吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。現在、モルガナのアトリエに帰還して応接室である。目の前には『私は騎士にあるまじき振る舞いをしました』と反省札を首からかけて正座するアルチナがいる。
「まず、私が何に怒っているか分かりますか? うん? アルチナ?」
「お、お姉さんが護衛の役割を忘れて決闘に応じた事かしらぁ?」
「それもそうですが、暴れすぎです。貴女があそこまで痛めつけさえしなければその後の交渉は楽に進んだというのに………全く、重石追加です。ロジェスティラ」
「はい、どーん」
「あ、だめ、待って投げないで………あぐ、あっ!!」
なお、モルガナが彼女の膝にどんどこ重しを乗せていく簡単な拷問中である。正座する床は三角形が連なる特別製。重石が乗るたびに膝辺りに減り込んでいくから地味に痛い。
モルガナの指示に従ってロジェに投げられた重石が鈍い音を立てて、太腿に積み重なり、ちょっと脂汗が滲んできたアルチナ。しかし、まだまだお説教は終わらない。
「今回の件、どうもティーガーが主導でやったようです。王家も巻き込んでるとはいえ、貴女達は重要人物だと理解しなさい。ロジェスティラも、お菓子ばかり食べない。後で私も食べますから」
「はーい」
「あ、お姉さんの分もお願いねえ?」
「余裕そうだな、重石追加」
「はーい、クラウン」
「ちょっ、待っ………ひゃわが!」
重石が積み重なり、いよいよ膝が終わりかけそうなアルチナを見捨てて吾輩もお菓子として渡されたクッキーを食べる。なるほど、吾輩が好きなタイプのサクホロだ。牛乳と合わせて食いたい気分。
「まあいいでしょう。手間が省けました。ロジェスティラもアルチナもアゼル卿の『トゥルーオアライ』で内偵疑惑は晴れましたし、軍としても危険分子になりかねない貴女達の実力を見たくて一芝居打ったそうですよ」
「その後半の発言、嘘発見器だったら音鳴るぞ」
「そういう事になったんです。王家が言うのだから間違いありません」
「き、汚い………大人って汚い!」
「そもそも帝国の元騎士団長とルノワール一族の末裔が不法滞在とか、軍にその日のうちにしょっぴかれても仕方ないからな?」
「私が貴女達を従業員として雇う事を国に申請中だったので、不法滞在になるかは微妙なところでした。なので、国としても見なかったことにしたいようですね」
この件も漫画で描きはしたが、概ねは筋書き通りである。軍の諜報部は非常に優秀で、何せ帝国から口減しとしてハニトラ要員の女性達がそのまま寝返るのは当たり前で、情報提供もした上で王国で働いてたりするのだから。王国にはアゼル卿が作成した嘘発見器もあるし、内偵疑惑はばっちり調査済みである。
そう、この発見器がある以上はアルチナとロジェに対して冤罪をかける事は出来ない。ロジェはあの玉座で幾つか質問事項にあったようだが、その時にされていたから狙いから外されたのだろう。
そして、ティーガーの独断による内偵疑惑も軍が主導でやった事になった。そういう事にしておく方がティーガーとアルチナの互いのためだというらしい。後日、ドラゴ殿がまた謝罪をしに来るようだ。
「で、す、が。ティーガーの傷の具合を知ってますか?」
「お姉さん、わかんにゃい」
「クロ、ぐーで殴っても文句言われませんよね?」
「チョキで目潰しもついでにしてやれ」
「や、やだねえ。じ、冗談よ?? 多分………内臓各部の破裂に頭蓋の切開、後は色々骨折、かしらぁ?」
「それ重傷って言うんじゃない? アル姉」
「アルチナ………やりすぎだ」
「はい、ロジェちゃんとおはぎ先生のおっしゃる通りです………」
しわしわアルチナになってしまったが、よくもまあここまでやれて殺さなかったものだ。卓越した技量があれば殺さずに甚振るのも可能だと。吾輩、ちょっとぶるって来ちゃう。
「それでえ? 汚い王家の皆様はお姉さんに恩を着せて何させたいわけ? ティーガーちゃんの暴走に王国が関わってる事をなかった事にしたいから、軍に責任なすりつけたけどぉ………代わりに軍から何か依頼が来たんでしょう?」
「察しが良くて助かります、アルチナ」
「………どゆこと、クラウン?」
「つまり、今回の件は王家及び軍が全面的に悪いことにして収めてやるから代わりにやって欲しい事があるって事だよ」
「………大人って言葉の裏の裏まで読まないといけないんだね」
「それが大人になるって事だ」
「ならボクはずっと子供のままでいいや」
社会の汚さにロジェが泣き言を言うが人間誰しも大人になるしかないのだ。時を止められる奴はいない。ただ、大人になる振りが上手くなっただけとも言うが。
「しみじみ語ってる所申し訳ありませんが、2人も聞いておいてください。軍からの依頼です。簡単に言えば、『レリジェーン活火山麓の温泉街にて湯治をしている傷病者達の復帰の補助』以上になります」
「傷病者達の復帰の補助? 何それ」
「レリジェーン活火山麓の温泉街は、傷に良く効く名湯とされています。そこに集まり湯治をしている傷病軍人………特に欠損などをしている重病者達の復帰を行う依頼が来ています。拒否権はありません」
「欠損って………そ、そんなの治せる訳、あっ!」
ロジェの目線に従い、吾輩達の目がまさに罰を受けている女騎士に突き刺さる。あらゆる無機物を有機物とつけられる上に、治癒として扱える彼女の魔法ならば………まさにぴったりの依頼と言えるだろう。
「……先生、姫様に私の魔法話したわね?」
「まあな。とはいえ、主の魔法は斬られるまで分からないのがミソだからな」
「クロの言う通り、話した所で不利になるような事はないでしょう? 貴女の場合、地力が高いのですから情報がバレても幾らでも対処は可能な筈です。それに、貴女の魔法は国の役に立てると証明できるいい機会ですが」
「吾輩も賛成だな。特にアルチナ、主の矜持に従うならば助けられるのならば助けておくべきだと吾輩思っているが主はどうなんだ?」
「それ言うの反則じゃない?」
「馬鹿言え。やる以外の答えを持ってなかった癖に」
肩をすくめる彼女の無言の肯定にモルガナは手紙にサラサラとサインをすると、使い魔のハクに届けるように告げる。どうやら、依頼を受ける方向で決定らしい。
その後、帰ってきたハクがついでにお茶の時間だからと豪華なお茶会の準備をしてくれた。映画でよく見るアフタヌーンティーセットである。あの小さいケーキが3段になってるスタンドの奴。
「と言うわけで温泉旅行です」
「話が変わったな。続けてくれ」
香り豊かな紅茶を飲みながら語るモルガナの気品溢れた姿の視線の先に、拷問器具に乗せられっぱなしのアルチナとそれをおかずに紅茶をぐびぐびと飲んでいくロジェ。主はもう少し礼儀作法身につけような?
「はい、アルチナがお仕事をしてる間に私とクロは温泉でまったりするんです。私の仕事や監査も漸く終わりましたからね………」
「そう言えば、姫様。ロジェちゃんがいない間に何かしらの資料を偉い人たちに渡しに行ったわねえ。つまりそれが?」
「ええ。なので、私もこれで思う存分にクロといちゃつけるわけです。悪いですが、ロジェスティラ。クロは頂いていきます。代わりにお小遣いをあげましょう。1人で好きなように回ってきなさい」
「やった! お、温泉ってボク初めてなんだ! あと、温泉街特有の食べ物とかもあるんだよね! ウルシュラさんに聞いたよ!」
「吾輩がいないとめちゃくちゃ優しいな」
どうして吾輩嫌われてるか本当に疑問である。そもそもウルシュラなんて存在はいなかった筈だしなぁ。モルガナが作った人形はウルスラ1体だけの筈だ。またしても吾輩の知識とは違う。
吾輩用に置かれたアイスティーを舐めながら、ぼんやりとこれからの流れを考える。因みに漫画でもここから温泉街である。センターカラーで、温泉に入る皆の姿を描いた。その週は1位を取った。やーい、読者のエロー!
「所で、お姉さんに憩いの時はあるのよねえ?」
「ありませんが? 貴方にクロは渡しません。ゆけっ、クロ。威嚇です。未来の旦那を寝取ろうとする卑しい女騎士へ向けて」
「しゃー」
「こんなにやる気なさげなクラウンは初めて見た」
「しかもお姉さんに対するとんでもない風評被害もねえ」
「えっ、事実じゃないの??」
「ロジェちゃん? 後で覚えておきなさいよ?」
拷問にも慣れてしまったアルチナにモルガナが更に重しを追加し、言葉よりも苦痛が漏れ出したのを聞き流しながら、ふとユニも温泉街に向かった事を思い出した。
「そう言えばユニの奴も温泉街に向かったらしいな。あの温泉街ってなんか作家的に興味を惹かれそうなものでもあるのか?」
「温泉以外には特には………ああ、締め切りが近い作品の執筆でもしてるんじゃないでしょうか。あとは、錬金術師クロス氏のアトリエの跡地がありますね」
「その、クロス氏って人?知らないけど、どんな人だったの?」
「そう、ですね………簡単に言えば、王国の礎を作った人。本来、錬金術師は自分が開発した道具のレシピなどは明かさないものですが、彼は発展のために公開し、今でも初心者用の教本として利用されているほどです」
へー、また吾輩が知らない名前が出てきたなー。クロスね。なんか情報が増えすぎたせいか頭が痛くなってきた。毛繕いでもして、リラックスしよう。
それよりも吾輩も温泉楽しみだなぁ。金がなかった頃はシャワーで済ませていた吾輩だが、漫画家になってからは取材名目で旅行に行くことが増えて、温泉やグルメ巡りが趣味になったくらいだしな。
「そんな彼のアトリエが温泉街にありまして、今でも安価で見学が可能です。特に何でも噂ですが、そのアトリエにはクロス氏が遺した『究極』の一品へ至る情報が隠れてるとか、いないとか」
「!? ボク、そこ行ってくる! もしかしたら、凄いお宝があるのかも!」
「見つけたとて、盗むなよ。ロジェ」
「は、ははは。そんなわけナイジャナイカー」
「行きなさい、クロ。威嚇です」
「そんなんだから、主はルノワール一族らしくないんじゃないか?」
「言っていい事と言っちゃダメな事ってあるよね!? ねえ!?」
わざと厳しめに言った言葉の矢尻に突き刺され、涙目になるロジェを見ながら穏やかな午後は過ぎていく。アルチナによる鶏を締め殺したような苦悶の声と共に。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。アフタヌーンティーが終わった後、漸くアルチナは解放され、吾輩は呆気なく捕まり、ストレス発散の為にめちゃくちゃ揉みしだかれた………吾輩の肉球。
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