吾輩は猫である。前世で描いた鬼畜リョナゲームのスピンオフ漫画の世界に転生したので贖罪の為に魔女達を救って行こうと思う。 作:シャモロック
今週中にもう一話投稿できたらいいな。因みに今回長めです。旅館で温泉に入って、飯食ってるだけなのに。どうして?
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世。キミリア。あの後も他愛無い雑談をしつつ、モルガナやアルチナ達に代わりばんこに撫でられていた。ドラゴ殿も撫でるか? 毛並みはふわふわだし、肉球はぷにぷにだぞ。
そんな、のんびりとした時間を過ごしながら本日の宿泊場所に辿り着いたのは、既に夕方に差し掛かろうとする頃だった。
「着きましたよ。ここが私の別荘です」
「別………荘? え、いや、あの、これ、旅館よねえ??」
「元は古い旅館でしたが、魔族の襲撃によって壊滅的な被害に遭ったのを安く譲ってもらい自分で作り直しました。普段はハク達使い魔が管理し、彼らの休息場として使用しています」
「道理でさっきから白いもちもちがこちらを見てる訳だ」
「わあ、すごいもちもち………持ち帰ってもいいのかな」
「もちゃあ!」
「え、ほんまに? オレらもこの宿使ってええの?」
「構いません。ただし、私たちの居住空間に立ち入れば………分かってますね?」
「当然や。部下にも徹底さす。おおきに! いい気分転換になりそうや」
ロジェが入口で出迎えた使い魔の1体をもちもちする中、モルガナが幾つかの会話を使い魔と交わす。
まるで日本庭園を思わせる景観に、古く立派な門構えの入口を備えたその場所は、馬車を停めると直ぐに和装姿の使い魔が出迎えてくれた。もちゃあ!としか喋らないが愛想よく応対してくれるのは、来訪する側にとっても心地良い。
「因みに今日のご飯はいい海鮮が手に入ったようです。クロ、海鮮好きでしたよね?」
「ああ、人間の頃から吾輩海鮮には目がなくてな!」
「ふふ、楽しみにしていてください。それではドラゴ達から書類にサインを。私達は部屋にそのまま入れます」
洋風の洒落た内装のフロントでチェックインを済ませて、使い魔に部屋に案内される。三人+吾輩が泊まれる部屋、という事で通された部屋は和洋室の部屋だった。ただ広さがやばい。多分3部屋くらいぶち抜いてる。
和室と洋室とがそれぞれ区切られ、奥にある洋室はキングサイズのベッドとガラス作りのテーブルにふっかふかの椅子が人数分と、貴族達が泊まっても恥ずかしく無い内装で、ちゃんと和室と洋室を仕切る為のドアがある。
逆に和室は簡素だがしっかりしていて、流石に畳までは無いが板敷きに布団を敷いて寝る事になりそうだ。和室の方は大きめのテーブルと座椅子があるだけだが、直線的なフォルムに飾りなども無い質素な感じ。意外にも靴を脱いで上がるように履物置き場もある。
どこか懐かしいというか、もろに日本人の和風建築が活かされてる感。和洋折衷とでも言うべきか………後、謎に木彫りの猫が置いてあるのだろう。守神なの?
「なんか………異界の人らの建築様式に似てるわねえ。帝国でも富豪層の変わり者はこんな感じだったわぁ」
「温泉街の建築はこのような様式が多いですよ? クロス様式と呼ばれていて、名前の通りクロス様が作られたと伝えられています」
「もしかして、クロス様も異界の住人だったのかしらねえ。あ、ロジェちゃん。靴は脱がなきゃダメよお」
うーむ、これはもしかして吾輩が来る前に日本人が来てた可能性が高い。ほぼ確定だろう。建築家か若しくはそれに深い知識を持っていたか。吾輩も建物を描く為に資料を揃えていたから分かるが、ちゃんと考えた結果、和洋折衷建築になった感がある。
手慣れたアルチナに言われて靴を脱ぎ、板敷きの上をごろごろし始めたロジェ。行儀が悪いので顔面ダイブで止めていると、使い魔が部屋に入ってくる。どうやら温泉の準備が出来たらしい。
「気にするな。先に入ってこい。吾輩は勝手に内風呂に入るから」
実はこの部屋内風呂がついてるのである。ちょうど今ならまだ明るい色合いと、深みのある夜の帳の色を眺めながら、夜の風景へと移りゆく景色を見られるかも。それに吾輩は紳士だからな。ついていくわけがない。
「はい。馬鹿な事を言ってないで、行きますよ。クロ」
「ですよねー」
「いい加減学んだらぁ? お姉さん達から逃げられるわけないって事」
でも、吾輩連れて行かれるのだった。チクショウ。逃さんとばかりに抱え込まれたので死んだ目で館内浴場へと連れて行かれる。男湯と女湯と書かれた入口で降りようとしたが、抗えずにそのまま女湯へ連れて行かれる。
脱衣所も檜の香りがする木造だったが、覗き見防止の為か窓はなく、錬金道具の灯りが部屋を照らしていた。流石に換気口はあるので、空気の循環も問題はないらしい。
「よーし、じゃあ吾輩は先に風呂に入ってるから」
「ロジェちゃん、おはぎ先生を抱えててね。さて、と」
「吾輩の目の前でいきなり脱ぐなぁ!!」
でも、吾輩の目の前で躊躇いなく脱ぐのは問題があるなあ!!
くっそ、ロジェに吾輩を手渡した瞬間に躊躇いなく脱ぎ始めたので目を瞑る。モルガナもそうだが、アルチナも躊躇いがないのは何故なんだ!
「主達はなあ………これで吾輩がクソ野郎だったらどうすんだ! 『ぐへへ、2人ともその体をモノにして吾輩のお嫁さんにしてやるぜ!!』とか言い出したらどうするつもりだよ」
「望むところですが? 来なさい。お婿さんにしてあげます」
「満足するまで搾り取ってあげるわぁ。何人子供が欲しい?」
「吾輩が悪かったです。許してください」
ロジェですら、えぇ………と言葉が聞こえるほどの謝罪の速さ。吾輩以外だと見逃してしまうかもしれない。あ、こら、ロジェ。自分も服を脱ぎたいからってアルチナに手渡しするんじゃない………うおっ、なんて弾力。吾輩が埋まっていくだと。
「吾輩、ここに住む………」
「敷金はおまけしとくわねえ」
「むっ、クロ。私のここも空いてますよ」
「これ猫だから許される光景だよね。大の大人だとあまりにも情けないよね?」
ロジェの言葉に毒が乗りつつあるので、吾輩は何とか身を捩るがふかふかの柔らかさに暴れる気力すらなくなっていく。これが母性の象徴………ロジェの視線に憐れみが混じるが最早気にならなくなってきた。
ロジェが先に大浴場へと向かうのを見てアルチナも吾輩を胸に抱えたまま、タオルを巻き付けていく。てっきり沐浴服みたいなのがあると思っていたが、2人は着ないらしい。ロジェはいつの間にか着てた。なぜ?
「ロジェスティラ。先にお風呂に入る前に体を洗いなさい。アルチナは分かっていると思いますが………何かお探しですか?」
「いやぁ、てっきりお風呂場だからマットとぬるぬるするものがあるかと。帝国は富豪層の大浴場にはマットとぬるぬると裸の美女達が当然のようにあったからそれが常識かと」
「どこの性風俗施設ですか………クロが望むなら用意すべきか?」
「やめよう? そろそろロジェの目線が嫌悪を宿し始めたから」
風呂場は広い。旅館でありそうな4〜5人は余裕で入れそうな風呂桶だ。それが2箇所に分かれており、そのどちらにも猫が入れそうな小さな風呂桶がついている。
錬金術で作成したようで素材自体は木製だが、手触りすべすべの撥水加工されてるようで水に強い。壁や天井も似たような加工で、湿気にも強いらしい。
「浴場の広さは10人入っても余裕ですし、2〜3時間いても問題ないように室温は一定にしています。待ってる間に体を冷やしてはいけませんから」
「何を想定してるかは聞かないが、よく頑張ったな」
褒めて褒めて!と無表情だが目線で訴えてきていたモルガナに本心を語りつつ、吾輩も漸くアルチナの胸元から降りてお湯に手をつける。いい湯加減だが、吾輩が入ると毛が詰まりそう。
「ご安心ください、クロ。こちらにクロ用の湯船があります」
「そのためだけに特注で作ったんだ………」
「元々ここはクロの軟禁屋敷………げふん、愛の巣の予定ですからね」
「言い直せてない、いい直せてないわぁ。因みにお姉さんの部屋は?」
「好きな部屋を使ってください。ただし抜け駆けは許しません」
「吾輩、後ろの会話無視して温泉に浸かっていいと思う?」
「クラウンの貞操がなくなってもいいなら、いいんじゃないかな?」
体を洗ったロジェと並んで吾輩用に用意された小さな湯船に体を沈める。久しぶりに落ち着いて湯船に浸かれた気がする。いつもはモルガナと一緒にお風呂に入ってたからな。ある意味で落ちつかなかった。いつ食われるか心配で。
「「あ゛あ゛ぁぁ〜」」
「クラウンはともかく、アル姉おっさんぽいよ」
「仕方ないでしょお? 1日ずっと馬車に乗ってると体が凝るのよ。もう歳ねえ………」
「30代にしては美しい方だと思いますが」
「いやいや、2人に比べると肌の艶やハリがどうもねえ。まあ、戦場だとそんなの気にしてられなかったってのもあるんだけどお。あーあ、不老とまではいかなくても若返りの薬はないかしらあ?」
アルチナの言う通り、疲労が湯に溶けていくような感覚に唸っていれば抗えない年齢の話になってきた。わかるよ、30代目前になって徹夜が出来なくなった時が体力の低下を覚えたからな。嫁といちゃつく体力はあったけど。
しかし、年齢は大事な話だ。何故なら最悪の結末までには大体50年ある。長命種の亜人であるロジェやユニは問題ないが普通の人間であるモルガナとアルチナはその頃にはおばあちゃんになってるだろう。そちらの方が狙われないとかは言ってはならない。戦えない方が問題だしな。
「ありますよ、解決する方法」
「そうよねえ、錬金術でもそんなものは──あるのお!?」
「丁寧な前振りからの回収だったな」
そう、あるのだ。モルガナが60年後まで20代の美貌を維持していた秘薬が。吾輩が頑張って考えた設定が! 特段ノリで考えたからそこまで悩まなかったけど!
「私が作った賢者の石、その失敗作を溶かした水を抽出した………『賢者の雫』。これを投与してる間は永遠の若さを手に入れる事が可能です」
「何その世の女性が欲しがりそうな代物!?」
「因みに動物実験は済んでるのですが、人体にどんな効果を与えるかまでは確認できていなくてですね………どなたか、検証に付き合ってくれる方はいないでしょうか」
「くっ………何てずるい選択!! やるわぁ! 代わりにお姉さんに服用させなさい!」
「ご覧、ロジェ。アレが若さに取り憑かれた女性の末路だ。主には程遠いがああはならないようにな」
「ボク、半吸血鬼でよかったかもしれない」
「ちょっと待って、ロジェちゃん?? 貴女、亜人だったの!?」
「あ、やばっ」
「しかも、吸血鬼ですか………少し血を分けてもらっても?」
「助けて、クラウン!? モルガナさんがボクを実験材料にしようとする!」
「皆、仲が良くて何より」
「クラウン!?」
わいわいがやがやと騒ぎ出す魔女達を見て吾輩ほっこり。目に毒すぎる肌色はともかくとして、こうしていつまでものんびりとわいわい出来たらいいのだがと、吾輩は1人湯船に揺蕩う。やっぱ温泉最高すぎる。
暫く風呂場でその日の疲れを癒した後、吾輩達は風呂場から上がる。モルガナに丁寧にブラッシングをしてもらい、艶々になった吾輩と浴衣姿に身を包んだモルガナとアルチナ。
2人ともほかほかとした熱に上気した頬は赤みを刺し、まだ完全には乾ききってないしっとりとした髪を下ろして、甘い洗髪料の香りが吾輩の鼻先を擽る。紫と黒の浴衣を羽織った2人が並んでいるだけで絵になりすぎる。
「着付けも出来るのですね」
「まぁね。いやいや、身につけた技術だけどぉ」
「アル姉。上手く着れないんだけど」
「こちらをむきなさいロジェスティラ。帯はこうやって結ぶのです」
そんな中でロジェだけは上手く着付けができず、肩先から浴衣が滑り落ちていたので、モルガナが跪き、彼女の帯や浴衣を慣れた手付きで直していく。
「出来ましたよ。さあ、晩御飯を食べにいきましょうか」
「あ、ありがとうございます。モルガナさん」
「………私の事はモナ姉とか呼ばないのですね」
「えっ、いやその恐れ多くて………呼んだ瞬間に、『私は貴女の姉ではありませんが?』って言われそうで」
「………少し、傷つきました。クロも私がそんな事するなんて思いませんよね?」
「パティやロンからは妹扱いだったもんな、主は。それはそれとして主は言う………もごっ」
「はいはい先生はお姉さんと先にご飯食べに行きましょうかぁ。晩御飯楽しみねえ」
アルチナにより胸元による強制窒息で黙らされたまま、吾輩達は部屋へと戻る事に。牛乳のような甘い香りから解放されると、吾輩を出迎えたのは唾液腺を刺激するような芳醇な海の香り。
テーブルに並べられているのは、海鮮を主体とした焼き物や炒め物。それに加えてスープや飯ものまで揃っている。吾輩の横でロジェの腹の虫が唸りを上げた。
「もちゃ!!」
「ありがとうございます。これは気持ちです。皆で分けなさい」
「もちゃあ!」
「さて、それでは席につきましょうか。クロの席はそちらです」
モルガナと使い魔の会話を経て、吾輩も席に座る………何て事でしょう。まるで主役とばかりに座布団が重ねられているじゃないですか。吾輩は主賓だった? 誕生日はまだ先だぞ?
そんな吾輩が着いたのは上座の席で、向かい合うような形でアルチナとロジェの席がある。モルガナは吾輩の席の傍に座り、にこにこと冷たい牛乳瓶でお酌をする気満々である。
アルチナも使い魔が運んできたお酒………ねえ、それ日本酒じゃない? アルチナも目を白黒させてんじゃん。帝国でも滅多に飲めない酒だよね、それ? 作ったん? 因みにロジェは果実水である。未成年だからね。
「では、クロ。乾杯の挨拶を」
「無茶振りだなぁ………えー、明日から依頼の達成に向けて辛い事に向き合わないといけないかもしれない。でも吾輩は主達なら乗り越えられると信じてる。だから今日はいっぱい美味いものを食って英気を養おう。乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
吾輩は、自分用に置いてあったミルクの入ったお猪口を器用に両の前足で掲げて、モルガナの方に差し出しす。彼女は口元を綻ばせて、自分のグラスをカチリとつける。
「お疲れ様です、クロ」
「にゃふふ、お疲れさま。こうしてモルガナにお酌してもらえるとはな」
「これから先、何回だってしてあげますよ」
にやりと笑ったモルガナは、他の面々ともグラスを合わせて、それから、零さないように気をつけながら、お酒を飲みはじめる。ロジェも早速あれこれと料理に手を伸ばし、アルチナも日本酒片手にちびちびとやり始めた。
出された料理は日本ではお目にかかれないものばかりだった。吾輩がモルガナに頼み、とってもらったのは宝石のように輝く海老。その甲羅を剥くと中からガラスのように透き通った身が出てきた。
「この海老、透き通ってるのにしっかり塩味が効いてるな!」
「クリスタルタイガーですね。透明度が高いほど海の水を吸収し、濃厚な塩味だけを残すそうです。生でも行けるそうですが寄生蟲が怖いので茹でてあります」
「姫様。これはぁ? 生っぽいけど」
「そちらは表面を炙ったスキップジャックですね。生臭さが軽減されてますからタレをつけてどうぞ」
「も、モナ姉? これだけの海鮮どうやって運んでるの? ここから海ってだいぶ遠いよね?」
「パティとロンにお願いしました。今、あの2人には連邦国に繋がる港町に配達でいるので。あそこで買った海鮮を金食い虫というポーチに入れると、私のアトリエの金庫に繋がりますから、そこからここまで運んでます」
「ああ、あのクラウンのポーチ………あれってモナ姉のアトリエに繋がってるんだ」
「何から何までありがとな。モルガナ」
「いえ。魔女達の歓迎会も出来ていませんでしたから。ユニもいたら良かったんですけど」
「いない人は気にしても仕方ないわよお。それにしてもお酒に合うわねえ。海老の甲羅酒さいこー!!」
もう出来上がり出したアルチナはさておき、吾輩の為に用意してくれた海鮮をもぐもぐと食べていく。この体は胃のキャパが少ないのがネックだが、楽しむ分には問題ない。今日くらいはモルガナの好意に甘えて思う存分楽しむとしよう。
吾輩は猫である。名前はクロ、おはぎ、クラウン、モフガルド・ニャンディアス3世、キミリア。結局、その日はお腹がぽんぽこになるまで食べて飲んだ。全員満足したようで何より。
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