吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。吾輩の言葉にロジェは身じろぎすらしない。吾輩は彼女の頭から飛び降りて、目の前に座る。
彼女の顔に信じられないという感情がありありと浮かんでいるが、吾輩の方から否定はできない。ルノワール一族、その秘密が血に流れる吸血鬼の血なのだから。
「で、でもクラウン!? ボクは吸血鬼って言うけど………太陽の下も歩けるし、十字架とか大蒜も別に苦手じゃないんだよ!? そんなボクが吸血鬼だなんて………」
「違う。主は吸血鬼の血を継ぐ亜人………ダンピールと呼ばれる半吸血鬼なんだよ。彼らは吸血鬼の弱点を人間の血が潰すことで、有利な点だけを享受出来ているんだが、主も同じ体質なのさ」
「そ、そもそも亜人ってなんなのさ!? リリスって奴も言ってたけど、皆んなして、わかった風に理解して話を進めないでよ!!」
「そうだな………隠していたわけじゃないが、簡単に説明しよう。落ち着いて聞いてくれ」
興奮しているロジェが声を上げるのを嗜めながら、吾輩が知る限りの亜人の情報を伝える。ちらりと、ミスト殿の方を見れば制止や訂正の言葉もなかったので認識は概ね整合取れているようだ。
「という訳だ。亜人達はその強さを持って、傭兵や国家に属することもあるがそれも一代限りな事が多い」
「何で? それだけ強いならさ、魔族とかがその………母胎として狙ったりするんじゃないの?」
「
「そもそも、亜人が産まれるのもかなり稀なの。基本的に人間が魔族の子を孕んだ場合、魔族の肉体の強さが反映されるのか、魔族の子が生まれて来ます。亜人の例は先天的なものばかりで、人間から亜人や魔族に変わるにはよほどの事がないと叶いません。わたしでも、体が魔族の力に耐えられずにこうなっているんだから」
「だが、関係ない魔族もいる。吸血鬼もその種族の1つだ。純粋な吸血鬼のみだが、奴らは眷属という体で人間を吸血鬼に変貌させることが出来る。力はだいぶ劣るが、元の肉体や魔力が強い程、吸血鬼に変わった後も強くなるらしい。ミスト殿もその類で狙われたのだろう。繁栄用として、な」
言ってて胸糞悪くもなる。ぶっきらぼうに言い切れば、ウルシュラの目が鋭くなり、ミスト殿を庇う様に立つ。吾輩が書いた設定が、目の前の少女を苦しめている。だから、何とかせねばなるまい。幸い、解決策は分かっている。
「じゃあ………ボクは?」
「そう。主は別だ。恐らく、吸血鬼が初代or初代ルノワールが女性だったかのどちらかの筈だ。愛によって生まれたか、欲によって生まれたかまでは知らんがな」
嘘である。バリバリ愛されて生まれてる筈である。吾輩の設定なら、初代ルノワールは女性であり、帝国の男性優遇を変える為に反抗を始めた女傑だ。ひょんな事から吸血鬼と恋をして、二代目の亜人を産んでいる訳だが。
「………ボクが亜人だとして、何か不都合な事ってある?」
「主の場合は外見は人間にしか見えんし、問題はないだろう。ミスト殿のように太陽に焼かれてしまうわけでも………吸血衝動がある訳でもあるまい」
「………本当に全部わかってるように言うんだね。黒猫さん?」
「この黒猫は昔から秘密主義なんですよ。まるで探偵みたいに事実が分かってる癖に勿体ぶる悪癖があるのです」
「主は本当に何者なの??」
「怒りを体現する者ですよ、クソボケ猫」
「………クラウン? ボクらが知らない間にウルシュラさんの胸とかを堪能したとかなら謝ろ? 猫だからってそういうのは良くないと思う」
「待ってくれ、これは冤罪だ。これはきっと孔明の罠なんだ!!」
ロジェでさえ、吾輩を見る目が冷たい。違う、吾輩はやってない! 吾輩がおっぱい好きなのは事実だが、それでも吾輩はやってない!
「とにかく、わたしにはルノワール一族が継いできたとされる血の克服が必要なのです。ロジェスティラ様が吸血衝動を抑え込んでる秘伝の技術を」
「そ、そんな事言われても………ボクにも心当たりがある訳でもないし」
「………ユニの奴はどうだ? 何かそちらから聞いているだろう?」
「ユニ様からは秘伝書の後半を持っている人物を突き止めた、までは。それが三羽鴉であり、てっきりロジェ様が秘伝書を回収しているのだと考えてミスト王女殿下は貴女をお呼びになったのです」
「なら無駄だな。吾輩達はそれを手に入れていない。で、どうする?」
しどろもどろするロジェに助け舟を出せば、ウルシュラがそういえばとその言葉を口にする。ユニはどうも根回しはしてくれていたらしい。残念な事に秘伝書の後半はまだ渡されていなかったりするが。
とはいえ、流れは悪くない。吾輩の漫画通りなら王女の方から交渉を持ちかけてくる筈だ。秘伝書前半を渡す代わりに後半を探すと言う話を。
「な、なら──ボクが探すよ!」
その言葉に目を見開いたのは2人。吾輩とメイドだけだった。
「よろしいのですか? いえ、そもそも何故? 貴女にはわたしを助ける義理はない筈です。そもそもわたしが嘘をついている可能性だって」
「そ、その体で嘘つく訳ないだろ! だ、第一、ボクだって知りたいんだ………じ、自分が何者かだって」
「ロジェ……」
「ボクは大した目的もなく、出来そうだったからあの国から逃げ出して来た。だからなのかな………キミの目的を聞いて、手伝いたいと思った。モルガナさんやアル姉じゃなくて、キミの力になりたいって」
吾輩、びっくりである。この段階のロジェが自分の意思で交渉するなんて。本来なら、王女との出会いの後にモルガナの屋敷に忍び込む順番が逆転しただけでここまで成長するのか。
「そ、それにボクらの目的は秘伝書を読みたい!で一致してるから、協力できると思うんだ、た、多分! だから、その………ね? ひ、秘伝書の前半を読ませて貰えないかって………」
「………ふふっ」
花開く様な笑い声だった。ミスト殿が笑ったのだと分かった頃には、そばにいたメイドに耳打ちし、一冊の古びた冊子をロジェに手渡す。それを見て、ロジェは震え出した。人見知りではなく、驚きとして。求めた秘伝書が手に入ったのだから。
「本当に、ロジェスティラ様は面白い方ですね。持ち出しは禁じます………が、ここに来て読む分には構いません。城にはそれとなく、根回しをしておきます。ウルシュラ、頼めますか?」
「御意」
「あ、ありがとう! ほんとうにっ! ありがとうっ!!」
「お礼は結構です。これは正当な取引。報酬を与えた以上、貴女にはわたしの手足となって働いていただきます。どうか、わたしの期待を裏切らないでくださいね?」
「あっ、はい」
興奮するロジェにやっぱりとばかりに釘を刺していくミスト殿。ちゃっかりしてるし、しっかりしている。一心不乱に目を通し始めたロジェは暫く置いておくとして、吾輩はそろそろ戻るとしよう。
何せ、モルガナを放っておいたら本気で城を無に帰しそう。何なら『夢想伝播』でやらかしそうで吾輩怖い。絶対、今の彼女なら理論構築まで行ってそうだもの。
「話はまとまった様だから、吾輩は先に帰る。ロジェ、満足したら帰ってこい。モルガナにはうまく説明しといてやるから」
「はーい」
「完全に上の空だな………では、ミスト殿。この辺で」
「はい、それでは黒猫さん。ウルシュラ、見送りを」
「いりませんよ、この猫に。それにロジェスティラ様が私がいない間にやらかすことがあるかもしれません。アゼル様の検診も今日はないのですから」
「主とは一度話しておきたいなぁ………吾輩の事が嫌いなのか?」
「ええ、本当に──だいっきらい」
何となく本心なのは分かるが、いまいち恨みというか怒りが伝わってこないと言うか。子供が悪戯してくる親に向ける言葉に近いと言うか………ううむ、言語化できない。吾輩も衰えたかな。
しかし、嫌われてる以上は吾輩も無理している必要もあるまい。さっさと扉の隙間から顔を出して帰路を急ぐ。
10分もせずに戻ってきた吾輩は扉の前でにゃーにゃー鳴く。すると、扉が開いてモルガナが吾輩を抱き抱えて扉を閉めた。うん? アルチナは?
「ちょうどいい時に帰って来ましたね。クロ。ロジェは大丈夫ですか?」
「ああ。ミスト殿と仲良くなってな。今は2人で本でも読んでるよ」
「なるほど、そうですか。では、行きましょうか。少し厄介な事になりまして」
「厄介? なら、アルチナを連れて………というかアルチナはどうした? 花でも摘みに行ったか?」
「それが、問題でして」
頭が痛いと眉間に皺を寄せる彼女に、吾輩はアルチナに関係しそうなエピソードを記憶の中から呼び出していく。
ショタから剣を教えてください!というほんわか話ではなさそうだし、温泉回のラブコメエピでもない、王宮で頭が痛いとするなら………まさか。
「………練兵場にでも連れて行かれたか?」
「………はい」
なるほど、吾輩も頭が痛くなってきた。こんなアホな事をやらかしたのは彼女しかおるまい。王国が誇る双璧の軍人──ティーガー・ミッドウェイ。王国への類稀な忠誠心と愛国心を持つ誇り高き軍人である。
*
ティーガー・ミッドウェイは王国魂に溢れた誇り高き軍人である。代々、軍人を送り出し、国に仕えて来た愛国心溢れる一族に生まれた彼女は自分も軍人になるのだと疑ってはいなかった。
王国は実力主義だ。女性だろうと、差別はない。弱き者は守られる側に回るが結果を出しさえすれば、女性だろうと強き者として居られる。
清く、正しく、美しく。そうあれと言われて軍学校を主席で卒業した彼女は瞬く間に結果を出し続けて遂には若くして王国の双璧とまで呼ばれる様になった。片割れがちゃらんぽらんな以上、自分がお手本になるべきだと疑わずに。
実力があるから彼女の指示には年齢関係なく従った。国がそうであれと推奨した事が、叩き上げの軍人の組織と技術の腕で勝負する価値観に合致したのだろう。
大きな挫折もなく、彼女は王国の守護を司り、外の世界に目を向ける事なく牙を研いできた。
だからこそ、彼女は外部からの存在が許せなかった。
ルノワール一族の悪名は風の噂で聞いたことがある。幾ら帝国が、男女差別が激しいとはいえ、そうやって悪逆を成せば処罰や反感を抱かれるのは当たり前。ましてや富裕層の富を貧困層に還元してもそれは短期的な解決で長期的な解決にはならない。
長い目を見るならば、帝国の中枢に入り込み、内部から変えなくてはならない。自分ならそうすると、私は強く語り、同期の軍人達は苦笑いを浮かべていた。
だからこそ、ルノワール一族などこの国に入れてはならないと思った。そして、もう1人も。アリシアと嘯く女もだ。
諜報部の話では、男を誘惑し、騎士団長の座を奪い取った女がいたらしい。その容貌とアリシアと名乗る女の外見が同じだと分かった先にはこの計画を立てていた。
もし、そいつが帝国から遣わされた内偵だとすれば狙われるのはあのふざけた片割れだろうと予測をつける。酒と女に弱い軟弱者だが、努力を続けた彼女より先に王国最強の座を手にしていたのだから。
そんな奴が寝返れば、それこそ獅子身中の虫。内部から暗殺などされてみれば軍部の信頼など地に堕ちる。だから、私は国王に許可を得た。
アリシアという女が噂通りならば、全員の前で恥をかかせれば活動はしにくくなるだろう。噂とは違ったとしても、私より強い女がそういるわけもない。抑え込めると分かれば、アリシアという女も王国で監視をされる必要もあるまい。
国王は渋っていたが、ミスト王女殿下が助け舟を出してくれたからか。場所も観客も確保できた。多少、ミスト王女殿下の護衛や見回りが少なくなってしまったが、あの人形がいるならそこまで問題にもなるまい。
だから、アリシアという女性を誘い出した。
練兵場に連れ出して、強引に手合わせを開始した。
徒手空拳で戦って、何度も打ち倒した。魔力強化だけで圧倒した。
──そこでやめておけば、良かった。
『欲を貪る雌犬め。貴殿はどうやら知性のあるだけの獣らしい』
──調子に乗って、煽らなければ良かった。
『貴殿の剣は、こんなもんか?』
──剣を、握らせなければ良かった。
何度も後悔した。それでも、この処刑は終わらない。練兵場の高い空に、遅れて上がる痛みの絶叫が尾を引いていく。
何度も地面に倒れ伏した。私が作り出した木剣でなければ、達磨になっていてもおかしくはない──それだけの実力の差がそこにはあった。
「さて、と。あら、どうしたのかしらぁ? 観客の皆さん? 売られた喧嘩を買ってあげたのに笑顔が見えないわねぇ?」
王国しか知らない私を、世界という刃が正そうとする。私という人間はそこまで大したものじゃないと証明する様に。騎士が、魔女が全く笑ってない顔で近づいてくる。
「──笑いなさいよ。私を知性なき獣と呼んで嘲笑いなさい」
笑えるはずがなかった。私は選択を間違えた。
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推薦ってどうやったら書いてくれるんですかね………