書を手に入れたのか? 全部?」
「んー、半分だけだよ!調べたらさ、残りの半分は王宮に引きこもってる未来の王妃サマが持ってるっぽいの〜」
そこはスピンオフ通りかと内心安堵する。つまり、ユニの奴は黒幕が持っていた秘伝書を貰った、若しくは盗んだという事になる。黒幕の目的を考えるなら、対価は──
「主の目と引き換えに譲ってもらったのか。魂を観測する目………
「さっすが〜! 3世マジ頭いい! まっ、ウチは実際に魂を見ては結果を述べればいいだけの簡単なお仕事だからね! らくしょー、らくしょー!」
さて、状況を整理しよう。まずユニがここにいる理由は吾輩の指示があったから。三羽鴉を潰したのも吾輩に会いにきたのも全部仕組んでるはずだ。ロジェが幸せになる為に。
となれば、ロジェの成長フラグに関するものは全てやっている筈だ。黒幕に賢者の石を完成された場合、どうなるか。そこだけが悩みの種ではあるが。
全ての中心になるのは『ルノワールの秘伝書』だ。代々ルノワールに伝わる盗みのテクニックと脈々と継がれた血が暴走した際に対応する為の取説がまとまったもの。
その血の扱いに目をつけた黒幕が秘伝書の半分を帝国から入手したのが本来のスピンオフで、王宮に残り半分が寄与されており、それを盗む為にロジェを利用したのだから。
だがユニは黒幕から秘伝書を頂いた。そして、恐らくはロジェの成長の糧にする為、三羽鴉に渡した筈。これが状況を整えたという意味だ。多分。吾輩ならそれが出来るならそうするから。
その結果、ロジェは三羽鴉と戦って秘伝書を手に入れなくてはならない。今はまだそこまで必死になっていないが、ならざるを得なくなるのだ。忍び込んだ先で出会う彼女の為に。
「凡そは把握した。それで、ロジェにやらせなくてはならないのは王宮に忍び込ませる事。それで違いはないな?」
「うんうん、それなら全然アリじゃん! モナモナに頼めば「任せて〜!」って感じでサクッと面通ししてくれそう!」
「その辺りはモルガナと要相談か………そろそろロジェも戻ってくる。他に何か言い忘れてた事はないか?」
「うーん、あるにはあるんだけどぉ………聞いたら逃げ出さない?」
「どんな怖い事言うつもりなの?」
ユニの何だか可哀想な人を見る目からして、更なる爆弾発言が出てきそうな気がする。吾輩既に逃げ出したい気分。彼女も気が進まないのか暫く悩み、漸く重たい口を開いた。
「『一夫多妻は彼奴も許してくれたから、諦めて責任取れ』って。過去から未来の3世に伝言なんだけど、どゆこと?」
「………………………」
吾輩、全てを忘れて走り出した。空は青く、澄み渡り、まるで海でも目指して走り出したい気分だった。こんな現実なんて全て忘れて吾輩は猫として生きていきたい。もうだめだぁ、おしまいだぁ………!
因みにその後、ロジェに捕まったので結局吾輩は逃げられなかった。やめるんだ。シュレディンガーのアトリエが今の吾輩には繁殖場にしか見えないのだ。
「もうやだ、吾輩おうちにかえる」
「い、今から帰るんだよ?」
「あはは〜やっぱ3世ってマジおもろくな〜い?」
「あ、あなたもついてくるんだね」
「そりゃあ、あいさつくらいはしなきゃでしょ〜てか、前会ってからもう1年とかヤバくな〜い? 人間の成長マジ早すぎてビビるんだけど」
「ま、まるで自分が人間じゃないみたいな言い方するんだね」
「だって人間じゃないからね」
「に、人間じゃない………って事は魔族!?」
「あはは、ちがうちがう〜! てかウチのことはマジどーでもよくない? べつにおもろい話でもないし〜、先いくわ〜!」
ロジェに気を遣ってか、ユニの奴は先に迷いなくシュレディンガーのアトリエへと向かっていった。警戒を隠さないロジェに吾輩は尻尾で鼻先をくすぐる事で、意識をこちらに向けさせる。
「へ、へぷちっ! な、何するのさ、クラウン」
「あんまり踏み込んでやるな。彼奴も主と同じで難儀な生まれなんだ。それこそ人間にも、魔族にも嫌われる半端者。恐らく義賊の主より世界は彼女に当たりが厳しいんだ」
「半端者………?」
「まあ、その話は別の機会にな。それよりも、ロジェ。主はルノワールの秘伝書が王宮にあると聞いたらどうする?」
ロジェが帰り道の足を止め、食べていた温泉饅頭から口を離す。さっきまでモルガナ達に世話になる分まで食べてしまいそうな食いしん坊から、義賊として裏の世界に生きる者の目をしていた。
「それ、本当?」
「ああ。ユニはそうは見えないが、彼奴の表の職業は作家でな。その傍に珍しい書物が王宮に輸入されたのを小耳に挟んだらしい。さっき、主が饅頭を買ってる間に言っていた」
スピンオフ知識を糧にした嘘を吐き、ユニから聞いた情報をロジェに流す。暫くロジェは何かを考えて、再び饅頭に手をつけた。
「それが本当ならまずは正攻法で行こう。モルガナさんは王宮から認められた錬金術師なんだよね。そこから王宮にある秘伝書を譲って貰えないか。それがだめなら、内部の構造を知りたい。付き添いとかで入れないかな」
「護衛という形なら行けるだろう………だが、まず主はモルガナにお願いできるのか? そこからだが」
「うっ………だよね。い、いきなり怒鳴り散らしたりしてこないよね」
「主がよほどの態度をしなければ大丈夫だ。モルガナはいい子だからな」
「い、いい子………?」
「いい子だよ、多分、きっと、メイビー」
「じ、自分でもちょっと無理があるって思ってない?」
「最近、ちょっと思ってる」
ユニが来てたのはまさかの出来事だったが、ロジェの話が進むのはかなり大きい。本来なら奴隷市場を潰して、そこにいた奴らから秘伝書の情報を盗むって事だったからな。奴隷市場も多分、ユニが潰してそうだし。
ロジェにとってもいい経験になる。気弱だろうと、誰かに協力を依頼するのだから自分が説明しなくてはならないしな。これを機にもう少し初対面と話せるようになってほしいとこだ。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。しかし、過去の吾輩の言葉が気にかかるばかりだ。もしかして、人間に戻ったら何かやらかすんじゃないか、とても心配である。
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