吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
※追記 紹介状が3枚→1枚に変更してます。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。紹介状は全て貴族の依頼人の名前が記載されており、彼女がモルガナの錬金術師の後ろ盾をしているらしい。
何でも、モルガナが錬金術師の資格試験の際に知り合ったご令嬢で、試験後もパトロンとして彼女を支えているのだ。吾輩が死んでる間にモルガナがきちんとした交友関係を築けてて吾輩嬉しい。
しかし、王国最年少錬金術師と呼ばれた彼女も体は1つの人間であり、1年に1回行われる公認錬金術師達の成果報告や王宮が主導する大規模なモノづくりの案出しなどやる事は多い。
特に成果報告に関しては公認錬金術師の資格の継続に関わってくる為、手は抜けない。当の本人は『発表してない基礎理論を適当に書いて出せば通過しますから楽なものです』とか言ってたが、それが出来るのは主だけだと思う。
つまり、色々と忙しいモルガナに代わってロジェと吾輩、そして遊び半分でついて来たユニは王国から馬車で揺られて2日余り、そのご令嬢がいるとされている領地へ向かっていた。
「で、結局さ〜? 依頼人ってどんな人なん?」
「モルガナと同時期に錬金術師の試験を受けた貴族のご令嬢らしい。名前はルーフェン・クロイツベルンって言う伯爵家のようだな。彼女自体は試験に落ちたようだが、それ以降は衣類の製作に力を入れて今では王国でも名が知れていると聞いた」
「服か〜! ウチも最近着てる服がぼろぼろだからさ〜買い換えようって思ってたんだよね! その領地なら安くていい品買える感じ?」
「だろうな。紡績で有名な領地のようだ。ロジェも服を買ったらどう………」
馬車の中でユニの膝上に座りながら、対面に座っている筈のロジェを見れば顔色は真っ青である。体調が悪いというわけでも乗り物酔いでもない。なぜならさっき吾輩が確認したからだ。
顔色が悪いのはシンプルに1つ。不安で押しつぶされそうになってるだけ。
「ぼ、ボクが見知らぬ人といきなり会話するの………?? む、むりむりむりむり! 話しかけられた瞬間、爆発する自信があるよ!」
「ウチ、人形爆弾なんて初めて見た」
「前衛的なテロリズムだな。しかしだな、ロジェ? お前に任された依頼で吾輩はお目付け役、ユニは護衛がてらの暇潰しなわけだ。今も馬車周りを護衛してもらってるのに、これ以上もユニに任せる気か?」
馬車の外に顔を覗かせれば、そこには顔をベールで隠したマネキンのような人形達が黙々と歩いている。装備自体は立派で、金属製の鎧や武器が太陽の光を反射して眩しいくらいだ。
「ウチは別におっけー! 今、展開してる『魔導書』だってそんなに大したもんじゃないしね。まだまだ余裕はあるから、任せてもいーよー!」
「だが、万が一『禁書』を解禁するような事があったらどうするんだ。アレは魔力消費も馬鹿にならんだろ。とにかくロジェ、少しは人と話しても緊張しないように練習すべきだ。幸い、モルガナの知人との事だから余程おかしな真似をしない限り、罰が下る事もない。ってモルガナも言ってたしな」
「よ、余程おかしな事って………? お尻から魔法出すとか?」
「それやり出したら吾輩達も主の頭を疑うわ」
そんな話をしている間に、馬車は領地の中を進み、クロイツベルン伯爵邸まで到達した。事前に連絡をしておいたらしく、スムーズに中へ入れていただく。さすが伯爵領、馬車の窓から見えた領都の町並みは、レンガ造りの2階建て、3階建てが多く、大通りには商店もいっぱいだったが、邸宅はさらに立派だった。
モルガナのアトリエもそれなりには大きかったが、内装はシンプルで、決して華美ではなかった。ただし掃除は行き届いており、何故か天井や扉には犬や猫が通るための穴があったしな。
だが、こちらの外観はレンガ造りの建物に加えて微細な飾りや彫刻に至るまで全てに金をかけている事が伝わってくる。中へ案内されても赤いフカフカの絨毯が吾輩達を出迎え、芸術審美眼なんて持たない吾輩でさえも調度品の放つ威光に気圧されるくらいだ。
待合室もまた華美ではあるが下品ではない部屋に案内される。内部もロジェが目を光らせて部屋中を見渡していることから素晴らしい事だけは伝わるが、猫には分からんのである。なので、ユニに抱えられたまま毛繕いする事にした。護衛たるユニはロジェが座るソファの後ろで立っているのだ。こういう所はしっかりしてる。
ガチガチに緊張し、震え出したロジェとユニにもふもふされながら待つ事、数分。扉が開き、1人の女性が姿を現した。目鼻立ちは柔らかくたぬき顔に近いが、令嬢らしい気品の良さを漂わせる服が彼女を穏やかな淑女として成り立たせているようだった。
「私はルーフェン・クロイツベルン。クロイツベルン家の長女です。此度は多忙なシュレディンガーの名代としてやって来てくださった事、大変感謝いたします」
「お初にお目にかかります。私はユニティ。此度の名代、ロジェスティラの護衛として付き添いをさせていただいています。この黒猫は私の飼い猫です」
しかし、やはり貴族とあり威風堂々とした自己紹介にユニは一拍置いて丁寧に返答する。ロジェ、目を見開くな。さっきまでアホっぽいギャルだったのに、凄く理性的!みたいな顔をするな。主もさっさと自己紹介しろ。
「あ、う、わ、ぼ、ボクはろ、ロジェスティラ・ル………」
「ルーフェン様は此度はどのようなご依頼なのですか? ロジェスティラも私も詳しくは話を聞いていませんので。お手数ですが、内容をお聞きしてもよろしいですか?」
緊張のあまり家名まで名乗ろうとしたロジェをユニがナイスセーブで、回避する。割り込まれたロジェは目を白黒してたが、吾輩が呆れた目を向けると直ぐに萎びた顔になった。理解が早くて助かる。
「はい。実は我が領土で使用している魔導具が壊れてしまったのです。糸に魔力を通しながら編む魔導具で、それを使って王家に納める為の特別な服を作るのです」
「そ、それってモ、シ、シュレディンガーじゃないと直せないよ………ません」
「ああ、いえ。修理に関しては問題ありません。我が領地にも資格を持つ錬金術師はいますので。問題は必要な部品が破損してしまい、直ぐ手に入るようなものではない事。それなのに、急遽王家が新たな服を用意しろと言って来てまして………本来こんな頻度で依頼が来る筈もなく、まだ部品が手元にないのです。唯一の解決策は素材を手に入れ、錬金術で作成する事なのですが、我が領土にそこまで腕が立つ人材がいないのです」
「つ、つまり、ボクらにその素材を入手して来いって意味?………ですか?」
「はい。名代さんにお願いしたいのは、『シルクウィーバー』の討伐及び、素材の採取です。繊細な糸で人間を編み餌にする魔物の爪を入手してきてください」
シルクウィーバー。森に住む蜘蛛の魔物である。大きさは五歳児の子供くらいで、1匹見ると30匹はいるという繁殖率の高さを誇る。しかし、個体の強さはそこまでではなく、集団で襲われさえしなければ大した強さはない。
糸は乾かせば、まるでシルクのよう滑らかさを持つとされているので、定期的に駆除依頼があるらしい。という設定は書いたような気もする。
正直、魔物自体は魔族達の国に近づくほどに発生率が高い傾向にあり、帝国近辺では大量に発生するが、王国辺りだとそこまで多いものでもない。特に島国の連邦国では、海に魔物がいるだけで国自体に魔物はいないという設定。
「わ、わかりました。が、頑張ります」
「シュレディンガーの名前を汚さないよう、貴方の頑張りに期待します」
ロジェがルーフェン様の会話を受諾し、彼女は応接室を出て行った。残された彼女は大きく息を吐き、ソファに体を沈める。気を抜くのはいいが、ここはまだ彼女の屋敷なのだからだらけるのは吾輩違うと思う。
「き、緊張したぁ………ボクおかしなとこしかなかったよね?」
「可笑しさしかなかったな。ユニのフォローがなければ問題しかなかったぞ?」
「だ、だよね………爆発しなかっただけマシ、かな?」
「それは人間である為の基本条件だろ」
一仕事終えた感のあるロジェだが、残念ながらまだ始まってすらいない。ユニは先に部屋を出て行って、屋敷の人間に場所を聞いて来てくれるらしい。故に彼女にさっさと体を起こすように近づき、頭に乗り込み、尻尾でペシペシと顔を叩く。
やっとのこさで体を起こして、応接室から出ればユニがピラピラとした紙を手にしていた。既に場所を聞いていたらしく、外に向かいながら情報を共有する。
「シルクウィーバー? なんか近くの森に潜んでるんだってさ〜徒歩だとフツーは3時間とかかかるっぽいんだけど、ウチらなら30分もあれば着くっしょ? 余裕〜ってカンジ」
「えぇ………馬車を使えばいいじゃん………」
「ダメダメ〜!馬車なんて使ったらヤバいって! なんかさ、馬食べようとしてデカめの蜘蛛がワラワラ寄ってくるらしいの〜しかも最近その森、行方不明めっちゃ出てるって噂でマジ無理なんだけど〜」
「恐らく、シルクウィーバーに食われてるかもしれないな。今すぐ向かえばまだ助かる命があるかもしれん。ロジェ、さっさと行くぞ」
「う、わ、わかったよ………じゃあ、しっかり掴まっててね」
「なんならウチが抱えてよっか〜? それとも、ウチの胸元に入っとく?」
「馬鹿め、吾輩がそんな雑な誘惑に乗ると思うなよ!」
「じゃあ、ボクの顔面で荒ぶってる尻尾止めてよ」
正門前で、軽く膝を曲げたり、体を伸ばしたりする2人は準備を整えたようでユニが吾輩を脇に抱えると、じんわりと彼女の体に熱が広がっていくような感覚を覚えた。ユニは別にそんな体質じゃない事から、恐らくは、
「なあ、ユニ。この妙な熱はもしかして魔力か? なんか主の体がぽかぽかしてるんだが」
「ん? ああ、そうかもね〜でも3世って魔力操作出来てたじゃん。ウチにだって手取り足取り教えててくれたわけだし」
「………そうかな?」
つまり、吾輩はユニと出会う頃には魔力操作が出来ているらしい。という事は吾輩でも練習すればできるという事か。まずは目を瞑り、ユニの体から感じる熱を知覚してみよう。
吾輩が目を瞑り、しがみついたのを準備完了だと認識したのか。一気に体が持っていかれそうなほどの風が吾輩を叩いた。とてもじゃないが目を開けてはいられない。瞑っていて良かったと唸りながら、魔力魔力と思考を絞る。
何せ、この魔力強化が出来れば吾輩でも前線に立てるかもしれない。そうじゃなくてもアルチナの助けに砦まで行く時みたいに、自分の無力さに打ちひしがれなくても良くなるかもしれない。
才能がないかもしれないが、使えるのと使えないのでは話が違って来そうだ。どのみち、着くまでは吾輩にできる事はないのでこの熱を感じつつ、吾輩も自分の魔力を感知する事に集中する。
「そうそう、3世〜!シルクウィーバーなんだけどさぁ、ついでに三羽鴉の1人ぶつけとくから、そのつもりで準備しといてネ? マジで油断してると持ってかれるやつだから〜ちゃんと覚悟しときな〜」
「魔力魔力魔力………おいまて、今なんつった!?」
「ロジロジの成長の為に、三羽鴉の1人………『性欲』の担当をぶつけるって言ってんの。だって所詮蜘蛛の魔物なんて、ロジロジ位ならあっという間に片付けちゃうじゃん」
「おま、ロジェには聞こえてないだろうな………」
「ロジロジもうだいぶ前走ってるし〜うちと話したくないからってそんな露骨に距離取るとか、逆に分かりやすすぎて草なんだけど〜」
「それはそれでロジェの人見知りが心配だがな………勝てるのか? 三羽鴉は全員が亜人だぞ? 特に性欲担当の『リリス』は確か蜘蛛の亜人。アラクネとかの筈だ」
「勝てなきゃそこで終わりでしょ。見応えのない物語は打ち切られるのが世の常だよ。果たして、3世が気にするだけの力がロジロジにあるかは見所だね」
集中を妨げる発言に吾輩、声を荒らげるがユニからは淡々とした返答しか返ってこない。何処までも冷めてしまってる彼女を唯一無中にさせるには目を惹くような物語を生み出すしかない。
なら、ロジェはきっと彼女にぴったりだろう。
「なら、主は忘れられなくなるだろうよ。色彩の魔女"ロジェスティラ・ルノワール"の自由と支配に満ちた物語を」
「──へえ、それじゃあ楽しみにしてるよ」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。しかし、果たして本当にロジェが勝てるだろうか。イレギュラーが起きすぎてこれからの未来が不安でしかない。
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