吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
では皆様、良いお年を。
「よくぞ参った。余がアルキミア王国の国王である。貴殿の活躍、心より感謝する」
「アッ、ハイ」
うっ………どうして、ボクだけでこんな所に。モルガナさんやアル姉もついてきてくれるかと思ったら来ないし、クラウンは回収されるし。ボクの事、雑に扱いすぎじゃないかな??
なんて言っても始まらない。敷き詰められた赤い絨毯に、並べ立てられるいくつもの燭台。赤い炎の揺らめきが室内の荘厳さに拍車をかけ、ボクの背筋が自然と正される。壁際に整然と並んでいるのは、黒を基本とした服に身を纏う護衛だ。恐らく彼らが王国の軍人達だと理解して、息を吐く。
目の前にいる威厳ある男性、この国で1番偉い男に失礼があってはならない。ルノワールの一族として権力者は見定めなくてはならない。悪徳であるなら、義を示し、善良ならば見逃すまでだ。
毛足の長い絨毯の上を音も立てず、動きづらいドレスも今は忘れて、浴びせられる視線の嵐にビクビクしながらも、玉座の前に立つ。
わずかに高い壇上で玉座に座る国王を前にボクはその場に跪いた。
片膝をつき、頭を垂れる。アル姉に教えられた儀礼の作法を、着実になぞれば、頭上から降り注ぐ視線の熱を感じる。
「面をあげよ」
静かな声にボクは顔を上げる。その間に側に控えていた顔に傷がある女性の軍人が褒章らしきものを手にこちらに歩んで来ていたので、ボクも立ち上がる。
「その褒章は王国に貢献した者に送られる証だ。貴殿は我が国に蔓延る三羽鴉の1人を捕縛した。貴殿が他国の生まれだろうとそれは賞賛すべき事実である。そうだろう? ロジェスティラ・ルノワール」
多分、今絶対に顔に出た。ボクの本名を呼ばれて、反応してしまった。それを見た国王も………やはりか、と言わんばかりの表情。
やられた! 確証はなかったのに、今のカマかけでボクの表情が変わった事を見抜かれた。
ボクの本名を聞いて、視線に疑惑と少しばかりの敵意が宿り始める。ルノワール一族の名前が知られてるのは嬉しいが、正直今すぐにでも逃げ出したい。お腹痛くなってきちゃう………朝ご飯そんなに食べてないのに戻しちゃいそうなんだけど。
「そう怯えるでない………まるで余が虐めているようではないか」
「陛下。お言葉ですが、貴方様からそう言われては死刑宣告のようにも思えます。見る限り、あのコソ泥の一族にしては余りにも覇気がない。私にはとても大それた事は出来ないように思えます」
女軍人さんが庇ってるように見えながらも、的確にボクを刺してくるような言葉に何だか泣きたくなってきた。そうだよね。ボクみたいな奴がルノワール一族の名前を汚してるよね、わかるよ。うん。
「なるほど。しかし、釘を刺しているのも事実だ。理由がどうであれ、我が国の双璧たる貴様でも捕まえられなかった存在を此奴は捕まえた。その功績だけは認めなくてはならない。でなければ、我が軍はコソ泥よりも劣っている、そう思われてもおかしくないのだが?」
「ッ!! 申し訳ございません! 残りは必ずや我が軍が捕まえて見せます!」
「期待しないで待っておこう。さて、話を戻すがルノワールの末裔よ。貴様は我が国に何をしに来た」
上から見下ろされる視線と一緒に体にまとわりつく敵意や戦意の圧が増す。舐めた答えは命取りな気がする。下手したらモルガナさん達にも迷惑がかかりそうだから、多分これが正解じゃないかな。
「こ、この国にい………な、流れ着いた秘伝書を探してますぅ………」
情けない。どうして頭の中ではきっちりばっちり決まるのに、実際にはこんなに震えて辿々しい言葉になってしまうんだろうかって、決まってる。だって怖いんだもん。
暴力で話を聞かせようとする奴らはこっちも殴り返せばいいけど、正論で有無を言わさない人達には何を言っても無駄な気がするし。
敵なら話なんて聞かなくてもいいけど、気遣いから厳しい人に対して反論するのはなんか違う気もするしさ。
それにあの牧場で無闇矢鱈に反論したりした人達から、家畜に変えられてるのを見たらちょっとボクも考えちゃうわけで。自分が間違っていて、相手が必ず正しいんじゃないかって思いも過るし。
「秘伝書………? そのようなものがこの国にあるのか?」
「恐らくはこの間、あの作家が持ち込んだ書籍ではないでしょうか。ミスト王女がご存知かと」
「へ………? あ、あるんでしゅか!?」
舌が回ってないが、そんな事はどうだっていい! 秘伝書があるならばそれを譲って貰えれば──!
「ふむ、しかし貴殿に渡す事は出来ぬ」
「──えっ?」
「当然だろう。主はルノワール一族の末裔。そのような存在に、渡すわけにはいかぬ。秘伝書と呼ばれるからには何かしらの技術の伝承なのだろう? それを我が国に使われてはたまったものではないからな」
「ごもっともです。陛下。では、いかが致しますか?」
目の前に立つ女軍人から魔力が立ち昇る。自然体なのに、臨戦体制のような矛盾。それを理解した先には、壁沿いにいた軍人達からも魔力が立ち昇っている。まさか、狙いは最初から呼び出したボクを捕まえて──!
「よさぬか、馬鹿ども!! 貴様らの頭には筋肉しかないのか!」
びっくりした。思わず、猫みたいに飛び上がってしまうくらいに。いきなり大声上げるのはほんとに勘弁して。自分が何かやらかしたかで心配になっちゃうから。
「よく聞け、貴様ら。此奴はあのコソ泥の一族ではあるが、まだ何もしていない。それどころか、我が国に恩恵をもたらした。感謝すれどそれを仇で返す馬鹿は帝国だけで充分だ。それとも、何だ? 我が国はいつから帝国の思想に染まった? 言ってみろ、我が国の理念を」
「『強きものは弱きものを助け、弱きものは強きものを支えるべし』です」
「そうだ。我が国を設立した始まりの錬金術師にして英雄クロス氏が残したこの言葉を忘れれば、我が国も帝国のように腐り果てるだろう。強き軍人達よ、主らは弱きもの………国民達の税やモノづくりによって支えられている事を忘れるな! よいな!!」
玉座から立ち上がり、威厳ある声に軍人達の魔力が萎んでいくのを感じる。視線を向ければ居心地悪そうに武装を解除する軍人達。そのリーダー格でありそうな女軍人も苦虫を噛み潰したような顔しながらも一応は引いた。目線だけでボクを殺さんとばかりに睨みつけてるけど。
「無様な真似を見せた。非礼を詫びよう。謝礼を多めにしておく。だが、主に秘伝書を渡すわけにはいかん。それだけは分かってくれ」
「あっ、はい………見せてもらうだけでもダメですか?」
「ダメだ。加えて、仮にだが王宮に盗みに入った事がバレた時点で貴殿の後見人に値するであろうシュレディンガーから錬金術師の資格を剥奪する。賢明な判断を願っているよ」
しっかり最後に釘をさして話は終わりだと、ばかりに玉座から姿を消す王様。軍人達も続々と姿を消す中で、どうすればいいかと右往左往していれば、トントンと肩を叩かれて振り向く。そこには、ここに案内してくれたメイドさん………名前は確か、
「う、ウルシュラさん?」
「左様でございます。お帰りですね? 報奨金と共にご案内致しますので、どうぞこちらに」
「あっ、はい」
とりあえず何も考えずに後ろをついていくことにする。でも弱ったなぁ………ボクの存在がバレてたのも痛いし、秘伝書はもらえなかったし、取れる手段がかなり少なくなっちゃった。
こうなると、モルガナさんに頼むしかないかも。それか三羽鴉を全員捕まえれば許して貰えたりするんだろうか。ボクがルノワール一族の誇れる自分になる為にも絶対に秘伝書は必要だから、諦める事は出来ない。
「だから、聞きたいんだけどさ………ボク達、どこに向かってるの?」
「どこ、とは?」
「帰り道、こっちじゃないよね? モルガナさん達の部屋も通り過ぎたし、報奨金もモルガナさん達の部屋に持ってきてくれればいいもんね」
左足を前に出して、右足を後ろに。軽く踵を離して、戦闘態勢………と見せかけて逃走態勢に入る。ボクが攻撃するまでが織り込み済みの計画かもしれないから、まずはアル姉達と合流するのが先決だ。
ウルシュラさんは、ボクを見て少し眉を上げた後に、黙って背中を向けた。ボクを連れて行く事を諦めたのだろうか? なら、今のうちに逃げ………
「秘伝書、欲しいのであればついてきなさい」
逃げようとした足が止まる。罠かもしれない、なぜ彼女がそんな提案をするのかもわからない。だけど、ここで退いたらもう2度と秘伝書に近づけない気もした。
僅かばかりの葛藤と、決まり切った決意が勝つのに時間は掛からなかった。罠でもいい、罠でもいいんだ。目的のものが目の前にあって逃げ出すなんてルノワール一族らしくないから。
ボクは黙って彼女の背中を追う。階段を上がり、王家の人達が住んでそうな居住地に移動。見るからに高そうな調度品に目を奪われながらも、メイドさんの後を追いかけていく。
一定の速度で歩き続けたウルシュラさんが、たどり着いたのはとある一室。日の入りは悪く、どこか空気も重たい。この城に蔓延る陰鬱さがこの部屋から溢れているような気さえする。
「ルノワール様。こちらにおられる方は紛れもなく王族であり、とある事情を抱えたお方です。失礼のないようにお願いいたします」
ウルシュラさんがゆっくりと扉を開き、ボクもすぐさま部屋の中に身を滑らせる。部屋の中は真っ暗だった。まだ外は昼間だというのに、窓に何かを嵌め込んで光を阻害してるらしい。おまけにすえた匂いがする………病人の部屋だろうか?
メイドさんがランタンに光を灯せば、朧げながら実情が見えてきた。部屋の作り自体はモルガナさんのアトリエとほぼ同じ。どころか、多分モルガナさんのアトリエの方が完成度は上かも。
「連れてきてくれたんだね? ウルシュラ」
「はい。お望み通りに」
「ふふ。ありがとう。では、お話をしませんか? 若き義賊、ロジェスティラ・ルノワールさん?」
ただ、唯一違うのはベッドがあるべき箇所に置かれた金属製の何か。バスタブのような、何かに浸かりながらこちらを見つめる1つの目がある。ウルシュラさんがランタンを近くまで持っていった時、その正体に漸く気づいた。
右腕と膝からの下の肉体がなく、肌は焼かれてしまったのか、包帯を全身に巻きつけて、左目は腐り落ちてしまったのか、空洞が広がっている。
それでも声音と喋り方からして、かろうじて女性とわかる………分かるけど、生きていられるのが不思議なくらいの重症だった。
「キミは一体………?」
「私はミスト。ミスト・アルキミア。この国の王女です。貴女をずっと探していました」
王女………さっき王様が話をしていた秘伝書を持っているかもしれない人。そんな人がどうしてボクを? 訳がわからない。
頭の中を疑問が埋め尽くす中、何かしらの薬液に浸かっていた体を起こして、彼女はボクに向けて頭を下げる。
「どうか、どうか──私を助けてください。貴女の力が必要なんです」
何故、ボクなのか。ルノワール一族にすらなりきれないボクに助けを求めて頭を下げるのか。何もかもを与えられてきた筈の王女様が、何も持っていないボクに乞い願うのは何故なのか。
わからない。分からない事ばかりだ。モルガナさん達に迷惑かけるかもしれないと考えて、ボクは逃げ出そうと──
『必要とされる『誰か』を待つんじゃなくて、ボクを必要としてくれる『誰か』に会いに行く為に』
ふと、脱獄した日の会話を思い出して逃げ足が止まる。何の為に、あの監獄から逃げたのかを思い出す。
アル姉が語る運命を変えた出会いに憧れた。あの日、ボクもそんなキラキラした出会いがあると信じて、逃げ出した。それがもしボクの目の前にあるならば、
「分かった。こんなボクでよければ」
きっと、この出会いがボクの宝物になるかもしれない。なら、逃げ出すなんて勿体無い。
胸を張って語ろう。ボクが手にするかもしれない宝物を。ボクが持つ王冠の出会いと共に。
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