吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。温泉旅行兼依頼準備の為、そわそわしながら待つ事2日。ついにその日がやって来た。
「てな訳でオレが登場や!」
「帰ってください」
「そんな殺生な!? せっかく迎え兼護衛として来たっちゅうのに」
「転移扉で移動しようとしてたのに、無駄になっちゃったね」
「ロジェちゃん、しっ」
モルガナ曰く、温泉街に別荘があるようでちゃっかり転移扉をそこに設置しているようでそれによる迅速な移動を考えていたようだが、朝方にハクからの連絡があり、外に出てみればドラゴが待っていたという事実。
ドラゴからすれば、建前はあれど暴走した部下の謝罪のために送迎を担いに来たと言われてしまうと反論もしづらく、あれよあれよという間に馬車に乗せられて移動する事になった。
「まあ着くにも丸一日はかかるからゆっくり行こうや。護衛はオレや部下らがするから女の子達はゆっくり休んでてな………どしたん? アルチナちゃん? 落ち着かなそうな顔して」
「ああ、違うのよ? 単にお姉さんがちゃんと女性扱いされてる事に違和感しかなくてねぇ? 帝国ならお姉さんらが不眠不休で護衛しなきゃならないし、護衛対象が欲情したら介抱もいるしでねえ。休んでていいなんて、逆に不安なの」
「ワーカーホリックみたいな事言うな、主は。これを機にきちんと休む事覚えたらどうだ? リリィ達からも何もない日は鍛錬してるって聞いてるぞ」
「………休んでると落ち着かないのよぉ」
「人材潰すんが当たり前って考える組織はいつか潰れるで? まあ、だから帝国も滅亡の危機にあるっちゅーわけだが」
馬車を走らせながら、モルガナの膝の上で丸くなる。しっかりした弾力のある太腿が吾輩の体をしっかり支えるクッションみたいでとても快適。馬車にもモルガナが開発した衝撃吸収………まあ、車のサスペンションみたいなのがついてるから揺れも少ないのだが。
「滅亡の危機? あれかしらぁ? 貨幣の混ぜ物による経済崩壊?」
「それもある。本来、これは守秘義務があるから話せんのやけど帝国に関わりが深い3人には話していいと陛下からも許可を得とる。雑談混じりに聞いといてくれや」
さらりと、モルガナまで帝国に関わりがあると踏まえられて僅かにモルガナとアルチナの間で視線が行き交う。軍の諜報がどこまで掴んでいるかは不明だが最悪でもモルガナが皇帝の血を継ぐものくらいはバレてるかもしれない。
それでも国を追い出されないのはそれだけ彼女が優れた錬金術師だからだろう。いわば金の卵を産むガチョウだ。国を追放して帝国に行かれるくらいなら、優遇して自国に居てもらう方が国にも都合がいい筈。
「今、帝国は前線から撤退しとる。帝国前に最終防衛線を引いて何とか踏ん張っとる形や。『帝国五星騎士』達すら防衛線に駆り出されてる始末やで?」
「………は? 待ちなさい。お姉さんが前線にいた時はあの峡谷を境に魔族達の侵入は許していなかった筈よ? たった3年で前線が帝国まで押しやられるなんて馬鹿な事あるかしら?」
「あったんや。魔族達があの峡谷を越えずにいたっちゅー1番の理由がな。それがなくなったせいで魔族は果敢に攻めに出たんや。結果、箔付程度でいた貴族のボンクラどもじゃ抑えきれずにずりずりと下がっていったわけや」
「その、理由って何? お姉さんがいた時といなかった3年で何が変わったって………」
「
「つまり、魔族達は恐怖の対象を避けようとしてたが帝国側から情報が漏れた結果、アルチナがいないとわかって魔族達は攻め込んできたわけだな」
魔族達の気持ちもわかる。たった1人の騎士に峡谷を越えて魔族の砦を支配した上に最高幹部まで殺されてるのだから、戦場にいた奴等には死の象徴と思われていてもおかしくはない。
そんな彼女がいない上に、騎士達の練度もないと分かればそりゃあ魔族達の士気は高いだろう。漫画でも墓守のアルチナがいなくなった事で進行を開始してたから似たような展開といえば展開か。
「──それはつまりお姉さんのせいって事?」
「それは違うぞ、アルチナ。主が悪いんじゃない。帝国の判断ミスだ。主が頑張ってた結果、国がそれに胡座をかいてただけだ」
「責任がないとは言わん。でも、上層部の指示に従ってそんな事されとんのならもう仕方ない。間が悪かっただけや。誰か1人のせいってもんじゃない」
「アルチナ。貴女が生み出した仮初の平和で何もしなかった帝国が悪いのです。それに今は私の護衛でしょう。そちらに集中しなさい」
「そう、ね。自分で決めた事だもの。こうなる可能性を考えなかったとは言わないわぁ。だけど、お姉さんがいた事に意味はあったのねぇ」
自分が招いたかもしれない帝国の危機に唇を噛み締めながらも、自分が魔族の抑止力になっていた事にどこか感慨深く頷くアルチナ。それを見て、ドラゴは咳払いをすると話を続けだした。
「てな訳で、帝国は内部は経済崩壊。外部からは侵略とてんてこ舞いらしいで。ただ勘弁して欲しいんは、防衛線が緩んだせいで魔族………それも最高幹部が入って来た事や」
「アレは嫌な事件でしたね………」
「嫌な事件? もしかして………ミスト王女に何か関係が?」
「なんや、ミスト王女殿下を見たことあるんか? ロジェちゃん?」
「アッ!? い、いや〜その〜さ、散歩してる姿を偶然………」
「ミスト王女殿下は太陽の下を歩けない呪いがかけられとるんやけど?」
「………すまん、ドラゴ。ミスト王女殿下にルノワール一族だからと呼び出されてな。ほら、王家に出席した際に。ウルシュラに聞いたらわかる筈だ」
ロジェがまたもや口を滑らしたので吾輩がフォローに入る。ミスト殿も根回しすると言っていたが、どうやらちゃんと話は回っていたようで、ドラゴは掌に拳を叩きつけた。
「ああ、そういやウルシュラちゃんが言うとったな。ルノワール一族に王家の侵入路を調べてもらう話やな。そんでオレらがその侵入路を潰すって話。報告書もあがっとるで」
「ロジェスティラ、それは本当ですか」
「あっ、うん。王家に呼び出された時に入れそうな場所とかはミスト王女殿下に教えたよ。城壁にも軍人さんがいるのはいいけど、誰も城壁からは入ってこないって思ってるからか気が抜けてるよね。天気の悪い雨の日とかなら侵入できるよ………多分」
「………アゼル卿の錬金道具による結界がある筈ですが」
「きっと判断基準はあるんだよね? じゃないと、初めて城に入ったボクらも引っかかる筈だから。若しくは許可制かもしれないけど、そしたら来客がある時に一緒に入れば誤作動と思われる可能性あるよね? 勿論、もう少し調査はいるけど………」
「シュレディンガーちゃん。悪いんやが、アゼル卿と一緒に防衛機構見直してくれへん?」
「分かりました。打ち上げておきます」
「ロジェちゃん、本当に義賊の末裔なのねえ………」
吾輩、その場所にいなかったけどロジェの説明聞く度にミスト殿とウルシュラ殿の顔から笑みが消えてそう。というか顔色が少し悪くなってるドラゴ殿みたいになってそう。あのモルガナが冷や汗一筋垂らしてるくらいにはまあ、やばい事らしい。
「ロジェちゃんのおかげと言っていいかは微妙やが、防衛機構見直しは必須や。魔族の最高幹部に王女は呪いをかけられとる。また来ないとも限らん。前回みたいな事件は2度と起こしてはならんからな」
「前回みたいな事件って何かしらぁ?」
「2年前です──魔族の最高幹部による温泉街の襲撃事件。通称『血湯の夜』。慈愛のシャリテーヌによる吸血鬼の襲来です。当時、視察にミスト王女殿下がいらしたのが運の尽きでした。何とかアゼル卿が追い払い、私が建造物を建て直しましたが、被害者は多数」
「なるほどねえ。つまり、お姉さんに来た依頼はその治療ってわけ。軍人だけではなく、民間人も被害に遭ってるわよね? 治療しなきゃいけない数は?」
「100人、いかないくらいかと。治せますか?」
「誰にものを言ってるの? 貴女と同じ黒猫に魔法を教わったのよぉ──私の矜持にかけて全員治すわ。少なからず責任感じてるもの」
アルチナの覚悟にモルガナは嬉しそうに口角を上げる。ドラゴもほっとしたように息を吐き、
「そんなら、オレが温泉街の旨いもんご馳走してやらんといかんな。なんせ、オレの生まれ故郷や。どんなもので必ず対応してみせるで!」
「なら、おはぎを食べたいのだけど」
「帝国特有のお菓子は勘弁してもらえんか??」
「ならおはぎ先生でもいいわよお?」
「助けて、モルガナ! 吾輩、食べられちゃう!」
「待ちなさい。アルチナ。食べるにはまずクロの好み嗜好を徹底的に追求してからの筈です。どんな食べ物にもそれに合う調理法があるのですから………」
「何やろ、羨ましい筈なのに感じる空気が歴戦の戦場のそれやん。で、クロちゃんはどっちを正妻にするん?」
「ヤメロォ! 馬車を地獄に変える気かぁ!!」
「あ、ど、ど、ドドブランゴさん。お、温泉街のおすすめ料理教えてください!」
「吃り過ぎて変な名前になっとるやん、オレ」
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。姦しく騒がしい馬車は一定の速度で温泉街へと向かっていく。頼むぞ、温泉街! ラブコメ展開はナシの方向で頼む!
*
「ぐーぐっぐっぐ、リリスが捕まったようですね」
「ふふふ、奴はおで達の中でも最弱………」
「なので、助けに行くのが当然!! ぐーぐっぐぐ、我が商品『セブンスター』が火を吹きます!」
「よっ、流石は頭領! じゃあ、早速いぐがあ!」
そこはとある建物の地下室。埃っぽく、カビ臭い、ネズミ達の住処のような場所で男2人はまるで幼馴染のように仲良く談笑していた。
1人は痩せ細りながらも胡散臭い丸い黒眼鏡をつけていて、もう1人は反対にふくよかな腹を揺らしながら笑っていた。
そんな彼らはとてもご馳走とは言えない食事………脂が固まったソーセージにカビたチーズをつまみに2人は古ぼけたワインを飲んで盛り上がっている。
「行くなってウチは言ったよね? マジでそんな簡単なことも覚えてられないん? 脳味噌まで獣以下になっちゃってるわけ?」
「私たちは獣の亜人ではありませんよ………何しに来ましたか、死神」
「んだんだ。てっきり、お前はあの魔女達に合流してるもんだと」
「ウチ的にはしてもいいんだけどね、あんまり関わると3世に狙いがバレる。ウチ、3世にだけは幾ら嘘ついてもバレちゃうからさ。なるべく正直でいたいんよね」
そんな熱に水を差したのは1人の女性。太陽のような黄色の髪は透き通る夏空のように青く染まっており、彼らに向ける感情は隠された布から推し量れない。なのに、視界を覆われていても彼女はまるで見えているかのように2人に話しかける。
「髪色が変わってますね? 変装ですか?」
「こっちが地毛だっつーの。金髪の方が目立つでしょうが。それで? 魔女達が温泉街に来るよ。次はどっちが犠牲になるわけ?」
「………私が」
「いや、おでだ。頭領にはまだ総帥とやらなきゃいけん事がある。おでは難しい事は分からん。食べることしかできんからな」
「グラストン………貴方って人は」
「それにおでの魔法なら、勝ち目がある。負けたら、そん時はそん時だ。勝って上手く飯を食うぞ! モルフェオ!」
「ぐ、ぐーぐっぐぐ! 期待していますよ、我が友よ!」
「あほくさ………なに? なんか、ウチに文句あんの?」
犯罪者同士の熱い友情を鼻で笑う彼女に、2人の男の目が刺さるが布の下から覗くオレンジ色の瞳に2人は言葉を飲み込むようにワインを飲む。両者の考えることは一緒だ。
((この女が来てから全てが狂い出した!))
ついこの間までは旨い酒に美味い飯、快適な部屋に性奴隷として育てた美女達を侍らせていたのに。この女が来てから全てが台無しになった。
(噂には聞いてました………亜人達が管理する国家『連邦』の実質的な長。あの島国の姫巫女、ユニティ・ブバスティス)
(おで達が亜人の奴隷を仕入れる度にいい値で買っていくから、お得意先ではあったが、何故いきなり行動に移したんだ? おでには分からん)
自分達は弱いとは思っていなかった。そりゃあ、帝国の五星騎士や王国の双璧とまではいかなくても亜人としての能力を活かせば負けはないと本気で信じていた。
だが、それは自分達よりも長い年月を生きた亜人には到底敵わないという事を身をもって理解した。
『1vs3でウチに勝てるって、マジでおめでたい頭してんね?』
1vs3どころではなかった。万軍、そう呼ぶべき数と質に圧倒されて自分達が逃げ出したはずの………抗えない圧倒的な力に降るしかなかったのだった。
それ以来、彼らは彼女が用意したセーフハウスを転々としながら差し入れの食べ物で食い繋いでる始末。今日はきっとご馳走だろう。
「はい、じゃあグラストンにはこれ。王国で手に入る新鮮で高級なご馳走。死にゆく者には敬意を。他に欲しいものがあればなんだって用意してあげる。言ってみ?」
「おでの………兄弟達が腹を減らさないようにしろ」
「分かった。その約束は絶対に守ってあげる。死者には心からの休息をウチは送ってほしいからね」
この女は不思議だとグラストンは常々思っている。この女は自分達を従えてこそいるが、そこに亜人だからと差別もない。ただ必要だからやってるとばかりで、暴虐さも残酷さもない。冷淡で冷酷ではあるが。
その上、死ぬかもしれない戦いに出向く際にはこうして王国ですら手に入らない食べ物や酒に煙草などを差し入れてくれる。そして、約束もだ。
「ぐーぐっぐぐ、分かりませんね。どうして、貴方はそうなのです。こうして私たちに魔女達の情報と秘伝書を渡し、勝負の舞台を整える。代わりに私たちが勝てば貴方の下で商売を再開できるなど………貴女に何の得があるのです」
「………ウチにも今回の物語を通してやりたい事があるの。だから、利用してる。それ以外に理由がいる?」
「いや、いいでしょう。貴女には貴女なりの何かがあるようだ。私達は貴女が約束を守るならそれで構いませんよ」
モルフェオは追求をやめた。彼女が約束を守るのはリリスの段階でわかってはいたが、気が変わる可能性も大いにあり得るなら無駄に踏み込まない事だと理解もしている。
だからこそ、彼らはわかっている。この不安定な状況を抜けるには勝つしかないのだと──あのルノワール一族の最高傑作に打ち勝つしかないのだと。
「モルフェオ」
「何です、グラストン」
「勝つど。次の勝負」
「ええ、そしたら我が秘蔵の酒で乾杯しましょう。3人で」
モルフェオは夢想する。また3人で語り合うその日を夢見て。
友人を、戦友を、幼馴染を戦場に送るのだった。
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後半部分、どっちが主人公かわからんなこれ。